【学校】 有期雇用の契約期間が通算5年を超えた私立大学の専任講師について、大学の教員等の任期に関する法律4条1項1号に該当しないから、同法7条によって労働契約法18条の「5年ルール」の適用が排除されることなく、無期雇用に転換した、と判断した事例 令和5年1月18日大阪高裁判決
判例時報No2590号で掲載された令和5年1月18日大阪高裁判決です。
労働判例1285号にも、前記判決についての解説が掲載されていましたので、引用します。

(宮島)
(1) 事案の概要
被控訴人(一審被告)学校法人羽衣学園(以下,「Y法人」)は,私立羽衣国際大学(以下,「被告大学」)を設置する学校法人である。控訴人(一審原告)甲野花子(以下,「X」)は,有期労働契約(以下,「本件労働契約」)を締結して被告大学の専任教員(専任講師)を務めていた。Y法人はXに対し,契約期間満了による雇止め(以下,「本件雇止め」)をした。
Xは,①複数ある有期労働契約の通算契約期間が5年を超えており,Xが労働契約法18条1項に基づく無期転換申込みをしたことにより,Y法人との間に無期労働契約が締結された,②仮に,無期転換申込みによる無期労働契約の成立が認められないとしても,Xには有期労働契約の更新を期待するにつき合理的な理由があり,また,本件雇止めは客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないから,労働契約法19条により,有期雇用契約が継続している,③XとY法人との間で,有期労働契約の期間満了後に,無期労働契約を締結する旨の合意が成立した旨主張し,Y法人に対して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,労働契約に基づく賃金および賞与等の各支払いを求め,さらに雇止めをして労働契約終了の扱いをしたY法人の対応が不法行為に当たるとして,不法行為に基づく損害賠償として慰謝料100万円の支払いを求めた。
Y法人は,Xにつき,労働契約法18条1項の特例である「大学の教員等の任期に関する法律」(以下,「大学教員任期法」)7条1項が適用される結果,無期転換権の発生までの通算契約期間は10年を超えることを要する(以下,「10年特例」)ことになるから,Xには未だ無期転換権が発生していない等と主張した。
本件の争点は,(1)本件労働契約に10年特例の適用があるか,(2)本件労働契約の更新に関する期待に合理的な理由があるといえるか,(3)Y法人代表者の発言によって無期労働契約が成立したといえるか,(4)Y法人がXに対して支払うべき賃金額,(5)本件雇止めの違法性である。
一審判決は,次のように判断してXの請求をいずれも棄却した。まず争点(1)につき,「講師」は,学校教育法上「教授」または「准教授」に準ずる職務に従事する職である旨位置付けられており,多様な人材の確保が特に求められるべき教育研究組織の職たり得るものであり,Xが担当していた介護福祉士養成関係を中心とした分野自体一定の専門性があり,Xの専攻ないし担当分野について一定の広がりがあるものということができるとして,「Xの地位は,大学教員任期法4条1項1号のうち「その他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み,多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」に該当すると認められる」と判示し,大学教員任期法に基づく10年特例の適用を認めた。
また,争点(2)につき,Xが,「再任は1回のみ」と明記された募集要領を確認のうえで専任教員に応募したことや採用面接時にも再任が1回限りである旨の説明を受けていたこと,本件労働契約の更新に先立つ面談においてY法人の方針につき説明を受けたうえで,不更新条項が記載された契約書に署名押印したこと等の事情から,「Xは,本件労働契約の更新につき,合理的な期待を有するものということはできない」と判断した。
さらに争点(3)についても,理事長の発言は同人の個人的な意向の表明にすぎず,それ以上にX主張にかかる労働契約の成立に関する意思表示とみることはできないとして,「無期労働契約が締結されたと認めることはできない」とした。
これに対して,Xが控訴した。
(2) 本判決のポイント
本判決は争点(1)につき,まず大学教員任期法4条1項各号が,10年特例を認める要件を定めているとする。そして,同法4条1項1号該当性につき,「当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ,多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職であることが必要」であり,「上記の教育研究の職に該当すると評価すべきことが,例示されている「先端的,学際的又は総合的な教育研究であること」を示す事実と同様に,具体的事実によって根拠付けられていると客観的に判断し得ることを要すると解すべきである」と判示した(判旨1)。 そのうえで,具体的な判断として,Xが就いていた講師職(以下,「本件講師職」)への応募資格としての実務経験は,介護福祉士の「養成課程の担当教員につき厚生労働省が指定しているために求められており,人材交流の促進や実践的な教育研究のために実務経験を有する人材が求められていたものではな」く,「本件講師職を任期制とすることが職の性質上,合理的といえるほどの具体的事情は認められない」とする。そして,「本件講師職の募集経緯や職務内容に照らすと,実社会における経験を生かした実践的な教育研究等を推進するため,絶えず大学以外から人材を確保する必要があるなどということはできず,また,「研究」という側面は乏しく,多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職に該当するということはできない」とした(判旨2)。
