【消費者法】無料求人広告トラブル
相変わらず、無料求人広告トラブル事案があります。無料求人広告詐欺をはたらく違法業者は、ハローワークの求人票などをリストとして、知識の乏しい中小企業を狙ってきます。
契約を無効にした令和元年9月9日付東京地裁判決がありましたので、参考のために、判決文を引用します。
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,45万3600円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告との間で求人情報サービスの利用契約を締結したとして,利用代金45万3600円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告は,広告代理業等を目的とする株式会社であり,訴外株式会社Aとの間の基本業務提携契約に基づき,同社が運営する「B」と称する求人情報サービス(以下「本件サービス」という。)を顧客に対して提供している(甲9)。
(2)被告は,水産物全般,乾物の加工,販売,輸出入等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(3)原告は,平成30年11月26日,被告に対し,電話にて本件サービスの利用を勧誘し,被告は,同日,原告に対し,本件サービスの利用の申込みをした(甲2,3,10)。
(4)本件サービスの利用規約(以下「本件規約」という。)には,要旨以下のとおり記載されている(甲2)。
ア 本件サービスの申込日の翌日から3週間,無料で求人広告を掲載する。
イ 3週間の無料掲載期間中に解約申入れをしない限り,自動的に有料掲載期間に移行する。無料掲載期間中に解約申入れをするためには,同期間中に,解約申入れのFAXが原告に到達する必要がある。
ウ 有料掲載期間は12か月間であり,顧客は,請求書が到達した日の翌日から8日以内に有料掲載期間の広告料として42万円(消費税別)の支払義務を負う。有料掲載期間中に顧客の都合で解約を申し入れた場合,広告料は返金されない。
(5)原告は,無料掲載期間の最終日である平成30年12月17日の午後12時19分に被告に到達した郵便物(「ご挨拶」と題する書面。以下「挨拶状」という。)で,無料掲載期間が終了間近になった旨を被告に通知した(甲6)。
(6)原告は,平成30年12月18日,被告に対し,本件サービスの利用代金に係る請求書を発送し,同請求書は,同月19日,被告に到達した(甲7,8)。
(7)被告は,平成30年12月20日,原告に電話をかけ,原告の担当者であるCから有料じゃなくていいと言われたにもかかわらず請求書が届いた旨の苦情をのべたが,原告の担当者であるDは,マニュアル及び規約に基づいているとして,解約には応じなかった(甲10)。
(8)原告は,平成31年2月22日,本件訴訟を提起した。
2 争点及び当事者の主張
原告と被告との間の本件サービスの利用契約(以下「本件契約」という。)は,公序良俗に反し無効か(被告の主張は後記(1)のとおりであり,公序良俗違反による契約の無効を主張するものと解釈できる。)。
(1)被告の主張
原告は,被告が本件規約を理解し,同意した上で申込みをしたと主張するが,被告は,原告の担当者であるCから,本件規約とは異なる説明を受けて申込みをした。原告が提出した交渉記録(甲10)には,①から④まで規約の説明に関する記載があるが,被告担当者は,①(申込書を頂いた日の翌日から起算して3週間が無料期間である事)の説明しか聞いていない。
Cは,電話で,無料掲載期間の終了の連絡及び更新の意思確認をすると説明した。被告は,原告の挨拶状を受け取っていない。仮に挨拶状を受領していたとしても,配達されたのは無料掲載期間の満了日であり,被告が休業日であることや担当者が不在であることに全く配慮しておらず,注意喚起の意思がないことは明らかである。
被告は,無料掲載期間終了前に担当者から電話連絡があるとの説明を受けていたにもかかわらず,突如請求書が届いたので,原告に問い合わせの連絡をしたところ,無料期間のみの希望の連絡がなかったので有料期間に移行したと,申込時と異なる説明をされた。申込時の担当者に電話をつなぐよう求めたが断られた。
インターネットによる求人情報を検索する場合,一般に求職者は,「求人」や「求人サイト」というキーワードで検索する場合が多い。実際にそのように検索してみたところ,本件サービスは,検索結果の10頁目まで見ても表示されなかった。求職者が閲覧する可能性があまりにも低いにもかかわらず,45万3600円という代金はあまりにも高額である。
被告は,インターネット上で,同様の事例で困っている人を多数見つけた。すべてが原告や本件サービスに関するものとはいえないが,勧誘方法やその後の対応が極めて悪質である。
本来,求人サイトは,求職者と企業をつなぐことが目的だが,本件サービスにそのような目的がないことは明らかである。本件サービスは,求人広告としての実体がなく,反社会的勢力による振り込め詐欺に類するような行為であるから無効である。
