【行政】市立保育所に通園していた当時3歳2か月の幼児が給食のホットドックを誤嚥して心肺停止となつた事故につき、幼児にホットドックを提供したことや誤嚥後の対応等に違法性はないとして、幼児及び家族の市に対する国家賠償請求を棄却した事例 令和4年10月26日東京地裁判決
判例時報2592号で掲載された令和4年10月26日東京地裁判決です。
(1)争点1(国賠法1条1項に基づく被告の損害賠償責任の有無)
ア 原告X1に本件ホットドッグを提供したこと及び提供方法の違法性
(ア)被告が本件ホットドッグを1歳児クラスに提供したこと自体の違法性について
a 本件ホットドッグは、キャベツの千切りとウインナーをパンに挟んだものである(前提事実(3))。以下のbにおいて説示するとおり、本件ホットドッグに使用された各食材及びこれらを組み合わせたホットドッグは、一般的な幼児向け料理として広く紹介されており(認定事実(5))、それ自体誤嚥の危険性が高いとはいえず、本件ホットドッグが、これまで提供されていた食材や献立に比べて、特に誤嚥の危険が高い食材や調理方法を採用しているともいえないから、本件ホットドッグを1歳児クラスに提供したことが違法であるとはいえない。
b 原告らは、咽頭や気道を塞ぎやすいパンは誤嚥事故が生じやすい食品であると主張し、証人Dの証言及び証拠(甲19の2、甲25)にはこれに沿う部分がある(以下の原告らの各主張について同じ。)。
しかし、幼児向け料理に係る文献は、パン食として、ホットドッグのほか、揚げパンやトーストなど、様々なものを取り上げており(認定事実(5)、乙22~24、52)、現に、本件保育所を含め、多くの保育施設における幼児用の給食やおやつの一品としてパンが提供されていることからすると(乙21)、一般に、1歳児にとってパン食が禁忌とされているとは認め難い。本件保育所においては、過去に、口に入れたパンを戻した幼児がいたことが認められるものの(乙31の12頁)、食材を口から出したというだけでは、単に当該幼児にとって料理の味付けや大きさが口に合わなかったにとどまる可能性も否定できず、この事実をもって、パンが誤嚥事故を生じやすい食品であり、提供を控えるべきものであるということはできない。
また、原告らは、切れ目を入れない皮付き・粗挽きウインナーを1歳児クラスに提供することは許されないなどと主張する。しかし、幼児食を紹介する文献には、ウインナーに切れ目を入れることを推奨するものがある一方、皮付き・粗挽きのウインナーの使用や、切れ目を入れないウインナーの使用について特段言及しないものも一定数存在していること(認定事実(5))に照らせば、皮付き・粗挽き又は切れ目を入れないものを使用することで直ちに誤嚥の危険が増大すると認めることはできないし、また、そのような理解がごく一般的であったということはできないから、こうしたウインナーを提供することが許されないとはいえない。
本件ホットドッグに使用されたキャベツは千切りされたものであるから、1歳児にとって誤嚥の危険性が高いとはいえない。
原告らは、食感の異なる複数の食材を使用した料理を提供することの危険性も主張するが、料理の提供に当たっては、食感の異なる複数の食材を使用するのが通常であって、それ自体が誤嚥事故を惹起する行為であるとはいえないし、本件ホットドッグについてみても、組み合わせて提供することで特に嚥下が困難になる食材が含まれているとはいえない。そうすると、本件ホットドッグが複数の食材を使用し、各食材を別々にしなかったことをもって、その提供が違法であるとはいえない。
c 以上のとおり、本件ホットドッグを1歳児クラスに提供することが違法であるとはいえない。
(イ)原告X1の特性等を踏まえた、本件ホットドッグの提供行為の違法性について
a 原告X1は、生まれつき、発達遅滞、内斜視及び遠視性乱視の障害を有していたため、実年齢よりも低い0歳児クラスに入所し、翌年は1歳児クラスにおいて保育を受けていたが、嚥下障害はなく、食種は2~3歳の常菜とし、日常の食事面や生活面等において特段加配すべき点はないものと診断され(認定事実(3)エ)、本件保育所の健康診断でも異常がなかった(認定事実(2)ウ、(3)イ)。しかも、原告X1は、生後12か月である平成26年12月頃に離乳食を終了し、平成28年1月には、保育所と家庭において、いろいろな食材を食べる練習に取り組むこととなり(認定事実(2)オ、カ)、本件事故から過去6か月間において、せんべい、プルコギ、焼売、1口大の果物などを問題なく食べ、本件事故当日においても、白飯、豆腐ハンバーグ等を完食していた(認定事実(3)オ~キ)。原告両親も、本件保育所の食事について、バターロール、ウインナー及び未経験の食品を食べることを承諾した上、献立表を事前に受領していたが、特定の食材の提供を避けてもらいたいといった格別の配慮を求めた事情は見当たらない(認定事実(2)ア、(3))。
