交通事故

2009年4月 8日 (水)

【交通事故】  交通事故民事裁判例集 不法行為法研究会編 ぎょうせい

 数年前から、ぎょうせいからでている、交通事故民事裁判例集を、継続購入しています。

 今回第39巻索引・解説号(平成18年1月から12月)(発行平成21年3月27日)が送られてきたので、はじめて、目を通しましたが、分かり易いように索引されているのにはびっくり仰天しました。

 事項索引、被害者類型索引、判決月日要旨索引、裁判所別索引、後遺障害の部位・等級別索引です。

 裁判所別だと、例えば地裁だと、圧倒的に、東京地裁、大阪地裁、神戸地裁、名古屋地裁で紹介判例のほとんどを占めているような状態です。

 後ろに座談会もあって、主として、東京地裁民事27部の裁判官との意見交換会の記録も載っており参考になります。

 

 

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2009年3月29日 (日)

【交通事故】 日本交通法学会 人身賠償補償研究会

 私は、日本交通法学会にも所属しており、同会主催で人身賠償補償研究会が日弁連会館(東京)で開催されましたので、参加させていただきました。

 報告者は、東京地裁の民事27部の裁判官3名で、同部の最近の判決についてというテーマでした。

 A裁判官は、27部の状況や事件の動向のほか、①飲酒運転事故について共に飲酒した後に同乗した者の責任を肯定した事例(平成20年9月4日)、②いわゆる被害者側の過失の法理の適用が否定された事例(平成20年3月11日)について、ご解説いただきました。

 B裁判官は、人身傷害補償保険契約にかかる処理についての考察ということです。過失相殺ある場合の代位の取り扱いについては、東京地裁平成19年2月22日、名古屋地裁平成19年10月16日、大阪地裁平成19年12月10日判決で、東京・名古屋・大阪の専門部が、訴訟基準差額説を採用したことから、今後は、訴訟基準差額説が主流となったといえるでしょう。なお、このブログでも、紹介した東京高裁平成20年3月13日判決は、訴訟基準差額説に立ち、充当を、積極損害、消極損害、慰謝料の損害項目ごとにわけて行っていますが、項目ごとにわけて充当することが自明とまではいえないのではないかということのようで、充当については、この考え方をとっていないようです。労災保険のように項目ごとに法律で決めているのとは異なる、現に自賠責保険は項目ごとに充当していないではないかと述べられていました。私なんて、東京高裁の判断ですから、実務はこれで動くのかなと思いましたが、やはり、最高裁判決でもない限り、必ずしもそのようにはならないようです。

 C裁判官は、故意免責に関する2つの最高裁判例を前提に、具体的な場合にどうなるかということについて、ケースごとに解説していただきました。基準は、故意によって生じた損害の保険契約当事者の意思解釈の問題ということであり、傷害と死亡とでは、被害の重大性において質的な差異、損害賠償の範囲において大きな差異があることを、視点に、意思解釈により判断されるということのようです。

 昨年の研究会にも参加させていただきましたが、あのころは、桜満開でした。今年は、まだあまり咲いていませんでした。cherryblossom

 どうしても地方に引っ込んでいると、IT社会とはいえ、情報に疎くなります。日弁連会館を訪れる目的の1つは、書籍の購入です。地下1階に、法律書専門の本屋さんがあり、重宝しています。ただし、定価販売だし、いくら買っても、送料代はばっちりとられてしまいますが・・・明日、大量に本が事務所に届くとは思います。

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2009年2月28日 (土)

【交通事故】 原告運送会社の被用者被告が起こした単独事故での賠償につき、原告は経費削減のため一般車両保険未加入等から信義則上3分の1の範囲と認定した事案(横浜地裁平成20年9月11日)

 自保ジャーナルNo1772(2月26日)号でご紹介された事案です。

 時折、このような事案の相談ってありますね。事業主から依頼を受けて、訴訟したこともあります。

 運送会社が、単独衝突事故を発生させた元従業員に対して、その賠償を求めて、提訴した案件ですが、このような請求は、一般論として、認められるものの、最高裁昭和51年判決により、信義則上相当と認められる範囲に限定されています。

 今回の横浜地裁判例もそれにそい、①道順を間違えて一目瞭然な橋に全く気づかずわき見運転をしていたなど、被告の過失の程度は重大といいながらも、②原告は経費削減のために一般車両保険に加入していなかった事情を考慮して、賠償を求めうる範囲は、信義則上総損害額の3分の1を限度と判断しました。

 事業主の皆さん、不始末をした従業員に全額請求できるわけではありませんので、高価な車の場合には、車両保険に入ってください。 

 

 

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2009年2月13日 (金)

【交通事故】 最近の低髄液圧症候群を巡る裁判例

 交通事故判例速報No512(H21・2)で、第1審において髄液減少症が発症したことを認めた点について、控訴審で自白の撤回が許されないとされた事例が、紹介されていました(東京高裁平成20年7月31日)。※高裁積極判例①で紹介済みです。

 やはり、論者も、実質的な検討がなされないまま判断がなされたと述べておられ、先例の価値は乏しいとしかいいようがないものと思われます。 

民事判例編 

積極的判例

 (地裁判例)

 ① 横浜地裁・平成20年1月10日 自保ジャーナル第1727号(→控訴審東京高裁平成20年7月31日)

 (概要)

 ①の裁判例は、乗用車を運転して交差点を直進中、対抗右折乗用車に追突され、頭部打撲等から低髄液圧症候群を発症したとする事案です。裁判所は、被害者に、激しい起立性頭痛等があり、副作用の強いホルモン剤等服用しても改善しませんでしたところ、ブラッドパッチ療法で仕事ができるまで改善されたことなどから、原告は本件交通事故後に低髄液圧症候群に罹患したと認定、17ヶ月後に治癒したと認められた事例です。 

 消極的判例

 (地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号,交通民集第40巻第6号1527頁 ※控訴審東京高裁平成20年4月24日

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 ⑪ 東京地裁・平成20年2月28日(合議) 自保ジャーナル1727号 判例時報No2014号(控訴中)

 ⑫ 横浜地裁・平成20年1月30日 自保ジャーナル1727号

 ⑬ 神戸地裁・平成19年4月26日 自保ジャーナル1727号

 ⑭ 静岡地裁浜松支部・平成19年12月3日(裁判官・酒井正史・矢作泰幸・神原文美) 判タNo1273号

 ⑮ 広島地裁・平成20年10月30日(橋本良成・佐々木亘・西田晶吾) 自保ジャーナル1760号

 (概要)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

  ⑪の裁判例は、乗用車を運転、停車中に乗用車に追突されて、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症したと主張される29歳男子につき、頭痛訴えが事故1年4か月までに1回であり、国際頭痛学会の低髄液圧症候群からも耳鳴りの訴えが1年4か月後であり、典型的症状の起立性頭痛がなく、原告が低髄液圧症候群を発症したと認めるに足りる証拠はないとして否認されました。

 原告は、医師が、(1)原告が本件事故後により難治性の後頸部痛及び頭痛が持続し、平成15年10月23日の初診時にも、上記症状を訴え、夕方になると症状が悪化すると訴えたこと、(2)頭部造影MRIにより円蓋部での大脳の下垂及び小脳扁桃の下垂が認められたこと、(3)同年11月25日でのRI脳槽シンチグラフィーにより髄液の腰部での早期漏出が認められたことを根拠に、低髄液圧症候群であると確定診断されたことを理由に、低髄液圧症候群を主張していました。

 ⑫の裁判例は、自転車を押して歩行横断中、停車しようとした乗用車に軽く衝突されて転倒、腰部打撲等から約1年の症状固定後低髄液圧症候群を発症、12級神経障害を残したとして主張された案件です。裁判所は、発症は、2年後であり、特徴的な症状である継続的な頭痛がほとんどない他、更年期障害、心因的症状の重複で、低髄液圧症候群は本件事故との因果関係はないと否認しました。

 ⑬の裁判例では、裁判所は、7歳男子の低髄液圧症候群等は頭を打っておらず、3日後運動会参加、バットで頭部打撲等から原因不明とし事故との因果関係を否認しました。

 ⑭の裁判例では、鑑定人が、低髄液圧症候群の発症を認めていたにも拘わらず、裁判所は、(1)低髄液圧症候群につき、病態が明らかでなく、診断の際には、頭痛等の多彩な症状と、画像診断(頭部MRIによる髄液減少所見及びRI脳槽シンチグラフィー、腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見)とが重要であるとされているものの、いまだ診断方法は確立されていないという医学的知見を前提に、(2)本件において、頭部MRIにおる髄液減少所見及び腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見は認められないこと、(3)Xの症状は、低髄液圧症候群の症状に一致するものの、外傷性頸部症候群の症状とも類似しており、外傷性頸部症候群である可能性を払拭できないこと、(4)A医師とは別の医師が、Xの症状はXの低血圧に由来すると診断していることなどから、A医師の診断及び鑑定結果は採用できないとして、低髄液圧症候群の発症を認めませんでした。※1鑑定が肯定されていても、判決は否定しています。※2治療費についても、症状固定後の治療費として原則として因果関係を否定としながらも、病院が低髄液圧症候群と診断したことなどを理由に、ブラッドパッチなどの治療費を認めています。これって、加害者側保険会社は、病院に請求できるのでしょうかね。 但し、他方で、寄与度減額として3割を減じています。

 ⑮の裁判例では、(1)脳脊髄液減少症には起立性頭痛がないのがほとんどで、低髄液圧症候群と脳脊髄液減少症とは別個の病態であると認定、(2)45歳女子会社員原告が12級脳脊髄液減少症と診断された事案につき、脳脊髄液減少症のメカニズム・病態は現時点では全く不明であり、脳脊髄液減少症の病態が存在すること自体疑わしい上、慢性気管支炎、膠原病等多彩な症状で受診、本件追突事故前年まで、疾病のため、就業時間を短縮していたことに加え、診断したC医師の経験と感覚ということ以外に客観的裏付を見い出すことができない等、原告の症状は既往症が継続し又は再発したと認定、(3)通常の頚椎捻挫は3か月ないし6か月で完治するとし、原告の本件事故と因果関係ある治療期間につき、6か月で認定、既往症で5割減額を適用しています。

 本件交通事故は、平成13年4月29日、提訴は、平成16年、判決言渡期日は、平成20年10月という経緯をみると、なんとも大変な事件だなという印象を受けます。「頚椎捻挫」がらみは、紛争が法的に解決するまで相当長期間かかるケースも少なくなく、どちらの当事者の代理人になっても、非常に疲れることが多いです。

 (高裁判例)

 積極的判例 

 ① 東京高裁・平成20年7月31日 自保ジャーナルNo1756号、交通事故判例速報No512

 (概要)

 事案は、横浜地裁平成20年1月10日のとおりです。加害者側が、原審及び控訴理由書にて、「髄液減少症」が発症したことを認めてしまい、後日、自白を撤回しようとしたものの、撤回の要件を欠くとして、自白した状態で認定されてしまったなんとも理解しがたいような内容です。

 解説者も、杉田雅彦弁護士も、「本判決はX・Y双方において医学的各争点について十分に争われた事案ではないので、先例的な価値は余りない」と説明されています。 

 消極的判例

 ① 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

 ② 東京高裁平成20年4月24日 自保ジャーナルNo1756

  (概要)

 ①の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたものの、他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。 

 ②の裁判例は、「事案の概要」によれば、「当審においては、本件事故により低髄液圧症候群が発症したとの点に関する原判決の判断(消極)については敢えて争わず」と記載されていることから、控訴審で、低髄液圧症候群の発症については、十分な議論は尽くされていないようです。

刑事判例編

 消極的判例

 ① 平成20年4月21日 福岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507

 ② 平成20年5月19日 静岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507   

(概要)

 ①の裁判例は、検察官が「加療約5年以上の頭痛、頸部痛、視力低下及び集中力・記憶力低下などの障害を伴う外傷性脳脊髄液減少症の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、検察官指摘の他覚的所見については、医師の意見がわかれていること等に鑑み、他覚的所見を全て否定し、客観性に疑問が残るとして、被害者が低髄液圧症候群であることを否定しました。

 ②の裁判例は、検察官が「加療約2185日を要する脳脊髄液減少症等の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、国際頭痛分類の低髄液症候群の診断基準にも、新たに提唱された脳脊髄液減少症の診断基準にも該当しないと判示して、従来の低髄液圧症候群であることも否定しました。

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2009年2月12日 (木)

【交通事故】接触事故を起こした後に逃走した者が、相手方と2日後に締結した示談について、強迫による取消・無効を認めるとともに、相手方に対し、強迫による慰謝料と弁護士費用の支払いを認めた事案

 交通事故判例速報No512(H21・2)で紹介されている裁判例(千葉地裁松戸支部平成20年9月5日)です。

 裁判所は、

①示談の経過として事故発生から2日程度で合意、支払いがなされたこと

②被告らによる大声での非難と刑事・民事責任が重大であることの指摘

③原告の負い目と困窮につけ込んだ威迫

④被告らのつきまとい

などの事実経過から,気の弱い原告が、被告らの要求に応じない場合には、本件事故の責任を追及されて重大な刑事・民事の責任を負いかねないものと畏怖し、その結果、このような責任を負う不利益を回避するために、事実上、強制されて被告の要求を容れて示談合意をして、300万円支払ったものと認めました。

 裁判所は、被告らが、実際には本件交通事故により傷害を受けていないのに、原告から損害賠償目的で多額の金員の支払いを得るため、傷害を受けたと訴えた疑いを払拭できないと判断していますから、怪しそうな事案だったのでしょう。

 私が扱う案件のほとんどは、加害者側(損保側)なので、時折、念書を書かされたという依頼人からご相談を受けることがあります。全て支払いますなどという抽象的な表現の念書が多いですが、本件では、金額が入った上、ご丁寧に清算条項まで挿入されていたケースのようです。

 

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2009年1月18日 (日)

【交通事故】 南北を結ぶ橋上の道路において、西側道路(北行き道路)において工事中であったことから、北行き車両を通行させ、最後尾のX車が対向車線を走行し、自車線に戻り中、南行き車両を誘導していた誘導員の指示に従い、Yバイクが進行し、X車と衝突した。本件交通事故の原因は、Yバイクの急発進・急加速が原因として、Yに全過失が認められ、誘導員の指示があったとしても、Yは免責されないとした事例(横浜地裁平成20年8月15日)

 交通事故判例速報No511(H21・1)交通春秋社で紹介されている裁判例です。

 誘導員の合図・誘導が絡み合って事故が起こった場合の裁判例は、少ないですが、今回紹介されている裁判例は、以下のとおり、判断をしています。

 まず、誘導員に不適切な指示等があったが、Yは誘導員の指示に従ったとして、本件交通事故の責任を免れるかという点については、以下のとおり判断しています。

 本件において、Yは、誘導員の指示に従って進行を開始したにもかかわらず、本件事故が発生しているから、誘導員が、最後の車両が通過し終わったことを確認しないまま、発車の指示を出したことは明らかである。

 しかしながら、誘導員による交通整理や誘導は、道路交通法上の交通整理ではなく、円滑な交通のための事実行為であり、事実上、その適正な誘導が期待されるとしても、その指示や誘導に従わないことに問題はないし、原則として、これに従ったとしても、生じた交通事故につき運転者の免責が肯定されるものではない。

 したがって、誘導員に不適切な誘導等あったとしても、その誘導に従うかは運転者にゆだねられているし、運転者は安全運転の注意義務を免除されないから、免責されないとしました。

 次に、誘導員の不適切な誘導がある場合における、Yから誘導員の所属会社に対する求償請求の可否・範囲については、以下のとおり判断しました。

 仮に、誘導員の誘導や指導そのものが直接原因となって事故が惹起された場合、その過失を論じる余地がある。

 しかし、本件では、反対車線からの車両が完全に当該区間を過ぎてからスタートさせるのが望ましいものの、当時の渋滞状況から、対向車両が反対車線に完全に進入し終わるまでの予測時間を考慮して、やや早めにスタートさせても問題はない。

 従って、本件の場合、事故の原因はYの急発進・急加速にあり、誘導員の指示に多少不適切な点があったとしても、本件事故の直接の原因となっておらず、誘導員の指示は、本件事故の原因とはなっていない。

 従って、求償はできないと判断しました。

 私自身、過去にこのような案件は扱ったことはありませんが、裁判例としては少ないものの、交通誘導員による交通整理はよくみることができることから、今後、相談されることもあるのかなと思い、参考になりました。

 なお、No511は、「女子年少者の逸失利益について」がとりあげられていましたが、10歳女子の死亡事案について、男女別の平均賃金を用いた東京高裁平成13年10月16日の判決文は、男女別の平均賃金を採用する立場に立つ場合には、かなり使える論証で、参考になりました。

 ただ、年少者の死亡事案は、加害者側でのあるいは被害者側での代理人になっても、精神的に非常にしんどい思いをします。悲惨な交通事故がなくなるよう祈るばかりです。

 

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2009年1月10日 (土)

【交通事故】 Xの友人Aが、Xの運転するXの父親B所有の自動車に同乗してバーに赴き、Xと飲酒をした後、寝込んでいるXを乗せて同自動車を運転し、追突事故を起こした場合において、Bが自賠法3条にいう運行供用者に当たるとされた事例 (最高裁平成20年9月12日)

 判例時報No2021(平成21年1月1日)号(新年号)に掲載された最高裁平成20年9月12日の判決です。

 自賠法3条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定されています。

 最高裁では、運行供用者に当たるか否かが問題とされました。

 原審の名古屋高裁では、BはAの存在自体認識していない以上、Xを介してAによる本件自動車の運行に支配を及ぼすことが可能となるところ、XはAに運転を依頼する意思がなく、泥酔してAが運転していること自体認識しておらず、Aは自宅に帰るために本件自動車を運転していたにすぎないから、Xの運行支配はなく、Xを介して存在していたBの運行支配も本件事故時には失われていたというほかはないと判断し、Xの運行供用者性を否定した上で、Bの運行供用者性を否定しました。

 最高裁は、

 ①バーに赴いた際のXによる本件自動車の運行は、Bの容認するところであり、その運行の後、飲酒をしたXが友人等に同自転車の運転を委ねることも、Bの容認の範囲内にあったと見られること

 ②Xは、電車等が運行されていない時間帯に、同自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したのであり、Aが帰宅するなどのために上記キーを使用して同自動車を運転することについて、Xの容認があったといえることなど

 を判示した上、このような事情の下では、BとAと面識を有していなかったとしても、Aによる同自動車の運行はBの容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ず、Bは、同運行について、自賠法3条にいう運行供用者に当たると判断して、原判決を破棄しました。

 なお、Xが同条の「他人」に当たるかどうか等については、さらに審理を尽くさせるために、本件は原審に差し戻しされました。但し、判時の解説者は、「本件の事実関係の下では、Xの「他人」性を肯定するのは難しいように思われる」と説明されています。 

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2008年12月18日 (木)

【交通事故】 未成年者の起こした交通事故につき、監督義務違反に基づく親の不法行為責任を認めた事例

 判例タイムズNo1280(12月15日)で紹介されている裁判例です。

 自動二輪車を運転していた未成年者(当時17歳)の起こした交通事故(について、高松高等裁判所(平成18年7月11日)は、

 一般論として、親権者がその子の日常的な運転態度を把握し、個別具体的な注意事項を指摘するとともに自動二輪車を運転することに対する責任感を涵養すべき指導を継続的に行うべき注意義務を認めた上、

 未成年者が経済的社会的に監護親から独立しておらず、かつ、未成年者の監督から離脱した状態になく、監護親は日常的に未成年者と接触し世話をする立場にあったことを前提に、監護親の未成年者に対する監督可能性を肯定した

 その上で、具体的事実関係の下で、監護親には、未成年者の自動二輪車の運転が事故につながりえる危険なものであることを予見し、日常的に未成年者の運転状況を把握した上、速度違反等の交通違反をしないよう未成年者に自覚させるよう厳しく指導すべき注意義務があるにもかかわらず、監護親の監督状況は極めて不十分だったとして、監護親に民法709条に基づく損害賠償を認めました。

 

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2008年12月16日 (火)

【交通事故】 人身傷害保険の代位 

  交通事故の被害者が、人身傷害補償条項付きの自動車保険契約の被保険者であり、訴訟前に人身傷害補償保険金の支払を受けた場合に、保険会社が被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する範囲(逆に言えば、被害者がこれによって加害者に対して有する損害賠償請求権を喪失する範囲)については、最近、ホットな話題であり、このブログでも紹介しています。

 自保ジャーナルNo1762号(平成20年12月11日号)に、最高裁平成20年10月7日判決の詳細が紹介されていました。

 ① 保険者優位説

  人傷保険金は、損害額のうち加害者の過失割合に対応する損害部分に充当され、保険会社(保険者)は、支払った人傷保険金と同額の金額について被害者(被保険者)の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得し、被害者は加害者に対して、その残額の損害賠償請求権を行使し得るに過ぎないという絶対説

 ② 被保険者優位説

  人傷保険金は、損害額のうち被害者の過失割合に対応する損害部分(加害者に損害賠償請求できない部分)から優先的に充当され、人傷保険会社は、被害者の権利行使を害さない残額(過失相殺される部分を超えた、被害者が加害者に損害賠償請求できる部分に充当される額)についてのみ、損害賠償請求権を代位取得するという差額説

 ③ 按分説

 人傷保険金は、被害者と加害者の過失割合に応じて、過失相殺される部分と過失相殺されない部分に充当され、人傷保険会社は、支払った保険金のうち、加害者の過失相殺分に相応する損害賠償請求権を代位取得するという比例按分説 

 最近は、差額説が有力ですが、以下のとおり、差額の基準を巡って対立しています。

 人傷基準差額説 支払われた保険金は、人傷基準損害額のうちの被害者過失部分に相当する額にててん補され、その残部について代位する

 訴訟基準差額説 支払われた保険金は、訴訟において認定された被害者の損害額のうち被害者過失部分に相当する額にててん補され、その残部について代位する 

(地裁レベル)

① 平成16年7月7日 神戸地裁 自保1571号

    比例按分説

② 平成18年6月21日 大阪地裁 判タ1228号

    差額説(人傷基準差額説)

③ 平成19年2月22日 東京地裁 判タ1232号

    差額説(訴訟基準差額説)

④ 平成19年10月16日 名古屋地裁 自保1719号

    差額説(訴訟基準差額説)

⑤ 平成19年12月10日 大阪地裁 判タ1274号

    差額説(訴訟基準差額説)

(高裁レベル)

① 平成19年9月20日 大阪高裁 自保1762号

    比例按分説的

(最高裁レベル)

① 平成20年10月7日 最高裁 自保1762号

 (1)本件傷害保険金は、Xの父が乙保険会社との間で締結していた本件保険契約の本件傷害補償条項に基づいてXに支払われたものであることを理由に、これをもってYのXに対する損害賠償債務の履行と同視することはできないこと、(2)乙保険会社が代位取得する限度でXは本件損害賠償請求権を失うことになうので、本件傷害保険金の支払いによって直ちに本件傷害保険金の金額に相当する本件損害賠償請求権が消滅することにはならないことを理由に、乙保険会社が本件傷害保険金の金額に相当する本件損害賠償請求権を当然に代位取得するものと認めることはできないとする

 その上で、原審は、本件傷害補償条項を含む本件保険契約の具体的内容等について審理判断することなく、本件損害賠償請求権の額を算定するに当たり、Xの損害額からYの過失割合による減額をし、その残額から本件傷害保険金の金額を控除し、また、本件保険金は被害者の過失割合に対応した金額に相当する本件損害賠償請求権を人傷保険会社が代位取得する旨の合意が成立している旨主張していることが記録上明らかであったけれども、代位の合意の有無及び効力について何ら審理判断していないとして、原審に破棄差し戻しをしました。

 差し戻し審で、差額説か比例按分説による解決か、どのような基準で計算されるのか、興味津々ですね。

  

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2008年12月15日 (月)

【交通事故】 ペット動物が負傷した場合の治療費、慰謝料

 交通事故判例速報No510で紹介されている裁判例です。

 第1審は、犬の傷害(第2腰椎圧迫骨折に伴う後肢麻痺)について、時価相当額6万5000円を大きく上回る治療費76万3560円、入院雑費等10万9925円、治療のための交通費6840円の合計88万0325円のほか、慰謝料として合計80万円、弁護士費用として合計18万円を認めたようです。

 従来、ペットは、物扱いとされており、物の修理については、特段の事情がない限り、不法行為時における当該物の時価相当額を限度とする賠償しか認められてきませんでした。

 私が学生だった20年前は、大学の講義でもそのように教えられていました。

 法律と関係ない友人にそんな話をすると、「えー、かわいそう」とか言われたものです。

 しかし、最近の動物愛護の精神が強調される現在では、ペットを車と同じようにとらえることについて、批判されることが少なくないように思われます。

 第2審の名古屋高裁(平成20年9月30日)でも、金額は削られましたが、時価相当額以上の治療費を要した場合には、時価相当額を念頭に置いた上で、社会通念上相当といえる範囲での治療費が認められました。

 但し、治療費として認められた金額は、11万1500円であり、第1審の金額よりは大幅に削られましたが、犬の時価相当額である6万5000円よりは大きく上回っています。

 飼い主にとっては、実際に支出した費用のごく一部分しか補償を受けられないという結果にはなりましたが、ペットの時価相当額を上回る治療費も、一定の場合には認められる場合があるため、ペットが関係した交通事故の場合の交渉は、今回、紹介した名古屋高裁の判決も念頭におく必要があるようです。

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2008年11月25日 (火)

【交通事故】 Aが運転しBが同乗する自動二輪車とパトカーとが衝突しBが死亡した交通事故につき、Bの相続人がパトカーの運行供用者に対して、損害賠償を請求する場合において、過失相殺するに当たり、Aの過失をBの過失として考慮することができるとされた事例(最高裁平成20年7月4日)

 判例タイムズNo1279(2008年12月1日)号で紹介された最高裁判決です。

 AとBは、事故当日の午後9時ころから、友人ら約20人と共に自動二輪車3台、乗用車数台に乗って暴走行為を繰り返し、AとBも、本件自動二輪車に二人乗りをして、交代で運転しながら走行していたという事案です。

