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【逸失利益】

2020年7月17日 (金)

【逸失利益】 定期金賠償 最高裁令和2年7月9日判決

平成30年(受)第1856号 損害賠償請求事件
令和2年7月9日 第一小法廷判決
     主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人高橋達朗ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 1 本件は,交通事故によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った被上告人が,加害車両の運転者である上告人Y1に対しては民法709条に基づき,加害車両の保有者である上告人日本ホワイトファーム株式会社に対しては自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害賠償を求めるとともに,加害車両につき上告人日本ホワイトファームとの間で対人賠償責任保険契約を締結していた保険会社である上告人損害保険ジャパン株式会社に対しては同保険契約に基づき,上告人Y1又は上告人日本ホワイトファームと被上告人との間の判決の確定を条件に,上記損害賠償の額と同額の支払を求める事案である。 後遺障害による逸失利益につき,被上告人が定期金による賠償を求めていることから,同逸失利益が定期金による賠償の対象となるか否かなどが争われている。


 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
被上告人(平成14年8月生まれ。当時4歳)は,平成19年2月3日,道路を横断していたところ,上告人Y1が運転する大型貨物自動車に衝突される交通事故(以下「本件事故」という。)に遭った。本件事故における過失割合は,上告人Y1が8割であり,被上告人側が2割である。被上告人は,本件事故により脳挫傷,びまん性軸索損傷等の傷害を負い,その後,高次脳機能障害の後遺障害(以下「本件後遺障害」という。)が残った。本件後遺障害は,自動車損害賠償保障法施行令別表第2第3級3号に該当するものであり,被上告人は,これにより労働能力を全部喪失した。被上告人は,本件において,本件後遺障害による逸失利益として,その就労可能期間の始期である18歳になる月の翌月からその終期である67歳になる月までの間に取得すべき収入額を,その間の各月に,定期金により支払うことを求めている


3 所論は,後遺障害による逸失利益は不法行為時に一定の内容のものとして発生しており,また,定期金による賠償は,賠償をすべき期間が被害者の死亡により終了する性質の債権についてのみ認められるべきであるから,同逸失利益が定期金による賠償の対象となることは否定されるのに,これを肯定した上,定期金による賠償を認める必要性及び相当性の要件を欠くにもかかわらず,本件後遺障害による逸失利益として,上記就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とせずに,同期間の終期までの間に被上告人が取得すべき収入額につき定期金による賠償を命じた原審の判断には,法令の解釈適用の誤りがある旨をいうものである。


 同一の事故により生じた同一の身体傷害を理由とする不法行為に基づく損害賠償債務は1個であり,その損害は不法行為の時に発生するものと解される(最高裁昭和43年(オ)第943号同48年4月5日第一小法廷判決・民集27巻3号419頁,最高裁昭和55年(オ)第1113号同58年9月6日第三小法廷判決・民集37巻7号901頁等参照)。したがって,被害者が事故によって身体傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働能力の全部又は一部の喪失により将来において取得すべき利益を喪失したという損害についても,不法行為の時に発生したものとして,その額を算定した上,一時金による賠償を命ずることができる。しかし,上記損害は,不法行為の時から相当な時間が経過した後に逐次現実化する性質のものであり,その額の算定は,不確実,不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ないものであるから,将来,その算定の基礎となった後遺障害の程度,賃金水準その他の事情に著しい変更が生じ,算定した損害の額と現実化した損害の額との間に大きなかい離が生ずることもあり得る。

 民法は,不法行為に基づく損害賠償の方法につき,一時金による賠償によらなければならないものとは規定しておらず(722条1項,17条参照),他方で,民訴法117条は,定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えを提起することができる旨を規定している。同条の趣旨は,口頭弁論終結前に生じているがその具体化が将来の時間的経過に依存している関係にあるような性質の損害については,実態に即した賠償を実現するために定期金による賠償が認められる場合があることを前提として,そのような賠償を命じた確定判決の基礎となった事情について,口頭弁論終結後に著しい変更が生じた場合には,事後的に上記かい離を是正し,現実化した損害の額に対応した損害賠償額とすることが公平に適うということにあると解される。
 そして,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補塡して,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,また,損害の公平な分担を図ることをその理念とするところである。このような目的及び理念に照らすと,交通事故に起因する後遺障害による逸失利益という損害につき,将来において取得すべき利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に対応する定期金の支払をさせるとともに,上記かい離が生ずる場合には民訴法117条によりその是正を図ることができるようにすることが相当と認められる場合があるというべきである。
 以上によれば,交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において,上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは,同逸失利益は,定期金による賠償の対象となるものと解される。


