【労働・労災】 団体定期保険(従業員全員加入型のAグループ保険)に基づいて被保険者である従業員の死亡により保険金を受領した会社は、その遺族に対して、社内規定に基づく給付額を超えて上記保険金の一部を支払うべきであるとした控訴審の判断に違法があるとされた事例 最高裁第3小法廷平成18年4月11日判決
団体定期保険の相談については、特に、労災でなくなられた従業員の遺族の方から、時折に、ご相談を受けることがあります。
やはりこの種の案件で有名なのは、住友軽金属工業事件における最高裁平成18年4月11日判決です(同じ部による判決が2つあります)。
事案は以下のとおりです。
従業員3200人の東証一部上場の被告会社から死亡給付金約1000万円を受領したにとどまる従業員の遺族である原告らが、当該従業員を被保険者として生命保険会社数社との間で死亡給付金をはるかに超える約6000万円の多額の団体定期保険契約を締結し死亡保険金を受領した被告会社に対して、死亡保険金の引渡を求めたケースです。
判旨は、以下のとおりです。
① 被告会社が、被保険者である各従業員の死亡につき6000万円を超える高額の保険を掛けながら、社内規定に基づく退職金等として原告らに実際に支払われたのは各1000万円前後にとどまること、
被告会社は、生命保険各社との関係を良好に保つことを主な動機として団体定期保険を締結し、受領した配当金及び保険金を保険料の支払いに充当するということを漫然と繰り返してきたにすぎない・・・運用が従業員の福利厚生の拡充を図ることを目的とする団体定期保険の趣旨から、逸脱したものであることは明らかである。
↓ しかし
他人の生命の保険については、被保険者の同意を求めることでその適正な運用を図るこことし、保険金額に見合う被保険利益の裏付けを要求する様な規制を採用していない立法政策が採られていることにも照らすと、死亡時給付金として被告会社から遺族に対して支払われた金額が、本件各保険契約に基づく保険金の額の一部にとどまっていても、被保険者の同意があることが前提である以上、そのことから直ちに本件各保険契約の公序良俗違反をいうことは相当ではなく、本件で、他にこの公序良俗違反を基礎づけるに足りる事情は見当たらない
② 被告会社が、団体定期保険の本来の目的に照らし、保険金の全部又は一部を社内規定に基づく給付に充当すべきことを認識し、そのことを本件各生命保険会社に確約していたからといって、
このことは、社内規定に基づく給付額を超えて死亡時給付金を遺族等に支払うことを約したなどと認めるべき根拠となるものではなく、他に本件合意の成立を推認すべき事情は見当たらない。
↓むしろ
被告会社は、死亡従業員の遺族に支払うべき死亡給付金が社内規定に基づく給付額の範囲内にとどまるのは当然のことと考え、そのような取り扱いに終始していたことが明らかであり、
このような本件の事実関係の下で、被告会社が、社内規定に基づく給付額を超えて、受領した保険金の全部又は一部を遺族に支払うことを、明示的にはもとより、黙示的にも合意したと認めることはできないというべきである。
控訴審は、遺族からの請求を認めましたが、最高裁は、残念ながら、遺族からの請求を否定しました。
この最高裁判決の位置づけについては、太田剛彦判事によれば、
「本判決は、従来下級審判決が分かれていた雇用主会社が保険契約者・保険料負担者・保険金受取人、全従業員が被保険者となるAグループの団体定期保険について、被保険者の同意が個別的にとられず形式化している場合に、会社が高額の保険金を受領しながら従業員の遺族に低額の死亡給付金しか支払われなかったとしても、団体定期保険契約が公序良俗違反になるか否か、及び会社と従業員との間で会社が受領する保険金の一部を従業員の遺族に交付する黙示的合意が認められるか否かにつき、いずれも消極の判断を示したものであるが、あくまで本件の団体定期保険の事案限りのものと見るべきである」と解説されています(判例タイムズNo1245P149)。
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