 原審(広島高裁岡山支部)は、

 本件パトカーの運行供用者であるYに自賠法3条に基づく損害賠償責任を認めた上で、Aには前方注視義務違反及び制限速度違反の過失が、Bにはヘルメット着用義務違反及びAとともに暴走行為をして、パトカーに追跡される原因を作ったという事情があることを考慮して、A、B、Cの過失割合を、6、2、2としながらも、Bとの関係では、AとCの共同不法行為であり、ABには身分上、生活関係上の一体関係はないから、事故の直接の原因となった前方注視義務違反等のAの過失を被害者側の過失として考慮することはできないと説示して、Yに対して、Bの過失である2割を控除した8割の賠償を命じました。

 最高裁は、原審の判断を破棄し、広島高裁に差し戻しをしました。

 「以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば、本件運転行為は、BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることができず、上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。

 したがって、上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては、公平の見地に照らし、本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解するべきである。」

 一般的に、

 共同不法行為は、不真正連帯債務だから、加害者は、損害全額について責任を負う。

 しかし、被害者側の過失にあたる場合には、例外的に、分割責任 という図式で、学習しています。

 原審は、AとBとの間には、身分上生活関係上の一体関係がないから、被害者側の過失否定 故に、原則に戻り、Bのみの過失だけを考慮ということになっています。

 今回の最高裁判決によれば、身分上生活関係上の一体関係がない場合でも、他の理由で、被害者側の過失を考慮できるとしたことに大きな意味を有します。

 判タの解説者によれば、

 過失相殺の局面における被害者の過失とは、民法709条の不法行為の成立要件である注意義務違反とイコールではなく、より緩やかな不注意によって損害の発生を助けたという意味も含まれ、

 本判決も、「その説示の事情に照らして、本件事故発生時点ではたまたまAが運転しておりBは同乗者にすぎなかったものの、Aの本件運転行為はそれまでの共同暴走行為の一環として評価すべきものであり、過失相殺の局面においては、Bが自らの損害発生を助けた事情として考慮されると解したものであろう。」と説明されています。

 これから事件を引き受ける際には、①被害者側の過失の他に、②共同不法行為の一環として評価されるべき事情の有無についても、検討する必要がでてきたようです。 

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2008年11月10日 (月)

【交通事故】 被害者が、裁判が始まってから3年6月以上経過して主張した損害について、時期に遅れた攻撃防御方法であるとして、当該主張を排斥した事例(高松高等裁判所平成20年4月17日、最高裁平成20年9月2日決定)

 交通事故判例速報No509(平成20年11月)(交通春秋社)で紹介されている裁判例です。

 判例速報によれば、最大の争点は、平成14年10月18日発生の交通事故の被害者が、第1審の終結日である平成19年5月までに自らの損害について主張立証をせず、その後の控訴審において、ようやく主張立証することが、民事訴訟法157条1項に定める時機に遅れた攻撃防御方法として却下できるかという事案です。

 高松高裁(平成20年4月17日)は、被害者の主張立証を却下しました。

 判例速報の解説によれば、 「民事訴訟法157条により時機に遅れた攻撃防御方法として却下されることは、実務上極めて稀であるが、本件事実経過に鑑みればやむを得ないであろう。被害者に弁護士がついていなかったとしても、この長期間専門家の意見を聞けないわけがなく、被害者の行為は、事案の解決を引き延ばし、挙げ句の果てには根拠もなくおさだまりのPTSDや低髄液圧症を持ち出して、加害者に圧力をかけたいなどの意図的なものと見ざるを得ない」とご説明されています。

 頚椎捻挫に関連する事案は、時折、解決まで相当長期間を要することがあります。

 加害者側(損保側)代理人を務めることが少なくない私の事務所でも、その対応に窮することがあります。時機に遅れた攻撃防御方法の却下については、裁判所はなかなか認めてくれない傾向にありますが、それを認めた今回の高松高裁の判断は、対応に窮する加害者側(損保側)代理人に勇気を与えてくれることでしょう。

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2008年11月 7日 (金)

【交通事故】 最近の外傷性低髄液圧症候群

 外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例については、このブログでも、よくとりあげさせていただいております。

 判例時報No2014(平成20年11月1日)号で紹介された裁判例です。

 比較的軽微の追突事故により被害者が低髄液圧症候群を発症したとは認められないとされた事例(東京地裁平成20年2月28日)です。

 今回は、東京地裁民事第27部の合議事件なので、影響力は大きいでしょうね。 

 地裁消極判例⑪の事案です。

民事判例編 

積極的判例

 (地裁判例)

 ① 横浜地裁・平成20年1月10日 自保ジャーナル第1727号(→控訴審東京高裁平成20年7月31日)

 (概要)

 ①の裁判例は、乗用車を運転して交差点を直進中、対抗右折乗用車に追突され、頭部打撲等から低髄液圧症候群を発症したとする事案です。裁判所は、被害者に、激しい起立性頭痛等があり、副作用の強いホルモン剤等服用しても改善しませんでしたところ、ブラッドパッチ療法で仕事ができるまで改善されたことなどから、原告は本件交通事故後に低髄液圧症候群に罹患したと認定、17ヶ月後に治癒したと認められた事例です。 

 消極的判例

 (地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 ※控訴審東京高裁平成20年4月24日

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 ⑪ 東京地裁・平成20年2月28日(合議) 自保ジャーナル1727号 判例時報No2014号(控訴中)

 ⑫ 横浜地裁・平成20年1月30日 自保ジャーナル1727号

 ⑬ 神戸地裁・平成19年4月26日 自保ジャーナル1727号

 ⑭ 静岡地裁浜松支部・平成19年12月3日(裁判官・酒井正史・矢作泰幸・神原文美) 判タNo1273号

 (概要)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

  ⑪の裁判例は、乗用車を運転、停車中に乗用車に追突されて、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症したと主張される29歳男子につき、頭痛訴えが事故1年4か月までに1回であり、国際頭痛学会の低髄液圧症候群からも耳鳴りの訴えが1年4か月後であり、典型的症状の起立性頭痛がなく、原告が低髄液圧症候群を発症したと認めるに足りる証拠はないとして否認されました。

 原告は、医師が、(1)原告が本件事故後により難治性の後頸部痛及び頭痛が持続し、平成15年10月23日の初診時にも、上記症状を訴え、夕方になると症状が悪化すると訴えたこと、(2)頭部造影MRIにより円蓋部での大脳の下垂及び小脳扁桃の下垂が認められたこと、(3)同年11月25日でのRI脳槽シンチグラフィーにより髄液の腰部での早期漏出が認められたことを根拠に、低髄液圧症候群であると確定診断されたことを理由に、低髄液圧症候群を主張していました。

 ⑫の裁判例は、自転車を押して歩行横断中、停車しようとした乗用車に軽く衝突されて転倒、腰部打撲等から約1年の症状固定後低髄液圧症候群を発症、12級神経障害を残したとして主張された案件です。裁判所は、発症は、2年後であり、特徴的な症状である継続的な頭痛がほとんどない他、更年期障害、心因的症状の重複で、低髄液圧症候群は本件事故との因果関係はないと否認しました。

 ⑬の裁判例では、裁判所は、7歳男子の低髄液圧症候群等は頭を打っておらず、3日後運動会参加、バットで頭部打撲等から原因不明とし事故との因果関係を否認しました。

 ⑭の裁判例では、鑑定人が、低髄液圧症候群の発症を認めていたにも拘わらず、裁判所は、(1)低髄液圧症候群につき、病態が明らかでなく、診断の際には、頭痛等の多彩な症状と、画像診断(頭部MRIによる髄液減少所見及びRI脳槽シンチグラフィー、腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見)とが重要であるとされているものの、いまだ診断方法は確立されていないという医学的知見を前提に、(2)本件において、頭部MRIにおる髄液減少所見及び腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見は認められないこと、(3)Xの症状は、低髄液圧症候群の症状に一致するものの、外傷性頸部症候群の症状とも類似しており、外傷性頸部症候群である可能性を払拭できないこと、(4)A医師とは別の医師が、Xの症状はXの低血圧に由来すると診断していることなどから、A医師の診断及び鑑定結果は採用できないとして、低髄液圧症候群の発症を認めませんでした。※1鑑定が肯定されていても、判決は否定しています。※2治療費についても、症状固定後の治療費として原則として因果関係を否定としながらも、病院が低髄液圧症候群と診断したことなどを理由に、ブラッドパッチなどの治療費を認めています。これって、加害者側保険会社は、病院に請求できるのでしょうかね。 但し、他方で、寄与度減額として3割を減じています。

 (高裁判例)

 積極的判例 

 ① 東京高裁・平成20年7月31日 自保ジャーナルNo1756号

 (概要)

 事案は、横浜地裁平成20年1月10日のとおりです。加害者側が、原審及び控訴理由書にて、「髄液減少症」が発症したことを認めてしまい、後日、自白を撤回しようとしたものの、撤回の要件を欠くとして、自白した状態で認定されてしまったなんとも理解しがたいような内容です。

 解説者も、杉田雅彦弁護士も、「本判決はX・Y双方において医学的各争点について十分に争われた事案ではないので、先例的な価値は余りない」と説明されています。 

 消極的判例

 ① 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

 ② 東京高裁平成20年4月24日 自保ジャーナルNo1756

  (概要)

 ①の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたものの、他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。 

 ②の裁判例は、「事案の概要」によれば、「当審においては、本件事故により低髄液圧症候群が発症したとの点に関する原判決の判断(消極)については敢えて争わず」と記載されていることから、控訴審で、低髄液圧症候群の発症については、十分な議論は尽くされていないようです。

刑事判例編

 消極的判例

 ① 平成20年4月21日 福岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507

 ② 平成20年5月19日 静岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507   

(概要)

 ①の裁判例は、検察官が「加療約5年以上の頭痛、頸部痛、視力低下及び集中力・記憶力低下などの障害を伴う外傷性脳脊髄液減少症の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、検察官指摘の他覚的所見については、医師の意見がわかれていること等に鑑み、他覚的所見を全て否定し、客観性に疑問が残るとして、被害者が低髄液圧症候群であることを否定しました。

 ②の裁判例は、検察官が「加療約2185日を要する脳脊髄液減少症等の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、国際頭痛分類の低髄液症候群の診断基準にも、新たに提唱された脳脊髄液減少症の診断基準にも該当しないと判示して、従来の低髄液圧症候群であることも否定しました。

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2008年10月31日 (金)

【交通事故】 最近の脳関髄液減少症を巡る裁判例

 外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例については、このブログでも、よくとりあげさせていただいております。

 自動車保険ジャーナルから、東京高裁「髄液漏訴訟」2判決が紹介されていました(自保ジャーナルNo1756号)。

 

民事判例編 

積極的判例

 (地裁判例)

 ① 横浜地裁・平成20年1月10日 自保ジャーナル第1727号(→控訴審東京高裁平成20年7月31日)

 (概要)

 ①の裁判例は、乗用車を運転して交差点を直進中、対抗右折乗用車に追突され、頭部打撲等から低髄液圧症候群を発症したとする事案です。裁判所は、被害者に、激しい起立性頭痛等があり、副作用の強いホルモン剤等服用しても改善しませんでしたところ、ブラッドパッチ療法で仕事ができるまで改善されたことなどから、原告は本件交通事故後に低髄液圧症候群に罹患したと認定、17ヶ月後に治癒したと認められた事例です。 

 消極的判例

 (地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 ※控訴審東京高裁平成20年4月24日

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 ⑪ 東京地裁・平成20年2月28日 自保ジャーナル1727号(控訴中)

 ⑫ 横浜地裁・平成20年1月30日 自保ジャーナル1727号

 ⑬ 神戸地裁・平成19年4月26日 自保ジャーナル1727号

 ⑭ 静岡地裁浜松支部・平成19年12月3日(裁判官・酒井正史・矢作泰幸・神原文美) 判タNo1273号

 (概要)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

  ⑪の裁判例は、乗用車を運転、停車中に乗用車に追突されて、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症したと主張される29歳男子につき、頭痛訴えが事故1年4か月までに1回であり、国際頭痛学会の低髄液圧症候群からも耳鳴りの訴えが1年4か月後であり、典型的症状の起立性頭痛がなく、原告が低髄液圧症候群を発症したと認めるに足りる証拠はないとして否認されました。

 原告は、医師が、(1)原告が本件事故後により難治性の後頸部痛及び頭痛が持続し、平成15年10月23日の初診時にも、上記症状を訴え、夕方になると症状が悪化すると訴えたこと、(2)頭部造影MRIにより円蓋部での大脳の下垂及び小脳扁桃の下垂が認められたこと、(3)同年11月25日でのRI脳槽シンチグラフィーにより髄液の腰部での早期漏出が認められたことを根拠に、低髄液圧症候群であると確定診断されたことを理由に、低髄液圧症候群を主張していました。

 ⑫の裁判例は、自転車を押して歩行横断中、停車しようとした乗用車に軽く衝突されて転倒、腰部打撲等から約1年の症状固定後低髄液圧症候群を発症、12級神経障害を残したとして主張された案件です。裁判所は、発症は、2年後であり、特徴的な症状である継続的な頭痛がほとんどない他、更年期障害、心因的症状の重複で、低髄液圧症候群は本件事故との因果関係はないと否認しました。

 ⑬の裁判例では、裁判所は、7歳男子の低髄液圧症候群等は頭を打っておらず、3日後運動会参加、バットで頭部打撲等から原因不明とし事故との因果関係を否認しました。

 ⑭の裁判例では、鑑定人が、低髄液圧症候群の発症を認めていたにも拘わらず、裁判所は、(1)低髄液圧症候群につき、病態が明らかでなく、診断の際には、頭痛等の多彩な症状と、画像診断(頭部MRIによる髄液減少所見及びRI脳槽シンチグラフィー、腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見)とが重要であるとされているものの、いまだ診断方法は確立されていないという医学的知見を前提に、(2)本件において、頭部MRIにおる髄液減少所見及び腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見は認められないこと、(3)Xの症状は、低髄液圧症候群の症状に一致するものの、外傷性頸部症候群の症状とも類似しており、外傷性頸部症候群である可能性を払拭できないこと、(4)A医師とは別の医師が、Xの症状はXの低血圧に由来すると診断していることなどから、A医師の診断及び鑑定結果は採用できないとして、低髄液圧症候群の発症を認めませんでした。※1鑑定が肯定されていても、判決は否定しています。※2治療費についても、症状固定後の治療費として原則として因果関係を否定としながらも、病院が低髄液圧症候群と診断したことなどを理由に、ブラッドパッチなどの治療費を認めています。これって、加害者側保険会社は、病院に請求できるのでしょうかね。 但し、他方で、寄与度減額として3割を減じています。

 (高裁判例)

 積極的判例 

 ① 東京高裁・平成20年7月31日 自保ジャーナルNo1756号

 (概要)

 事案は、横浜地裁平成20年1月10日のとおりです。加害者側が、原審及び控訴理由書にて、「髄液減少症」が発症したことを認めてしまい、後日、自白を撤回しようとしたものの、撤回の要件を欠くとして、自白した状態で認定されてしまったなんとも理解しがたいような内容です。

 解説者も、杉田雅彦弁護士も、「本判決はX・Y双方において医学的各争点について十分に争われた事案ではないので、先例的な価値は余りない」と説明されています。 

 消極的判例

 ① 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

 ② 東京高裁平成20年4月24日 自保ジャーナルNo1756

  (概要)

 ①の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたものの

 他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。

 

 ②の裁判例は、「事案の概要」によれば、「当審においては、本件事故により低髄液圧症候群が発症したとの点に関する原判決の判断(消極)については敢えて争わず」と記載されていることから、控訴審で、低髄液圧症候群の発症については、十分な議論は尽くされていないようです。

刑事判例編

 消極的判例

 ① 平成20年4月21日 福岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507

 ② 平成20年5月19日 静岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507 

  

(概要)

 ①の裁判例は、検察官が「加療約5年以上の頭痛、頸部痛、視力低下及び集中力・記憶力低下などの障害を伴う外傷性脳脊髄液減少症の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、検察官指摘の他覚的所見については、医師の意見がわかれていること等に鑑み、他覚的所見を全て否定し、客観性に疑問が残るとして、被害者が低髄液圧症候群であることを否定しました。

 ②の裁判例は、検察官が「加療約2185日を要する脳脊髄液減少症等の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、国際頭痛分類の低髄液症候群の診断基準にも、新たに提唱された脳脊髄液減少症の診断基準にも該当しないと判示して、従来の低髄液圧症候群であることも否定しました。

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2008年10月18日 (土)

【交通事故】 モンスター契約者 

 判例時報No2012(平成20年10月11日)号で紹介された東京高裁の決定です(平成20年7月1日)。

 事案は、甲さんは、損害保険会社である乙社との間で、自動車保険契約を締結していました。甲さんの長女が被保険自動車の運転中にひき起こした事故に係る保険金請求に関する交渉に関し、甲さんは、乙社の担当者の対応を不満として、同社に対し、多数回及び長時間にわたり架電をするなどし、同社において弁護士を交渉窓口とするよう通知した後も、同様に状態が続きました。

 平成19年11月20日から同20年2月22日までの期間における甲さんの乙社の複数の部門への架電は、多い日で、1日19回、長いときで1回約90分に及んでいたようです。

 そのため、乙社が甲さんを相手として、営業権を被保全権利とする仮地位仮処分として、営業妨害の禁止を求めたケースです。

 第1審は、

 営業利益の侵害が不法行為を構成することがあるとしても、損害賠償請求以外の差止請求の根拠となるものとはいえず、最終的には財産的利益にすぎない営業をなす権利は、所有権又は人格権とは性質を異にし、また、不正競争防止法3条1項、独占禁止法24条1項のような差し止めを許容する根拠もないから、営業権をもって差止請求権の法的根拠とすることはできないから、

 本件申立は、被保全権利の疎明を欠くとして、これを却下しました。

 これに対して、東京高裁は、

 保全されるべきものは、営業一般ではなく、固定資産及び流動資産の使用を前提に自然人たる従業員の労働行為によって構成される具体的な業務であるとし、このような所有権に裏付けられた財産権と個々の従業員の人格権との総体としての業務を遂行する権利を、「業務遂行権」として、法人は、この業務遂行権を被保全権利として、差し止めの根拠とすることを認めました。

 その上で、

 ①当該行為が権利行使としての相当性を超え

 ②法人の資産の本来予定された利用を著しく害し、かつ、これら従業員に受忍限度を超える困惑・不快を与え

 ③業務に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められる場合に、

 業務遂行権に対する違法な妨害行為になるとして、

 本件事案においては、この要件を充足し、保全の必要もあるとして、仮処分を認めました。

 この事案では、甲さんは、

 保険会社が顧客対応を弁護士に委任することは保険業法違反である

 契約者の同意なく無断で弁護士に委任するのはどういうことか

 弁護士とは話をしない

 乙社の担当者は嘘つきである

 対応者の上席者又は部門総責任者を出せ

 更なる上席者の氏名を教えよ

 適切に対応できる者を出せ

 他の人間が電話を代わるまで電話をかけ続ける

 と自らの主張や要求などを繰り返し述べました。

 

 いやいや、全く酷い内容です。crying

 東京高裁の決定は当然であり、第1審の判断は形式論に終始した納得できない内容であるとしかいいようがありません。

 弁護士事務所にも、これほどではありませんが、これに類するようなことがされることは時折あります。

 その都度、依頼者を相談しながら、対応していますが、今回のケースは、依頼者的な立場の方、つまり、自動車保険の契約者が相手方なので、さらに、問題を複雑にしています。

 会社にとっては、お客様なので、なかなか強い態度をとりにくいのです。

 モンスター契約者に対しては、業務妨害行為の差し止めが認められた事例であり、実務上、参考になります。

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2008年10月13日 (月)

【交通事故】 「貸主の運行供用者責任」に関する最高裁の事例判決(最判平成20年9月12日)

 交通事故判例速報No508(H20・10)(交通春秋社発行)に、紹介されている裁判例です。

 事案は、以下のとおりです。

 Aは、平成14年2月ころ、愛知県の某所にて、自動車を運転していたところ、赤信号で停止していた自動車に追突させるという事故を発生させました。

 Xは、Aの車に同乗しており、事故のために顔面に傷害を負いました。

 この自動車は、Xの父親であるBが所有しており、Bの経営する会社の仕事等に利用されていました。

 Xは、本件事故当時、某所で一人住まいをし、キャバクラに勤務していたが、仕事が休みの日には、実家に戻り、Bが経営する会社の仕事を手伝うこともあった。なお、Bは、Xが仕事を手伝う際にこの自動車を運転することは認めていました。

 運転者のAは、無免許だった。

 Yは、本件自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社です。

 平成14年2月の夜、Xは、Aを同乗して、バーを訪ね、Aと一緒に飲酒をしました。

 Aは、Xを起こして帰宅しようとしたが、Xが起きないため、カウンターの上に置かれた自動車のキーを利用して、Xをその助手席に運んだ上、自動車を運転し、Aの自宅に向かいました。

 Xは泥酔しており、Aに対して、自動車の運転を指示したことはありませんでした。

 Xは、Yに対して、Bが運行供用者として自賠法3条の規定による損害賠償責任を負担すると主張して、同法16条に基づき損害賠償額の支払を求めました。

  原審の名古屋高裁は、「XにはAに対して自動車の運転を依頼する意思がなく、Xは泥酔していた意識がなかったため、Aが本件自動車を運転するについて指示はおろか、運転していること自体認識はしていないこと、また、Aは自宅に帰るために自動車を運転していたに過ぎないことなどから、Xの自動車に対する運行支配はなかった」と判断し、Bの運行供用者性を否定しました。

 これに対して、最高裁は、

 本件の事実によれば、Xは、Bから本件自動車を運転することを認められていたところ、深夜、その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したものであるから、その運行はBの容認するところであったと解することができる

 Xによる運行の後、飲酒したXが友人等に本件自動車の運転をゆだねることも、その容認に範囲内にあったとみられてもやむをえない

 Xは、電車やバスが運行されていない時間帯に、本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したのであるから、Aが帰宅するために、あるいはXを自宅に送り届けるために、キーを使用して自動車を運転することについて、Xの容認があったというべきである

 そうすると、BとAと面識がなく、Aという人物の存在すら認識していなかったとしても、

 本件運行は、Bの容認の範囲内にあったとみられてもやむをえないというべきであり、Bは、客観的外形的に見て、本件運行について、運行供用者にあたると解するのが相当であると判断しました。

 そして、原判決を破棄して、さらに、XがBに対する関係で法3条の「他人」にあたるといえるかどうかについて審理を尽くさせるために、本件を原審に差し戻しをしました。

 あれ、多分、原審においても、「他人性」についても大きな争点になっているのではないのでしょうか?何故、最高裁は、自判しなかったのか不思議です。

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2008年10月 9日 (木)

【交通事故】 人身傷害補償保険による損害填補及び代位の範囲についての考察No2

  交通事故の被害者が、人身傷害補償条項付きの自動車保険契約の被保険者であり、訴訟前に人身傷害補償保険金の支払を受けた場合に、保険会社が被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する範囲(逆に言えば、被害者がこれによって加害者に対して有する損害賠償請求権を喪失する範囲)については、最近、ホットな話題であり、このブログでも紹介しています。

 (財)日弁連交通事故相談センター交通事故相談ニュースNo21に、考え方について、整理がされていましたので、ご紹介させていただきます。

 ① 保険者優位説

  人傷保険金は、損害額のうち加害者の過失割合に対応する損害部分に充当され、保険会社(保険者)は、支払った人傷保険金と同額の金額について被害者(被保険者)の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得し、被害者は加害者に対して、その残額の損害賠償請求権を行使し得るに過ぎないという絶対説

 ② 被保険者優位説

  人傷保険金は、損害額のうち被害者の過失割合に対応する損害部分(加害者に損害賠償請求できない部分)から優先的に充当され、人傷保険会社は、被害者の権利行使を害さない残額(過失相殺される部分を超えた、被害者が加害者に損害賠償請求できる部分に充当される額)についてのみ、損害賠償請求権を代位取得するという差額説

 ③ 按分説

 人傷保険金は、被害者と加害者の過失割合に応じて、過失相殺される部分と過失相殺されない部分に充当され、人傷保険会社は、支払った保険金のうち、加害者の過失相殺分に相応する損害賠償請求権を代位取得するという比例按分説 

 最近は、差額説が有力ですが、以下のとおり、差額の基準を巡って対立しています。

 人傷基準差額説 支払われた保険金は、人傷基準損害額のうちの被害者過失部分に相当する額にててん補され、その残部について代位する

 訴訟基準差額説 支払われた保険金は、訴訟において認定された被害者の損害額のうち被害者過失部分に相当する額にててん補され、その残部について代位する 

(地裁レベル)

① 平成18年6月21日 大阪地裁 判タ1228号

    差額説(人傷基準差額説)

② 平成19年2月22日 東京地裁 判タ1232号

    差額説(訴訟基準差額説)

③ 平成19年12月10日 大阪地裁 判タ1274号

    差額説(訴訟基準差額説)

④ 平成16年7月7日 神戸地裁 交民37巻4号

    比例按分説

(概説)

 ③の裁判例のケース

 (1)全体の損害額 

    2億3341万0887円

 (2)被害者の過失部分(25%)に相当する損害額

      5835万2721円

 (3)人傷保険金

      1530万5052円

 (4)あてはめ

  5835万2721円>1530万5052円

  なので、訴訟基準差額説からは、保険会社は代位しない。

 

 (まとめ)

 人傷保険金の請求方法については迷うところですが、(1)先に人傷保険金全部又は一部を取得した上で加害者に損害賠償金残額を請求する方法と、(2)加害者から損害賠償金を取得した後に人傷保険金を請求する方法が考えられますが、ご解説の弁護士の方は、現時点では、(1)の方が無難ではないかと説明されていますが、ケースバイケースでしょうか?

