仮執行宣言付判決に基づく債権回収の方法の選択に関する弁護士の判断について、依頼者に対する債務不履行責任が否定された事例
判例タイムズNo1328号(10月1日号)で紹介された東京地裁平成22年1月27日付け判決です。
元依頼人が、Y弁護士の技能不足を理由に、損害賠償請求を行ったものです。
Xは、平成17年2月、YやH弁護士らに請負代金請求訴訟を依頼して、H弁護士が担当しました。11月に、H弁護士が出産のため、Y弁護士が担当に変わりました。12月には、X勝訴の判決が言い渡されて、相手方が控訴しました。
Y弁護士は、Xと面談の上、債権差押命令の申立を行う一方で、被告が所有していた不動産の強制競売申し立てに必要な資料を準備していたところ、被告が強制執行を停止する決定を出して、翌年の3月には不動産を第三者に譲渡しました。4月からは、Y弁護士からH弁護士に業務を引き継ぎました。
5月に譲渡の事実を知ったH弁護士は、担保金を差押え、詐害行為取消訴訟を提訴しましたが、後者はうまくいきませんでした。
そこで、Xは、Y弁護士に対して、①Xとの面談を遅滞したこと、②不動産の仮差押え等の保全処分の申立をしなかったこと、③不動産に対する強制競売の申立をしなかったことを理由に、損害賠償訴訟を提訴しました。
裁判所は、XがYに対していかなる債権回収の方法を用いるかについては特に優先順位を付すことまではせず、Y弁護士の専門的かつ合理的な選択に委ねる意図を有していたものと認定し、
本件不動産を譲渡する危険性は客観的にはさほど高いものではないこと
債権差押え命令については当時のXの意思に反するものではなかったこと
などを理由に、前訴事件における債権回収の方法に関するY弁護士の選択は、その当時の具体的な状況の下における法的措置の選択として合理的な裁量の範囲を逸脱した違法なものであったということはできないと結論付けました。
Y弁護士は、2件の事件について、着手金報酬金を受け取っておらず、H弁護士のピンチヒッターとして関与したに過ぎないようです。
本来悪いのは、名義変更をした前訴事件の被告であり、このようなケースで、依頼人から弁護士が責任を負わされるとすれば、まさに弁護士業はノーリターン・ハイリスクの職業であると思わざるをえません。
懲戒手続では、懲戒しないとされています。
Xからは、控訴されたようですが、なんとも言い難い事件です。
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