 また,交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について一時金による賠償を求める場合における同逸失利益の額の算定に当たっては,その後に被害者が死亡したとしても,交通事故の時点で,その死亡の原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り,同死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではないと解するのが相当である(最高裁平成5年(オ)第527号同8年4月25日第一小法廷判決・民集50巻5号1221頁,最高裁平成5年(オ)第1958号同8年5月31日第二小法廷判決・民集50巻6号1323頁参照)。上記後遺障害による逸失利益の賠償について定期金という方法による場合も,それは,交通事故の時点で発生した1個の損害賠償請求権に基づき,一時金による賠償と同一の損害を対象とするものである。そして,上記特段の事情がないのに,交通事故の被害者が事故後に死亡したことにより,賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ,他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害の塡補を受けることができなくなることは,一時金による賠償と定期金による賠償のいずれの方法によるかにかかわらず,衡平の理念に反するというべきである。したがって,上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずる場合においても,その後就労可能期間の終期より前に被害者が死亡したからといって,上記特段の事情がない限り,就労可能期間の終期が被害者の死亡時となるものではないと解すべきである。


 そうすると,上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては,交通事故の時点で,被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り,就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないと解するのが相当である。


 以上を本件についてみると,被上告人は本件後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めているところ,被上告人は,本件事故当時4歳の幼児で,高次脳機能障害という本件後遺障害のため労働能力を全部喪失したというのであり,同逸失利益は将来の長期間にわたり逐次現実化するものであるといえる。これらの事情等を総合考慮すると,本件後遺障害による逸失利益を定期金による賠償の対象とすることは,上記損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められるというべきである。また,本件後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たり,被上告人について,上記特段の事情はうかがわれない。

5 以上によれば,所論の点に関する原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 なお,裁判官小池裕の補足意見がある。

 裁判官小池裕の補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見に賛同するものであるが,補足して意見を述べておきたい。
1 事故に起因する後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命じた場合において,その後就労可能期間の終期より前に被害者が死亡したときにも就労可能期間の終期が被害者の死亡時となるものではないとすると,被害者の死亡後もその遺族等に対する定期金による賠償の支払義務が継続することになるが,この点については違和感があるという指摘もあろう。

 しかし,このような場合,被害者の死亡によってその後の期間について後遺障害等の変動可能性がなくなったことは,損害額の算定の基礎に関わる事情に著しい変更が生じたものと解することができるから,支払義務者は,民訴法117条を適用又は類推適用して,上記死亡後に,就労可能期間の終期までの期間に係る定期金による賠償について,判決の変更を求める訴えの提起時における現在価値に引き直した一時金による賠償に変更する訴えを提起するという方法も検討に値するように思われ,この方法によって,継続的な定期金による賠償の支払義務の解消を図ることが可能ではないかと考える。


 2 定期金による賠償に関する実体規定が存しないことから,どのような場合に,あるいは,どのような事情を考慮して定期金による賠償の対象となると解することができるか(相当性の判断)については,解釈に委ねられている。この点については,不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らし,定期金による賠償制度の趣旨,手続規定である判決の変更を求める訴えの提起の要件との関連性等を考慮して検討すべきものであると考えられ,定期金による賠償に伴う債権管理等の負担,損害賠償額の等価性を保つための擬制的手法である中間利息控除に関する利害を考慮要素として重視することは相当ではないように思われる。(裁判長裁判官 小池 裕 裁判官 池上政幸 裁判官 木澤克之 裁判官
山口 厚 裁判官 深山卓也)

 

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 逸失利益について定期金賠償を認めた今回の最高裁判決ですが、認めた理由として、「不法行為に基づく損害賠償請求制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とするところである。」「上記の目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となる」としています。極めて抽象的な理由付けです。最高裁のケースでは、高次脳機能障害で第3級という事案であったことからすれば、第3級程度以上の重度の後遺障害であれば、定期金による賠償の対象となるものと思われます。

  但し、どのような事故類型であれば、逸失利益についての定期金賠償が可能かは、裁判例の集積を待つしかありません。

 被害者にとって定期金賠償を求める最大の目的は、一時金賠償の場合の中間利息控除を回避するというところにあります。民法の改正前では年5%、改正後でも年3%です。定期金賠償であれば、中間利息控除を気にする必要はありません。