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2008年9月29日 (月)

【交通事故】 人身傷害補償保険による損害填補及び代位の範囲についての考察

 交通事故の被害者が、人身傷害補償条項付きの自動車保険契約の被保険者であり、訴訟前に人身傷害補償保険金の支払を受けた場合に、保険会社が被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する範囲(逆に言えば、被害者がこれによって加害者に対して有する損害賠償請求権を喪失する範囲)については、最近、ホットな話題であり、このブログでも紹介しています。

 判例タイムズNo1274号によれば、この点について判断された大阪地裁平成19年12月10日(確定)が紹介されていましたので、③の裁判例として紹介いたします。

 最近は、差額説が有力ですが、以下のとおり、差額の基準を巡って対立しています。

 人傷基準差額説 支払われた保険金は、人傷基準損害額のうちの被害者過失部分に相当する額にててん補され、その残部について代位する

 訴訟基準差額説 支払われた保険金は、訴訟において認定された被害者の損害額のうち被害者過失部分に相当する額にててん補され、その残部について代位する 

(地裁レベル)

① 平成18年6月21日 大阪地裁 判タ1228号

    差額説(人傷基準差額説)

② 平成19年2月22日 東京地裁 判タ1232号

    差額説(訴訟基準差額説)

③ 平成19年12月10日 大阪地裁 判タ1274号

    差額説(訴訟基準差額説)

(概説)

 ③の裁判例のケース

 (1)全体の損害額 

    2億3341万0887円

 (2)被害者の過失部分(25%)に相当する損害額

      5835万2721円

 (3)人傷保険金

      1530万5052円

 (4)あてはめ

  5835万2721円>1530万5052円

  なので、訴訟基準差額説からは、保険会社は代位しない。

  この議論が生じてから、少しずつ、人傷保険をもらっていることを抗弁として主張する加害者側代理人が増えつつあります。新しい保険商品がでますので、勉強することが増えて、困ります。

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2008年9月27日 (土)

【交通事故】 最近の外傷性低髄液圧症候群 刑事判決追加

 外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例については、このブログでも、よくとりあげさせていただいております。

 交通事故判例速報No507(H20・9)(交通春秋社)から、低髄液圧症候群が刑事裁判で問題となった事例(消極2例)が紹介されていましたので、追加させていただきます(それ故に、刑事判例編を1項目もうけました。)。 

民事判例編 

積極的判例

 (地裁判例)

 ① 横浜地裁・平成20年1月10日 自保ジャーナル第1727号(控訴中)

 (概要)

 ①の裁判例は、乗用車を運転して交差点を直進中、対抗右折乗用車に追突され、頭部打撲等から低髄液圧症候群を発症したとする事案です。裁判所は、被害者に、激しい起立性頭痛等があり、副作用の強いホルモン剤等服用しても改善しませんでしたところ、ブラッドパッチ療法で仕事ができるまで改善されたことなどから、原告は本件交通事故後に低髄液圧症候群に罹患したと認定、17ヶ月後に治癒したと認められた事例です。現在、控訴されているようです。

 

 消極的判例

 (地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 ⑪ 東京地裁・平成20年2月28日 自保ジャーナル1727号(控訴中)

 ⑫ 横浜地裁・平成20年1月30日 自保ジャーナル1727号

 ⑬ 神戸地裁・平成19年4月26日 自保ジャーナル1727号

 ⑭ 静岡地裁浜松支部・平成19年12月3日(裁判官・酒井正史・矢作泰幸・神原文美) 判タNo1273号

 (概要)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

  ⑪の裁判例は、乗用車を運転、停車中に乗用車に追突されて、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症したと主張される29歳男子につき、頭痛訴えが事故1年4か月までに1回であり、国際頭痛学会の低髄液圧症候群からも耳鳴りの訴えが1年4か月後であり、典型的症状の起立性頭痛がなく、原告が低髄液圧症候群を発症したと認めるに足りる証拠はないとして否認されました。

 原告は、医師が、(1)原告が本件事故後により難治性の後頸部痛及び頭痛が持続し、平成15年10月23日の初診時にも、上記症状を訴え、夕方になると症状が悪化すると訴えたこと、(2)頭部造影MRIにより円蓋部での大脳の下垂及び小脳扁桃の下垂が認められたこと、(3)同年11月25日でのRI脳槽シンチグラフィーにより髄液の腰部での早期漏出が認められたことを根拠に、低髄液圧症候群であると確定診断されたことを理由に、低髄液圧症候群を主張していました。

 ⑫の裁判例は、自転車を押して歩行横断中、停車しようとした乗用車に軽く衝突されて転倒、腰部打撲等から約1年の症状固定後低髄液圧症候群を発症、12級神経障害を残したとして主張された案件です。裁判所は、発症は、2年後であり、特徴的な症状である継続的な頭痛がほとんどない他、更年期障害、心因的症状の重複で、低髄液圧症候群は本件事故との因果関係はないと否認しました。

 ⑬の裁判例では、裁判所は、7歳男子の低髄液圧症候群等は頭を打っておらず、3日後運動会参加、バットで頭部打撲等から原因不明とし事故との因果関係を否認しました。

 ⑭の裁判例では、鑑定人が、低髄液圧症候群の発症を認めていたにも拘わらず、裁判所は、(1)低髄液圧症候群につき、病態が明らかでなく、診断の際には、頭痛等の多彩な症状と、画像診断(頭部MRIによる髄液減少所見及びRI脳槽シンチグラフィー、腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見)とが重要であるとされているものの、いまだ診断方法は確立されていないという医学的知見を前提に、(2)本件において、頭部MRIにおる髄液減少所見及び腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見は認められないこと、(3)Xの症状は、低髄液圧症候群の症状に一致するものの、外傷性頸部症候群の症状とも類似しており、外傷性頸部症候群である可能性を払拭できないこと、(4)A医師とは別の医師が、Xの症状はXの低血圧に由来すると診断していることなどから、A医師の診断及び鑑定結果は採用できないとして、低髄液圧症候群の発症を認めませんでした。※1鑑定が肯定されていても、判決は否定しています。※2治療費についても、症状固定後の治療費として原則として因果関係を否定としながらも、病院が低髄液圧症候群と診断したことなどを理由に、ブラッドパッチなどの治療費を認めています。これって、加害者側保険会社は、病院に請求できるのでしょうかね。 但し、他方で、寄与度減額として3割を減じています。

 (高裁判例)

 消極的判例

 ① 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

  (概要)

 ①の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたものの

 他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。

刑事判例編

 消極的判例

 ① 平成20年4月21日 福岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507

 ② 平成20年5月19日 静岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507 

  

(概要)

 ①の裁判例は、検察官が「加療約5年以上の頭痛、頸部痛、視力低下及び集中力・記憶力低下などの障害を伴う外傷性脳脊髄液減少症の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、検察官指摘の他覚的所見については、医師の意見がわかれていること等に鑑み、他覚的所見を全て否定し、客観性に疑問が残るとして、被害者が低髄液圧症候群であることを否定しました。

 ②の裁判例は、検察官が「加療約2185日を要する脳脊髄液減少症等の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、国際頭痛分類の低髄液症候群の診断基準にも、新たに提唱された脳脊髄液減少症の診断基準にも該当しないと判示して、従来の低髄液圧症候群であることも否定しました。

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2008年9月26日 (金)

【交通事故】 最近の外傷性低髄液圧症候群の裁判例 

 外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例については、このブログでも、少しとりあげさせていただいております。

 判例タイムズ1273号(平成20年9月15日)号が届き、低髄液圧症候群に関する裁判例(消極1例)が紹介されていまいたので、追加させていただきます。

 積極的判例

 (地裁判例)

 ① 横浜地裁・平成20年1月10日 自保ジャーナル第1727号(控訴中)

 (概要)

 ①の裁判例は、乗用車を運転して交差点を直進中、対抗右折乗用車に追突され、頭部打撲等から低髄液圧症候群を発症したとする事案です。裁判所は、被害者に、激しい起立性頭痛等があり、副作用の強いホルモン剤等服用しても改善しませんでしたところ、ブラッドパッチ療法で仕事ができるまで改善されたことなどから、原告は本件交通事故後に低髄液圧症候群に罹患したと認定、17ヶ月後に治癒したと認められた事例です。現在、控訴されているようです。

 

 消極的判例

 (地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 ⑪ 東京地裁・平成20年2月28日 自保ジャーナル1727号(控訴中)

 ⑫ 横浜地裁・平成20年1月30日 自保ジャーナル1727号

 ⑬ 神戸地裁・平成19年4月26日 自保ジャーナル1727号

 ⑭ 静岡地裁浜松支部・平成19年12月3日(裁判官・酒井正史・矢作泰幸・神原文美) 判タNo1273号

 (概要)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

  ⑪の裁判例は、乗用車を運転、停車中に乗用車に追突されて、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症したと主張される29歳男子につき、頭痛訴えが事故1年4か月までに1回であり、国際頭痛学会の低髄液圧症候群からも耳鳴りの訴えが1年4か月後であり、典型的症状の起立性頭痛がなく、原告が低髄液圧症候群を発症したと認めるに足りる証拠はないとして否認されました。

 原告は、医師が、(1)原告が本件事故後により難治性の後頸部痛及び頭痛が持続し、平成15年10月23日の初診時にも、上記症状を訴え、夕方になると症状が悪化すると訴えたこと、(2)頭部造影MRIにより円蓋部での大脳の下垂及び小脳扁桃の下垂が認められたこと、(3)同年11月25日でのRI脳槽シンチグラフィーにより髄液の腰部での早期漏出が認められたことを根拠に、低髄液圧症候群であると確定診断されたことを理由に、低髄液圧症候群を主張していました。

 ⑫の裁判例は、自転車を押して歩行横断中、停車しようとした乗用車に軽く衝突されて転倒、腰部打撲等から約1年の症状固定後低髄液圧症候群を発症、12級神経障害を残したとして主張された案件です。裁判所は、発症は、2年後であり、特徴的な症状である継続的な頭痛がほとんどない他、更年期障害、心因的症状の重複で、低髄液圧症候群は本件事故との因果関係はないと否認しました。

 ⑬の裁判例では、裁判所は、7歳男子の低髄液圧症候群等は頭を打っておらず、3日後運動会参加、バットで頭部打撲等から原因不明とし事故との因果関係を否認しました。

 ⑭の裁判例では、鑑定人が、低髄液圧症候群の発症を認めていたにも拘わらず、裁判所は、(1)低髄液圧症候群につき、病態が明らかでなく、診断の際には、頭痛等の多彩な症状と、画像診断(頭部MRIによる髄液減少所見及びRI脳槽シンチグラフィー、腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見)とが重要であるとされているものの、いまだ診断方法は確立されていないという医学的知見を前提に、(2)本件において、頭部MRIにおる髄液減少所見及び腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見は認められないこと、(3)Xの症状は、低髄液圧症候群の症状に一致するものの、外傷性頸部症候群の症状とも類似しており、外傷性頸部症候群である可能性を払拭できないこと、(4)A医師とは別の医師が、Xの症状はXの低血圧に由来すると診断していることなどから、A医師の診断及び鑑定結果は採用できないとして、低髄液圧症候群の発症を認めませんでした。※1鑑定が肯定されていても、判決は否定しています。※2治療費についても、症状固定後の治療費として原則として因果関係を否定としながらも、病院が低髄液圧症候群と診断したことなどを理由に、ブラッドパッチなどの治療費を認めています。これって、加害者側保険会社は、病院に請求できるのでしょうかね。 但し、他方で、寄与度減額として3割を減じています。

 (高裁判例)

 消極的判例

 ① 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

  (概要)

 ①の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたものの

 他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。

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2008年9月14日 (日)

【交通事故】 自損事故により自動車の運転者、同乗者が負傷し、自動車が破損した場合に、運転者が事故の状況について虚偽の申告をしたとして免責を認めたが、同乗者、所有者について免責を認めなかった事例(福岡高裁平成20年1月29日)

 判例時報No2009(9月11日)号で紹介されている裁判例です。

 事案は以下のとおりです。

 X1がX2所有の普通乗用車にX3を同乗させて運転中に、同車を運動公園の防護柵及び電柱に衝突させる交通事故を発生させ、同車が破損するとともに、X1、X3が負傷したため、Xらが、保険契約を締結していたYに対して、保険金を請求した事案です。

 X1とX2は夫婦、X3は夫婦の子どもという関係です。

 原審は、本件事故は、X1が故意に起こしたものであるから、Yは免責されるとして、Xらの請求を棄却していました。

 高裁は、本件事故がX1の故意により引き起こされたものと断ずることはできないことを前提に、X2とX3の保険金請求は認め、X1の請求については、不実申告をしたことを理由に保険金請求を否定しました。

 なんとも中途半端な印象を受けます。

 高裁は、X1に保険金請求に絡む詐欺の前科があるということは、再び刑事責任を問われる危険性を冒してまで、本件事故を作出するであろうかという疑問をも喚起しないではおかないのであって、この点をまともに取り上げるのはいささか躊躇されるものがあると判示しています。

 これは、いささか我々の経験則から離れているご見解のようにも思えます。

 保険会社側は、上告等の申立を行っていますが、このような中途半端な控訴審の判断を確定させるのは、今後同様の疑義事件を誘発する可能性を含み、問題を含む判断ではないかと考えます。

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 閑話休題

 昨日は、修習生K氏が事務所訪問にこられたため、久しぶりに、夜のお店(料理屋→バー→クラブ→クラブ→ラーメンや)をはしごしました。( ̄ー ̄)ニヤリ

 K氏は、すでに九州の大きな法律事務所から内定がでており、2年ほどイソ弁をして、さらに、弁護士過疎の地方の支部で、開業するようです。

 是非とも、法化社会実現のために、頑張っていただきたいものです。 

 ただ、現在の修習期間が1年であることは、勉強をするのにも、就職活動をするのにも、やはり、不十分な期間なようです。

 また、地方での就職を希望している人は、だいたい就職先が決まっているようですが、東京を希望されている人は、非常に厳しい状況にあるようです。都会にこだわると、就職先が決まらないまま、2回試験を迎える人が相当数でるのではないかとのことのようです。

 2回試験も相当する落第するのではないかという危機感も抱いております(私のころも、前年度に5人程度落第して、私たちの期は相当危機感を抱いて勉強したものです。)。

 そうはいいながらも、K氏は、実務修習を、それなりに楽しんでおられるようでした。

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2008年9月10日 (水)

【交通事故】 歩行者同士の接触事故

 厳密言えば交通事故ではありませんが、判例タイムズNo1271(8月15日)号に、交差点における91歳の女性歩行者と25歳の女性歩行者の衝突事故について、25歳女性の注意義務違反を否定した高裁の裁判例(東京高裁平成18年10月18日)が紹介されていました。

 判例タイムズの発行日からすれば、少し古い事例ですが、上告上告受理申立中のようです(結果はまだでていないのでしょうか)。

 第1審は、25歳女性の注意義務違反を認めましたが(3割過失相殺)、高裁は否定したようです。

 第1審は、

 ①道路を歩行する者は、自己の身体的能力に応じて、他の歩行者の動静を確認した上で、歩行者の進路を選択し、速度を調整するなどして他の歩行者との接触、衝突を回避すべき注意義務を認め、

 ②歩行者の中には、幼児、高齢者、視覚等の障害者など一般の成人に比べて、知覚、筋肉、骨格等の身体的能力が劣るため、歩行の速度が遅く、体のバランスを崩しやすく、あるいは、臨機応変に進路を変えることが不得手であり、ひとたび衝突、転倒すると重い傷害を負いやすいといった特質を備える者が一定割合存在していることに鑑みると、健康な成人歩行者が道路を歩行するに当たっては、自己の進路上にそのような歩行弱者が存在しないかどうかにも注意を払い、もし存在する場合には進路を譲ったり、減速、停止したりして、それらの者が万一ふらついたとしても接触、衝突しない程度の間隔を保つなどしてそれらの者との接触、衝突を回避すべき注意義務を認めました。

 控訴審は、

 Yが友人と並んで人の流れに従ってゆっくりと歩いて本件交差点の中央付近に至り、目指す店舗を探そうと首を左後方に向け歩みを止めにかかった瞬間、Yの右肩から背中、腰にかけてXが接触したとの事実認定をもとに、Yの有責性を見いだすことは困難であり、YがXを発見し、Xとの接触を回避することが可能であったという事実は認められず、Yに注意義務があったとはいえないとしました。

 解説によれば、

 歩行者同士の衝突事故について、損害賠償を認めた事例は、東京地裁平成1年3月31日、東京地裁平成4年5月29日だそうですが、いずれの事案も、加害者は小走りをしていた事案であり、本件のように通常に歩行していた事案とは異なるみたいです。

 交通事故でも、高齢者の方が被害者の案件は、処理が大変面倒なことが少なくないですね。 

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2008年8月22日 (金)

【交通事故】 暴走仲間の過失を被害者側の過失として認めた最高裁判決(最高裁平成20年7月4日)

 交通事故判例速報No506(平成20年8月)(交通春秋社)で紹介されている最高裁判例です。

 事案は、中学校時代の先輩、後輩の関係のある、AとBが、自動二輪車を交代で一方が運転し他方が後部に同乗して走行していた際に、C運転車と衝突したことにより、発生した交通事故において、同乗者BのC運転者の運行供用者に対する損害賠償額の算定にあたって、いわゆる被害者側の過失として、運転手Aの過失相当分を過失相殺することができるのかが争われた事案です。

 控訴審は、A・B・Cの過失割合は、6対2対2であるが、Aの過失をいわゆる被害者側の過失として考慮することができないので、20%だけ減額して、80%の割合による請求を認めました。

 ところが、最高裁は、Aの過失も被害者側の過失として、考慮すべきだとして、控訴審の判断を破棄しました(平成20年7月4日)。

 そうすると、単純に考えると、60%の請求になるものと思われますが、これについては、いくつか考え方がわかれてしまうようです。

 また、被害者側の過失は、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすともられるような関係のある者の過失をいうものと定義づけられていますが、AとBとの間にはそのような関係はありません

 結論としては妥当だとしても、従来の基準との整合性をどのように考えるのか、わかりずらいです。

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2008年8月 9日 (土)

【交通事故】 人身傷害補償特約の免責

 判例時報No2005(8月1日)号に紹介された下級審裁判例です。

 「仮免許」の取得者が運転する自家用軽貨物自動車の「荷台」に搭乗中に事故に遭い負傷した被害者が、当該車両を被保険自動車として締結された家庭用総合自動車保険契約に人身傷害補償条項に基づく保険金を請求した場合において、

 ①当該被害者は同条項の「被保険者の除外事由」にいう「極めて異常かつ危険な方法で搭乗中の者」に該当しない、

 ②当該被害は同条項の「保険者の免責事由」にいう「被保険者の故意又は極めて重大な過失によって生じた損害」に該当しないとして、

 当該被害者の保険金請求が認められた事例です。

 人身傷害補償条項に規定する「被保険者の除外事由」や「保険者の免責事由」の解釈適用が問題となった事案ですが、過去の裁判例では、これらの保険約款の解釈適用が特に問題となった事案はないようであるとの説明がなされています。

 「極めて異常かつ危険な方法」の判断にあたって、荷台への乗車だけではなく、荷台の状況、荷台での乗車場所、乗車人員、乗車している者の姿勢や体勢など総合的に見た上で、荷台に乗車した者として、社会通念上、通常のかつ安全な乗車方法とはいえず、通常のかつ安全な運転をしていたとしても、当該方法で乗車すれば、それを原因として乗車している者が傷害を負うなど損害を被る蓋然性が極めて高い場合に該当すると判断しました。

 結構、厳格な解釈です。

 また、「極めて重大な過失」とは、わずかの注意さえ払えば、たやすく結果を予見することができた場合であるのに、漫然とこれを見過ごしてきたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態をいうと定義つけました。

 これも、厳格な解釈です。 

 人身傷害補償特約を巡る問題については、現時点では、7月30日のブログで紹介させていただいた論点が主たるものですが、今後10年でいろんな裁判例がどんどん出てきそうです。

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2008年8月 2日 (土)

【交通事故】 平成20年度日弁連夏期研修

   徳島で日弁連・四国弁護士連合会主催の夏期研修があり、私も参加いたしました。

 今、交通賠償実務の第一線で活躍されている古笛恵子弁護士を招いての、後遺障害をめぐる交通事故訴訟上の問題点というテーマで、講演していただきました。

 高次脳機能障害、PTSD、RSD、脳脊髄液減少症などの基本的な知識の他、相談の際に間違ったアドバイスを行ってしまいかねない点についても、簡潔にご教示いただけました。

 交通賠償案件に慣れていない弁護士の場合、自賠責で後遺症が認められたとして、その等級で逸失利益を請求してくる場合がありますが、その請求が裁判所でそのまま認められるとは限りません。

 ①腸骨採取による骨盤骨変形、②脊柱変形、③嗅覚味覚障害、④脾臓摘出、⑤鎖骨変形、⑥歯牙障害、⑦腓骨の偽関節、⑧1㎝から3㎝の下肢短縮を取り上げられました。

 腸骨採取による骨盤骨変形については、12級5号(14%)に該当しますが、労働能力喪失率は、0~14%であり、0も相当数あるようです。また、認めるとしても、採骨部位痛を理由に、喪失期間も、1、2年とする考え方もあるようです。

 脊柱変形についても、6級5号と、11級7号(最近、8級追加)がありますが、特に11級の場合(20%)の裁判所の喪失率は、0~35%となっており、簡単に計算できるわけではありません。

 嗅覚味覚についても、12級と14級(5%)がありますが、裁判所の労働能力喪失率は、0~14%であり、職業との関連も重要です。

 脾臓については、平成18年3月以前は、8級(45%)とされていましたが、裁判所は、0~45%と幅が広いようです。平成18年4月1日以降は、13級11号に格下げとなりました。

 鎖骨変形についても、12級5号とされていますが、裁判所は、0~14%であり、期間も短く判断される場合があります。

 歯牙障害についても、同様です。

 腓骨の偽関節についても、平成16年6月以前は、8級とされていましたが、裁判例は、0~45%になっています。平成16年7月1日以降の事故については、12級8号に格下げです。

 1㎝から3㎝未満の下肢短縮については、13級8号(9%)とされていますが、裁判例は、0~9%であり、期間も短く設定される場合があります。測定誤差の可能性も指摘されるようです。

 外貌醜状については、男女で等級が異なりますが、逸失利益については、よく争われます。性別、年齢、職業、醜状の程度などを吟味する必要があるようです。

 なお、RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)については、これまで私自身扱ったことがなく、そのため、知識が足りないところがありましたが、今回の講演で、沿革を含めておさらいができました。平成15年の労災新基準だと、関節拘縮、骨萎縮、皮膚変化など目に見える形での所見が必要なようです。

 これまでの弁護士(特に地方の弁護士)は、広く浅く、事件を扱っていましたが、これからは、浅い知識では、弁護過誤にもつながるおそれがあり、一層の研修の必要性を感じました。

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2008年7月30日 (水)

【交通事故】 人身傷害補償保険金の東京高裁の判例(平成20年3月13日)

 判例時報No2004(平成20年7月21日)号に載っていた裁判例です。

  事案は、交通事故の被害者が先に人身傷害補償保険の保険金として、290万円(休業損害分210万円、慰謝料分80万円)の支払いを受けていたことから、加害者は、被害者がその損害賠償請求権を保険会社の保険代位(請求代位)により、290万円の限度で、喪失したと主張された事案です。

 千葉地裁八日市場支部平成19年9月19日は、被害者の総損害額を161万9033円として、加害者の過失割合である10%を乗じた16万1903円(元本)を認め、「人身傷害補償保険金は被害者が負担した保険料の対価であって損害に充当するのは相当でない」として、保険金を損害額から控除しませんでした。

 しかし、「  」内は、??? です。理屈としてはダイブ変わった判決です。

  東京高裁平成20年3月13日は、

 被害者に生じた総損害額(弁護士費用を除く)を778万0325円と認定し、これに加害者の過失割合である50%を乗じた上、

 本件人身傷害補償保険については約款の代位に関する規定に従って保険代位が生じるとし、

 その範囲については、

 「被保険者が本件人身傷害補償保険の保険金の支払を受けた後に加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起した場合において、被保険者にも過失があるとされたときは、

 ①同訴訟において認容された加害者に対する損害賠償請求権の額②支払を受けた保険金の額との合計額(①+②)、③同訴訟において認定された損害額上回る場合に限り、

 その上回る限度において、すなわち、同訴訟において認定された被保険者の過失割合に対応する損害額(③?)保険金の額(②)上回る場合に限り、

 その上回る限度において、保険会社は被保険者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得し、

 (ただし、上回るか否かの比較は、積極損害、消極損害、慰謝料の損害項目ごとに行うべきである。)、

 被保険者はその限度で加害者に対する損害賠償請求権を喪失するものというべきである。」と判示して、

 本件では、①加害者に対して認容された損害賠償額の額と②支払われた保険金の額との合計額(①+②)が、認定された損害額③を下回るから、保険金の額を過失相殺後の損害賠償請求権の額から控除することができないと判断しました。

 東京高裁の具体的なあてはめは、以下のとおりです。

 (休業損害と逸失利益)

 ③休業損害と逸失利益の認定された損害額

   506万0325円

 ①休業損害と逸失利益の認容された損害額

   253万0162円

 ②休業損害分の保険金

   210万円

  ①+② < ③

 (傷害慰謝料と後遺障害慰謝料)

 ③各慰謝料の認定された損害額

   272万円

 ①各慰謝料の認容された損害額

   136万円

 ②傷害慰謝料分の保険金

   80万円

 ①+② < ③

 本件判決のあてはめは、青地記載の部分を前提にその大小を判断しています。その青地部分と赤地部分との記載の関係が今ひとつよくわかりません。赤地部分だと、 ② > ③ ですし、青地部分だと、 ①+②>③ですしね。

 過失相殺等によって被害者(被保険者)の加害者に対する請求権の額が認定された損害額よりも小さい事案において人身傷害補償保険金が支払われた場合の保険代位の範囲は、一部保険の場合と類似した状況が生じるため、その学説に対応して、(1)絶対説、(2)比例説、(3)差額説とが対立しています。

