【労働・労災】 国・人事院(経産省職員)事件 東京地裁令和元年12月12日判決、東京高裁令和3年5月27日判決、最高裁令和5年7月11日判決
次に、マスコミで大きく取り上げられました国・人事院(経産省職員)事件です。
①第一審である東京地方裁判所令和元年12月12日判決は、(1)経産省に勤務する国家公務員であり、性別適合手術を受けていないトランスジェンダーの戸籍上男性の原告が、女性トイレを使用するためには、性同一性障害者である旨を女性職員に告知して理解を求める必要があるとの経産省当局による条件を撤廃し、原告に職場の女性トイレを自由に使用させることの要求を認めないとした部分を取り消すとともに、(2)慰謝料120万円(弁護士費用を含めると132万円)を認めました。
②第二審である東京高等裁判所令和3年5月27日判決は、(1)経産省当局が、自認する性別に係るトイレの自由な使用を求めず、その処遇を継続することは違法なものとはいえない、また、(2)「なかなか手術を受けないんだったら、もう男に戻ってはどうか」という上司の発言について違法性が認められるとして、慰謝料10万円(弁護士費用を含めると11万円)に減額されました。
③最高裁判所令和5年7月11日判決は、(2)慰謝料については判断せず、結果的に132万円から11万円に減額した第2審の判断を認め、(1)トイレ使用については、第2審の判断を取り消して、次のとおり判断しました。
「本件処遇は、経済産業省において、本件庁舎内のトイレの使用に関し、上告人を含む職員の服務環境の適正を確保する見地からの調整を図ろうとしたものであるということができる。そして、上告人は、性同一性障害である旨の医師の診断を受けているところ、本件処遇の下において、自認する性別と異なる男性用のトイレを使用するか、本件執務階から離れた階の女性トイレ等を使用せざるを得ないのであり、日常的に相応の不利益を受けているということができる。一方、上告人は、健康上の理由から性別適合手術を受けていないものの、女性ホルモンの投与や≪略≫を受けるなどしているほか、性衝動に基づく性暴力の可能性は低い旨の医師の診断も受けている。現に、上告人が本件説明会の後、女性の服装等で勤務し、本件執務階から2階以上離れた階の女性トイレを使用するようになったことでトラブルが生じたことはない。また、本件説明会においては、上告人が本件執務階の女性トイレを使用することについて、担当職員から数名の女性職員が違和感を抱いているように見えたにとどまり、明確に異を唱える職員がいたことはうかがわれない。さらに、本件説明会から本件判定に至るまでの約4年10か月の間に、上告人による本件庁舎内の女性トイレの使用につき、特段の配慮をすべき他の職員が存在するか否かについての調査が改めて行われ、本件処遇の見直しが検討されたこともうかがわれない。
以上によれば、遅くとも本件判定時においては、上告人が本件庁舎内の女性トイレを自由に使用することについて、トラブルが生ずることは想定し難く、特段の配慮をすべき他の職員の存在が確認されてもいなかったのであり、上告人に対し、本件処遇による上記のような不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらなかったというべきである。そうすると、本件判定部分に係る人事院の判断は、本件における具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、上告人の不利益を不当に軽視するものであって、関係者の公平並びに上告人を含む職員の能率の発揮及び増進の見地から判断しなかったものとして、著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ない。
したがって、本件判定部分は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるというべきである。」
最高裁は、トランスジェンダーの方が、自認する性別と異なる男性用のトイレを使用するか、本件執務階から離れた階の女性トイレ等を使用せざるを得ないのであり、日常的に相応の不利益を受けていること、性衝動に基づく性暴力の可能性は低いこと、過去及び現在トラブルが生じたことがないこと、説明会についても明確に異を唱える職員はいなかったこと、その後調査を行っていないことから、上告人が受ける不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらないことから、トイレ使用を制限した処遇は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となると判断しました。
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