 また、逸失利益に限ってのことですが、就労可能期間の終期よりも前に被害者が死亡したとしても、定期金賠償をそのまま受け取ることが原則として可能です。これも、定期金賠償を求める理由の1つとなります。

 他方で、将来介護料については、従前から定期金賠償が認められることが多かったですが、将来介護料については、被害者死亡すれば定期金賠償に影響が出ることから、将来介護料が認定され得る後遺障害第1級や第2級については、判断に迷うこともあると思います。

 なお、定期金賠償ですが、長期間の支払いになるため、万が一、保険会社が倒産するようなことがあれば、これはリスクとなります。

 中間利息控除が年3%という高金利な状況ですが、将来介護料がない事案の重度の後遺障害事案のケースでは、定期金賠償を求めることも増えてくるのではないかと思います

2016年9月10日 (土)

【逸失利益】 1級1号後遺障害を残す7歳女子の逸失利益はセンサス男女計全年齢平均で基礎収入を認めた事例

 自保ジャーナルNo1972号で紹介された東京地裁平成28年2月25日判決です。

 7級女児原告の逸失利益算定について、年少者は多様な就労可能性を有することに加え、近時の男女共同参画の取組みの動向、男女間の賃金格差の推移に照らすと、現在の労働市場における男女間の賃金格差を、ただちに同原告の逸失利益の算定に反映させるのは相当でないとして、

 賃金センサス男女計学歴計全年齢平均賃金を基礎として、原告の逸失利益を算定するのが相当であると認定しました。

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2016年9月 2日 (金)

【逸失利益】 ホステスの送迎をする仕事

 交通事故民事裁判例集第48巻第4号で紹介された大阪地裁平成27年7月7日判決です。

 原告(男・症状固定時24歳・ホステス送迎)の後遺障害による逸失利益につき、

 原告の学歴(中卒)、職歴、本件事故直前の勤務状況や実収入額に照らすと、原告が、将来的に生涯を通じて賃金センサス男性学歴計全年齢平均賃金を得られる蓋然性は認めがたいが、

 同年齢の中卒男性の平均的な収入を上回る時期も存在したこと

 若手であることも考慮して、

 賃金センサス男性学歴別(中卒)全年齢平均賃金を10%上回る額を基礎収入と認め、労働能力喪失期間は症状固定時から67歳までの43年間、労働能力喪失割合を27%として、ライプニッツ方式によって算定した事例

 ちなみに、ホステスを送迎する仕事は月に10万円から15万円だったようです。

 Kimg2417                 (松山市役所)

2016年9月 1日 (木)

【逸失利益】 僧侶の場合の就労可能年数

 交通事故民事裁判例集第48巻第4号で紹介された大阪地裁平成27年7月3日判決です。

 原告(男・症状固定時41歳・僧侶)の就労可能期間について、原告の父や祖父も67歳を超えて就労したことが認められるが、

 一般的に、年齢を重ねるにつれて体力が衰え、病を患う可能性も高くなることからすれば、事故がなかったとした場合に、原告がその死亡直前まで就労する蓋然性が高いとまでは認められず、原告の就労可能期間は、一般的な就労可能期間である67歳から、最も遅い鼻唇溝瘢痕拘縮についての症状固定時を基準とした平均余命である80歳までの間2分の1に相当する73歳までの32年間とした事例

 お坊さんの就労可能年数ですが、73歳まで認めたものです。

 弁護士の場合どうなんだろうね?

 Kimg2318               (東京日本橋のバーで)

2016年5月29日 (日)

【逸失利益】 逸失利益の算定に際して、介護職員の将来の収入増加の蓋然性を否定した事例

 逸失利益については、

 遺族は、介護士であったAが本件事故の一年前に介護福祉士の国家資格を取得しており、介護職員に対する需要の高まりや、国が介護職員の処遇改善、賃金向上の諸施策を講じていることを指摘して、賃金センサスの平均賃金約524万円を基礎収入とすべきであると主張しました。

 しかし、裁判所は、Aに収入増額の蓋然性があったとはいえないとし、事故発生前年のAの年収を約338万円を基礎収入としております。

 Aは、年齢が40歳だったので仕方がないのでしょう。

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