 一部保険については、商法662条1項の解釈として、最高裁判所は、比例説をとることを明らかにしています(最判昭和62年5月29日)。

 もっとも、商法662条1項は任意規定であるから、保険約款がある場合にはそれに従うことになり、約款の代位規定は、差額説、約款の計算規定は絶対説的な表現をとっていることから、問題を一層複雑化させています。

 今回の高裁の判決は、差額説のうち、訴訟基準説を採用していますが、人傷基準説も、有力であり、混沌としています。

 最近、人身傷害補償保険を一部を使って、残りについて(残りと言っていいのかどうか問題になりますが)、加害者に対して請求する案件が増えていますが、提訴(依頼人に過失あり)にあたり、人身傷害補償保険によりてん補された部分を控除すべきかどうか、非常に悩む事例が増えました。

 昔は、保険代位することから単純に控除していたのですが、今は、提訴にあたり控除すべきかどうかを検討しなければならない時代が到来したようです。

 原審のように判断されるのであれば、ある意味、ものすごく簡単ですね。 

 人身傷害補償特約の議論は、錯綜しており、議論を十分に理解するのに手間がかかるような状況です。 

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2008年7月29日 (火)

【交通事故】 被害者の行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と改正前老人保健法41条1項により行使する上記請求権の額の合計額が、自動車損害賠償責任保険の保険金額を超える場合に、被害者は市町村に優先して損害賠償額の支払いを受けられるか(最高裁平成20年2月19日)

 判例時報No2004(7月21日)号に載った最高裁判例です。

 交通事故の被害者Aさんは、交通事故により受傷し、損害額は約338万円被りました。

 大阪市は、Aに対して、改正前老人保健法25条に基づき医療行為を行い、その費用は、206万円でした。

 Aさんは、自賠責保険会社に、自賠法16条1項に基づき保険金120万円の限度で損害賠償額の支払いを求めました。

 これに対して、自賠責会社は、Aの損害が120万円を超えるので、それぞれの請求額に応じ案分して支払うとして、全額の支払いを拒絶しました。

 考え方としては、

 被害者優先説(有力な学説)

 社会保険者優先説(説としてはないようです)

 案分説(保険実務)

 がありますが、実際には、被害者優先説と案分説とが対立しています。

 最高裁は、被害者優先説を採用したわけです(第1審、第2審も同じ)。

 その理由として、2つ挙げています。

 第1の理由は、自賠法16条1項は、被害者が自賠責保険金額の限度では確実の損害のてん補を受けられることにして、その保護を図るものであるから、被害者に自賠責保険金額を超える未てん補の損害が存在するにもかかわらず、自賠責保険金額全額の支払いを受けられないというのは、同法16条1項の趣旨に沿わないこと

 第2の理由は、老人保健法に基づく医療の給付は社会保障の性格を有する公的給付であり、市町村長において被害者の第三者に対する損害賠償請求権を取得するのは、医療に関する費用等を当該請求権によって賄うことを目的にするものではなく、市町村長が直接請求権を行使することによって、被害者の未てん補の損害に係る直接請求権行使が妨げられるのは同法41条1項の趣旨に沿わないこと

 をあげています。

 判例時報の解説者は、「従来の保険実務を改めるものである上、被害者の直接請求権と社会保険者の取得した直接請求権の調整一般について妥当し得るものであり、その影響は少なくないと考えられる」としています。

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2008年7月19日 (土)

【交通事故】 現在までの低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の裁判例

  平成20年7月17日発行の自動車保険ジャーナル(第1727号)が届きました。

 外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の裁判例(消極3例)が紹介されていましたので、追加いたします(詳細は、同ジャーナルを購読してください。)。

 最近は、外傷性低髄液圧症候群については、否定判決の傾向が強く、杉田弁護士がご指摘されるように、PTSDと同じ様な経緯をたどっているようです。

 積極的判例

 (地裁判例)

 ① 横浜地裁・平成20年1月10日 自保ジャーナル第1727号(控訴中)

 (概要)

 ①の裁判例は、乗用車を運転して交差点を直進中、対抗右折乗用車に追突され、頭部打撲等から低髄液圧症候群を発症したとする事案です。裁判所は、被害者に、激しい起立性頭痛等があり、副作用の強いホルモン剤等服用しても改善しませんでしたところ、ブラッドパッチ療法で仕事ができるまで改善されたことなどから、原告は本件交通事故後に低髄液圧症候群に罹患したと認定、17ヶ月後に治癒したと認められた事例です。現在、控訴されているようです。

 

 消極的判例

 (地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 ⑪ 東京地裁・平成20年2月28日 自保ジャーナル1727号(控訴中)

 ⑫ 横浜地裁・平成20年1月30日 自保ジャーナル1727号

 ⑬ 神戸地裁・平成19年4月26日 自保ジャーナル1727号

 ⑭ 福岡地裁・平成20年4月21日 自保ジャーナル1747号

 ⑮ 静岡地裁・平成20年5月19日 自保ジャーナル1747号

 ⑯ 福岡地裁小倉支部・平成20年2月13日 自保ジャーナル1747号

 (概要)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

  ⑪の裁判例は、乗用車を運転、停車中に乗用車に追突されて、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症したと主張される29歳男子につき、頭痛訴えが事故1年4か月までに1回であり、国際頭痛学会の低髄液圧症候群からも耳鳴りの訴えが1年4か月後であり、典型的症状の起立性頭痛がなく、原告が低髄液圧症候群を発症したと認めるに足りる証拠はないとして否認されました。

 原告は、医師が、(1)原告が本件事故後により難治性の後頸部痛及び頭痛が持続し、平成15年10月23日の初診時にも、上記症状を訴え、夕方になると症状が悪化すると訴えたこと、(2)頭部造影MRIにより円蓋部での大脳の下垂及び小脳扁桃の下垂が認められたこと、(3)同年11月25日でのRI脳槽シンチグラフィーにより髄液の腰部での早期漏出が認められたことを根拠に、低髄液圧症候群であると確定診断されたことを理由に、低髄液圧症候群を主張していました。

 ⑫の裁判例は、自転車を押して歩行横断中、停車しようとした乗用車に軽く衝突されて転倒、腰部打撲等から約1年の症状固定後低髄液圧症候群を発症、12級神経障害を残したとして主張された案件です。裁判所は、発症は、2年後であり、特徴的な症状である継続的な頭痛がほとんどない他、更年期障害、心因的症状の重複で、低髄液圧症候群は本件事故との因果関係はないと否認しました。

 ⑬の裁判例では、裁判所は、7歳男子の低髄液圧症候群等は頭を打っておらず、3日後運動会参加、バットで頭部打撲等から原因不明とし事故との因果関係を否認しました。

 ⑭の裁判例(刑事)では、起立性頭痛がない低髄液圧症候群については、検査結果等を「慎重に検討する必要がある」とし、4年前まで2年間求職、その後受診し頸椎捻挫との診断受けている等から、低髄液圧症候群が発症したとの立証がなされたと認めることはできないと判断しました。

 ⑮の裁判例(刑事)では、当初全治2週間の全身打撲の診断後、症状は徐々に悪化、不定愁訴多彩となり、インターネットで調べた病院などで低髄液圧症候群の診断を受け、ブラッドパッチ施行も効果なく検査結果からも脳脊髄液減少症と認定する明確な所見は認められず、医学界定説では低髄液圧症候群でないことは明らかであるし、仮に低髄液圧症候群に近似している不定愁訴全てが脳脊髄液圧減少症とすると区別がつかず、いきみ、咳き込みでも発症するとなると事故との因果関係立証が困難になるなど髄液漏れが生じていることが客観的に認められない症状を、髄液漏れを原因とする脳脊髄液減少症であると認めることは、その根拠として合理的な疑いが残るとして、否認しました。

 ⑯の裁判例は、玉突き追突された61歳男子が負ったとする低髄液圧症候群、脊椎髄液漏の立証責任は原告が負うところ、原告の低髄液圧症候群罹患に疑問を投じるJ医師意見書は、十分説得力のあるもので、原告はそれに対して反論を行っていないこと等から、原告が低髄液圧症候群、脊椎髄液漏の傷害を負っていると認めるのは困難であるとして、否認しました。 

 (高裁判例)

 消極的判例

 ① 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

  (概要)

 ①の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたものの

 他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。

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2008年6月21日 (土)

【交通事故】 日本賠償科学会に入会しました。

 日本賠償学会という学会があります。損害賠償に関する諸問題を医学と法学の両側面から学際的に研究し、人身傷害の認定並びに民事責任の認定の適正化に資することを目的とする学会です。

 もともと、民事法研究会の、賠償科学概説―医学と法学との融合 という単行本を、読ませていただいたときに、この学会の存在を知りました。

 私の事務所では、もともと、複数の損保会社からのご依頼が多い(加害者側だけではなく、弁護士費用特約が付与された被害者側事案も多く扱っています。)ため、交通賠償事案を扱うケースが少なくないのですが、法学の知識だけではなく医学的な知識も習得したいという気持ちが以前からあり、渡りに船と思い、日本賠償学会への入会申込をしていました。

 本日、日本賠償学会から、正式に入会許可の連絡をいただき、これからは、私も、研究会などに積極的に参加していきたいと思います。

 学会の機関誌として、「賠償科学」が定期的に送られてきます。

 交通賠償関係の学会としては、私は、他に、(2)交通法学会に入会していますが、それ以外の学会研究会としては、(3)租税訴訟法学会、(4)欠陥住宅全国ネット、(5)43条会議(多重債務者救済の弁護士・司法書士・学者の集まり)、(6)全国倒産処理弁護士ネットワーク、(7)弁護士知財ネットに参加しています。

 ただ、日々の業務におわれ、なかなか勉強が追いつくことができない状態です。

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2008年6月17日 (火)

【交通事故】 保険契約に適用される約款に基づく履行期が合意によって延期されたと認められ、保険金請求権の消滅時効の起算点がその翌日となるとされた事例(最高裁平成20年2月28日)

 判例時報2000号(6月11日号)搭載の最高裁判例です。

 この事案は、Xさんが、自家用自動車総合保険契約の契約車両が盗難にあったと主張して、保険会社であるYに対して、保険契約に基づき、車両保険金490万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案です。この事案では、消滅時効の成否、とくに、消滅時効の起算点がいつかが問題となりました。

 時系列は以下のとおりです。

 平成14年8月11日 Xさんは、警察に対して車両盗難の被害届、Yに対して保険金請求手続を行いました。

 平成14年11月5日ころ、Y代理人弁護士が、Xに対して、「本件の盗難には理解できない点があり、今後の確認作業へのXの協力を求め、調査結果が出てば保険金支払に応じるか否かについて速やかに連絡する旨記載した書面(協力依頼書)をXに送付しました。

 平成14年12月12日 Y代理人弁護士が、Xに対して、免責通知書を送付しました。

 平成16年11月26日、提訴

 Yの約款では消滅時効については以下のとおりになっていました。

 すなわち、保険金の支払時期(履行期)については、保険金請求手続をした日から30日以内に支払うと規定され、保険金請求権の消滅時効について、保険金請求から30日を経過した時の翌日、すなわち、履行期の翌日から2年を経過した場合に時効が完成する旨規定されていました。

 これを本件事案にあてはめると、保険金請求手続がされた平成14年8月11日から30日を経過した時に履行期が到来し、その翌日から消滅時効の進行が開始することとなり、そこから2年以上経過している平成16年11月26日の時点では、既に消滅時効期間が完成していることになります。

 原審の東京高裁(平成19年1月31日)は、上記を形式的に適用して、消滅時効を認め、Xさんの請求を棄却しました。

 しかし、協力依頼書の内容からすれば、この結論は形式的過ぎる印象をぬぐえません。

 最高裁(平成20年2月28日)は、免責通知書がXさんに到達した日まで履行期延期の合意を認め、起算点を批正14年12月13日ころにまでずらすことにより、請求者の救済を図りました。

 判例時報の解説者も、保険金請求権の存否が争われる場合、提訴前に本件と同様の経過をたどる事案も少なくなく、実務にも一定の影響を与えるものと考えられると記載されています。

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2008年6月 6日 (金)

【交通事故】 専門訴訟講座 交通事故訴訟 民事法研究会

 民事法研究会から、専門訴訟講座①として、「交通事故訴訟が4月23日に出版されました。

 本の構成としては、3部構成となっており、第1部が交通事故訴訟の法理、第2部が交通事故訴訟の実務、第3部が交通事故訴訟の要件事実と裁判となっています。

 しかし、論点については、かなり重複部分が多く、くどい印象を受けました。

 内容的には、平易な調子で書かれており、読みやすかったです。交通事故を扱う弁護士にとっては、基本的な書籍として、一読しておく必要は感じられました。なお、資料は、ほとんど赤い本の参考資料とかぶります。

 なお、以下、いくつか気になった点をあげておきます。民事法研究会の方が見られるようなことがあれば、検討しておいてください。

 P30の逸失利益算定方式の統一(任意保険) は、(共同提言)の誤記と思われます。

 P47では、責任設定的因果関係と責任充足的因果関係について論じられていますが、文章が難解なため、結果的にわかりにくい内容になっています。同じことが論じられていますが、P509の解説者の方がわかりやすいです。

 P139では、調停申立に民事調停法19条を引用して、申立人がその旨の通知を受けた日から2週間以内に提訴した場合には、調停時に時効中断効が認められると紹介しつつも、最高裁平成5年3月26日の調停申立てに民法151条を類推適用した裁判例を紹介しているため、民事調停法19条と民法151条との関係がわかりにくくなっています。P229の解説者は、民事調停法19条が民法151条の特別法と考える見解を紹介し、これを否定した前述の最高裁判例を紹介した書き方をしているが、この書き方の方がわかりやすいです。

 P105以下では、自賠法2条の「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」について、学説及び個々の判例を紹介しているが、まさに紹介しているだけである。P325でも同様の説明があるが、判例学説の変遷をきちんと述べているため、こちらの説明の方がわかりやすいです。

 P113では、駐停車中の自動車への事故での裁判例の紹介で、B車の駐車状態と記載されているが、B車は駐車していたのかどうか、これだけの記載ではよくわからなかったです。

 P390では、交通事故対策センターからの介護料支給についての記載がありますが、同センターについての説明が欲しかったです。

 P574では、「判決が確定すると、訴訟費用については、多くの場合、双方の代理人間で金額を確認し、支払がなされている」と記載されています。この記載を書かれた先生は、42期のベテランの先生のようなので、東京ではこのような慣行があるのかもしれません。ただ、田舎では、勝訴しても、訴訟費用を請求したことはありませんし、敗訴しても、請求されたことはありません。「多くの場合」と記載されているため、心配になりました。P679では、「訴訟費用の精算をせず、そのままにしている例もかなりあるようである」と記載されています。この記載はやめ判の先生が書かれているようです。

 P779では、①交差点の出会い頭の衝突「の」関するものは、「に」が正しいでしょう。P781では、中段付近の「や」が変な場所に入っています。

 P926の塩崎先生の昭和4年3月 函館地家裁所長は、平成の誤記でしょう。 

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2008年6月 4日 (水)

【交通事故】 レンタカーサービス会社から自動車を賃借した者が運転中に人身事故を起こした場合、同社に自賠法3条の責任が認められた事例(東京地判平成19年7月5日)

 判例時報No1999(平成20年6月1日)号に搭載されている東京地裁の裁判例です。

  事案は、太郎さんが、レンタカー会社から、車を借りて、運転していたところ、24歳の歩行者をはねて死亡させてしまった案件です。

 この事案では、レンタカー会社では、太郎は、借り受け当初から、車の燃料と発煙筒を使い、焼身自殺をする目的があったことなどを理由に、運行供用者責任を否定していました。

 東京地裁は、

 自賠法3条の運行供用者責任の有無を判断するにあたっては、車両の使用に対する支配の有無及び利益の帰属を客観的外形的に検討すれば足りる、

 使用方法、借主の運転者の過失の軽重や故意過失の別という主観的事情などによっては、貸主の運行支配ないし運行利益の有無が異なると解することに合理的な理由がないと判断しています。

 う~ん。これは、レンタカーだけではなく、友人に貸した場合にも該当するので、車は貸さないのに限ります。

 レンタカー会社にとっては、車は壊されるわ、多額の賠償を支払わされるわで、踏んだり蹴ったりですが、被害者保護のため、やむをえないのかもしれません。 

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2008年4月 2日 (水)

【交通事故】 医学書買ってきました。

 交通事故では、整形外科の知識に習熟する必要があります(とは言っても、ドクターまでの知識はいりませんが)。

 先週、上京した際に、丸の内の丸善などで、医学書を仕入れてきました。

 金原出版㈱から出ている「NEWBOOK 整形外科 高齢者の整形外科」(平成16年10月)は、高齢者の治療にあたっての問題点や対策などについてわかりやすく記載されているように思われます。「心身医学的問題」という解説は参考になりました。

 全日本病院出版界から出ている「オルソペディクス・2007年12月」号は、高齢者の頚椎症・頚髄症ーその診断と治療を、特集されていました。

 三輪書店の脊椎脊髄ジャーナル2008年4月号は、腰部脊柱管狭窄症を特集していました。交通事故では、頚椎の脊柱管狭窄が問題となることが多いです。

 腱板損傷について理解するために、全日本病院出版会の「整形外科最小侵襲う手術ジャーナルNo44」、メジカルビュー社の関節外科基礎と臨床ー特集腱板損傷の診断と治療を、各購入しました。

 また、関節可動域制限についても知識を得たいために、三輪書店の関節可動域制限(平成20年1月)を購入しました。

 専門外でわからないことだらけですが、1つずつ学んでいきたいと考えております。

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2008年3月28日 (金)

【交通事故】 現在までの外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例

 外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例については、このブログでも、少しとりあげさせていただいております。

 昨日、平成20年3月27日発行の自動車保険ジャーナル(第1727号)が届き、低髄液圧症候群に関する裁判例4例(消極3例、積極1例)が紹介されていましたので、追加させていただきます(詳しい内容は自保ジャーナルにあたって下さい。)。

 積極的判例

 (地裁判例)

 ① 横浜地裁・平成20年1月10日 自保ジャーナル第1727号(控訴中)

 (概要)

 ①の裁判例は、乗用車を運転して交差点を直進中、対抗右折乗用車に追突され、頭部打撲等から低髄液圧症候群を発症したとする事案です。裁判所は、被害者に、激しい起立性頭痛等があり、副作用の強いホルモン剤等服用しても改善しませんでしたところ、ブラッドパッチ療法で仕事ができるまで改善されたことなどから、原告は本件交通事故後に低髄液圧症候群に罹患したと認定、17ヶ月後に治癒したと認められた事例です。現在、控訴されているようです。

 

 消極的判例

 (地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 ⑪ 東京地裁・平成20年2月28日 自保ジャーナル1727号(控訴中)

 ⑫ 横浜地裁・平成20年1月30日 自保ジャーナル1727号

 ⑬ 神戸地裁・平成19年4月26日 自保ジャーナル1727号

 (概要)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

  ⑪の裁判例は、乗用車を運転、停車中に乗用車に追突されて、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症したと主張される29歳男子につき、頭痛訴えが事故1年4か月までに1回であり、国際頭痛学会の低髄液圧症候群からも耳鳴りの訴えが1年4か月後であり、典型的症状の起立性頭痛がなく、原告が低髄液圧症候群を発症したと認めるに足りる証拠はないとして否認されました。

 原告は、医師が、(1)原告が本件事故後により難治性の後頸部痛及び頭痛が持続し、平成15年10月23日の初診時にも、上記症状を訴え、夕方になると症状が悪化すると訴えたこと、(2)頭部造影MRIにより円蓋部での大脳の下垂及び小脳扁桃の下垂が認められたこと、(3)同年11月25日でのRI脳槽シンチグラフィーにより髄液の腰部での早期漏出が認められたことを根拠に、低髄液圧症候群であると確定診断されたことを理由に、低髄液圧症候群を主張していました。

 ⑫の裁判例は、自転車を押して歩行横断中、停車しようとした乗用車に軽く衝突されて転倒、腰部打撲等から約1年の症状固定後低髄液圧症候群を発症、12級神経障害を残したとして主張された案件です。裁判所は、発症は、2年後であり、特徴的な症状である継続的な頭痛がほとんどない他、更年期障害、心因的症状の重複で、低髄液圧症候群は本件事故との因果関係はないと否認しました。

 ⑬の裁判例では、裁判所は、7歳男子の低髄液圧症候群等は頭を打っておらず、3日後運動会参加、バットで頭部打撲等から原因不明とし事故との因果関係を否認しました。

 

 (高裁判例)

 消極的判例

 ① 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

  (概要)

 ①の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたものの

 他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。

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2008年3月26日 (水)

【交通事故】 後縦靱帯骨化症

 最高裁の、いわゆる後縦靱帯骨化症判決(平成8年10月29日)及びいわゆる首長事件判決(平成8年10月29日)からは、身体的特徴にとどまらず、「疾患」といえる場合には、斟酌の対象となる素因というべき基準が導かれています。

 後縦靱帯骨化症とは、頸椎椎体、頸間板の後方にあり、脊柱管の前壁をなす後縦靱帯が、肥厚、骨化して、脊髄を緩徐に圧迫して、脊髄症状を引き起こす疾患です。

 有病推定率は、人口10万対6.33人であり、厚労省指定の難治性疾患の1つです。

 前述の最高裁は、後縦靱帯骨化症を疾患として扱っており、①加害行為前に疾患に伴う症状が発現していたかどうか、②疾患が難病であるかどうか、③疾患に罹患するにつき被害者の責めに帰すべき事由があるかどうか、④加害行為により被害者が被った衝撃の強弱、⑤損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者の多寡等の事情によって左右されるものではないと判示して、

 被害者の罹患していた疾患が被害者の治療の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与していることが明白であるから、素因減額されるべきだと判示しました。

 「ちょっと酷いんじゃない」cryingという気がしますが、最高裁の判例なので、どうしようもありません。

 但し、その後の下級審判例の中には、後縦靱帯骨化症という理由だけでは、素因減額を認めなかったものもあるようなので、被害者側の弁護士は、平成8年最高裁以降の素因減額を認めなかった裁判例を集めて、反論していく必要があると思います。

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2008年3月15日 (土)

【交通事故】 車両盗難された場合の保険金請求における立証責任

 民事法研究会から、「保険被害救済ガイドブック」が出版されました。

 損害保険・生命保険に関連するトラブルの実務家向けの入門的なテキストです。

 車両保険金請求事件については、近時、最高裁判例がいくつか出されていますが、Q12では、非常にうまく整理して書かれています。

 ①車両の水没が保険事故に該当するとして本件条項に基づいて車両保険金の支払いを請求する者は、事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張立証すべき責任を負わないというべきである(最高裁平成18年6月1日判決

 ②車両の表面に傷つけられたことが保険事故に該当するとして本件条項に基づいて車両保険金の支払いを請求する者は、事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張立証すべき責任を負わないというべきである(最高裁平成18年6月6日判決

 この①及び②の案件については、自家用自動車総合保険(SAP)の車両保険約款が規定されていた。すなわち、支払事由として、「衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、こう水、高潮その他偶然な事故によって被保険自動車に生じた損害」と規定されており、「保険金を支払わない場合」としては、保険契約者らの故意によって生じた損害などをあげています。

 水没事案や損傷事案以外の、例えば、盗難事案についても、故意の立証責任は、保険会社側にあるのでしょうか?

 SAPの場合でも、盗難事例の場合には、立証責任は、保険会社にはないとする見解

 或いは、盗難分離型約款の場合には、立証責任は、保険会社にはないとする見解

 が一応考えられます。

 しかし、最高裁平成19年4月17日は、盗難分離型約款の場合、車両保険金の支払いを請求する者は、

 被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったという外形的な事実を主張立証すれば足り、

 被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張立証すべき責任を負わないとしました。

 盗難分離型約款の場合にもSAP同様に盗難を含んだオールリスク車両保険であると解釈したわけです。

 そして、最高裁平成19年4月23日は、盗難の外形的な事実として、被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと、及び、被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったことを保険金請求者が主張立証しなければならないと判断しました。

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2008年3月14日 (金)

【交通事故】 中央分離帯への衝突死は飲酒検査はないが、飲酒による運転機能低下と外部要因のない衝突等から酒酔い免責を許容した(名古屋高裁平成20年2月6日)

 自保ジャーナルNo1725(3月6日)号搭載の裁判例です。

 28歳男子会社員のAさんが、平成16年10月2日午後11時ころ、自己の送別会に乗用車を運転して参加して、飲酒後愛知県下の片側2車線道路の中央分離帯に衝突して死亡したため、両親が、自損事故傷害保険金を求めて、保険会社を相手に提訴しました。

 保険約款は、酒に酔って正常な運転ができないおそれのある状態で自動車を運転した事故を免責としています。

 ただ、酒に酔って正常な運転ができないおそれのある状態とは、単なる飲酒や酒気帯びではなく、酒酔い運転までの程度に達していることが必要とされています。

 しかし、酒酔い運転までの証明が難しい場合が多く、私も保険会社から同種の案件の依頼を受けたことがありますが、裁判の結果、残念ながら、有責とされてしまうことが少なくありません。

 特に、死亡事案はアルコール検査を行われないことも多く、なおさらです。

 今回の名古屋高裁は、少量の飲酒で運転機能は低下すること、外部的要因が他になく、ブレーキ痕もないことから、1審判決を取消、無責と判断しました。

 体内アルコール保有値等が必要であるとすることは相当でないと判断し、この種の酒酔い運転を巡る保険金請求事件について、一定の配慮をしたものとして、評価できそうです。

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2008年3月 4日 (火)

【交通事故】 現在までの外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例

 本日、交通事故民事裁判例集第40巻第1号(ぎょうせい)が届けられたので、その中で、外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例(⑪)(なお、以前のブログでも解説しています。)について、ご紹介いたします。

(否定した裁判例)

(地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 (高裁判例)

 ⑪ 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

 (解説)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明、(3)髄液漏出を示す画像所見のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であることを満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

 次に、PTSDについても、PTSDが後遺障害として認定されるためには、①死に至るほどの体験をしたこと、②外傷的な出来事の再体験、③外傷と関連した刺激の持続的回避、④覚醒亢進症状などが認められる必要があるところ、原告がこれらの診断基準を満たしていると認めるに足りる証拠はなく、PTSDの後遺障害が残存しているとは認められないと判断しました。

 ⑪の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたが、

 他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。

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2008年2月25日 (月)

【交通事故】 夜間高速道路において自動車を運転中に自損事故を起こし車外に避難した運転者が後続車にれき過されて死亡したことが自家用自動車保険契約普通保険約款に搭乗者傷害条項における死亡保険金の支払事由に該当するとされた事例(最高裁平成19年5月29日)

 判例時報No1989(2月21日)号搭載の事案です。

 事案は、以下のとおりです。

 太郎さんは、夜間高速道路において自動車を運転中、同車を中央分離帯のガードレールに衝突させるなどし、その結果、同車は、破損して走行不能になり、走行車線と追突車線とにまたがった状態で停止するという自損事故を起こしました。

 太郎さんは、自損事故を起こした後、すぐに車から降りて、避難するために、小走りで走行車線を横切って道路左側の路肩付近に移動しました。

 しかし、不幸なことに、その直後に、事故現場を通過した後続の大型貨物自動車に接触して転倒し、さらに、同車の後方から走行してきた大型貨物自動車によりれき過されて死亡しました。

 そこで、太郎さんの相続人が、自家用自動車保険契約普通保険約款の搭乗者傷害条項に基づく死亡保険金の支払いを求めました。

 ※搭乗者傷害条項

  被保険自動車の正規の乗用装置等に搭乗中の者が、被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害を被り、その直接の結果として、死亡したことが死亡保険金の支払事由とされています。

 分節すると、①被保険自動車に搭乗中の者が、②運行に起因する事故により、③身体に傷害を被り、④その直接の結果として死亡したことを要すると規定しています。

 本件事案においては、結果として、原審は、太郎さんの遺族の請求を退け、最高裁は、遺族の請求を認めています。

 それでは、原審と最高裁はどこが違ったのでしょうか?