以上を前提とすると、原告X1は、年齢に比較すると発達の遅れがみられるものの、0歳児クラスから1歳児クラスに進級しており、食事面を含めて1歳児クラスでの通常の保育が可能な生活を送っていたのであって、嚥下機能が特に未熟であったり、頻繁に丸飲みをしたりするなど誤嚥の危険が高い状態であったとはいえず、1歳児クラス向け給食の献立とは別の離乳食に近い特別な食事を提供すべきであったとはいえない。そうすると、前記(ア)のとおり、1歳児クラスにおいて本件ホットドッグを提供することに問題がない以上、これを原告X1に提供したことが違法であるとはいえない。
b 原告らは、原告X1は嚥下機能が未熟であり、食事の際に噛まずに吸ったり、丸飲みをしたりすることが多かった上、医師から刻み食の指示を受け、家庭でも離乳食に近い食事をしていたから、被告は離乳後期から完了期頃までの食事を与える義務を負っていたと主張し、原告両親も、家庭では離乳食に近い食事を与えていたと供述する。しかし、原告X1が吸うように食事をしていたのは本件事故から約1年前の平成28年3月頃までであって(認定事実(2)イ①~⑤)、その後は、前記aのとおり、1口大のパンや果物等を食べるようになっている。そして、保育経過記録等を見ても、本件事故の直前において、細かくされていない食品を噛まずにそのまま飲み込んでいるとの記載は見当たらないから(認定事実(3)ウ①・②)、原告X1が頻繁に食材を丸飲みしていたとはいえない。医師は、原告X1につき、刻み食の指示をしているが(認定事実(3)エ)、原告X1に嚥下障害がなく、食種が2~3歳常菜との診断と同時にされているのであるから、同指示は、食事の1口の大きさを実年齢に応じたものとする趣旨とみられ、それを超えた格別の配慮を求める趣旨であるとは認め難い。家庭での食事に係る原告両親の上記供述は、原告X1が家庭において目玉焼きや焼売等を食べていたこと(認定事実(3)オ)に照らして直ちには採用することができないし、仮に原告X1が家庭において原告両親の供述に沿う食事をしていたとしても、上記のとおり、本件保育所において現に1口大のパンや果物等を問題なく食べられていたことなどからすると、離乳食に近い食事以外の摂食が困難であったとは認め難い。そうすると、原告X1の嚥下機能が未熟であったとはいえず、原告らの主張は、その前提を欠くというべきである。
原告らは、厚生労働省が作成したガイドライン等(甲2、3)に照らし、原告X1に本件ホットドッグを提供したことは違法であると主張する。しかし、同ガイドライン等は、一般的に、幼児の特性や嚥下機能に応じて適切な調理形態とすることを推奨し、あるいは、調理方法の工夫例を示すものというべきであって、上記のとおり、原告X1の嚥下機能に問題があったとはいえないから、同ガイドライン等の記載を前提としても、本件において、原告X1に本件ホットドッグを提供してはならないとの評価に結び付くものではない。
また、原告らは、被告は、原告両親から提供を受けた情報も勘案し、原告X1の嚥下機能に配慮した適切な食事マニュアル又は給食メニューを作成し、これに沿う食事を提供する義務を負うとも主張する。しかし、前記aのとおり、原告両親が食事について特別な配慮を求めていたとはいえない上、上記のとおり、原告X1の嚥下機能に何らかの問題があるともいえないから、被告において、特別な食事マニュアル又は給食メニューを作成する義務を負っていたとはいえない。
c したがって、原告X1の特性等を踏まえても、被告が本件ホットドッグを原告X1に提供したことが違法であるとはいえない。
(ウ)本件ホットドッグの提供方法の違法性について
原告らは、保育士は原告X1に手づかみ食べをさせる義務を負い、本件ホットドッグをちぎって渡したのは違法であると主張する。
しかし、B保育士は、本件ホットドッグにつき、1口当たり、パンが約5cm×2.3cm、ウインナーが直径約1.8cm×厚さ約0.7cmとなるように分割しているところ(認定事実(4)イ)、それ自体、1歳児クラスの食事として十分に小さいものであるし、現に原告X1が3口目までを問題なく食べていることからすると、原告X1にとっても大きすぎるとはいえず、ちぎって提供したこと自体が違法になるとはいえない。しかも、B保育士は、原告X1が誤嚥した4口目につき、これを原告X1の口に直接入れたのではなく、原告X1に手渡して食べさせたのであるから(認定事実(4)ウ)、手づかみ食べと同様の提供方法を講じていたというべきであり、この点からも、被告が手づかみ食べをさせることを怠ったとはいえない。
原告らは、ちぎることによってパンに力が加わって密度が増し、強固な塊が形成されるから、誤嚥事故の危険が高まると主張する。しかし、幼児が食べやすいようにパンをちぎって与えることは一般的に行われていると考えられるところ、その際に敢えてパンを強力に押し固めるようにちぎったのであれば格別、ちぎる際に多少力が加わったとしても、誤嚥の危険が急増するほど強固な塊が形成されるとはいえない。そして、本件において、X1が誤嚥したホットドッグが上記のような強固な塊であったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件ホットドッグの提供方法が違法であるとはいえない。
