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2023年12月 7日 (木)

【労働・労災】 酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受けて公立学校教員を退職した者に対してされた一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分に係る判断が、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえないとされた事例 令和5年6月27日最高裁判決

 判例タイムズNO1513号で紹介された令和5年6月27日付最高裁判決です。

 以下のとおり判決文を印引用します。


 1 本件は、上告人の公立学校教員であった被上告人が、酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)を受けたことに伴い、職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和元年宮城県条例第51号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)12条1項1号の規定(以下「本件規定」という。)により、退職手当管理機関である宮城県教育委員会(以下「県教委」という。)から、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分(以下「本件全部支給制限処分」という。)を受けたため、上告人を相手に、上記各処分の取消しを求める事案である

  ⇒あるある事案ですね。これからは忘年会シーズン。飲酒運転には注意しましょう。

   このケースは、勤務先は、退職金の全部を支給しないということにしたようです。


 「2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 (1) 本件規定は、退職をした者(以下「退職者」という。)が、懲戒免職処分を受けて退職をした者に該当するときは、当該退職に係る退職手当管理機関は、当該退職者に対し、当該退職者が占めていた職の職務及び責任、当該退職者の勤務の状況、当該退職者が行った非違の内容及び程度、当該非違に至った経緯、当該非違後における当該退職者の言動、当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して、当該退職に係る一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分(以下「退職手当支給制限処分」という。)を行うことができる旨を規定する。
 (2)ア 被上告人は、昭和62年4月に上告人の公立学校教員に採用され、以後、教諭として勤務した。被上告人につき、本件懲戒免職処分以外の懲戒処分歴はなく、その勤務状況にも特段の問題は見られなかった。
 イ 被上告人は、平成29年4月28日、当時勤務していた上告人の高等学校(以下「本件高校」という。)の同僚の歓迎会に参加するため、本件高校から自家用車を運転し、その会場付近の駐車場に駐車した。被上告人は、同日午後6時20分頃から午後10時20分頃まで、上記歓迎会に参加し、ビールを中ジョッキとグラスで各1杯程度、日本酒を3合程度飲んだ。そして、被上告人は、同日午後10時30分頃、20km以上離れた自宅に帰るため、上記自家用車の運転を開始し、約100m走行した場所にある丁字路交差点を右折した際、過失により、優先道路から同交差点に進入してきた車両と衝突し、同車両に物的損害を生じさせる事故(以下「本件事故」という。)を起こした。
 その後、被上告人は、呼気1Lにつき0.35mgのアルコールが検出されたことから、道路交通法違反の罪(酒気帯び運転)で現行犯逮捕された。上記逮捕の事実については、被上告人の氏名及び職業も含めて報道され、本件高校は、全校集会や保護者会を開き、被上告人の学級担任の業務等を他の教諭に担当させるなどの対応をした。
 ウ 県教委は、平成29年5月17日付けで、被上告人に対し、上記イの酒気帯び運転(以下「本件非違行為」という。)を理由として本件懲戒免職処分をするとともに、本件規定により、一般の退職手当等(1724万6467円)の全部を支給しないこととする本件全部支給制限処分をした。
 エ 被上告人は、平成29年10月30日、上記イの罪により罰金35万円の略式命令を受けた。
 (3) 本件非違行為に先立ち、県教委の教育長は、平成27年度及び同28年度に上告人の教職員が酒気帯び運転や酒酔い運転により検挙されるなどの事例が相次いでいたことを受けて、平成28年5月16日付け及び同年7月14日付けで、各教育機関の長等に宛てて、今後飲酒運転に対する懲戒処分についてはより厳格に運用していくといった方針を示すなどして、服務規律の確保を求める旨の通知等を発出していた。また、県教委は、同月、被上告人を含む教職員に対し、非常事態として注意喚起をしていた中で教職員による飲酒運転が繰り返されたことは極めて遺憾であり、飲酒運転につき免職又は5月以上の停職とする旨の懲戒処分の量定に係る基準を改正するなど、今後はより厳格に対応する旨を記載した周知文書を配布していた。」