(2)原告の主張
本件規約には,無料期間経過後有料掲載に移行する旨が明記されており(4条),思慮分別のある成人が読めば十分理解可能である。
被告は,原告担当者が電話での意思確認を行うと約束したと主張するが否認する。原告担当者は,本件規約4条1項について被告担当者に説明しており,あえてこれと異なる約束をすることはない。
被告は,挨拶状の送付時期を問題としているが,挨拶状の送付は注意喚起であり,早期に送付した場合,注意喚起にならないおそれがあるため,解約期限に近接した時期に送付している。
被告は,検索サイトにおける検索結果を問題とするが,サーチエンジンのランク付けのアルゴリズムは年々高度化が進む上,頻繁に変更が行われ,そのたびに激しく順位が変動するため,SEOに王道はなく,地道にコンテンツを充実させて認知を広げていく以外に着実な手段は存在しないと言われており,利用者の増加とともに徐々に検索結果でも上位に位置づけられるようになるのであるから,現状における検索結果のみをとらえた被告の主張には理由がない。
なお,検索エンジンの中で最も使われているグーグルで,「全国の求人情報」で検索すると,4頁目にBが表示される。
第3 争点に対する判断
1 上記前提事実のとおり,本件規約によれば,本件サービスは,3週間の無料掲載期間内に被告によるFAXでの解約申入れが原告に到達しない限り,自動的に1年間の有料掲載期間に移行し,42万円(消費税別)という高額の広告料の支払義務が発生する仕組みになっている上,その後,被告が中途解約をしても,支払済みの広告料は返還しないものとされている。
原告は,被告に対し,電話で本件サービスの利用を勧誘しており,その際,上記のような本件規約の内容を説明したと主張するが,被告はこれを否認し,3週間の無料掲載期間についての説明しか受けていないと主張しているところ,原告提出の交渉記録(甲10)には,本件規約の内容が不動文字で印刷されているにすぎないから,この記載のみから,原告担当者が被告に本件規約の内容を電話で説明した事実を認定することはできず,他に当該事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告は,被告に対し,本件サービスの利用を勧誘するに際し,3週間の無料掲載期間については説明したものの,3週間以内に解約しなければ自動的に有料掲載期間に移行し,1年分の広告料が発生することの説明まではしなかったとみるべきである(なお,Cが,被告に対し,有料掲載に移行する前に電話で事前に意思確認をする旨の発言をしたことまで認めるに足りる証拠はない。)。
2 上記のとおり,本件サービスは,3週間の無料掲載期間を1日でも経過すれば,直ちに1年分の広告料の支払義務が発生する仕組みになっているにもかかわらず,原告から被告に対して,事前に有料掲載期間に移行するか否かの意思確認を行う仕組みにはなっていない。原告は,挨拶状によって注意喚起を行っていると主張するが,挨拶状が被告に到達したのは,無料掲載期間の最終日の午後であるから,真に注意喚起の趣旨で挨拶状を送付しているとは認められず,単に注意喚起をした体裁を整えようとしているにすぎない。
そして,原告は,無料掲載期間が経過するや否や,直ちに請求書を被告に送付して1年分の広告料の支払を請求し,被告が抗議をしても本件規約を盾に解約に応じず,訴訟提起に至っているところ,原告が,東京地方裁判所に,求人情報サービスの利用代金の支払を求める訴訟を多数提起していることは当裁判所に顕著な事実である。また,証拠(乙1各枝番)によれば,すべてが本件サービスに関するものであるかは不明であるものの,本件と同様の紛争が多数発生していることが窺われる。
3 被告は,本件サービスには求人広告としての実体がなく,本件の請求は詐欺に類する行為であると主張するので,当裁判所は,原告に対し,繰り返し,原告の業務内容や,本件サービスによる求人の実績について明らかにするよう求めたが,原告は,この点について何ら主張立証を行わなかった。したがって,本件サービスには求人広告としての実体はないものと評価せざるを得ない。
4 以上を総合すると,原告は,専ら無料掲載期間内に解約しなかった顧客(この中には,本件規約を読んで,無料掲載期間内に解約手続が必要であることを認識したが手続を失念した者のほか,被告のように,そもそも本件規約を読んでおらず,解約手続が必要であることを認識していないかった者も含まれる。)に,1年分の広告料を支払わせることのみを目的として,本件契約を締結しているものといわざるを得ないから,本件契約は,公序良俗に反し無効である。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第34部 裁判官 田中邦治
(稲叢山)
この業者ですが、東京の裁判所に多数の裁判を提訴されているようです。ただ、この案件の被告のように、応訴する側にも、費用対効果を度外視して、闘う覚悟が必要です。
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