 ③の解釈適用で結論がわかれたようです。

 すなわち、原審は、文字通り、傷害は、被保険自動車内で生じた傷害をいうという前提に立ち、本件ではそのような傷害は認定できないとしました。

 最高裁は、傷害は、本件自損事故との相当因果関係のある傷害であれば被保険自動車内で生じた傷害に限らないとし、かつ、本件事情のもとでは、相当因果関係もあるとしたわけです。

 判時の解説者によれば、原審の考え方の方を、従前から実務上とられていた考え方と紹介し、それ故に、実務上参考になるものとされています。

 なお、判時No1989には、「交通事故の被害者の自賠法72条に基づく損害のてん補請求において、被害者の労災保険法に基づく障害年金のうち、既に支給を受けた分及び支給の確定した分について控除すべきであるが、支給が確定していない分については控除することは要しないとされた事例」(東京地裁平成19年7月26日)も紹介されています。

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2008年2月20日 (水)

【交通事故】 正確には、火災保険の例ですが・・・ 東京高裁平成19年2月27日

 判例タイムズNo1257(2月15日)号に搭載された高裁の裁判例です。

 別件裁判の際に、調査会社の作成した報告書を、裁判所に提出したことが、提出された側の名誉を毀損するのかということが争点でした。

 調査報告書には、①関係者が固定資産税を滞納していること、②オービスに引っかかり、他の人に違反したことにしてくれるよう依頼したこと、③脱税で捕まり追徴金を支払ったという話があることが記載されていました。

 第1審は、①では原告自身の名誉が毀損されたわけではないこと、②は原告から同意を得て得た情報であることから不法行為にならない、③については原告の同意がないとして名誉毀損に該当し、慰謝料30万円を被告らに支払うよう命じました。

 被告らが不服として控訴しました。

 第2審(確定)は、原告の請求を棄却しました。

 理由は以下のとおりです。

 本件調査報告書が裁判所に提出されたが、これらに接するのは、人数が限られているし、また、証拠の信用性については批判的に評価することを職業的な習慣とするものであることから、社会といえるだけの一定の広がりを有する対象に開示されたということができないとして、名誉毀損を否定しました。

 解説によれば、「信用調査機関、興信所等の作成した報告書により名誉を毀損されたとする損害賠償請求が認められることは少なくない」と記載されています。無用なトラブルを回避するためにも、気をつけないといけませんね。

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2008年2月14日 (木)

【交通事故】交通事故により醜状瘢痕7級12号、高次脳機能障害5級2号の後遺障害が残った女子小学生の逸失利益について、労働能力喪失率を90%とし、賃金センサス学歴計の全労働者・全年齢の平均賃金を基礎として算定された事例(大阪高裁平成19年4月26日)

 判例時報No1988(2月11日)号に搭載されていた事案です。

 高次脳機能障害5級、醜状瘢痕7級、併合等級3級の後遺障害を負った小学生(女性)の事案です。

 逸失利益の計算において、5級の場合には、労働能力喪失率は、79%ですが、醜状障害7級を考慮して、90%の喪失率を認めています(被害者100%主張)。

 訴訟が係属していた当時は、被害者も、既に京都の私立大学に修学しており、単独で、神戸から京都まで通学していたようです。

 また、基礎となる収入ですが、女子の平均賃金ではなく、全労働者の全年齢平均賃金を認めました。

 学生の逸失利益については、男女別全年齢平均賃金を基礎とする場合が多いようですが、仮に女性ということであれば、逸失利益の金額が少なくなるため、全年齢平均賃金を採用したようです。

 本件事案については、担当裁判官も代理人も面識がある方なので、興味深く拝見させていただきました。 

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2008年2月12日 (火)

【交通事故】交通事故によりセンター試験を受験できなかった学生が、浪人生活を余儀なくされたとして、損害賠償請求を行った事案(仙台地裁平成19年9月26日)

 交通事故判例速報No500(平成20年2月)に紹介されていた裁判例です。

 本件では交通事故により、センター試験を受験できず、そのため、希望していた大学に入れず浪人生活をせざるをえず、就職が1年遅れたことに対する休業損害を請求した事案のようです。

 裁判所は、被害者が志望校に強い進学希望を有し、翌年、翌々年と志望校以外の大学に合格しながら進学しなかったという事実経過を重視して、就職が1年遅れたことと事故との因果関係を否定しました。

 裁判例をみる限り、岡山地裁勝山支部平成元年8月16日判決のように、新卒大学労働者平均賃金を基礎に1年間の勤労収入を損害として認めた事案があるようですが、立証の問題として考え得た場合、受験という性質上、仮定の事情を前提とするため、なかなか難しい事案のようです。

 休業損害は認められませんでしたが、センター試験を受けられなかったということを慰謝料の増額要素として斟酌しているようです。

 ところで、交通事故判例速報も、2月号で、500号になるのですね。昭和41年6月に創刊された歴史ある判例情報誌なのですね。次回から、横書きになるみたいです。 happy01

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2008年2月 4日 (月)

【交通事故】自動車総合保険契約の人身傷害補償特約が、自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により被保険者が身体に傷害を被ることを保険金の支払事由と定め、被保険者の疾病によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨の規定を置いていない場合に、保険金の支払を請求する者が主張立証すべき事項(最高裁平成19年10月19日)

 判例タイムズ1255(2月1日)号搭載の最高裁判例です(以前のブログでも紹介しています。)。

 この最高裁判例は、損保会社に対して与える影響は大きいものがあり、今後は、人身傷害補償特約の約款の改正も必要になるものと思われます。

 この判例は、自動車の運行に起因する事故等が被保険者の疾病によって生じたときであっても、保険者は保険金支払い義務をおい、保険金の支払いを請求する者は、上記事故等と被保険者がその身体に被った傷害との間に相当因果関係があることを主張立証すれば足りると判断しています。

 この判断だと、疾病により生じた身体の傷害は保険金支払いの対象としないという傷害保険の基本的なスタンスとは相容れないとの疑問が生じますが、最高裁は、本件特約によれば、運行事故が被保険者の過失によって生じた場合であっても、その過失が故意に準ずる極めて重大な過失でない限り、保険金が支払われることとされていることから、運行事故が被保険者の疾病によって生じた場合であっても、保険金を支払うことをされていると説明しています。

 最近、人身傷害補償特約についての相談が少しずつ増えており、同特約については、十分に勉強していく必要が生じてきています。

 なお、今回の判例の事案は、愛媛で生じたケースであり、非常に興味を引きました。

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2008年2月 2日 (土)

【交通事故】高速道路料金所手前でETCレーンに入るか否かを迷って停止寸前で追突された乗用車の過失を、30%と認めた事例(東京地裁平成18年8月9日)

 自保ジャーナルNO1720(1月31日)号搭載の事案です。

 高速道路を休日運転することがありますが、私の場合でも、一般レーンとETCレーン進入するのに迷う場合があります。

 今回の裁判例も、そのような場合の1事例です。

 事案は、以下のとおりです。

 高速道路料金所「十数メートルないし数十メートル後方で」ETCレーンに入るか否か迷って「停止寸前のゆっくりした速度で」、右、左と進路変更していた原告車に、クラクションをならしながら、被告車が追突したと認定し、

 高速道路料金所手前、渋滞していない地点での追突態様を考慮、「原告には事故回避措置をとらなかった」過失があるとして、原告に、30%の過失相殺を適用しました。

 追突事故であるため、被告車の過失が大きくなったみたいです。

 ところで、休憩の度に、ETCカードを器械から取り外しますね。休憩した後、再度、ETCカードを挿入して、出口ゲートに向かうわけですが、休憩の時に、ETCカードを再挿入するのを失念して、ETCレーンのゲートが開かず、事故が起きる場合もあるようです。(>_<) みなさん、気をつけて運転しましょう。

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2008年1月30日 (水)

【交通事故】Q&A新自動車保険相談(ぎょうせい)

 Q&A新自動車保険相談をご紹介します。

 昨年11月1日に再版として、出版されたものです。9月に初版、11月に再版ですからその人気はおそるべきものです。

 同書は、最新の自動車保険の内容を詳細に、そして、わかりやすく解説されています。

 損保会社の任意保険や各種特約などを資料ともに解説しており、特に、損保会社から依頼を受けることの多い弁護士にとっては、書くことのできない書籍の1つと言えます。

 解説編が約380ページほど、資料編が約100ページほどありますが、交通事故を数年以上扱っている弁護士であれば、2、3日で読み込むことができる内容になっています。

 なお、過去の記事で、人身傷害補償保険については、実損てん補型の傷害保険だから、約款に関わりなく、いわゆる裁判基準での補償が受けられるのではないかという疑問を呈したことがありました(自賠責保険会社に対して提訴して裁判基準に基づく請求を行う場合と類似に考えられないのかという問題意識)。

 一応、この書籍では、「人傷保険の場合は、支払金額はあくまでも保険契約で決められた金額が支払われるという契約内容になっていますから、人傷保険の保険会社を被告として裁判に訴えても、損害賠償額の金額の支払が認められるわけではなく、あくまでも、契約内容でどう決められているかという観点から金額算定が行われることになります。」と説明されていました(同書368ページ)。

 この種のご相談は、1年に1、2度ありますが、中には、私の事務所に訪れる前後に、別の弁護士に相談している方もおられ、その弁護士の先生からは、裁判基準での請求も可能というアドバイスを受けたりしています。一度、その先生に、私も、どのような法的根拠でそのようなアドバイスをしているのか、そして、裁判例などを検討した上でのアドバイスなのかについて、質問してみたいです。

  ※「人身傷害補償保険契約と過失割合」(交通賠償論の新次元・判例タイムズ社・H19・9)にも、「人身傷害補償保険契約の内容として、上記の算定基準【人身傷害補償条項損害額基準】を用いることが約定されているから、その基準以外のものを持ち込み填補すべき損害額を算定することは契約違反として許されない」と記載しています。

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2008年1月14日 (月)

整形外科の参考書

 先週、きんざいの金融法務例会(大阪)に出席しましたが、終了後に、ジュンク堂大阪本店に立ち寄りました。

 なお、プライベートな出来事ですが、ジュンク堂大阪本店では、トレンチコートを着ている司法修習生同期のK弁護士らしき人物とすれ違いましたが、声をかけるまもなく、同氏は超急ぎ足で立ち去られたので、挨拶を交わすことができませんでした。弁護士10年目になるため、9年ぶりの再会になるはずでしたが、残念です。

 それはさておき、大阪ジュンク堂では、法律書のコーナーだけではなく、医学書のコーナーも、見て、おもしろそうな医学関係の書籍があったので、早速購入いたしました。

 「整形外科医のための神経学図説」(南江堂) 

 脊髄神経根傷害のレベルのみかたおぼえかたについて、具体的な記載があります。

 整形外科痛みへのアプローチ ⑤ 「肩の痛み」(南江堂)

 わかりやすいです。

 臨床整形外科 2007・10 (医学書林)

 外傷性頚部症候群の最近の進歩について、誌上シンポジウムが行われました。

 特に参考になった記事は、「外傷性頚部症候群と特発性低髄液圧症候群」(同書P983~993)というものです。

 「近年、むち打ち損傷後に低髄液圧症候群類似症状が生じることが発表され、社会的に注目されている。従来より外傷後に類似症状が発生しているという報告はあるものの、『むち打ち損傷後に発生する低髄液圧症候群(脳関髄液減少症)』は、既存の「低髄液圧症候群」の概念を拡大していることや、病態に関する基礎データは不十分であることから医学界で受け入られていない。しかし、問題点を非難し続けるだけでは、遷延化するむち打ち損傷の解決にはならない。本項では、従来からの特発性低髄液圧症候群と二次性低髄液圧症候群と、むち打ち損傷後に発生する脳脊髄液減少症について、最新の知見を述べる」(同書P983)と紹介されています。

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2008年1月13日 (日)

自動車総合保険契約の人身傷害補償特約の「外来の事故」とは、身体の外部からの作用による事故と判示された事例(最高裁平成19年10月19日)

 交通事故判例速報NO499(交通春秋社発行)が昨日送られてきました。

 以前の記事で少しだけ紹介させていただきましたが、最高裁平成19年10月19日の判決が紹介されていました(自保ジャーナル1711号)。

 Aさんは、自動車を運転していたところ、歩道を乗り越え、ガードパイプを突き破り、下のため池に転落して、溺死しました。

 Aさんには、21年前に、狭心症の診断を受け、狭心症発作予防薬を定期的に服用していました。

 Aさんは、B会社の代表者であり、B会社は、保険会社Yとの間で、自動車総合保険契約を締結し、この契約には、被保険自動車を本件事故車両とする人身傷害補償特約を付保されていました。

 人身傷害補償特約の約款の内容は、以下のとおりです。

 Yは、日本国内において、以下の各号のいずれかに該当する急激かつ偶然な外来の事故により、被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者又はその父母、配偶者もしくは子らが被る損害に対して、この特約に従い、保険金を支払う。

 (ア) 自動車の運行に起因する事故

 (イ) 被保険自動車の運行中の、飛来中もしくは落下中の他物との激突、火災、爆発又は被保険自動車の落下

 に記載された傷害には、日射、熱射又は精神的衝動による障害を含まない。

 Yは、被保険者の極めて重大な過失によって生じた損害については、保険金を支払わない

Yは、被保険者がに記載された自己の直接の結果として死亡したときは、死亡による損害につき保険金を支払う。

 これに基づき、Aさんの遺族であるXさんらは、Y保険会社に対して、保険金の支払いを求めたわけです。

 1審・原審は、「外来性」とは、事故の原因が被保険者の身体の内部からではなく外部から作用にあることをいい、身体疾患等の内部的原因による事故を除外するための要件であり、保険金請求者が主張立証すべきと判示しました。

 速報の解説には1審・原審についての説明は要旨で簡略されているため詳しいことはわかりませんが、おそらくは、保険金請求者は、①傷害の直接の原因が外部からの作用であること、及び、②その間接的な原因も身体の内部的原因によるものではないことまで、主張立証する必要がある見解にたっているのではないかと思われます。

 そして、1審・原審は、狭心症による発作等により意識障害が生じた疑いが強いとして、外来の事故であることを否定しました。

 しかし、最高裁は、1審・原審と異なる判断をしました。

 外来の事故とは、被保険者の身体の外部からの作用による事故をいうと解されるので、被保険者の疾病により生じた運行事故もこれに該当すると意味づけを行いました。

 人身傷害保険特約は、疾病免責条項がないことから、運行事故が疾病によって生じた場合も、保険金を支払うものとしました。

 その結果、保険金請求者は、運行事故と被保険者がその身体に被った傷害との間に、相当因果関係があることを主張立証すれば足りると判断しております。

 最高裁は、その間接的な原因も身体の内部的原因によるものではないこと(②)については、外来性の定義から除外したものと思われます。

 今回の最高裁の判決により、今度同種の事故が発生した場合、人身傷害補償特約が適用される範囲が格段に広くなったことから、保険会社としても、約款の改正など、対応を検討せざるえない事態が発生したようです。

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2008年1月12日 (土)

現在までの外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例

 外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例については、このブログでも、少しとりあげさせていただいております。

 昨日、平成20年1月10日発行の自動車保険ジャーナル(第1717号)が届き、低髄液圧症候群に関する裁判例2例(消極)が紹介されていましたので、追加させていただきます。

 私が把握する限り、否定的に判断したものとして、以下のとおりの裁判例があります。

(地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 (☆今回追加)

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号(☆今回追加)

 (高裁判例)

 ⑪ 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

 今回、⑨と⑩の下級審判例を追加します。

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

 次に、PTSDについても、PTSDが後遺障害として認定されるためには、①死に至るほどの体験をしたこと、②外傷的な出来事の再体験、③外傷と関連した刺激の持続的回避、④覚醒亢進症状などが認められる必要があるところ、原告がこれらの診断基準を満たしていると認めるに足りる証拠はなく、PTSDの後遺障害が残存しているとは認められないと判断しました。

 時折、整形や外科の先生の診断書に、傷病名として、PTSDがさらりと書かれているのを見かけますが、患者さんの方は、ドクターが書いたものであるということで、PTSDを含んだ請求をして欲しいと言われることもあろうかと思います。

 PTSDを多少勉強した弁護士ならば、鈴木さんという裁判官でしたっけ、いずれにしてもその判決以降は、裁判所はPTSDの認定は非常に難しくなっており、専門医の先生の協力が必要不可欠ですが、協力取付困難な場合も多いため、主張自体あきらめるが、主張自体はするものの立証不十分として認められない可能性が非常に大きいことを依頼人に十分に説明して、ご依頼を受けることになると思います。

 PTSDの話が今回のブログでのテーマではありませんので、この程度の紹介とさせていただきますが、今回、紹介した裁判例は、低髄液圧症候群の発症を否定しており、昨年2月の福岡高裁の影響がでてきたのではないかと思われます。

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2008年1月 9日 (水)

整形外科の教科書

 交通事故をよく取り扱う弁護士にとっては、整形外科の教科書は、必要不可欠といえます。

 とはいっても、あんまり専門的な書籍だと、理解不能ですし、他方、家庭の医学的な本だと、裁判所に対する説明で些か恥ずかしくなる時があります。

 以前、別の交通事故案件を扱った際に、某弁護士が「今日の診療」を書証として提出されたことがあるので、早速購入し、重宝しています。

 但し、電子データであるため、PCの画面で熟読するには少し疲れます。

 そこで、医学書院から出ている「標準整形外科」という書籍を、私の場合、書証として提出することが比較的多いです。

 カラフルで、わかりやすい内容になっています。ドクターである弟に、標準整形外科を使っていることを自慢したら、ドクターであれば、誰でも読んでいるシリーズだとかで一笑されました。私はドクターではないのだけどね。

 ただ、標準整形外科は、医学的知識は全くない私にとっては難解であるため、もっとわかりやすい教科書はないのかと探していましたが、やはり探せばあるものです。

 STEP整形外科という書籍です。

 現在、相談を受けている内容も非常にわかりやすく説明されており、また、目次も体系的で使いやすいです。

 どうやら、医師国家試験を受験する際のときのテキストのようです。

 アマゾンでいろいろ調べていたら、おもしろい本があり、購入してみました。

 改訂版経験すべき外傷・疾患97です。

 整形外科専門医をめざす方のための教科書ですが、交通賠償で問題となる外傷についても詳しく説明されています。

 読者の方で、交通事故を扱う弁護士に必要な書籍、参考になる書籍をご存知であれば、コメント欄で教えてください。

 しかし、医学書はそれにしても、値段は高い ですね。

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2008年1月 7日 (月)

災害補償共済規約が「被共済者が急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたこと」を補償費の支払を請求する者は、被共済者の傷害が同人の疾病を原因として生じたものではないことの主張立証責任を負うか」(最高裁平成19年7月6日)

 判例時報平成20年1月1日(No1984)号に搭載されていた最高裁判例です。

 事案は、中小企業災害補償共済の被共済者が、もちをのどに詰まらせて窒息した事故が、共済規約に規定された災害補償費支払い事由である「急激かつ偶然の外来の事故で被共済者の身体に傷害を受けたもの」に該当するか否かが争われたものです。

 なお、本件共済契約には、被共済者の疾病によって生じた傷害については、補償費を支払わないという規定が設けられていました。

 被共済者は、当時82歳でパーキンソン病の持病があったのですが、もちにのどを詰まらせて窒息し、低酸素脳症による後遺障害が残りました。

 共済側は、本件事故は、被共済の疾病(パーキンソン病等によるえん下障害)を原因として生じたものであるから、外来の事故により傷害を受けたものであるとは認められないと主張して、最高裁に上告及び上告受理申立を行いました。

 つまり、外部からの作用が存在したことは間違いないが、その外部からの作用が生じた原因(原因の原因、間接的な原因)が被保険者の疾病であることが疑われる類型において、保険金請求者である原告が、外来性の主張、立証としてどの程度まで主張、立証をすべきかについては、争いがありました。

 原告が疾病が間接的な原因でないことまで主張立証しなければならないとする見解(請求原因説)と、

 被告が抗弁として疾病免責条項の適用(疾病と傷害との間に相当因果関係があること)を主張立証しなければならないとする見解(抗弁説)とが、

 対立していましたが、最高裁平成19年7月6日は、抗弁説を採用しました。

 なお、最高裁平成19年10月19日は、自動車総合保険契約の人身傷害補償特約が、自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により被保険者が身体に傷害を被ることと保険金支払事由と定め、被保険者の疾病によって生じた傷害に対しては、保険金を支払わない旨の規定をおいていない場合には、保険金の支払いを請求する者は、

 自動車の運行に起因する事故等が被保険者の疾病によって生じたときであっても、

 右事故等と被保険者がその身体に被った傷害との間に相当因果関係があることを主張立証すれば足りるという判断を示しました。

 最近は、保険会社にとって、旗色の悪い裁判例が続きます。

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2007年12月17日 (月)

過失相殺事案における人身傷害保障保険による支払額の充当方法

 交通事故判例速報No498(交通春秋社)に掲載されていた事案です。

 東京地裁平成19年2月22日の裁判例(交通部合議)を、単純化して説明すると、

 花子さんは、交通事故に遭い、大怪我を負い、裁判所では、花子さんの総損害を7000万円、花子さんの過失を、20%と認定しました。

 その結果、加害者が負担する損害は、5600万円になります。

 花子さんは、自らが契約している損保から人身傷害補償条項に基づき、500万円を受け取っていたため、加害者は、500万円も既払金として控除すべきであると主張しています。

 考え方は、3通りあります。

 第一説は、絶対説と言われる考え方で、人傷保険の支払い額は、加害者負担分に充当され、人傷保険会社は全額を加害者から改修でき、被害者は加害者からは5100万円しか受け取れないとする考え方です。

 第二説は、差額説と言われる考え方で、過失相殺で被害者に未填補の損害が残る限り求償し得ず、被害者は、加害者に対し、その負担額全額を請求できるとする説です。この説によれば、花子さんは、加害者から5600万円を受け取ることができます。

 第三説は、比例配分説で、500万円を過失割合に応じて配分を行い、加害者負担部分400万円については、保険会社が求償できるとされるため、被害者は、加害者から、5200万円を受け取ることができます。

 東京地裁は、差額説を採用しました。解説者の先生によれば、「本件は東京地裁交通部合議体の判決であり、今後おそらくこの差額説が定着していくものと思われる」と説明されています。

 なお、今回の判例速報には、「無職者の休業損害」というおもしろいテーマについても解説されており、参考になるかと思います。

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2007年12月 7日 (金)

低髄液圧症候群を巡る裁判例

 近時、外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)については、否定的な判例が多く出ています。

 否定的に判断したものとして、以下のとおりの裁判例があります。

(地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 (高裁判例)

 ⑧ 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

 最近では、地裁レベルでも、低髄液圧症候群には消極的な裁判例が続いていますが、本日、送られてきた自保ジャーナル1713号には、さらに、⑨福岡地裁田川支部 平成19年10月18日が、低髄液圧症候群について、消極的な判断を示しました。

 乗用車を運転し右折待機中に、乗用車に追突され頸椎捻挫から低髄液圧症候群を発症、1年7ヶ月入通院して5級2号後遺障害を残したとする46歳女子についての事案ですが、

 福岡地裁田川支部は、診断基準としているRIの早期対外排出の速さを捉えて異常所見ということはできないとし、基準変更もあり、退院後には、RI脳槽シンチ等の新たな検査をせず、その後の来院日を症状固定日とし、後遺障害診断などを行っているとして、低髄液圧症候群になった事実は認められないと判示しております。

 判示を読むと、これまでの低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の流れが要領よくまとめられており、国際頭痛分類第2版による診断基準(ICHD-Ⅱ)を示して、当てはめているように思われます。

 ⑧福岡高裁の判例以降、いわゆる新しい低髄液圧症候群での基準ではなく、ICHD-Ⅱを適用して従来の低髄液圧性頭痛といえるかどうか判断されることになろうかと思います。あくまで、個人的見解ですが・・・

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2007年11月12日 (月)

チャイルドシート未装着により被害が拡大した幼児の損害について、母親の監督責任を理由に5%の過失相殺が認められた事例(大阪地裁平成15年9月24日)