 ⇒退職金の金額は、約1800万円弱だったんですね。


 「3 原審は、上記事実関係等の下において、本件懲戒免職処分は適法であるとしてその取消請求を棄却すべきものとした上で、要旨次のとおり判断し、本件全部支給制限処分の取消請求を一部認容した。
 被上告人については、本件非違行為の内容及び程度等から、一般の退職手当等が大幅に減額されることはやむを得ない。しかしながら、本件規定は、一般の退職手当等には勤続報償としての性格のみならず、賃金の後払いや退職後の生活保障としての性格もあることから、退職手当支給制限処分をするに当たり、長年勤続する職員の権利としての面にも慎重な配慮をすることを求めたものと解される。そして、被上告人が管理職ではなく、本件懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間誠実に勤務してきたこと、本件事故による被害が物的なものにとどまり既に回復されたこと、反省の情が示されていること等を考慮すると、本件全部支給制限処分は、本件規定の趣旨を超えて被上告人に著しい不利益を与えるものであり、本件全部支給制限処分のうち、被上告人の一般の退職手当等の3割に相当する額を支給しないこととした部分は、県教委の裁量権の範囲を逸脱した違法なものであると認められる。

 ⇒高裁は、30%位は出してやれや~ ということにしたんですね。


 「4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 本件条例の規定により支給される一般の退職手当等は、勤続報償的な性格を中心としつつ、給与の後払的な性格や生活保障的な性格も有するものと解される。そして、本件規定は、個々の事案ごとに、退職者の功績の度合いや非違行為の内容及び程度等に関する諸般の事情を総合的に勘案し、給与の後払的な性格や生活保障的な性格を踏まえても、当該退職者の勤続の功を抹消し又は減殺するに足りる事情があったと評価することができる場合に、退職手当支給制限処分をすることができる旨を規定したものと解される。このような退職手当支給制限処分に係る判断については、平素から職員の職務等の実情に精通している者の裁量に委ねるのでなければ、適切な結果を期待することができない。
 そうすると、本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当等につき、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を、退職手当管理機関の裁量に委ねているものと解すべきである。したがって、裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一の立場に立って、処分をすべきであったかどうか又はどの程度支給しないこととすべきであったかについて判断し、その結果と実際にされた処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法であると判断すべきである。
 そして、本件規定は、退職手当支給制限処分に係る判断に当たり勘案すべき事情を列挙するのみであり、そのうち公務に対する信頼に及ぼす影響の程度等、公務員に固有の事情を他の事情に比して重視すべきでないとする趣旨を含むものとは解されない。また、本件規定の内容に加え、本件規定と趣旨を同じくするものと解される国家公務員退職手当法(令和元年法律第37号による改正前のもの)12条1項1号等の規定の内容及びその立法経緯を踏まえても、本件規定からは、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする場合を含め、退職手当支給制限処分をする場合を例外的なものに限定する趣旨を読み取ることはできない。
 (2) 以上を踏まえて、本件全部支給制限処分の適否について検討すると、前記事実関係等によれば、被上告人は、自家用車で酒席に赴き、長時間にわたって相当量の飲酒をした直後に、同自家用車を運転して帰宅しようとしたものである。現に、被上告人が、運転開始から間もなく、過失により走行中の車両と衝突するという本件事故を起こしていることからも、本件非違行為の態様は重大な危険を伴う悪質なものであるといわざるを得ない。
 しかも、被上告人は、公立学校の教諭の立場にありながら、酒気帯び運転という犯罪行為に及んだものであり、その生徒への影響も相応に大きかったものと考えられる。現に、本件高校は、本件非違行為の後、生徒やその保護者への説明のため、集会を開くなどの対応も余儀なくされたものである。このように、本件非違行為は、公立学校に係る公務に対する信頼やその遂行に重大な影響や支障を及ぼすものであったといえる。さらに、県教委が、本件非違行為の前年、教職員による飲酒運転が相次いでいたことを受けて、複数回にわたり服務規律の確保を求める旨の通知等を発出するなどし、飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていたとの事情は、非違行為の抑止を図るなどの観点からも軽視し難い。
 以上によれば、本件全部支給制限処分に係る県教委の判断は、被上告人が管理職ではなく、本件懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間にわたって誠実に勤務してきており、反省の情を示していること等を勘案しても、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえない。
 5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。上記の趣旨をいう論旨は理由があり、その余の論旨につき判断するまでもなく、原判決は、上記判示と抵触する限度において変更を免れない。そして、前記事実関係等の下においては、本件全部支給制限処分にその他の違法事由も見当たらず、その取消請求は理由がないから、以上に判示したところに従い、原判決主文第2項から第4項までを本判決主文第1項のとおり変更することとする。
 よって、裁判官宇賀克也の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 ⇒最高裁は、宇賀先生以外は、退職金全額支給しないのは問題ないと判断したんですね。


