【労働・労災】教員の精神疾患が増悪し自殺したのは、校長らのパワハラが原因であるとして損害賠償を請求した事件 鹿児島地裁平成26年3月12日判決
それでは、「教員の精神疾患が増悪し自殺したのは、校長らのパワーハラスメントが原因であるとして損害賠償を請求した事件」について、鹿児島地方裁判所平成26年3月12日判決を検討したいと思います。
あかるい職場応援団のHPの石上尚弘弁護士の執筆論文を参考にしております。
この事案は、精神疾患を有する市立中学の教員に対し、校長ら、教育委員会等がパワーハラスメントを行ったことが原因で精神疾患が増悪し、当該教職員が自殺したとして、県及び市に対し、遺族が損害賠償を求めたものです。
裁判所の判断は以下のとおりでした。心理的負荷が大きいと認定された行為としては、業務量の増加と、特別研修の参加命令でした。
まず、ア 業務量の増加です。
元教員が精神疾患による病気休暇明け直後であるのに、校長らは、従来の音楽科及び家庭科に加え、教員免許外科目である国語科を担当させ、その他の業務の軽減もなかったことなどから、業務量の増加による元教員の心理的負荷は過重でした。さらに、このような状況の中で、校長は元教員に、意に染まない国語科の研究授業を命じ、その他の業務の軽減を行うこともありませんでした。
次に、イ 特別研修への参加命令です。
上記アの業務量の増加などにより、元教員が心理的負荷を増大させ、パニック状態になる、虚偽の事実を述べて救急車を呼ぶなどの通常ではあり得ない精神状態の悪化を疑うべき兆候が現れており、元教員が何らかの精神疾患を有しており、その状態が良好でないことを認識し得たこと、また元教員に過去に精神疾患による複数回の休職があり、当時も心療内科に通院中であったことを知っていたにもかかわらず、元校長らは、元教員の素質に問題があると考え、主治医に対する病状確認等をすることなく、県教育委員会等に対し、元教員には指導力が不足しているとの報告を行い、結果的に元教員に対し、指導力向上特別研修の受講が命じました。
なお、同特別研修は指導力が不足していると思われる教員等に対し実施されるものであるが、指導力不足の原因が精神疾患である場合には同特別研修の対象とはされていませんでした。同研修では、元教員は、担当指導官に対し、精神安定剤を服用していること、めまい及びじんましん等の症状が現れていること、気分的に不安定であることなどを担当官に告げ、担当指導官は元教員が何らかの精神疾患を有していることを認識し得たにもかかわらず、元教員に対し、これまでの教員生活を振り返り、自己の課題を発見するために自分史に基づくという指導が継続され、さらに「自分の身上や進退については両親や担当者とも十分に相談してください。」とのコメントが日誌に記載されるなど、元教員に退職を促しているとも受け取れる指導が行われました。同研修は一般に、教員にとって不利益なものであると推測されることなどから、研修命令及び同研修での指導内容は何らかの精神疾患を有し、その状態が良好でない元教員にとって心理的負荷の大きいものであったと認定されました。
この点について、被告らは、元教員の業務量につき、他の教員と比較して過大でないなどと主張しました。
しかし、本件では、元教員が過去に複数回精神疾患による休職を経験している上、休職明け直後であって、医師の診断書に業務量の軽減が必要と記載されていたことから、通常の教員の場合と同視することは相当でなく、さらに授業数を増加した年度において突発的な年休取得、授業の準備不足、服務上の問題行動などを頻発させており、何らかの精神疾患を疑っておかしくない状況であったといえます。
このような状況が判明した場合には、過去の経緯などを踏まえ、使用者は労働者の健康状態を把握し、心理的負担が過重にならないよう配慮すべきです。
本件の校長らは、元教員の精神疾患を知り得たにもかかわらず、当該年度及び翌年度において元教員の業務量を軽減しなかった点で過失があるといえるでしょう。
また、精神疾患であることを然るべき方法で確認していれば、元教員に対し研修命令が発令されることはなかった可能性があり、確認を怠った点でも校長らには過失があるといえるでしょう。
さらに、元教員は特別研修に抵抗感を持っており、意に染まない研修で心理的ストレスをさらに増大させたことがうかがえます。
精神疾患等の発症がうかがわれる労働者に対しては、主治医に確認するなど慎重に健康状態等を把握すべきであり、健康状態の悪化が認められる場合にはストレスの要因となっている事項を取り除くなど、特別の配慮が必要になることもあるということを示した実務上の参考となり得る裁判例といえます。
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