【労働・労災】 労働法実務 労災におけるメンタル疾患の法律実務(旬報社)
今年の3月に出版された「労働法実務 労災におけるメンタル疾患の法律実務」です。
7章で構成されています。
第1章の労働保険制度のポイントは、以下のとおり説明されています。
「⚫労災保険制度は、業務上の傷病・死亡や通勤による傷病・死亡について、使用者の過失の有無を問わず、法律に定められた定型的な給付を社会保険制度のもと行うものである。
⚫労災保険の適用事業は、労働者を使用する全ての事業である。
⚫労災保険法の適用対象となる労働者は、労基法上の労働者であり、客観的な事実や実態に基づき、「使用される者で、賃金を支払われる者」と言え、実質的な使用従属関係があるかどうかにより判断される。
⚫労基法上の労働者とは言えない者であつても、特別加入がなされれば、労災給付がなされる。
⚫副業や兼業をしている労働者が、「複数事業労働者」に該当し、複数の事業の業務上の負荷を総合して評価した場合に業務起因性が認められる場合には、複数業務要員災害に当たるとして保険給付が行われる。
⚫業務災害として認定を受けるためには、業務遂行性が認められること、業務起因性が認められることが必要であり、精神障害の場合には、業務起因性を判断するための労災認定基準が設けられている。
⚫被災労働者にとっては、通勤災害よりも業務災害と認定された方が有利になるため、可能な限り業務災害に当たる方向で検討を進めるべきである。
⚫保険給付の中には、被災労働者及びその家族を支えるための様々な種類が存在する。」
第2章は、精神障害の労災認定です。
「⚫労基署における認定実務においては、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令5・9・1基発0901第2号)に基づいて業務上外の判断がなされる。
⚫現在の精神障害と発病の因果関係については、ストレスと個人のぜい弱性の相関関係によって発病するという「ストレスー脆弱性理論」を前提として、業務が相対的に有力な原因であるかによっているのが行政実務である。
⚫行政実務は認定基準によっているが、認定基準の意味を把握するためにも実務要領や専門検討会議の議事録を参照することが必要である。
⚫行政実務上、同種労働者基準説をとることになっているが、司法上の判断は分かれている。」
「ストレスーぜい弱性理論」については余り勉強したことがありませんでした。この理論は、環境由来の心理的負荷(ストレス)と、個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり、心理的負荷が非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こり、脆弱性が大きければ、心理的負荷が小さくても破綻が生ずるとするもの」であり、現在の精神医学においても一般的に採用され、裁判例上も広く採用されているものである。そして、「ストレスーせい弱性理論」に基づいて、労災保険の対象を確定するための因果関係が認められるために、発病からおおむね6か月の心理的負荷を判断して、これが強度のものであったかについて、認定基準の別表を参照しつつ判断することになります。
第3章は、労災申請手続の実務です。
「⚫精神障害の労災事案を受任した場合、業務起因性のみならず、発病関係をも重視して調査を行うべきである。
⚫電子データ等の証拠の散逸を防ぐべく、業務起因性の調査は速やかに行うべきである。
⚫証拠収集手段として、主として、①労基署が使用者等に対し調査権限を行使することのほか、②被災労働者側から使用者に対して証拠の任意開示を求めること、③証拠保全手続を行うことの3つがあり、使い分けを行うべきである。
⚫被災労働者ないし遺族は経済的に困窮している場合があり、申請中の生活を支える制度の案内を行うべきである。
⚫労災保険請求の審理の各段階の特徴をよく把握し、対策を行うべきである。
⚫不服申立手続の請求期間は2か月ないし3か月ないし6か月と短いため、注意すべきである。
⚫労災給付の時効は2年と短期間的な場合が多く、注意すべきである。
⚫労災の打ち切りについては、治癒(症状固定)の概念を踏まえ、慎重に対応すべきである。」
第6章は、労災事件における労働時間です。
「⚫労災認定基準において、労働時間は極めて重要な位置づけがされており、労働時間の立証に努めるべきである。
⚫労基法上の労働時間と業務起因性の判断基準としての労働時間は異なる概念である。
⚫業務起因性の判断基準としての労働時間は、業務のために必要な活動に従事していることが客観的に明らかであると言える時間のことをいう。
⚫業務起因性の判断基準としての労働時間の立証手段は様々なものがあり、業務のために必要な活動に従事していることを客観的に裏付けていくべきである」
→業務起因性の判断基準としての労働時間は、業務の過重性を図るための労働時間であるため、時間外割増賃金の対象となる労基法上の労働時間とは趣旨目的が異なっており、それよりも緩やかに広い範囲で労働時間が認定される傾向にあると説明されています。
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