 「裁判官宇賀克也の反対意見は、次のとおりである。
 私は、本件全部支給制限処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえないとする多数意見と意見が異なる点があるので、以下、その理由を述べることとする。
 県教委が制定した「一般の退職手当等の支給制限処分等の運用について」では、停職以下の処分にとどめる余地がある場合に、特に厳しい措置として懲戒免職処分とされたときには、一般の退職手当等の一部を支給しないこととする処分にとどめることを検討することとし、その場合であっても、公務に対する信頼に及ぼす影響に留意して、慎重な検討を行うこととしている。しかるところ、同じく県教委が制定した「教職員に対する懲戒処分原案の基準」では、飲酒運転を行った場合は、免職又は5月以上の停職とされており、平成27年に3名の高校教員が酒気帯び運転で停職処分とされた例があるほか、上告人の職員の飲酒運転による非違行為で停職処分にとどめられた例は少なくない。しかも、飲酒運転を取り締まる立場にあり、その意味で教職員以上に飲酒運転を自制すべき立場にあるともいい得る警察官が、被上告人による本件非違行為より後の平成30年に酒気帯び運転を行った事案では、停職3月の懲戒処分にとどめられている。
 したがって、被上告人については、停職以下の処分にとどめる余地がある場合に、特に厳しい措置として懲戒免職処分がされたといえ、一般の退職手当等の一部を支給しないこととする処分をすることを、公務に対する信頼に及ぼす影響に留意して慎重に検討すべきであったといえる。
 本件では、被上告人が教諭として生徒に範を垂れる立場にあったにもかかわらず、安易に飲酒運転を行ったことは公務に対する信頼を損ねるものであり、一般の退職手当等の大幅な減額はやむを得ないと考える。
 しかし、上記警察官の非違行為と本件非違行為との間には、内容や態様の面で相違もあったとうかがわれるとはいえ、飲酒運転による公務に対する信頼の失墜という点では、飲酒運転を取り締まる立場にある警察官による酒気帯び運転の方が影響が大きいと思われるにもかかわらず、上記警察官は、停職3月の懲戒処分を受けたにとどまり、一般の退職手当等を減額されることはないものと考えられる。そのことに、被上告人が管理職ではなく、過去に懲戒処分を受けたことがなく、30年余り勤続してきたこと、本件事故による被害は物損にとどまり既に回復されていること、被上告人が反省の情を示していること等を考慮すると、一般の退職手当等の有する給与の後払いや退職後の生活保障の機能を完全に否定するのは酷に過ぎるなどとして、本件全部支給制限処分の取消請求を一部認容した原審の判断に違法があるとは考え難い。
 以上の私見によれば、原審の判断は是認することができるから、本件上告は棄却されるべきである。」

 ⇒宇賀先生は、大幅な減額は仕方が無いが、いろいろな事情を考慮すれば、高裁の判断には違法がないと言っています。 

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(世田山&石鎚山連峰)
 罰金刑に留まっているのに、懲戒免職なんですね~
 禁錮以上の刑を受けたのと同じですね。 これは、この種事案を受けた弁護士は、刑事事件で公判請求されず略式で罰金刑を受けた事案なのに、懲戒免職で退職金もないという場合がありうるということを肝に銘じておかなければなりませんね。

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