【金融・企業法務】 振込依頼人と受取人との間に振込の原因となる法律関係が存在しない場合における受取人による当該振込みに係る預金の払戻請求と権利濫用(最高裁平成20年10月10日)
判例時報No2026号(2月21日号)で紹介されている平成20年10月10日付け最高裁判例(第2小法廷)です。
事案は、Xは、Y銀行に普通預金口座を開設し、Yの夫Wは、Z銀行に対して、1100万円の定期預金口座を開設していました。
X・Wの家に、泥棒が入り、Xの普通預金とWの定期預金の通帳類を盗み、この泥棒から依頼を受けたTらが、Z銀行において、Wの定期預金を解約して、その解約金を、Y銀行のX名義の普通預金口座に振り込むよう依頼し、Xの普通預金口座に解約金が入金されました(本件振込)。
Tらは、Y銀行において、X名義の普通預金口座から1100万円を払い戻しました(本件払戻)。
Xは、Y銀行に対して、本件払戻にかかる預金1100万円の払戻を求めて提訴しました。
第1審の東京地裁は、Y銀行が準占有者に対する弁済として保護されるのかという論点が中心で、Y銀行には過失があるとして、Xさんを勝たせました。
第2審では、Y銀行は、抗弁を追加しました。
すこしわかりにくいですが、以下のような抗弁です。
(1)本件振込は、「誤振込」と同様に、受取人となったXにおいて、これを振込依頼人に返還しなければならない。
← 確かに、そうだな~
(2)Xには、振込金相当額を最終的に自己のものとすべき実質的権利はない
← これもそうだな~ 元々は、Wのお金だからね。
(3)XのY銀行に対する本件振込による預金の払戻は、権利濫用である。
← えっ それは結論としてはまずいのでは?
第2審の東京高裁は、Y銀行の権利濫用の抗弁を認めました。
その理由は、以下のとおりです。
(1)本件振込に係る預金は、Xにおいて振込による利得を保持する法律上の原因を欠き、Xは、この利得により損失を受けた者へ、その利得を返還すべき
(2)Xとしては、本件振込に係る普通預金につき自己のために払戻を請求する固有の利益を有せず、これを振込者又は最終損失者へ返還すべきものとして保持し得るにとどまる
(3)Xの権利行使も、この返還義務の履行の範囲内に止まる
(4)この権利行使の方法は、特段の事情がない限り、自己への払戻請求ではなく、原状回復のための措置を執る方法によるべき
という一般論を述べて、
(5)本件払戻により、Xの利得は消滅したから、Xには、不当利得返還義務の履行のために保持し得る利得も存在しない
(6)そうすると、Xの払戻請求は、固有の利益に基づくものでもないし、また、不当利得返還義務の履行手段としてのものでもない
(7)以上から、Xは、払戻を受けるべき正当な利益を欠き、権利濫用に該当する
本件ケースにおいては、はっきりしたことはわかりませんが、Wの解約金が入金されたY名義の普通預金口座の権利者が誰かということも問題にされているようです。
これについては、平成8年4月26日付最高裁で、
振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込があったときは、振込依頼人と受取人との間に振込の原因となる法律関係が存在するか否かにかかわりなく、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が銀行に対して右金額相当の普通預金債権を取得する
と判断していることから、
平成20年最高裁判決も、
本件振込に係る金員は、本件振込により、本件普通預金の一部として上告人に帰属した
と判断しています。
とはいっても、最高裁の平成15年3月12日決定では、誤った振込があることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻を請求し、その払戻を受けた場合には、詐欺罪が成立すると判断していることから、
誤振込の場合の払戻請求は、権利濫用になる場合も当然にあるはずです。
今回の最高裁は、
(1)受取人が振込金額相当の普通預金債権を有することになる以上、その行使は、不当利得返還義務の履行手段としてのものに限定される理由はない
(2)振込依頼人と受取人との間に振込の原因となる法律関係が存在しない場合においては、「払戻しを受けることが当該振込にかかる金員を不正に取得するための行為であって、詐欺罪等の犯行の一環を成す場合など、これを認めることが著しく正義に反するような特段の事情があるときは、権利濫用にあたる」としても、受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは、権利濫用にはあたらない
と判断しました。
以上からすれば、払戻請求が権利濫用に該当しない場合には、金融機関に対して、払戻請求ができるということになります。
なお、自判せずに、再度、準占有者による弁済について審理を尽くさせるために、差し戻しをしたのは、何故でしょう? 気になりますね。
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