  シートベルトの未装着については、不装着が損害拡大につながった場合には、過失と評価され、5~10%程度の過失が認められる場合があります。

 交通事故判例速報NO457にて紹介されていた事案は、チャイルドシート未装着のケースです。

 チャイルドシートですから、被害者は子どもですが、裁判所は、母親の監督義務違反を、被害者側の過失として構成して、5%の過失を子どもに認めています。

 子ども、本件では、2歳の男の子だったため、被害者に事理弁識能力はないため、被害者自身の過失として評価することはできないため、どうしても、被害者側の過失という構成をとらざるをえません。

 しかし、この法律構成では、身分上生活関係上のいったい関係のない者、例えば、保母の過失で未装着した場合には、過失として斟酌できないという批判がされています。

 なお、解説者によれば、行政上の装着義務違反と、過失を考える際の装着義務違反とは、論理必然的には影響を及ぼすことがないと指摘されています。

 すなわち、「監督責任者は幼児をチャイルドシートの装着された車両に乗車させるように監督指導する責任があるというべきであるから、原則として、行政的なチャイルドシート装着義務の有無にかかわらず、幼児をチャイルドシート未装着車両に乗車させた時点で、監督責任者の監督義務違反が問われることとなろう」と説明されています。

 基本的にはこのように考えられますが、保険賠償の実務(あくまで私がたずさわる限度での印象ですが)では、行政的にシートベルト装着が要求されていない場合には、損保会社も、過失を主張することはそれほど多くないのではと思います。

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2007年11月10日 (土)

頚椎弯曲と交通事故との因果関係が争われた事例(高松高裁平成19年5月29日)

 頚椎の弯曲異常と交通事故との因果関係については、正面から判断した裁判例は少なく、頚椎異常と交通事故との因果関係を否定した高松高裁平成19年5月29日の判決は、事例的価値を有するものです。

 事案の詳細は、交通事故判例速報No497(交通春秋社)に、載っています。

 それによると、交通事故の約3週間後に撮影されたレントゲン写真に写し出されていたC3/4部分の角状後弯変形が、交通事故によって発症した他覚所見といえるかどうかです。

 高裁は、正常人頚椎弯曲に関するX線学的研究(財団法人姿勢研究所編集発行)や、外傷によって頚椎の弯曲異常などの頚椎柱の形態変化が生じた場合には、靱帯損傷に伴って局所の腫張、皮下血腫、運動痛等の所見が見られなければならず、そのような所見がないことなどから、他覚所見を否定し、12級から、14級に後遺症等級を変更しました。

 興味のある方は、交通事故判例速報NO497をご覧下さい。

 それはさておき、来週、法科大学院出身の司法修習生の方が、事務所見学にこられます。裁判官になれるような優秀なキャリアの方のようですが、地方で弁護士になることを考えているみたいです。このような優秀な方が、地方で弁護士になることは歓迎したいです。

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2007年10月18日 (木)

オルソペディクス1999年1月号「外傷性頸部症候群診察マニュアルー最近の知見からー編集慶應義塾短期大学学長平林洌」の「最近トピックス2 外傷性頸部症候群における画像所見の診断的意義についてー無症状性健常者との比較検討から」(全日本病院出版)

 表題の論文は、いわゆる松本(守雄)論文ですが、それによれば、「外傷性頚部症候群患者にみられる頚椎弯曲異常や、椎間板変性所見は健常者と同様に生理的加齢変化である可能性が高く、その病因性については慎重に判断する必要がある」と説明されています。

 また、「単純X線上、健常者における頚椎弯曲と局所後弯の頻度を年代別、性別に示すと、頚椎弯曲は40歳未満の女性で非前弯曲方の頻度が高く、特に20歳代の女性では、非前弯曲型が全体の70.7%を占めた。男女ともに加齢とともに前弯型が高頻度となる傾向を認めた」などと説明されています。

 つまり、交通事故(衝突事故)が発生した場合、被害者にみられた頚椎の頚椎弯曲や局所後弯が、衝突事故と因果関係があるのか、或いは、既存の所見ではないのかが、交通賠償上、問題になることがあります。

 この点について、高松高等裁判所は、平成19年5月29日(確定)に、「頚椎の局所後弯が10歳代から30歳代の健常者でもある女性にも約3割ないし2割の高頻度で認められるものであることにもかんがみれば」として、前述の松本論文を引用して、「後弯角状変形については、それが既存の所見ではなく、本件事故によって初めて生じたものであるとまでは認めがたいといわざるを得ず」と判断しました。

 原審は、角状変形と衝突事故との因果関係を認めていましたが、高松高裁は、それを否定しました。

 この論点についての裁判例は、私が調査したところでは、交通賠償の裁判例上で、過去に紹介されたものがないと思われますので、今後の類似案件の参考のために、紹介しておきます。

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2007年9月25日 (火)

外部の調査会社が作成し、保険会社が所持する事故調査報告書について、インカメラ手続による調査に基づき、「過失割合の参考所見」と題する書面及び個人情報記載部分は、民事訴訟法230条4号ニの除外文書に該当するが、写真図面等は同号ニの除外文書に該当しないとされた事例(福岡地裁平成18年6月30日決定)

 損害保険会社が外部の調査会社に過失割合の調査などを依頼することは少なくないのですが、今回の判例は、事故調査報告書を、民事訴訟法220条4号に基づいて、文書提出命令の申立を行ったという事案です(交通事故判例速報No495 交通春秋社)。

 この福岡地裁の決定をみて、「そんな方法もあるんだ。」と感心いたしました。

 この決定では、社外調査機関作成の事故調査報告書が、自己利用文書に該当し(4号ニ)、文書提出義務を負わないのではないかが問題となりました。

 最高裁(平成11年11月12日)は、自己利用文書該当性について、

 ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、

 開示させると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生じるおそれがあると認められる場合には、

 特段の事情がない限り、

 専ら文書の所持者の利用に供するための文書にあたる

 と判断しており、福岡地裁も、この判例を引用して、インカメラ手続の結果に基づいて、該当性についての判断を行っています。

 福岡地裁は、過失割合の参考所見の部分については、保険会社の自由な意思形成を阻害するとして、除外文書であることを認めましたが、写真や図面については、除外文書であることを認めませんでした。

 解説者の先生によれば、この決定を前提とすれば、過失割合の参考所見の部分と純粋な個人情報以外の部分は、すでに、証拠提出されていない限り、文書提出命令の対象になると指摘されています。

 従って、実務的には、訴訟段階で、開示をしなければならない場合もありうることを前提に、交渉を行う必要があるようです。

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2007年9月17日 (月)

追突事故の被害女性について脳脊髄液減少症の発症が認められないとされた事例(福岡高裁平成19年2月13日)(確定)

 判例時報1972号搭載の裁判例です。

 これまで、低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)に関する裁判例は、

 肯定した裁判例として

 ①広島地裁 平成12年6月25日 

     交民 203・850

 ②鳥取地裁 平成18年1月11日 

     週間自動車保険新聞平成18年3月8日号

 否定した裁判例として

 ①名古屋地裁岡崎支部 平成16年3月23日

     自保ジャーナル1585

 ②千葉地裁松戸支部 平成16年6月24日

     自保ジャーナル1585

 ③岡山地裁 平成17年1月20日

     交民38・1・107

 ④神戸地裁 平成17年5月17日

     交民38・6・30

 ⑤横浜地裁 平成17年12月8日

     週間自動車保険新聞平成18年3月22日号

  ⑥横浜地裁相模原支部 平成19年6月26日

     自保ジャーナルNo1698

 ⑦横浜地裁 平成18年9月25日

     自保ジャーナルNo1692

が、各種文献で紹介されています。

 裁判例としては、認定について消極的な事案が多いように思われます。

 そのような状況のなかで、今回の福岡高裁の裁判例(以前にもこのブログで紹介しています)は、高裁レベルで、追突事故の被害者について脊椎髄液漏を認めなかったものとして、大きな意味を有するものになります。

 福岡高裁は、

 「担当医師は、被害者の脳MRIの画像で脳沈下の可能性があると判断し、RI脳槽造影を行ったところ、アイソトープの残量が著しく少ないことが判明したことなどから、脊椎髄液漏の診断をしている。」ことについて、以下で述べる理由で、脊椎髄液漏を否定しました。

 (1)最も典型的な症状であったところの起立性頭痛は被害者には見られなかったこと

(2)ブラッドパッチ療法を試みたものの、被害者の症状はあまり改善しなかったこと

(3)その後実施した2回のRI脳槽造影では、脊椎髄液漏の所見は検出せず、脳MRIでも病的所見が見れなかったこと

 を理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするのは、なお合理的な疑問が残ると判示しました。

 また、裁判所は、被害者の治療費のうち、低髄液減少症候群の治療費は、本件事故との因果関係が否定されるはずなのに、低髄液圧症候群との診断をして治療をしたのは、医療機関側の判断を責任によるものとして、低髄液減少症候群の治療費も因果関係を認めています。

 しかし、理屈上は、因果関係が否定されることになるはずです。この裁判所の認定の理論上の根拠はよくわかりません。

 また、被害者の心因的要素も大きく考慮されてしまった結果、裁判所は、損害額のうち、治療費と文書料を除いた額の50%が減額されています。

 しかし、これも、本来からすれば、治療費も減額されるべきですが、裁判所は被害者救済の見地から、除外されたのでしょう。過失相殺は裁判所の裁量が広いので、これは理屈からの説明がつきます。

 なお、福岡高裁は、低髄液症候群について、以下のとおりの説明をされています。

 法律家がみた低髄液症候群の解説として、参考になると思います。

 以下、判決の記載を引用します。

 低髄液圧症候群については、従来の定説は、脳関髄液が漏出してこれが減少し、脳が沈下して頭蓋内の痛覚の感受組織が下方に牽引されて生じる頭痛を特徴とすることから、最も特徴的な症状を起立性頭痛とし、画像所見や髄液圧が一定の数値より低いことなどの他、硬膜外血液パッチ後72時間内に頭痛が解消するなどを診断基準としている。

 これは、低髄液圧症候群の症状とその機序を論理的にわかり易く説明したものということができ、その病名にも相応しいものである。

 ところが、髄液が漏出しても髄液圧が低下しない例もあり、また、その典型症状がなく、それ以外の症状が生じる場合があるところから、上記定説では説明できない患者があるとして、この病気の範囲をより広くとらえようとする新たな学説(便宜「新説」)が提唱されるに至っている。

 新説によれば、病名も「脳脊髄液減少症」と称すべきであるとされるのである。

 しかしながら、従来の定説では説明できない患者が出てくるという意味において、同説に限界があるというのは確かであるが、

 他方、新説によると、脳脊髄液減少症の範囲を画することが極めて曖昧になり、その機序も説明が困難になるということは否定できない。

 現に当審証人(担当医師)の証言によっても、脳脊髄液減少症の症状としては実に多種多様なものが含まれることになるが、それらが脳脊髄液の減少といかなる関係にあるのかが説明できているとは言い難く、また、それらは極めて普遍的に見られる症状であるために、他の病気(例えば、頸椎捻挫)に因るものとの区別が不可能になってしまいかねないように思われる。

 この判示からは、断言はしていませんが、福岡高裁は、低髄液圧症候群に関する従来の定説には、肯定的であるのに対して、脳関髄液減少症(新説)には、懐疑的であることを垣間見ることができます。

 ただし、福岡高裁の判決は確定しましたが、最高裁が新説を採用されれば、脳脊髄液減少症を巡る保険実務は、一変するでしょうね。

 脳脊髄液減少症は、被害者からも、保険会社からも相談を受けることが少なくなく、また、裁判実務はやや混乱していることから、最高裁による統一見解が待たれるところです。

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2007年8月25日 (土)

内縁の夫の運転する自動車に同乗中に第三者の運転する自動車との衝突事故により傷害を負った「内縁の妻」が、第三者に対して損害賠償を請求するにあたり、「内縁の夫」の過失を被害者側の過失として考慮することができるか?

 判例時報No1970(8月21日)号に搭載されていた事案です。

 最高裁平成19年4月24日は、結論から述べると、内縁の夫の過失を、被害者側の過失として、考慮しました。

 当然のことですが、内縁の妻には、何ら過失はなく(原審によれば、好意同乗の危険承知型にも該当しないと認定されています)、従って、内縁関係があるからといって、「過失相殺」されるのは、一見おかしい気がします。

 リーディングケースとなった最高裁昭和51年3月25日は、婚姻関係にある夫婦の事案で、夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り、夫の過失を被害者側の過失として考慮することができると判断をしめしています。

 他方で、最高裁平成9年9月9日は、「婚約間近の恋人」の過失を被害者側の過失として斟酌した原審を破棄しています。

 内田貴教授によれば、

 「判決が問題にしているのは、被害者に帰属する賠償額を減額するかどうかではない。なぜなら、たとえ判決のどり、夫の過失を斟酌して減額を認めたとしても、理論的には、妻は、夫にも請求できるので、最終的には、妻は全額の賠償を得ることができるからである。

 したがって、判決の行ったのは、本来の意味での過失相殺ではなく、夫と妻という特殊な関係のゆえに、夫と第三者が本来負うべき全額についての連帯責任を分割責任にしたということである。これは被害者側の過失法理の隠れた機能ということができる。

 そして、このような分割責任が正当視されるのは、身分上生活上の一体性が存在する場合、つまり、財布はひとつといえる場合である」(内田民法Ⅱ第2版P416~P417)

 と説明されています。

 この基準からいえば、内縁関係も、財布は一つであることから、平成19年4月24日の最高裁の判断は、当然ということになるでしょう。

 判例時報の解説におもしろい記載がありました。

 昭和51年の最高裁は、夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情という条件がついていましたが、平成19年の最高裁には、特段の事情という条件がなくなっています。

 これはどうしてでしょうか?

 なかなかおもしろい指摘と思いました。

 考えみると、特段の事情のような事情があれば、内縁関係が解消されているはずですね。

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2007年8月10日 (金)

追突され併合11級請求の脳脊髄液減少症は、起立性頭痛なく画像所見ない等神経障害は、14級10号に認定した事例(横浜地裁相模原支部(平成19年6月26日確定)

 自動車保険ジャーナルNo1698(8月9日)号搭載の判例です。

 追突事案で、頸椎捻挫などで959日通院し、併合11級後遺障害を残したとして、約1600万円余りの訴訟を提訴した事案です。

 判旨は、

 ①原告は、受傷後3週間経過し、急性期を経過したのに、頭痛、頸項部痛、前胸部後背部痛等といった神経症状の増悪を訴えるようになり、平成13年3月26日症状固定の診断がされた後、後遺障害の程度につき次第に高位等級を主張するようになったが(後遺障害5級2号に該当するともいう。)、その主訴症状を裏付ける他覚的所見にほとんど乏しい上、

 ②原告において、事故の態様に関し、「追突によって車が前方に押し出されたというのではなく、車自体が飛んでいった。」と述べ、また、脳脊髄液減少症に関し、「医師から脳槽シンチグラフィ検査による硬膜外腔に重大な損傷があると指摘された。」と述べ、その主張には明らかな誇張と思いこみがあることからすると、

 ③原告の主訴症状は、糖尿病や変形性腰痛症、変形性膝関節症の既往症の既往症さらには加齢現象に由来し(原告は、事故前、骨盤牽引の治療を受け、1年以上にわたりマッサージ療法を受けている)、これが損害賠償という心因性の要因によって粉飾協調されたものといってよく、仮に自律神経性の要因によるものがあるとしても心因性の要因によって誘発助長されている疑いを否定できないため、本件事故で受けた頸椎捻挫、腰痛捻挫の傷害との因果関係を肯定することはできない。

 ④原告は、平成16年8月にD病院で脳脊髄液減少症と診断されているが、画像所見といった明確な医証によらない診断であり、脳関髄液減少症の診断基準とされる起立性頭痛が認められないことからすると、前期頸椎捻挫、腰痛捻挫の傷害との因果関係は明らかではない。

 ⑤そうすると、原告は本件事故によって受けたことが明らかな傷害は、頸椎捻挫、腰痛捻挫にとどまるところ、症状固定後の診断後も頭痛、頸項部痛、前胸部後背部痛等といった神経症状が継続していることからすると、当初の傷害の内容程度等からみて、後遺障害は14級10号の局部に神経症状が残存するに準ずるものとして取り扱うのが相当である。

 と判じています。

 なお、休業損害については、被害者が自営業者であるが、収入を裏付ける資料や申告書もないことから、やや抑制的に賃金センサスを利用して、男子平均賃金の50%を認めています。

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2007年7月28日 (土)

重度後遺障害者の介護費

 自動車保険ジャーナルNo1969(7月26日)号には、最近の重度後遺障害者の介護費の認定傾向について、自保ジャーナルがとりあげた最近の裁判例をいくつか拾い出し、わかりやすく整理している表が記載されていました。

 重度後遺障害者の方が、より多くの賠償が得られるためには、将来の介護費をどのようにして請求するのかという点が非常に重要です。

 しかし、あまり交通事故を扱わない(と思われる)弁護士さんの場合には、職業介護人ではなく、近親者介護費を前提に請求している場合もあり、本来被害者が得られたはずの金額が得られないというようなケースもあるように思われます。

 また、逸失利益についても、労働能力喪失率を単純にあてはめるだけではなく、個別具体的な主張立証を行い、実際の労働能力喪失率まで認めて貰う必要があります。

 ただ、なかなか難しいですが・・・ 慰謝料だと赤い本より上乗せした金額が認められることも時折ありますが、労働能力喪失率については、あまりみかけません。1日の生活を、15分程度に編集したビデオなどを製作する必要があるかもしれませんね。

 いろいろ研究しなければならない分野が多くて、大変です。

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2007年7月24日 (火)

飲酒事故の運転手に対する高額賠償命令事例

 判例時報No1967(7月21日)号搭載の、千葉地裁佐倉支部平成18年9月27日判決の事案です(控訴)。

 飲酒運転事故の被害者に、後遺障害(1級)が残った場合、加害者に対して、総額約3億円の賠償支払いが認められた事例です。

 原告代理人の弁護士は、交通事故の高額賠償事案によく登場される方々です。

 将来介護料については、①自宅介護の可能性、②病院における長期入院の可能性、③平均余命、④将来の付添介護料の算定が争点になっています。

 平均余命については、加害者側は、寝たきり者の平均余命という著明な書籍を執筆された医学者の論文を提出していますが、裁判所は、「自動車事故対策センターの寝たきり者1898例を基に平均余命を推定するものであるが、寝たきり状態を脱却した者の脱却以後の生存期間が計算に入っていないものであるため、これを根拠にねたきり者の生存余命が短いとすることには疑問がある」と反論しています。

 おむつ、尿ぱっとなどの将来雑費についても、年額127万円程度必要ということを前提に、「健常人の生活費としても必要であるものが相当数含まれている」ことから、30%を減じて、年額90万円を前提に、計算しています。

 家屋改造費については、2636万円程必要であることを前提に、「家族が便益を受ける面も否定できない」ことから、10%を減じて、2370万円を認めました。

 車両改造費についても、「自宅介護のためには、医療機関との連携が欠かせないことは・・明らか」ということから、認めました。

 介護ベット代、車いす代、空気清浄機などの介護用品代も、認められています。

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2007年7月11日 (水)

要介護状態の被害者の住居取得・改装費用の一部を損害として認容した事例(交通事故判例速報No493)

 交通春秋社発行の交通事故判例速報(平成19年7月)に、要介護状態の被害者の住居取得・改装費用の一部を損害として認容した事例について紹介されていました。

 大阪地裁平成19年4月10日の判例は、事故当時23歳の男性が、交通事故により、後遺障害等級第1号を残して症状固定。自宅マンションを2294万円、自宅改装費を125万円をかけた事案です。

 マンション購入費については、財産として残ることや他の家族の利便に供する部分があることから、30%相当の、約668万円を損害として認定しました。

 自宅改装費である125万円については、全額認めました。

 将来介護料については、妻が60歳になるまでは妻と1.5名分の職業介護人が必要、妻が60歳に達したあとは、2名分の職業介護人が必要と判断しました。

 大阪地裁平成19年5月8日の判例は、被害者は、事故当時72歳の女性で、後遺障害1級を残して、症状固定。事故当時、築後約95円を経過した日本家屋に居住していたが、退院して自宅へ戻るための自宅改造費用見込額が4500万円強であるとして、そのうちの4000万円を相当因果関係ある費用として請求した事案です。

 裁判所は、自宅建替・改装費用については、「証拠及び弁論の全趣旨」から50%相当の2000万円を認めました。

 将来介護料も、改装後の自宅で介護した場合の介護費用として、職業介護人、近親者介護人の費用を認めました。

 解説者は、自宅改装等費用及び介護費用の妥当性について疑問を指摘されていました。

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2007年7月 9日 (月)

弁護士の為の交通外傷:後遺障害教本(株式会社アジャスト)

 損害保険会社の顧問医でもある宮尾益和医師が、ご経験に基づき、外傷とそれがもたらしうる後遺障害を解説されたものです。

 但し、交通外傷として、一番頻度の高い頸椎捻挫(外傷性頸部症候群など)と、RSD(反射性交感神経症ジストロフィー)、CRPS(複合局所疼痛症候群)タイプ1、タイプ2についてては、省かれています。

 目次は、①頸部外傷、②上肢外傷等、③胸腰椎外傷、④骨盤外傷、⑤大腿骨外傷、⑥膝蓋骨の外傷、⑦膝の軟部組織の損傷、⑧下腿骨外傷、⑨足部外傷について、要領よく解説されています。

 各論は、例えば、頸椎の過屈曲・過進展による骨折については、(1)特徴・分類、(2)治療スケジュール等、(3)合併症、(4)後遺障害のパート毎に、簡略に解説されています。

 なお、この本の後遺障害等級は、平成16年7月以前に発生した事故による後遺障害認定基準(旧基準)により、解説されています。新旧基準表については、参考資料に綴られています。

 交通事故を扱う弁護士は、是非欲しい本の1冊ですね。

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 なお、最近、当事務所のHPやブログをみて、債務整理の相談についてのご依頼の電話がよくかかってきます。それ自体は大変ありがたいのですが、中には、松山や四国中央市などの遠方の方もおられます。当事務所では、直接、事務所で面談できる方を前提にしておりますので(また、過払金の裁判が今治以外の裁判所の場合には日当もかかります。)、今治市・上島町及び西条市以外の方のご依頼は原則としてお断りさせていただいております。つきましては、それ以外の地区の方の場合には、愛媛弁護士会などにご連絡の上最寄りの法律事務所にご相談していただきますよう願います。<(_ _)>

 

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2007年7月 5日 (木)

人身傷害保険の実損填補 その2

 人身傷害保険について、約款を上まわる裁判所基準(保険金額を上限とする)にての請求が可能か否かについて、平成19年度の赤い本に、東京地裁の交通部の桃崎剛裁判官の講演録が参考になるのではないかと思いますので、その一部をご紹介いたします。

 「損害額について、人身傷害補償条項及び一般条項に従い、保険金を支払うとされ、保年金を支払うべき損害の場合には、傷害による損害は、積極損害、休業損害、(中略) それぞれ別紙に定める基準により算定された金額の合計額とするとされています。そうしますと、被害者(被保険者)の被った損害の程度に応じて支払われる保険金の金額が変わりますから、実損てん補型の保険といえます。」(P134)

 「しかしながら、人傷算定基準で定められた損害額は、(中略)訴訟における損害額が、通常、赤い本の基準に従い、(中略)比して低額であり、その結果、人身傷害保険は、実質的に一部保険(保険金額が保険価額に達しない損害保険)のような様相を呈しています。」(P134)

 「人身傷害補償保険をめぐり様々な問題が生じている原因は、人身傷害補償における保険金の金額(損害額)が加害者に対する損害賠償請求訴訟における損害より低額になっていることにあると考えられます。したがって、その対策としては、人身算定基準に基づく損害額の金額を引き上げて加害者に対する損害賠償請求訴訟における損害額に近づけることが考えられますが、保険料の増額を伴う問題ですので、簡単ではないように思われます。」(P167)

 桃崎裁判官は、①人身傷害保険が、実質的には、一部保険のような様相を呈していると記載されていること、②約款を上回る事例があれば、赤い本で紹介されているはずであることからすれば、現在の実務上は、約款の基準を否定して、赤い本基準での請求をすることについては、消極的であることを前提にしているようにみえます。

 また、約款の基準以上の請求が認められるとすれば、保険料設定の問題も生じます(金澤プラチナ自動車保険構想の提唱P28)。

 しかし、ある弁護士さんの掲示板でこの質問をさせていただいたところ、約款を上まわる基準での請求が認められる趣旨の回答がありました。

 また、人づてに聞く話だと、約款を上回る基準での請求が認められるとアドバイスされる弁護士さんもおられるようです。

 しかし、私は、前述の理由から、人身傷害保険の場合、約款の壁は厚く、現時点では、約款を上まわる保険金の請求はできないのではないかと思います(私見)。

 他方、中には、約款を超えた請求ができる旨回答されている弁護士さんもおられるようですので、現時点で、この質問については、明確な回答を示すことができません。

 どなたかご教示下さればと思います。

 なお、最近、人身傷害保険が絡んだ損害賠償請求訴訟のご相談を受けることが多くなりました。依頼人に、過失がない場合には、問題がないのですが、過失がある場合には、考え方により、依頼人の手取の金額が異なってくる場合もあるため、頭が痛いです。

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2007年7月 3日 (火)

東京海上日動火災保険RA制度廃止訴訟第1審判決(東京地裁平成19年3月26日)(判例時報NO1965号)

 事案は、概ね以下のとおりです(判決の事案の概要参照しました)(判時NO1965・判例特報)。

 太郎さん達は、甲損害保険会社の、損害保険の契約募集等に従事する外勤の正規従業員である「契約係社員」の地位にある者です(甲社では、契約係社員を、「リスクアドバイザー」、あるいは、「RA」と呼んでいます。)。