また,大学教員任期法4条1項3号につき,同号の「大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて行う教育研究」には,「数年先に学生募集を停止するといったような専ら大学経営上の計画に基づき期間を定める教育研究は……含まれない」(判旨3)として,本件講師職は同法4条1項3号にも該当しないとした。
結論として,「本件労働契約に10年特例の適用があるということはでき」ず,「本件労働契約は既に無期雇用契約に転換していたことになる」(判旨4)として,一審判決を変更し,Xの地位確認請求ならびに賃金および賞与の支払請求を認めた。
他方で,争点(5)につき本判決は,大学教員任期法4条1項1号の解釈適用のあり方はいまだ確定しているとはいえないため,Y法人の対応に過失があるとはいえず,また,10年特例の適用に関する書面を交付したうえで説明し,労働者の了知を得ることが必要であったなどのXの主張は法律上の根拠を欠くとして,「本件雇止めが不法行為に該当するということはできない」と判示した。
(3) 本判決の意義と参考裁判例
いわゆる無期転換ルール(労働契約法18条1項)については,大学等の研究者・技術者や教員に関する特例が存在する。すなわち,①大学教員任期法7条1項は,同法5条1項の規定による任期の定めがある労働契約を締結した教員等との当該労働契約にかかる労働契約法18条1項の適用につき,同項中「5年」とあるのを「10年」と読み替える旨を定めている。また,②「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(以下,「イノベーション法」)15条の2第1項も,同項各号の労働契約にかかる労働契約法18条1項の適用について,同様の定めを置いている。
本件は,この10年特例のうち①の適用の可否が争われた事案である。一審判決が,Xが講師職であること等から比較的簡単に大学教員任期法4条1項1号該当性を肯定し,10年特例の適用を認めたのに対し,本判決は,「多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職」に該当することが具体的な事実によって根拠付けられていることが必要であるとして,10年特例の適用を否定した。大学教員任期法に基づく10年特例の適用要件たる同法4条1項各号につき厳格な解釈を示した点に,本判決の意義がある。
本件と同様に10年特例の適用の可否が争われた裁判例として,学校法人茶屋四郎次郎記念学園(東京福祉大学)事件(東京地判令4.1.27労判1268号76頁)では,「原告は,東京福祉大学の専任講師であるから,教員任期法所定の「教員」に該当し,原告と大学を設置する学校法人である被告との間で締結された有期労働契約については,教員任期法7条が適用される(……)。したがって,原告が被告に対して無期転換申込みを行うためには通算契約期間が10年を超えていることが必要となる」として,①大学教員任期法7条による特例の適用が認められた。ただし,この判決では,同条の前提となる同法4条1項各号についての具体的な判断はなされていない。また,①大学教員任期法による特例の適用が認められたことから,②イノベーション法15条の2による特例については判断する必要がないとされた。
他方で,学校法人専修大学(無期転換)事件(東京高判令4.7.6労判1273号19頁)では,A語の非常勤講師につき,イノベーション法15条の2第1項の「「研究者」は,研究開発法人又は有期労働契約を締結している大学等において業務として研究開発を行っている者であることを要すると解すべきであり,被告の設置する専修大学において,学部生に対する初級から中級までのA語の授業,試験及びこれらの関連業務にのみ従事している原告は,「研究者」に該当しないというべきである」として,②イノベーション法15条の2による特例の適用が否定された。
なお,無期転換ルールの特例の適用が争われた事案ではないが,大学教員任期法4条1項1号への該当性につき判示した裁判例として,学校法人梅光学院ほか(特任准教授)事件(広島高判平31.4.18労判1204号5頁)では,同法4条1項1号の要件のうち「「先端的,学際的又は総合的な教育研究であること」は例示であって,同号によって任期付き教員を任用することができる場合をこれに限定する趣旨ではないから,同号の解釈としては「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき」に該当すれば,同号の要件を満たすものと解するのが相当である」としたうえで,「本件雇用契約についてみると,……控訴人は,生徒募集の営業活動の実績をも考慮されて本件大学の教員として採用されたものであり,本件採用面接の日に,……中学・高校の生徒募集に力を入れるよう特に伝えられたのであるから,本件雇用契約は,まさに「多様な人材の確保が特に求められる」職に就けるための任用であるといえ」ると判断された。
なかなか、大学側にとって厳しい判断です。最高裁へ不服申立てがされているようです。
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