【行政】 随意契約の制限に違反した契約の私法上の効力 昭和62年5月19日最高裁判決
随意契約の制限に違反した契約の私法上の効力については、最判解説において、以下のとおり、問題提起をされています。
地方自治法2条15項前段が「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。」と規定し、同条16項は、「前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする。」と規定しているため、一見すると、随意契約の制限に関する法令に違反して締結された契約は当然に無効と解される余地があるからです。
他方、随意契約の制限に関する法令としては、地方自治法施行令167条の2第1項が以下のとおり定めております。
滋賀県のHPでは、条文と例をコンパクトに明記されていましたので、参考までに、リンクをはっておきます。
さて、昭和62年5月19日最高裁判決は、随意契約の制限に関する法令に違反していたというケースでした。
以下のとおり、判旨を引用します。
一 原審は、(一) (1) 第一審判決別紙物件目録記載(一)ないし(五)の土地(以下併せて「本件土地」という。)は、かつて大阪府泉南郡東鳥取町及び南海町(昭和四七年一〇月二〇日合併により阪南町となつた。)の共有地であつたが、山の谷あいの最も奥地にある水源地であり、近畿圏の保全区域の整備に関する法律九条にいう近郊緑地保全区域内で、かつ、森林法二五条による保安林の指定のされている地区内にあり、一部採石が行われているほか主として松の植林に供されており、今後とも宅地などとしての開発が期待できない土地である、(2) 本件土地のうち同目録記載(四)の土地(以下「本件(四)の土地」という。)は、通称「ヌク原」と呼ばれていて、山の南側斜面に位置して日当りがよく、本件土地のなかでは比較的樹木が育ちやすい良い土地である、(3) 本件土地はかつて地元各部落の共有林である一筆の土地の一部であり、地元各部落の村民に植林のための権利が与えられていたが、昭和一五年七月期間三〇年の樹木所有を目的とする地上権が設定されることとなり、本件(四)の土地については、同月一一日草竹武長が右内容の地上権の設定を受けた、(4) 本件土地に設定された右各地上権は、昭和四五年存続期間の満了を迎えることとなつたが、東鳥取町長は、折から小学校の増改築のための財源確保に迫られていたので、本件土地を各地上権者に売却しようと考え、本件土地を含む東鳥取町と南海町との共有林野の管理を目的として設立された東鳥取町南海町林野組合(以下「林野組合」という。)の議員らに意向を打診した、(5) 右議員らは、いずれも東鳥取町又は南海町の町議会議員のうち林野関係に通じた者が選出されているものであるが、本件土地の管理は専ら東鳥取町が行つていたので、本件土地の売却については同町側の議員らのみで協議し、その結果右売却に同意することとなつた、(6) 右協議に際しては売却価格についても併せて協議がされ、専らこの地域の山林に詳しい議員らにおいて概算見積りで価格評価を行つた結果、本件(四)の土地については三〇〇万円が相当であるとの結論に達した、(7) 林野組合は、昭和四五年九月一四日、右議員らの協議の結果にそう提案を承認した、(8) そこで、東鳥取町長は地上権者らに対し本件土地を売却することとしたが、本件(四)の土地の売却については、地上権者草竹武長が最終的に六〇万円以上の価格で買い受けることを拒絶したため、同町長において苦慮していたところ、これを聞いた上岡富輝が前記評価価格の三〇〇万円で買い受けることを申し込んだので、同町長は右上岡富輝との間で、随意契約の方法により、右土地の東鳥取町持分(一〇〇万分の五七万〇四七九)を土地全体の価格三〇〇万円の持分相当額一七一万一四三七円で売却する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した(なお、南海町も同時にその持分を売却しており、両町の売却価格の合計はちようど三〇〇万円となる。)、との事実を認定した上、(二) 本件売買契約は、地方自治法施行令(昭和四九年政令第二〇三号による改正前のもの。以下「令」という。)一六七条の二第一項三号にいう「競争入札に付することが不利と認められるとき」及び同項四号にいう「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき」のいずれにも該当せず、結局随意契約の方法により契約を締結することができる場合に該当しないから違法であるとして、地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項一号に基づき右契約の履行として行われる所有権移転登記手続の差止めを求める被上告人らの請求を認容した。
二 しかしながら、本件売買契約が随意契約の制限に関する法令に違反することを理由に被上告人らの本件差止請求を認容すべきものとした原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