 甲社は、平成17年10月7日、太郎さん達に対して、「リスクアドバイザー制度の発展的解消(大綱)(提案・通知)」と題する文書によって、

 ① RA制度を平成19年7月までに廃止し、

 ② RAの処遇については、代理店開業を前提に退職の募集を行う一方、継続雇用を希望する者に対しては、職種を変更した上で継続雇用するという方針について提案通知した。

 そのため、太郎さん達が、RAである太郎さん達と甲社との間の労働契約は従事すべき職種がRAとしての業務に限定された契約であるところ、RA制度の廃止は、太郎さん達と甲社との間の労働契約に違反し、かつ、RAの労働条件を合理性・必要性がないのに不利益に変更する無効なものであると主張し、甲社に対して、平成19年7月以降も、太郎さん達がRAの地位にあることの確認を求めている事案です。

 本件事案の争点は、3つになります。

 ① 太郎さん達は、平成19年7月1日以降の原告らのRAとしての地位についての確認の利益を有しているか否かという点です。

 この点については、甲社は、「遺言者が生前に受遺者に対して遺言無効確認を求めることは即時確定の利益を欠く」とした裁判例が本件に当てはまると主張しました。

 他方、太郎さんは、「(賃貸借契約中の敷金返還請求権について)発生自体が将来の条件成就にかかるときであっても、条件付権利として現在の権利関係とみなされれば即時確定の利益が認められる限り、確認の利益がある」とした裁判例が、本件に当てはまると主張しました。

 東京地裁は、確認の利益を肯定しました。

 その理由は、「現時点において、原告らには、平成19年7月1日以降RAとしての地位についての危険及び不安が存在・切迫し、それをめぐって被告との間に生じている紛争の解決のため、判決により当該法律関係の存否を早急に確認する必要性が高く、そのことが当該紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切な方法であると認めることができる。

 また、仮に、原告らの確認請求を認容する判決がされた場合には、被告においてもRA制度廃止の方針・内容につき再考する余地も期待することができ、RAの廃止をめぐる将来の紛争の予防にもつながる可能性が十分に認められる

 そうだとすると、本件訴えは、確認対象の選択の点で不適切であるとはいえず、即時確定の利益についても欠けるところはない」と理由を述べています。

 ② 第2の争点は、職種限定契約か否かです。

 この点について、東京地裁は、太郎さん達と甲社との間の労働契約は、原告らがRAとしての職務に従事することを内容とする職種限定契約であると認定しました。

 その理由については、

 RAの業務内容、勤務形態及び給与体系には、他の内勤職員とは異なる職種としての特殊性及び独自性が存在し、そのため、被告は、RAという職種及び勤務地を限定して労働者を募集し、それに応じた者と職種及び勤務地の限定の合意を伴う労働契約を締結したと認めるのが相当であると述べています。

 ③ 第3の争点は、職種限定契約がある場合でも、使用者は場合により、他の職種への変更(配転)することができるかということです。

 東京地裁は、RA制度を廃止し、原告らをRAから他職種へ職種変更することについて正当性があるとはいえないと判断しました。

 東京地裁は、まず、

 職種限定の合意を伴う労働契約関係にある場合でも、採用経緯と当該職種の内容使用者における職種変更の必要性の有無及びその程度変更後の業務内容の相当性、他職種への配転による労働者の不利益の有無及び程度それを補うだけの代替措置又は労働条件の改善の有無等を考慮し、他職種への配転を命じるについて正当な理由(正当性)があるとの特段の事情が認められる場合には、当該他職種への配転を有効と認めるのが相当であるとの判断基準を示しました。

 ←比較考慮論ですね。代償措置も重要な要素になっています。

 本件では、賞与相当部分につき大幅減収となることから、正当性を否定しました。

 最終的に、第1審では、甲社は負けてしまったため、控訴しているようです。

 損保会社の雇用の形態について、判決文では詳細に紹介しており、参考になりました。

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2007年6月29日 (金)

①62歳女子の9級低髄液圧症候群の請求は3年3か月の14級症状固定後の訴えとして否認した裁判例(横浜地裁平成18年9月25日)、②52歳女子の労働能力喪失80%の脳脊髄液減少症は軽微な受傷で3年後の診断等から否認し14級後遺障害を認めた裁判例(福岡地裁平成19年5月17日)

 自動車保険ジャーナルを定期的に購読しています。

 No1692(6月28日)号は、低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)に、消極的な判断を示した最近の裁判例を2つ紹介しています。

 横浜地裁の裁判例は、外傷性頸部症候群として、後遺障害は、14級相当と認定しました(自賠責では、非該当)。

 福岡地裁の裁判例も、頚椎捻挫として、後遺障害は、14級の認定をしていました(自賠責でも、14級)。

 福岡地裁の裁判例は、脳脊髄液圧減少症の検討について、横浜地裁の裁判例と異なり、丁寧に検討されているみたいです。

 判決文から引用すると、4つの理由を示して、脳脊髄液圧減少症の発生を否定しています。

 ①RI脳槽造影で腰椎部からアイソトープの漏出があったとしても、それのみで低髄液圧症候群の原因となる髄液漏出と断定することはできない。すなわち、脊椎腔穿刺の際にできた針穴から髄液が漏れている可能性があり、その可能性を除外しなければ髄液漏出がもともと生じていたか否か判断することができない。

 ②また、RI脳槽造影で用いられる放射性物質の血中濃度の推移については、個人差が極めて大きく、血中濃度の上昇と尿中排泄は密接に関連し、体内残存率とも密接に関連し、かなり多くの人が、かなり多い量の放射性同位元素を脊髄腔で吸収し、膀胱に早期に排出し終えるのであり、放射性同位元素の早期体外排出だけでは異常であるということはできないから、放射性物質の残存率が5時間で80%以下、又は、24時間で40%以下という基準では、髄液漏出を認定することができない。

 ③平成○年6月18日の腰椎MRミエログラムにおける傍脊柱の刷毛状の異常高信号像については、髄液漏出を示している可能性があるが、RI脳槽造影が同月15日に行われ、腰椎MRミエログラムにおける傍脊柱の刷毛状の異常高信号像は、穿刺時における髄液漏出を示しているにすぎない可能性がある。

 ④脊柱管の場合、頸椎、胸椎部は、腰椎部に比べて脊髄液は多くなく、頸椎、胸椎部は相対的に浅瀬であり、腰椎部は相対的に深い海ということになるから、津波のメカニズムとは逆に、腰痛に至って浅瀬から深みに到達することになって、津波のエネルギーは、増幅するのではなく減衰することになるから、津波エネルギーになる説明は、津波が深海から浅瀬に伝わるという本質を欠いている。←なかなかおもしろそうな議論ですね。(^_^;)

 これらの事情を考慮して、「原告が脳関髄液減少症の傷害を負っているとするには、なお合理的な疑問が残る」と判断しました。

 脳脊髄液圧減少症は、最近は、交通事故賠償事案では、認定について消極的な判例が多くなっているように思われます。

 医学的な事案については、司法試験に医学についての試験がないため、取り扱うについて、なかなか、難しいところがあります。

 私も弁護士になってから、交通事故賠償に限られてはいますが、損害保険協会などの医療セミナーに参加して、日頃から、医学的な知識を得るように努力はしています。

 弁護士会でも、夏期研修などに医療セミナーなどを開催していただけると助かりますね。

 民間で弁護士向けの医療セミナーがあるようですが、医療過誤等を対象にしているみたいです。

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2007年6月26日 (火)

人身傷害保険に基づく実損填補の請求 教えて下さい <(_ _)>

 人身傷害保険という保険があります。最近、自動車保険の特約についています。

 人身傷害保険の請求事案について、最近、大変痛ましい事件の相談を受けたため、少し、人身傷害保険について調べています。

 人身傷害保険の一般的な解説については、弁護士の小松先生が、ご自身のHPでわかりやすくご説明されています。

 また、人身傷害保険の問題点については、「Q&A交通事故診療ハンドブック改訂版」(ぎょうせい)にも、詳しく説明されていました。日弁連特別研修の交通事故研修(第一弾)の講師の先生が執筆されています。

  さて、人身傷害保険の定義ですが、例えば、某保険会社のHPでは、以下のように説明されています。

 「ご契約のお車に搭乗中の方が自動車事故で死傷してしまった時、実際の損害額をお支払いします。記名被保険者およびそのご家族については他のお車に搭乗中または歩行中の場合などほとんどの自動車事故についても補償の対象となります。
 保険金については、傷害の場合は治療費や休業損害、死亡した場合はもし生きていたら将来に得ることができたはずの利益 (逸失利益) などの実損害額を、ご自身の過失にかかわらず保険金額を限度に全額お支払いします。(○○損保の約款に定める「人身傷害条項損害額基準」に従ってお支払いします。) 」

 他の保険会社のHPもいくつか閲覧しましたが、ほぼ同じような記載がされていました。

 このように、わざわざ、「人身傷害条項損害保険基準(約款)」に従うことを明記しています。

 とすれば、人身傷害保険も、実損填補とはいいながらも、裁判所基準を下回る約款に基づく補償しか受けられないということになります。

 このブログでも以前にご紹介しましたが、平成18年の大阪地裁の判例は、人身傷害は実損填補の保険である旨明示しています。実損填補ということであれば、それを強調すれば、理屈上は、保険会社の約款を拒否して、保険金額まで、裁判所基準で請求できることになるはずです。

 例えば、ようこそほけん村のHPでは、これを認めている趣旨の記載があります。また、現時点では交通賠償について一番内容が詳しく説明されていると思われる交通事故110番のHPも、同様の記載があります。

 小松先生は、難しい問題だとしつつ、実損填補のための法律構成をいろいろとご検討されておられます。

 本件テーマについての裁判例はあるのでしょうか?

 私の力不足のため、残念ながら、裁判所の判例を発見するには至りません。

 どなたか、保険会社の約款を否定して裁判所基準にて、保険会社に対して、保険金限度額まで、実損填補の請求を認めた或いは否定した裁判例について、情報をお持ちの方は、ご教示していただければ、大変うれしいです。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。<(_ _)>

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  追記

 交通事故110番の阿部氏のご説明(①人身傷害保険 ②破棄された支払基準)も、有益です。

 赤い本平成18年講演録には、「人傷保険会社における支払い基準(損害費目及び損害額)には裁判所に対する拘束力があるかとった問題も、今後の検討課題であろうと思われる」と、芝田裁判官が述べられております。

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2007年6月11日 (月)

交通事故後に全身が痛むようになり、後に「繊維筋痛症」と診断された原告の損害につき、事故との因果関係を認めた上で事故との与因の程度を25%とした事案

 交通事故判例速報NO492(H19・6)(交通春秋社)で紹介されていた下級審の判例についてです(山口地方裁判所岩国支部 平成18年10月13日)。

 解説者の先生によれば、「本判決は、交通事故と繊維筋痛症との因果関係を認めた初めての判決であると思われる」とされています。

 繊維筋痛症は、最近、マスコミなどで取り上げられるようになりましたが、圧痛以外の他覚所見がないにもかかわらず、全身に疼痛を来す疾患とされています。3か月以上広範囲の疼痛が継続し、かつ、指による触診で所定の18カ所のうち、11カ所に圧痛が有る場合に、繊維筋痛症と診断されるようです。

 繊維筋痛症の原因については、医学的に明らかにされておらず、治療法も確立されていません。

 事案は以下のとおりです。

 平成12年7月17日 交通事故発生。被害者は赤信号停止中、加害者運転車両に時速約60キロで追突され、被害者は、前方約24メートルはじきだされました。

 7月18日、受診。明らかな骨折なし

 7月31日 頸椎MRI検査 加齢性の変形指摘

 8月  仕事にいくため、頸部を固定したカラーを外すした。そのことから、痛みがでるようになった

 平成13年7月 症状固定診断

           他の病院で、繊維筋痛症、脳脊髄液圧減少症の疑い指摘

 というような事案だったようです。

 判例は、本件事故により被害者が頸椎等に受けた物理的衝撃の大きさなどを考慮すれば、繊維筋痛症と交通事故との因果関係があると認めました。

 他方で、頸椎の加齢性変化や心的要素も考慮して、交通事故が繊維筋痛症を発症させた与因は、25%と認定しました。

 この判例の認定の仕方にはいろいろな問題点があるようですが、その点については、解説がものすごくわかりやすいので、興味がある方は、購読されたらいかがでしょうか?

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2007年5月30日 (水)

改訂新版 むち打ち症はこれで治る (日本医療企画)

 NPO法人「鞭打ち症患者支援協会」代表理事中井宏編著の、脳脊髄液減少症についての、患者さん向きの書籍です。

 第5章に分かれていますが、第1章の鞭打ち症についての一般的な説明、第2章、第3章の医師による専門的な説明は、大いに参考になります。

 私自身は、脳脊髄液圧減少症については、加害者側代理人として、訴訟で、患者さんの相手方として、関与したことはありますが、他方、患者さんの代理人として、関与したことはありません(法律相談はあります)。

 愛媛でも、脳脊髄液圧減少症について、大変高名な医師がおられたことから、一時期、同症についての事件を複数担当したこともありますが、現在は、下火になっています。

 ただ、現状では、同症についての治療費や後遺障害を裁判により勝ち取るのは、なかなか難しい現状だと思います。

 患者さんの代理人となった場合には、本書に、「こうすればできる 脳脊髄液減少症患者の等級認定」が紹介されていましたが、基本的には、私も、同様の考えを持っています。

 一般の整形外科医の先生は、同症について、消極的な立場の方が多いようですが、あるドクターから、私の身内の不定愁訴について、同症の可能性がある旨指摘されたことがあったことから、人ごとではなくなりました。

 帯に、漫画家のまつもと泉さんのイラストが印刷されていました。「きまぐれオレンジロード」の時よりも、少し画風が変わったような気がします。

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2007年5月15日 (火)

交通事故の被害者の後遺障害逸失利益について、原告が求めていても、定期金賠償を認めるのは相当でないとされた事例(東京地裁平成18年3月2日)

 判例時報5月11日(1960)号に搭載されていた事案です。

 交通事故の被害者が、後遺障害逸失利益等について、症状固定後15年間の定期金、その後一時金による支払いを求めた事案です。

 定期金賠償については、原告が定期金賠償を求めていない場合には、裁判所は裁量により定期金賠償を命じることはできません(最高裁)。

 しかし、原告が定期金賠償を求めている場合には、定期金賠償を命じることができるかどうかについては、問題になっています。

 東京地裁は、結論とし、定期金賠償を認めませんでした。

 その理由については、以下のとおりです。

 後遺障害逸失利益については、民訴法117条1項の規定があるので定期金賠償を認めうる場合があることは否定できないが、一時金賠償の場合に、被害者が事後的に交通事故とは別の原因で死亡した場合でも損害は継続すること(継続説)、

 本件の場合原告の後遺障害の内容程度に照らして、将来の介護費用と一体のものとして定期金賠償を認めうる場合でないこと

 原告が定期金賠償を求めているのが症状固定後15年間のみであり、その後については一時金による支払いを求めているがその合理的理由が明らかでないこと

 被告らが定期金による支払いを求めていないこと

 を総合考慮して、定期金による支払いを認めませんでした。

 定期金賠償については、私も、昔、一度だけ検討したことがありますが、支払いが継続してしまうために、保険会社付きの事案でもなければ、なかなか踏み切れませんでした。

 余り勉強しない分野ですが、判例時報の解説者が指摘されるように、一度、理論面と実務面の双方から検討してみるとおもしろいかもしれません。

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2007年4月27日 (金)

最近の PTSD 裁判の傾向

 交通事故により、PTSD 即ち、心的外傷性ストレス障害に罹患したとして、ご相談に見えられる方が時折おられます。

 PTSDは、脳脊髄液圧減少症と並んで、非常に困難な分野の一つです。

 PTSDは、以下の基準をみたす必要があるとされています。

 A 強烈な恐怖体験により心により大きな傷を負ったこと

 B 持続的再体験症状(フラッシュバック)

 C 持続的覚醒亢進症状

 D 持続的回避症状

 のため、社会生活・日常生活などの機能に支障を来すこと

 PTSDの基準には、ICDー10DSMーⅣの、2つの世界的な診断基準があります。

 一時期、交通事故の分野でも、PTSDを巡る裁判が多くなったことがありますが、東京地裁平成14年7月17日の、PTSDの診断基準を厳密厳格に判断適用した裁判例が出て以来、PTSDが肯定された事例は、少なくなった印象があります。

 この裁判例は、主治医から、PTSDの診断書が提出されている事案でしたが、前述の4要件の存否を検討した結果、PTSD該当を否定し、外傷性神経症として、10年間にわたり、5%の労働能力喪失を認めました。

 PTSDについては、本来、専門医による認定が不可欠ですが、外科の先生が、簡単に、PTSDと記載している診断書をみかけたことがあります。

 被害者の方は、医師の先生がおっしゃっておられるのだからと言って、PTSDが裁判でも確実に認められるかのような意識を持ち、このため、これがネックとなり、示談交渉もうまくいかない場合も予想されます。

 専門医の先生の中でも、交通裁判を実際に体験された先生は、逆に、慎重にPTSDの診断にご対応される先生もおられます。このような先生の場合には、傷病名がPTSDでなくとも、かなり説得力のある後遺障害診断書を作成されるので、非器質的精神障害として、調査事務所から後遺障害の認定がなされたこともありました。

 PTSDの判決の傾向と問題点については、自保ジャーナルNO1684(4月26日)号が、数多くの裁判例も紹介しながらわかりやすく説明されていました。

 PTSDについては、交通裁判からは次第に否定されるケースが多いのですが、それ以外の民事裁判や、刑事裁判については、PTSDについては、比較的容易に認定されているようです。

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2007年4月13日 (金)

高額対人賠償判決例

 自動車保険ジャーナルNo1682号(4月12日号)に、最近の高額対人賠償判決例が紹介されていました。

 名古屋地裁(平成17年5月17日)は、会社員(男性29歳)の後遺障害事案について、3億8281万円の賠償を命じています。

 次いで、大阪地裁(平成18年6月21日)は、開業医(男性38歳)の死亡事案について、3億6750万円の賠償を命じています。

 職業的には、高校生や大学生などの若年者がかなりの割合を占めます。

 また、態様としては、開業医の死亡事案を除き、紹介事例は全て後遺障害事案でした。

 性別は、男性がかなりの割合を占めています。

 対人賠償として、無制限の保険に加入していなければ、一個人では支払えることができるような金額ではありません。

 それにも拘わらず、任意保険に加入しない運転者も、少なくありません。自動車などは日常的に運転するわけですから、万が一、大きな事故を発生させてしまった場合には、民事賠償責任は重く、十分な保険に加入していなければ、刑事事件でも実刑が言い渡されることは少なくありません。

 また、最近は、対物事案でも、高額な賠償が言い渡されることが少なくありません。

 対人、対物賠償保険にはかならず加入し、しかも、賠償額無制限にしておくことを強くお勧めいたします。

 事故が生じてからでは手遅れですから。

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2007年4月11日 (水)

人身傷害補償保険を実額填補を目的とした損害保険であるとするとともに、同保険金支払による保険代位の範囲について判示した事例(大阪地裁平成18年6月21日確定)

 交通事故判例速報No490(平成19・4)(交通春秋社)が、本日、届きました。

 この中で気になったのが、人身傷害補償保険に関する判例です。私の事務所で損保会社からの依頼がある場合、対人賠償の求償事案は、人身傷害補償保険を被害者が契約している場合であると言っても過言ではないです。

 人身傷害補償保険は、平成10年10月に発売された保険で、余り歴史はありません。被保険者の過失の有無にかかわらず、事故の被害者側には、被害者側が契約していた保険契約に基づき、証券記載の保険金額の限度で約款によって算定された保険金が支払われるというものです(判例速報P16)。

 従って、被害者側は加害者側から支払われる損害賠償金が被保険者の過失を理由に減額されても、この保険金をもって過失相殺による減額分を填補することが可能となります。

 大阪地裁の事案は、概ね以下のとおりです。

 即ち、①被害者の民法上の損害額は、約3億5000万円、

     ②被害者の過失は、40%あったため、過失相殺後の損害額は、約2億1000万円、

     ③人身傷害補償保険の保険会社の算定損害金は、約2億7300万円

     ④人身傷害補償保険金として支払われたのは、6000万円

 本裁判で、被害者は、人身傷害補償保険金は、損益相殺されるべきではないと主張したのに対して、加害者は、その全額が損益相殺の対象となると主張しました。

 大阪地裁は、人身傷害補償保険金は、算定損害額のうちの過失相殺部分(算定損害額から民法上の過失相殺後の損害額を控除した部分)に充当され、その残部について代位が生じると判断しました。

 本件事案において、算定損害額は、2億7000万円、過失相殺部分は、約2億1000万円、そうすると、人身傷害補償保険金は、6000万円であるところ、算定損害額から過失相殺部分を控除した金額も、約6000万円であり、残部が生じないから、保険代位は生じないことになります。

 なぜ、このように考えるのかは、判例速報の解説者(山本彼一郎弁護士)は、「保険代位の範囲を制限したこの判示は、保険会社は事故につき被保険者に過失があっても、証券記載の保険金額の限度で算定損害金の全額を被害者側に支払うが、仮に保険会社が支払った保険金の全額について保険代位が生じ、加害者側が被保険者の過失部分も含めた損害金を保険会社に支払わなければならないとすれば、加害者側は保険会社に支払う限度で被害者側に対して負う損害賠償債務を免責されることから、結局、被害者側は加害者側から被保険者の過失相殺後の損害賠償請求全額から更に保険代位をした過失部分の金額を控除した残額しか受け取ることができなくなるという不合理を考慮した」と解説されています(判例速報P18)。 (>_<)

 詳細な解説は、判例速報に譲るとして、妥当な判断だと思います。

 人身傷害補償保険の代位を巡る裁判例は、少ないため、大いに参考になりました。

 被保険者の過失がある場合とない場合で、求償権が存在したりなくなったりし、或いは、被害者の過失の割合によって求償の範囲が異なる事になりますが(加害者側の主張の理由の1つ)、人身傷害補償保険が、実損填補の保険である以上、当然と考えます。

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2007年3月31日 (土)

追突の衝撃は軽微であるが、しびれ等で復職目途立たない不安などから四肢麻痺発症と因果関係を認めつつも、心因性で8割減額された事例(名古屋地裁平成18年10月24日)

 自保ジャーナルNo1680号(3月29日号)で紹介されていた事案(名古屋地裁平成18年10月24日)です。

 被害者の女性は、事故から2か月後転院先で、頸髄不全損傷の傷病名が付加され車椅子、母による食事介助が必要になった案件です。

 裁判所は、頸髄不全損傷については消極的に判断したものの、将来への不安がうつ病に発展して、四肢の感覚異常を発症したものと認めました。労働能力喪失率は、100%、喪失期間は、10年と認めました。

 加害者側は、後遺障害としては14級に止まるとの主張をされたようです。

 他方で、①本件交通事故の衝撃が軽微であったこと(修理代金約13万円)、②被害者の現在の症状は脊髄の基質的な障害によるものでないこと、③鑑定人の意見を考慮して、心因性の素因を考慮して、8割も減額しました。

 そのため、被害者の女性は、2億円請求しましたが、判決では、1100万円強の認容となりました。

 労働能力喪失率が100%ですが、減額率が80%と大きいため、結果的には、大きな金額にはなりませんでした。

 心因性の素因減額を、このように高く認めていいかどうかについては、議論があろうかと思います。

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2007年3月29日 (木)

脳脊髄液減少症診療体制整備を(愛媛新聞)

 今日の愛媛新聞に、脳脊髄液減少症の愛媛患者の会が、県内で診療できる病院がないかどうか、実態調査するよう、愛媛県に対して、要望書を提出したとの記事が掲載されていました。

 この記事によれば、積極的に治療を引き受ける医師は県外にはいるが、通院は身体や経済的にも負担が大きいとして、県内の診療体制充実を訴えたとのことです。

 確かに、私が知る限りでも、以前は、新居浜の病院に専門医がおられましたが、香川県の病院に転勤されたため、現在、愛媛県内には心あたりがありません。

 四国では、高知や、或いは四国に近いところで、福山の病院について、治療が受けられるという話は聞いたことがあります。

 私の知り合いが今治の病院で、脳脊髄液減少症かもしれないと医師に説明された際に、そうであれば、高知の病院を紹介するとか言われたことがあります。(>_<)

 脳脊髄液減少症については、医学界では、まだまだ少数派のようですが、そうだとしても、治療を近くの病院で受けられないというのは、問題だと思いますので、愛媛県内でその治療が受けられる病院があれば、情報公開して欲しいですね。

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2007年3月23日 (金)

むち打ち症以外の12級・14級神経障害における逸失利益算定上の労働能力喪失期間

 (財)日弁連交通事故相談センターが発行している交通事故ニュース(NO18)(3月1日号)に、本部嘱託・専門委員会合同研究会報告として、上記のような興味深い報告がなされていました。

 むち打ち症例の神経症状については、労働能力喪失期間を、後遺障害12級でも5年から10年程度、14級で5年以下に制限する例が多いことはつとに知られるところです。

 それでは、むち打ち症例以外の神経症状については、どのように取り扱われるべきでしょうか?

