【労働・労災】 酒気帯び運転により懲戒免職を受けたのに、退職金全額没収は違法となつた事案
判例時報No2548号で掲載された福岡高裁令和3年10月15日判決です。
(星ヶ森)
福岡高裁は以下のとおり判断しております。
「ウ 本件非違行為のような飲酒運転について,□□市は,平成21年と平成24年に同市の職員が酒気帯び運転で検挙される事案が発生して以降,飲酒運転撲滅への取組を強化し,□□市長や総務部長が職員に対して飲酒運転を絶対に行わないよう何度も呼びかけ(認定事実(4)ア,イ),□□市懲戒処分の指針等の改正を重ね,酒酔い運転及び酒気帯び運転をした者に対する懲戒処分を重くするなどして(認定事実(5)),飲酒運転撲滅への取組を強め,その信頼回復に努めていたということができる。
そのような中,控訴人は,本件非違行為の約8か月前に,□□市の交通安全に係る業務等を分掌する防災対策室の管理職(室長,課長補佐級)となり(認定事実(1)ア,イ),積極的に飲酒運転の撲滅に取り組むべき立場にあり,実際に,自ら飲酒運転の悪質性,危険性を認識して飲酒運転をしないように遵守することを呼びかけたり,交通安全運動に参加したりしていたにもかかわらず(認定事実(1)イ,(4)ウ),当該交通安全運動期間中に,本件非違行為に及んでいる。交通安全に対して責任を負う部署の管理職であった控訴人が本件非違行為に及んだことからしても,本件非違行為に大きな問題があることは否定できない。
(3)しかし,控訴人は,□□町での勤務を開始してから,本件免職処分を受けて退職するまでの約34年間,懲戒処分を受けることなく□□町又は□□市職員としての勤務を続け(認定事実(1)ウ),その勤務状況に問題があったとは認められない。本件制限処分に関する審査請求に対する処分行政庁の裁決においても,判断の中で,控訴人の勤務状況が概ね良好であったと述べられている(前提事実(4)イ(前記補正後のもの))。
控訴人が酒気帯び運転をした距離は,715.8メートルであり,距離としては比較的短く,物損事故や人身事故を発生させておらず(認定事実(2)ウ),刑事処分も不起訴処分とされている(前提事実(3)ウ)。酒気帯び運転が交通事故を引き起こす危険性を伴う悪質な運転であることはいうまでもなく,交通事故を起こさなかったから酒気帯び運転に問題がなかったなどとは決していえないが,酒気帯び運転という本件非違行為をした控訴人に対する処分を検討する際には,交通事故を起こさなかったことなど,酒気帯び運転の態様等に係る上記事情を考慮する必要がある。
控訴人は,本件非違行為を行った当日に総務課長に電話で報告し,翌日職場に登庁後,改めて総務部長及び総務課長に報告するなど,本件非違行為後に速やかに取るべき対応をしており(認定事実(3)ア),本件聴取では反省の意を明らかにしている(認定事実(3)エ(前記補正後のもの))。
飲酒運転撲滅に向けた運動を行ってきた□□市の職員が酒気帯び運転をしたことにより,本件非違行為が公務に対する信頼を傷付けたことは間違いないが,本件非違行為が公務の遂行に及ぼす支障については,新聞報道がされ,□□市長が記者会見を開いて謝罪しており,□□市民から電話やメール等で苦情が寄せられたことは認められるものの(認定事実(3)ウ),公務の遂行に多大な影響を及ぼしたとまでは認められない。
(4)公務員に対する退職手当は,一般的に,勤続報償としての性格と,賃金の後払いや退職後の生活保障の性格を有していると解されている。
本件非違行為については,前記(2)アからウまでのとおり,酒気帯び運転自体の危険性,悪質性があるとともに,控訴人が交通安全に対して責任を負う部署の管理職であったにもかかわらず酒気帯び運転をしたことなど,本件非違行為特有の問題点があることは否定できない。しかし,前記(3)のとおり,控訴人が本件免職処分を受けて退職するまで懲戒処分を受けることなく長年勤務を続けてきたこと,本件非違行為が酒気帯び運転の中で特段に悪質性が高いとはいえないこと等の事情が認められ,これらの事情を考慮すれば,本件非違行為によって,控訴人の□□市(合併前の旧□□町を含む。)に対する長年の貢献が無になったとまではいえない。
また,上記のとおり,公務員に対する退職手当が賃金の後払い及び退職後の生活保障の性格も有していることからすれば,退職手当の支給制限処分が社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められるか否かの判断においては,処分を受ける者の不利益の程度も考慮する必要があると解される。この点を検討すると,控訴人は,本件制限処分によって,1769万1814円の退職手当の全額を受給できないこととなるのであり,控訴人が本件非違行為によって本件免職処分を受けており,控訴人は本件制限処分を受けた当時57歳であって,再就職は必ずしも容易でないと考えられることも考慮すると,退職手当を全く受け取れないことによる控訴人の生活に対する影響は大きいものと考えられる。
(5)以上を総合すると,本件条例18条1項によれば,懲戒免職処分を受けて退職した者に対し,一般の退職手当等の一部を支給しないこととする処分をすることも可能であったにもかかわらず,処分行政庁がその全部を支給しないこととする本件制限処分をしたことは,社会通念上著しく妥当性を欠くものであって,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めるのが相当である。」
第1審は、退職金全額不支給OK 第2審は、×となりましたが、第2審も、全額はもらえるわけではないよということのようです。
なお、県職員の退職金の制限を解除する場合、「●●県市町村総合事務組合 同代表者兼処分行政庁●●県市町村総合事務組合長 P」が当事者になるみたいですね😅
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