すなわち、法二三四条二項は、普通地方公共団体が締結する契約の方法について「指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」と規定し、これを受けて令一六七条の二第一項は、随意契約によることができる場合を列挙しているのであるから、右列挙された事由のいずれにも該当しないのに随意契約の方法により締結された契約は違法というべきことが明らかである。しかしながら、このように随意契約の制限に関する法令に違反して締結された契約の私法上の効力については別途考察する必要があり、かかる違法な契約であつても私法上当然に無効になるものではなく、随意契約によることができる場合として前記令の規定の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知り得べかりし場合のように当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える前記法及び令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になるものと解するのが相当である。
けだし、前記法及び令の規定は、専ら一般的抽象的な見地に立つて普通地方公共団体の締結する契約の適正を図ることを目的として右契約の締結方法について規制を加えるものと解されるから、右法令に違反して契約が締結されたということから直ちにその契約の効力を全面的に否定しなければならないとまでいうことは相当でなく、他方、契約の相手方にとつては、そもそも当該契約の締結が、随意契約によることができる場合として前記令の規定が列挙する事由のいずれに該当するものとして行われるのか必ずしも明らかであるとはいえないし、また、右事由の中にはそれに該当するか否かが必ずしも客観的一義的に明白とはいえないようなものも含まれているところ、普通地方公共団体の契約担当者が右事由に該当すると判断するに至つた事情も契約の相手方において常に知り得るものとはいえないのであるから、もし普通地方公共団体の契約担当者の右判断が後に誤りであるとされ当該契約が違法とされた場合にその私法上の効力が当然に無効であると解するならば、契約の相手方において不測の損害を被ることにもなりかねず相当とはいえないからである。そして、当該契約が仮に随意契約の制限に関する法令に違反して締結された点において違法であるとしても、それが私法上当然無効とはいえない場合には、普通地方公共団体は契約の相手方に対して当該契約に基づく債務を履行すべき義務を負うのであるから、右債務の履行として行われる行為自体はこれを違法ということはできず、このような場合に住民が法二四二条の二第一項一号所定の住民訴訟の手段によつて普通地方公共団体の執行機関又は職員に対し右債務の履行として行われる行為の差止めを請求することは、許されないものというべきである。
三 そうすると、随意契約の方法によつて締結された本件売買契約の私法上の効力を確定することなく、単に同契約が随意契約の制限に関する法令に違反し違法であるとして、それに基づく債務の履行として行われる所有権移転登記手続の差止めを求める被上告人らの本件請求を認容した原審の判断は、法令の解釈を誤りひいては理由不備の違法を犯すものというほかなく、上告論旨の検討に入るまでもなく原判決はこの点において破棄を免れないこととなる。そして、本件においては、本件売買契約を随意契約の方法によつて締結したことが仮に違法であるとしても、原審の適法に確定した前記事実関係に照らして、随意契約の方法による契約の締結が許されないことが何人の目にも明らかであるとか契約の相手方である上岡富輝において随意契約の方法によることが許されないことを知り又は知り得べきであつたなど右契約を無効とすべき前記特段の事情があるということはできないから、本件売買契約は私法上当然に無効であるということはできず(なお、本件売買契約が法九六条一項七号(昭和六一年法律第七五号による改正前のもの)、令一二一条の二第二項、別表第二に違反する旨の被上告人らの主張に理由がないことは原判決の判示するとおりであり、また、原審の適法に確定した前記事実関係によれば、本件(四)の土地の売却価格が不当に廉価であつて地方財政法八条に違反する旨の被上告人らの主張に理由がないことも明白である。)、したがつて、上告人に対し右契約に基づく債務の履行として行われる所有権移転登記手続の差止めを求める被上告人らの本件請求は理由のないことが明らかであるから、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第一審判決中右部分を取り消した上、被上告人らの右請求を棄却すべきである。」
次に、契約が無効でないとした場合、その履行行為を住民訴訟の手段により差し止めることができるかという点が問題になる。契約の履行行為は監査請求の対象となる財務会計行為の一つとされており(法二四二条一項)、それ自体が違法であれば差止めを認めるのが当然であるが、契約の締結方法が違法であるとしても当該契約が無効でない場合は、町は契約の相手方に対してその履行義務を負うのであるから、その履行行為を違法ということはできないし、これを住民訴訟により差し止めるならば、町をジレンマに陥れ不合理な結果を招く。本判決は、このような検討に基づいて、右差止めが許されないことを明らかにしたものと思われる。」
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