(エ)以上のとおり、原告X1に本件ホットドッグを提供したこと及びその提供方法が違法であるとはいえない。
イ 食事中の監視態勢に関する違法性
(ア)本件ホットドッグの提供は、C保育士が隣室の清掃のために机を離れた後、10人の幼児に対して2人の保育士及び1人の実習生が配置された状態で行われた。B保育士は、泣いていた本件別幼児を隣に座らせて様子を見ながら、机を挟んだ位置に座っていた原告X1に対し、1口ごとに口腔が空になっていることを確認しつつ、本件ホットドッグ及び牛乳を交互に与えた。(認定事実(4)イ、ウ)
以上を前提とすると、B保育士は、C保育士が机を離れた後も、原告X1に対し、1口ごとに牛乳を口に含ませるなど、誤嚥事故等が生じないよう極力の配慮をしていたものであり、原告X1の食事介助に当たって求められる注意を十分に払っていたというべきである。本件事故発生時の状況についてみても、B保育士が原告X1から目を離した時間は数秒間にすぎず、誤嚥の覚知が遅れたとはいえない。
そうすると、被告の食事中の監視態勢に何らかの問題があったということはできず、これが違法であるとはいえない。
(イ)これに対し、原告らは、C保育士が食事中に机を離れたこと、及びB保育士が原告X1の隣でその様子を継続的に観察しなかったことは違法であると主張する。
しかし、C保育士が机を離れた後も、幼児10人に対して少なくとも2人の保育士が配置されていたのであるから、保育士の人数が不相当に少ないとはいえない(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準33条2項参照)。また、B保育士は、前記(ア)のとおり、C保育士が机を離れた後も、原告X1の食事介助に当たって求められる注意を十分に払っており、本件事故の発生時も、原告X1の誤嚥を覚知して直ちに救護活動に着手しているから、本件別幼児の様子に気を取られたとか、原告X1を放置したなどということはできないし、配席の関係で救護活動が遅れたともいえない。
そうすると、C保育士が食事中に机を離れたこと、及びB保育士が原告X1の隣でその様子を継続的に観察しなかったことが違法であるとはいえない。
ウ 本件事故直後の措置の違法性
(ア)原告X1は、平成29年2月8日午後3時12分頃に本件ホットドッグを誤嚥して直ちに保育士の背部叩打を受け、午後3時15分頃、パンの塊(噛んだパンと皮付きのウインナーの欠片)を吐き出したが、なお容態が回復しなかったため、保育士は、午後3時17分に緊急通報を行い、消防の指示を受けて背部叩打を継続した。救急隊員は、到着後、喉頭鏡や吸引器による異物等の確認、人工呼吸等を行ったものの、上記パンの塊のほか、閉塞物は発見されなかった。(認定事実(4)エ・オ)
以上の事実関係を前提とすると、原告X1がパンの塊を吐き出したにもかかわらず、容態が回復しなかった時点で緊急通報の必要性が明らかになったというべきであり、保育士が当初緊急通報を行わず、パンの塊を除去してから2分後(誤嚥から5分後)に緊急通報を行ったこともやむを得ないというべきである。
また、保育士は、背部叩打を行ってパンの塊を吐き出させることに成功した上、緊急通報を受けた消防も背部叩打の継続を指示したのであるから、本件事故において保育士が背部叩打を継続したことに問題はない。さらに、本件において、ハイムリック法を行うことで閉塞物除去の時期が早まり、又は原告X1の容態が回復していたともいい難いから、ハイムリック法を行うべきであったとはいえない。
そうすると、被告の本件事故直後の措置が違法であるとはいえない。
(イ)原告らは、被告は、誤嚥覚知直後に大声で事故の発生を知らせた上、最優先で緊急通報を行う義務を負っていたと主張する。しかし、誤嚥者の容態は、誤嚥した物を除去することにより比較的早期に回復する場合が多いといえることからすると、誤嚥を覚知した場合に直ちに緊急通報をする義務を負担させるのは現実的でなく、まずは誤嚥物の除去を優先し、容態が回復しなかった場合に緊急通報をするという対応もやむを得ないというべきである。
また、原告らは、被告が緊急時マニュアルの作成を怠り、又はその内容が不当であることが違法であるとも主張するようである。しかし、前記(ア)のとおり、本件事故直後の被告の措置には問題がないのであるから、被告において、原告らが主張する内容のマニュアルを作成する義務を負わないことは明らかである。
(2)小括
以上によれば、争点1のその余の点及び争点2を判断するまでもなく、原告らの主張は理由がない。」
お気の毒な事故のようです。。。
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