【金融・企業法務】 会計監査人の業務の理解に役立つ 監査役のためのQ&A No3

　昨日の続きです。会計監査人の業務の理解に役立つ　監査役のためのQ&A　No3です。　

（弓削・京ノ小島）

Q22　リスク・アプローチの監査において、監査人は評価した重要な虚偽表示リスクに応じてどのような対応をしているのでしょうか。

A　二つのレベルの重要な虚偽表示リスクに応じて、監査人は以下の対応を行うことが求められています。

●　財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスク⇒全般的対応

　　監査チームメンバーの構成、専門家の利用の有無及び利用の程度、業務執行社員やマネジャーなどによる監査チームメンバーに対する指示や監督の方針、リスク対応手続の全社的な方針などを決定

●　財務諸表項目のアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスク⇒リスク対応手続の決定

　　財務諸表項目で生じ得る虚偽表示の種類に応じて、当該虚偽表示を発見できるようなリスク対応手続を決定

Q23　「重要な虚偽表示」とは何でしょうか。

A　財務諸表の虚偽表示には、財務諸表に記載されている金額や表示又は注記事項の記載誤りだけではなく記載すべき内容の脱漏も含まれます。虚偽表示は、意図的なもの（不正）とは限らず意図的ではないエラー（誤謬）により発生することもあります。また、会計上の見積りの前提となっている経営者の判断に対して、財務報告の枠組みに照らして監査人が合理的でないと判断することから虚偽表示となることもあります。虚偽表示の重要性は、一つ一つの虚偽表示を個別に評価するだけでなく、複数の虚偽表示を集計して評価します。虚偽表示は、財務諸表の利用者の意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に重要な虚偽表示と判断されます。

　⇒「虚偽表示」は、「不正（意図的に欺く行為）」又は「誤謬（意図しないエラー）」から生じるものとしてニュートラルな「誤り」の意味で用いられています。

Q24　監査上の重要性の基準値はどのように決定されるのでしょうか。

A　監査人は、監査を計画し実施する際に重要性の概念を適用します。重要性の基準値とは、財務諸表全体において重要であると判断する虚偽表示の金額を言います。監査人は監査計画策定に当たって、企業の業績見込み等を参照として重要性の基準値を決定しなければなりません。具体的には、税引前利益や売上高、純資産といった指標に特定の割合を乗じて決定します。重要性の基準値は、監査計画策定時から監査の終了まで同じ値が必ずしも維持されるわけではなく、監査の進捗に伴い改訂されることがあります。

　⇒「重要性の基準値」は、対外秘とされることが通常のようです。

Q26　事業上のリスクと財務諸表の重要な虚偽表示リスクは、どのような関係にあるのでしょうか。監査法人は、事業上のリスクをどの程度評価しているのでしょうか。

　⇒「事業上のリスク（ビジネスリスク）」は、財務諸表の重要な虚偽表示リスクを含む、より広い概念です。「事業上のリスク」は、企業の置かれている状況や環境（それらの変化を含む）、企業のとる行動（又は行動しないこと）又は不適切な企業目的や戦略の設定に起因して、企業目的の達成や戦略の遂行に不利な影響を及ぼす可能性のあるリスクであり、企業経営に関連する様々なリスクが含まれます。「事業上のリスク」は、最終的には何らかの形で財務諸表に影響を及ぼす可能性がありますが、その影響の大きさや可能性の程度、影響が現れる時期は様々であり、全ての「事業上のリスク」が当期の財務諸表に影響を及ぼすとは限りません。したがって、監査人は、毎期の監査において、リスク評価手続の一環としてビジネスモデルを理解しますが、その過程で、会社に直面している事業上のリスクを理解します。さらに、会社の内部統制を理解する際に、会社が実施しているリスク評価プロセス及びリスク評価の結果を含めて理解します。監査人はそれらの理解を踏まえ、財務諸表の重要な虚偽表示リスクになる「事業上のリスク」に着目し、財務諸表の重要な虚偽表示リスクの評価を行います。したがつて監査人は「事業上のリスク」を網羅的に評価するわけではありません。

　⇒財務諸表の重要な虚偽表示リスクとなる事業上のリスクに着目しているということですね😅