 これらの裁判例を分析検討しているのが、今回の報告書です。

 抽象的にいえば、後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断されるべきものですが、痛みを中心とするものについては、むち打ち症例に準じることが多いようです。

 運動機能障害が認定される場合には、期間限定は慎重になされているようです。

 現在のところ、田舎弁護士が住んでいる裁判所は、むち打ち症例と同じには考えない傾向にあります。ケースによるのでしょうが・・・

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2007年3月22日 (木)

33歳女子の脳脊髄液減少症12級の請求は、EBP(硬膜外ブラッドパッチ)施行前髄液圧150㎜と起立性頭痛なく否認し、疼痛などを理由に14級認定した事案(大阪地裁平成18年9月27日)

 自動車保険ジャーナル第1679号(3月22日)号で、紹介された事案です。

 事案は、今治花子さんが追突事故に遭遇し、頚椎腰痛捻挫から、脳脊髄液減少症を発症し、3か月入院、28か月通院し、12級12号の後遺障害を残したとして、訴えを提起した事案です。

 裁判所は、脳脊髄液減少症の有無を考慮するに際して、重要な兆候としての意味をもつ起立性の頭痛が花子さんにみられないことから、脳脊髄液減少症は否定し、疼痛、運動困難、めまいなどを考慮して、局部に神経症状を残すものとして、14級を認定しました。

 なお、脳脊髄液減少症であることを前提として治療費については、損害を否定しました。この点は、以前ご紹介した福岡高裁の判断とは異なっています。

 以上の大阪地裁平成18年9月27日の判例は、控訴されました。

 なお、本事案では、胸郭出口症候群の主張もされていました。胸郭出口症候群とは、ものの本によれば、胸郭出口における神経や血管の圧迫に基づく一連の症候群をいい、胸郭出口を通る鎖骨下動静脈や腕神経叢由来神経が圧迫されることがあり、頚肋のあるときに本症候群が発生しやすいとされ、症状としては、上肢の痺れ、疼痛、易疲労性があり、上肢の過外転によって症状が誘発され、診断は上肢過外転時の暁骨動脈拍動消失によってなされるとされています。

 裁判所は、脳脊髄液減少症の患者は、胸郭出口症候群となる例が多いという原告の主張は、これを認めるに足りる客観的な証拠がないと判断して、退けました。

 整形外科の先生は、近時の脳脊髄液減少症について、否定的な見解の先生が多いですが、他方で、患者さんの中には、ブラッドパッチで救われたという方も少なくないようです。

 なかなか難しい問題ですが、可能であれば、できるだけ早期に、医学界の統一的な見解を期待したいと思います。

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2007年3月21日 (水)

2006年度弁護士医療セミナー((社)日本損害保険協会)

 昨日、損保協会主催の弁護士医療セミナー(福岡)に参加しました。

 会場は、アクロス福岡の国際会議場でした。

 テーマは、外傷性頚部症候群の難治例で、講師は、けいゆう病院の鎌田医師でした。

 前半は基礎知識の説明、後半は、2つの症例検討でした。

 基礎知識では、個人的に興味をもっている頸椎の角状後弯についても、説明されていました。慶応大グループの研究会の発表により、30歳代の健常者の女性に、角状後弯が既往症として生じている場合が少なくないのですが、そうすると、既往症の角状後弯と交通事故を原因とする角状後弯との区別がつきにくいことから、実務上問題になることがあります。まさにこの問題についての触れられていたので、参加してよかったです。最後の質疑応答でも、先生からは、わかりやすくご回答していただき、疑問も解消しました。

 1、頚部の解剖と生理、2病態および病型分類、3診断 4治療 5慢性化、6関連疾患という順にとりあげられました。

 私は医学については全くの素人であるため、医療がからむ裁判はいつも悩んでいますが、このような研修に参加できることは非常に有益であり、勉強になります。

 数年前に、伊豆の宿泊を伴う研修の際に、知り合った損保協会のスタッフの方と、数年ぶりに感動の?再会をしました。その方からのお話によれば、伊豆の弁護士研修は、しばらくないようです。残念です。

 田舎では、いろんな相談があり、また、弁護士の数が比較的少ないことから、どうしても、弁護士の取り扱い業務は広く浅くにならざるを得ませんが、それでも、浅いばかりでは、依頼人からも不安に思われるでしょう。同じ浅さでも、みずたまりではなく、せめて、池くらいの深さを持ちたいものです。(^_^;)

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2007年3月12日 (月)

低髄液圧症候群に関する福岡高裁平成19年2月13日

 あの有名な福岡地裁行橋支部の平成17年2月22日の判決に対する福岡高裁の控訴審判決が、平成19年2月13日にありました。

 交通事故判例速報No489(交通春秋社)には、安田正俊弁護士によって、極めてわかりやすい説明がされていましたので、以下、それを参考に説明します。

 低髄液圧症候群の診断基準として、「従来の定説である国際頭痛分類(ICHD-Ⅱ)に従うべき」か、それとも、「近時新たに提唱されている脳脊髄液減少症の審査に及ぶべきか」という問題がありました。

 これについては、脳脊髄液減少症については、それに伴うとされる多種多様の症状と脳脊髄液の減少との関係が不明であること、他の病気(例えば、頚椎捻挫)との区別が不可能という理由により、消極的な立場をとりました。

 そして、従来の定説を前提に、起立性頭痛がなかったことなどから、低髄液圧症候群を否定しました。

 控訴審判決であり、今後、同種の低髄液圧症候群に関する損害賠償実務に対する影響も大きいものと思われます。

 なお、控訴審は、治療費について、「原告は、自らの症状を訴えて、各医療機関を受診しただけであって、低髄液圧症候群との診断をしてその治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、原告が現にその関係の治療費を支払っている以上、それを安易に減額することは相当でない」と判断し、低髄液圧症候群の治療費の大半を認めています。

 速報の解説者の解説を引用すれば、「加害者が低髄液圧症候群に関する治療費についても賠償責任を負うべきとする法的根拠をも明らかにすべきであった」とされています。

 ~本件事案の治療の経過~

 平成15年2月8日 交通事故発生

 2月10日から3月17日まで、甲病院に頚椎捻挫等で通院加療

 3月24日から、乙病院に通院し、頚椎捻挫と判断

 4月16日から、丙病院に入通院し、低髄液圧症候群等と判断

 8月25日から、丁病院に通院

 9月26日から、戊病院に入通院

 10月26日、A医院において、低髄液圧症候群等と判断 

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2007年3月 5日 (月)

相次ぐ、低髄液圧症症候群(脳脊髄液減少症)を否定する判例

 平成19年3月1日発行の自動車保険ジャーナルは、交通事故を扱う(加害者・被害者側ともに)弁護士にとって、購入しておかなければならない判例が搭載されていました。

 福岡高裁は、「低髄液圧症候群を認めた」あの有名な福岡地裁行橋支部の判決(平成17年2月22日)を変更して、低髄液圧症候群を否定し、外傷性頚部症候群として認定し、症状の長期化は、心因性要素として、5割減額を適用しました(平成19年2月13日)。

 この控訴審の判例については、吉本智信医師が解説されており、今回の判決で最も重要な点は、脳脊髄液減少症2006の診断基準である3つの診断基準(3つの診断基準の内容については、自保ジャーナルで確認してください。)に近い基準で診断された患者を、RI(ラジオアイソトープ)の早期膀胱排泄、RIの早期体外排泄、脊髄周辺のもやもや画像だけでは、髄液漏とは言えないと明記している点ですと、説明されています。

 また、同ジャーナルには、前橋地裁桐生支部のケースも紹介しており、この判例は、造形検査、起立性頭痛がないことを理由に、脳脊髄液減少症を否定しています(平成18年12月25日)。

 今後、低髄液圧症候群が医学界でどのように扱われるのが、注視していく必要がありそうです。

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2007年1月13日 (土)

低髄液圧症候群

 近時、交通事故賠償において、被害者の方から、低髄液圧症候群に罹患したとの主張がなされることが多くなりました。

 低髄液圧症候群は、昔から知られていた病態でしたが、最近になって、篠永教授が遷延した鞭打ち損傷が、低髄液圧症候群であるとの発表をしたことがきっかけとなって、マスコミにより、低髄液圧症候群と交通事故が大きく関連づけられた報道がなされました。

 民事裁判において、被害者の方からは、自己の症状について、低髄液圧症候群であると主張し、他方、加害者側保険会社は、交通事故と低髄液圧症候群との因果関係などを否認していることから、交通事故賠償の大きな争点になっています。

 そして、福岡地裁行橋支部や、鳥取地裁は、低髄液圧症候群との因果関係を認める判断をしており、他方、それを否定する判例も多いことから、個別の裁判官により、その取り扱いが大きく異なっているのが現状です。

 このように大きな争点になっているにもかかわらず、交通事故と関連する低髄液圧症候群の医学論文は、あまりみあたらなく、この症例を裁判で扱う弁護士も、困っていたというのが現状でした。

 今回、㈱自動車保険ジャーナル(この会社からは、定期的に交通事故の裁判例を紹介した新聞が届きます。)から、精神医学と賠償シリーズ③として、「低髄液圧症候群~ブラッドパッチを受けた人、または、これから受ける人へ」という書物が、発行されました。

 但し、論者は、拡大された低髄液圧症候群については、懐疑的な立場をとっていますが、概念やブラッドパッチに対しては基本的に賛成しているので、交通事故当事者双方にとって参考になるものと思います。

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2007年1月10日 (水)

シートベルトは、しめようね

  交通春秋社発行の「交通事故判例速報」NO487(平成19年1月号)には「助手席に同乗していた被害者について、乗車中の態勢等を理由に賠償額を減額した事案」(横浜地裁平成18年5月26日)が紹介されていました。

 この判例は、同乗していた被害者の傷害の部位及び程度に照らして、被害者がシートベルトを装着せず、両足をダッシュボードに乗せる格好で助手席に座っていたことが、本件事故による被害者の負傷の程度を大きくしたものと考えられるからという理由により、5%の過失を認めました。

 解説者によれば、裁判例では、助手席に同乗していた者について、シートベルトを装着していれば、交通事故による傷害結果が重大にならなかったと認められる場合、損害額につき、おおむね10%程度の減額が認められることが多いとされています。

 同乗者も、きちんとシートベルトを装着しなければ、過失として評価されることがありますので、きちんとシートベルトを装着しましょうね。

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  (追記)

 旬刊金融法務事情(No1791平成19年1月5日15日)は、信託法関係の記事が多く、難解でしたが、特集2として、インターネットバンキングの現状と課題については、大いに参考になりました。

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2006年12月19日 (火)

内縁の妻の損害賠償請求

 交通事故判例速報No486H18・12(交通春秋社)で、内縁の妻の損害賠償請求に関連した下級審の事例を紹介していました。

 交通事故により死亡した今治太郎さんには、法律上の妻和子さんと、内縁の妻花子さんがいました。

 今治太郎さんが死亡したため、花子さんは、太郎さんと一緒に経営していた焼き鳥店を閉店せざる得なくなったことによる損害、死亡逸失利益、慰謝料の支払いを求めました。

 これに対して、東京地裁(平成18年2月7日)は、以下のとおり判示しました。

 閉店せざるえなくなった損害については、本件交通事故の1年前から身体の不調により太郎さんが行っていた業務は少なく、代替性もあるとして、その請求を否定しました。

 死亡逸失利益についても、これ自体は花子さんは相続人でないことから請求できないが、扶養請求権の侵害による損害賠償は請求できるところ、内縁の配偶者がこれを請求できるためには、①太郎さんに扶養能力があること、②請求者が要扶養状態であることが必要であるところ、本件では、これらの要件を充足しないとしました。

 慰謝料についは、花子さんに、600万円の慰謝料を認めました(これは比較的高額だと思います)。

 しかし、結局、慰謝料以外には、花子さんの請求は退けられたのです。

 私もこのようなケースを何度も相談を受けたことがありますが、その都度、花子さん的立場の方からは、納得してもらえず、また、私の方も、難しい請求であることを了承していただけない限り、後でのトラブルをおそれるため(敗訴するとクレームがあることが多いです。)、受任することができないため、かなり気まずい思いをすることもたびたびでした。

 内縁の妻の方の場合には、やはり、公正証書遺言を太郎さんに書いてもらっておくべきなのでしょう。遺留分があるため、完全とはいえませんが、それでも、ダイブましにはなります。

 このようなことに気づかない男が悪いのかもしれませんが・・・

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2006年11月25日 (土)

偶然性の立証(車両保険)

 このブログでも、何度か、ご紹介させていただいた事案です。

 判例時報平成18年11月21日号(N01943号)に、搭載されていましたので、再びご紹介いたします。

 しまなみ太郎さんとしまなみ次郎さんが、今治損保との間で、自動車保険契約を締結しました。

 後日、しまなみ太郎さんが、その所有する車両が、海中に水没する事故が発生しました(①事案)。

 また、しまなみ次郎さんも、その所有する車両の表面に傷がつけられる事故が発生しました(②事案)。

 そこで、しまなみ太郎さんとしまなみ次郎さんは、今治損保に対して、車両保険契約に基づき、保険金の請求を行いました。

 この請求に対して、今治損保は、「偶然な事故」の立証がないとして、支払いを拒絶しました。

 ①の事案も、②の事案も、地裁及び高裁は、偶然性の立証は、しまなみ太郎さんとしまなみ次郎さんが負担することを前提に、保険金請求を認めませんでした。

 これに対して、最高裁は、①及び②の事案において、偶然性の立証は、火災保険と同様に、保険金請求者は立証責任を負わないと判示しました(①について、平成18年6月1日、第1法廷、②について、平成18年6月6日、第3法廷)。

 保険会社にとっては、故意による事故招致であることを立証しなければならず、その負担は大きいものと思います。

 実務上、車両の盗難案件もよくみられますが、盗難案件も、同様に考えられるとすれば、保険実務上、何らかの形でその対策を講じていかなければならないものと考えます。

 反面、これまで、その調査能力の点などから、泣き寝入りを強いられていた善良な消費者にとっては、朗報であるといえます。

 近時の最高裁判例は、金融機関に厳しい態度をとっているように思えます。

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2006年11月18日 (土)

脳脊髄液圧減少症に対する動き

 今日の日経新聞によれば、脳脊髄液圧減少症を研究している医師グループが、苦しんでいる患者の治療に役立てて欲しいという理由により、厚生労働省疾病対策課と医療課を訪問し、暫定ガイドラインを、提出したと報じられていました。

 また、毎日新聞によれば、文部科学省は、髄液漏れの存在について幼稚園から大学までの学校現場に広く周知することを決めたということが報じられていました。

 「2006年改訂版新示談交渉の技術」(書籍・交通事故で紹介しています。)によれば、低髄液圧症候群(脳脊髄圧減少症)については、その診断基準、ブラッドパッチの実績基準などについていまだ医学的に確立しておらず、現場の混乱を招いていると、指摘されています。

 暫定ガイドラインについては、私は全く把握しておりませんが、暫定ガイドラインを明示することにより、医学界で大いに議論され、脳脊髄圧減少症が、医学的に確立されれば、交通賠償の現場の混乱も招くことが少なくなるため、交通事故を少し扱っている私にとっても、助かります。

 脳脊髄圧減少症についての、代表的な書籍は、書籍・交通事故で、紹介させていただいております。興味のある方は、購入されたらいかがでしょうか?

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2006年11月13日 (月)

飲酒運転車両に同乗していた被害者が、加害者からの依頼で、保険会社に虚偽の報告をしたことが、共同不法行為とされ、保険会社に虚偽の報告をしたことが、共同不法行為とされ、保険会社に対する損害賠償責任が認められた事案(交通事故判例速報No485・大阪地裁H17・9・21)

 事案は、以下のとおりです。

 太郎さんが、知人の花子さんと一緒に飲酒した後、太郎さんの運転する車両に同乗して、太郎さんの過失により、花子さんが怪我をしたというケースです。

 花子さんは、太郎さんの任意保険会社である今治損保会社に、保険金請求をしましたが、その際に、損保に対して、太郎さんからの依頼で、飲酒はしていないという虚偽の事実を告げました。

 そのため、損保は、花子さんに対して、保険金を支払いましたが、後日、嘘が発覚し、損保は、花子さんと太郎さんを共同被告として、支払った保険金を返すよう裁判を提訴しました。

  大阪地裁(平成17年9月21日)は、

 故意の虚偽通知を重視して、損保を免責と判断しました。

 本件では、おそらく、飲酒の事実を告げておれば、一定の過失相殺はされるものの、保険金自体は支払われる事案だったと思われるため、花子さんは、嘘をついてしまったため、大きな代償を支払われる結果となりました。

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2006年10月10日 (火)

(財)日弁連交通事故相談センター 交通事故相談ニュース(10月1日号)

 日弁連から定期的に交通事故相談ニュースという刊行物が送られてきます。

 10月1日号は、「これまでの障害認定基準改訂の流れ」を簡単に説明されている報告書が載っていました。

 ①高次脳機能障害の基準の新設、②中枢神経の障害による麻痺の評価の明確化、③非器質性精神障害の評価基準の変更、④てんかんの評価基準の変更、⑤RSDの明記等々です。

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2006年9月25日 (月)

交通事故の被害者がうつ病に罹患して自殺した場合、事故と自殺との間の因果関係が認められたが、民法722条2項を類推適用して賠償額が5割減額された事例(名古屋高裁H18・4・7)

 判例時報H18・9・21号(1936号)で紹介されていたケースです。

  Aさんは、平成12年、Yが運転する自動車に衝突される交通事故にあい、頚髄損傷の傷害を負いました。

 平成14年5月、Aさんは、後遺障害等級3級の後遺障害を残しましたが、12月に、自殺をしました。

 Aの相続人は、Yに対して、Aの自殺は交通事故に起因するとして、Aの死亡による逸失利益、慰謝料、葬儀費用を請求しました。

 第1審は、Xの請求を認容したので(☆なぜか、Yは、第1回口頭弁論に欠席したことにより、欠席判決を受けているようです。Yさんは、任意保険に入っていなかったのだろうか?よくわかりません。)、Yは、事故と自殺との因果関係を争うため、控訴しました。

 控訴審は、最高裁H5・9・9の判例(交通事故と自殺との間に因果関係を認めた上、自殺について被害者の心位的要因の寄与により損害賠償額を減額するという手法)を、踏襲し、50%減額しました。

 ☆控訴審の判決文も比較的分量が少ないため、控訴審も比較的短時間で終了したのかもしれません。

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 雑談

 小松亀一先生のHPの記事に、新司法試験では、平均点よりもはるかに低い点数の者でも合格していることが紹介されていました。そうだとすると、大きな問題点を含んでいるなと感じました。法曹の能力の均一性を求めるのであれば、平均点以上の点数を合格点とすべきではないかと思います。

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2006年9月12日 (火)

好意同乗減額に関する近時判例の傾向(交通事故判例速報No483 H18・9)

 好意同乗については、交通事故の賠償実務上、結構、問題になります。

 好意同乗については、危険承知型、危険関与増額型、運行供用者型のような場合であればともかく、単なる便乗・同乗型の場合には、減額されることはありません。

 昔、単なる便乗同乗型のケースで、好意同乗として、減額を主張してきた保険会社がいましたが、驚いたことがあります。

 また、減額を主張できる者としては、好意同乗の同乗車両の運転者だけではなく、それ以外の加害者も主張できるのかという論点があります。

 これについても、訴訟で問題となったことがありますが、通常は、消極的に解されるべきなのでしょう。

 ただし、積極的に考える見解も、平成2年度版の赤い本で紹介されているようです(速報解説弁護士安田正俊先生)。

 感覚的には、難しそうですけどね。

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2006年8月10日 (木)

右眼網膜中心静脈閉塞症の既往を持つ被害者が事故後に右眼失明に至ったことと交通事故との因果関係を認めた事例

 交通事故判例速報NO482(H18・8)(交通春秋社)に、地裁と高裁とで、右眼網膜中心静脈閉塞症の既往症をもつ被害者が交通事故後に、右眼失明に至ったこととの因果関係の判断が大きくわかれた判例が紹介されていました。

 事案は、以下のとおりです。

  Xさんは、平成12年8月中旬ころから、右網膜中心静脈閉塞症を発症し同病の治療のため9月から入院通院歴があり、事故直前には、右眼は、視力が0.01になっていました。

 平成13年2月22日早朝、Xさんは交通事故にあい、当日朝は救急外来を受診したのみで、夕方になり、右眼に異変を感じたため、眼科を受診し、4月1日には、失明するに至りました。

 自賠責保険会社は、8級の既存障害ありとして、加重障害に至らないことから、加重非該当と判断しました。

 因果関係について、地裁は、否定し、高裁(大阪高裁H18・3・30)は、肯定しました。

 判断をわけたのは、被害者が外傷性虹彩炎になったと認定するかどうかという点に集約されました。

網膜中心静脈閉塞症 この病気は、眼球につながる静脈がつまるため、毛細血管を経てこれと通じている、網膜へ栄養と酸素を供給する動脈の流れが悪くなることにより、視力をだす網膜(黄班部)の栄養状態が悪くなりその機能である視力が徐々に下がるという病気です。この病気は、新生血管緑内障になる場合があり、そうなると眼圧があがり視神経がダメージを受け失明(高覚弁マイナス)に至ってしまうとされています。 

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2006年7月23日 (日)

自分の血で破れ目ふさぐ(讀賣新聞7月23日)

 今日の読売新聞のくらし面に、脳脊髄液減少症を紹介した記事が載っていました。わかりやすく説明されていました。

 この症例がクローズアップされるようになったのは、交通事故や転倒などにより、明らかな体の不調が続いても、その原因がはっきりせず、多くの人が困っていました。

 そうした患者の中には、脳脊髄液が漏れて、さまざまな症状を起こしているケースがかなりあることに、脳神経外科医の篠永正道医師が気づき、2000年ころから提唱しました。

 脳脊髄液減少症の内容については、すでに、このブログでも紹介しているところです。

 この症例については、医療界での認知も不十分ですが、2003年2月に、医師らによる脳脊髄液減少症の研究会が発足し、診療指針の作成も進められております。

 今後は、同症例の客観的な診療指針が作成されることに期待したいです。

 同症例の診療をしている医療機関は、近いところで、国立福山医療センター(広島県)が紹介されていました。

 損保会社からは現在でも同症例についてはきわめて懐疑的ですが、医療界で認知されるようになれば、交通事故賠償の実務においても、無用なトラブルを回避されることにつながるでしょう。

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2006年7月10日 (月)

消滅時効の援用と信義則違反?

 交通事故判例速報No481(H18/7)に紹介されていた事案です。

 平成3,4年頃、Xさんが交通事故に遭遇しました。

 平成7,8年ころ、Xさんは死亡しました。

 平成10年12月ころ、Xさんの遺族は、弁護士甲先生を代理人として、選任し、加害者側の保険会社は、甲先生に対して、FAXで、平成11年3月31日までに、死体検案書、戸籍謄本、弁護士委任状の取り付けを依頼し、その際に、加害者から消滅時効の主張が出ていることや、期間内にとりつけできない場合には、請求権の放棄と判断する旨、告げました。

 平成12年12月ころ、弁護士甲先生は、FAXにて、保険会社に対して、今後の手続きの進め方等についてという書面を送信しました。

 翌日、保険会社は、平成10年12月ころと同じ書面を再信しました。

 平成15年後半ころ、Xさんの遺族は、裁判を提訴しました。

 なお、弁護士甲先生は途中で病気のため死亡しております。

 これに対して、被告は、消滅時効を援用しました。

 ここからが問題ですが、消滅時効に必要な期間(3年)は既に経過しております。とはいっても、信義則に違反する場合には、援用が認められない場合はありうることです。

 裁判所は、原告側が委任した弁護士の長期入院死亡という同情すべき点はあるが、

 ①その間に、提訴によって消滅時効をとめる手段が妨げられたとはいえないこと、

 ②保険会社は原告側から必要な書類が提出されないために検討も交渉もできなかったこと、

 ③事故と死亡との因果関係を証明する診療録は保存期間の経過により処分されていること

 を理由に、消滅時効の援用を認めました(東京地裁平成18年3月15日判決・週間自動車保険新聞2006・6・14)。

 やはり、弁護士に依頼しているから、安心というわけではなく、適宜、別の弁護士に相談するなどの措置が必要であったと思います。特に、交通事故から3年近くを超えるような案件については、被害者の方も十分に注意された方がいいかと思います。

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2006年6月24日 (土)

自家用自動車総合保険契約の記名被保険者が胎児であった時に発生した交通事故により出生後に傷害を生じその結果後遺障害が残存した場合における同契約に無保険車傷害条項に基づく保険金請求の可否(最高裁H18・3・28第三小法廷判決)

 交通事故当時、甲さんは、妊娠34週目でしたが、緊急帝王切開手術を受け、重度仮死状態で出生し、重度の後遺障害(第1級)が残ってしまったという極めて痛ましいケースです。

 このケースは、しかも、加害者が任意保険に加入していないため、甲さん側と保険会社との間の自家用自動車総合保険契約(無保険車傷害条項)に基づき、甲さん側が加入している損保会社に対して、保険金請求を行ったものの、損保会社は、事故当時胎児であった者に生じた傷害は本条項の対象とはならない(記名被保険者の同居の親族とはいえない)として、保険金の支払いを拒絶しました。

 最高裁は、胎児も、記名被保険者の同居の親族に準ずる者として保険金請求が認められると判断しました(判例時報NO1927 平成18年6月21日号)。

 胎児であっても、民法721条により、不法行為の損害賠償請求は可能です。また、無保険車傷害条項は、相手自動車が無保険自動車であって十分な損害のてんぽを受けることができないおそれがある場合に支払われるものであって、賠償義務者にかわって損害をてんぽするという性格のものです。

 このことからすれば、最高裁の判断は、極めて正当であると思います。

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2006年6月23日 (金)

㈱自研センター 弁護士コース

 ㈱自研センター(千葉県)主催の、2日かがりでの交通事故物損案件の研修を受講するため、水曜日から、上京していました。

 その前に、約10年ぶりに、元三鷹市会議員のT氏と再会し、いろいろとおもしろい話を聞くことができました。私の学生時代の行きつけの美容院Wに、T氏は相変わらず行っているとか。まあ、彼の髪質は、ダイヤモンドのように堅いから、Wくらいしか、対応できないのかもしれないが・・・

 自研センターでは、修習同期の弁護士も受講しており、司法修習時代に戻ったような錯覚を受けました。 060623_12260001

 自研センターについては、以前、このブログでも説明しましたが、主として、物損関係を研究研修する機関になっております。HPもありますので、興味のある方は、検索して探してみてください。

 ここでは、弁護士コースとして、自動車の概要、自己態様の整合性、バリヤ衝突実験見学、舗装塗装の概要、事故車の復元修理技法、評価損などの研修を受けました。

 その中でも、バリヤ衝突実験見学というのは、非常に有意義な研修となっております。なんせ、実際の車を衝突させて、衝突の状況や、修理復元の過程を実際にみることができるのですから。

060622_14010001  ← これは、衝突前の車です。ドアは実験のために事前に穴をあけております。

 

 

060622_14180001_1 

 ← これは、衝突後の車です。時速約35キロでの衝突実験です。

060623_11260001_1 ← ばらしているところです。

060623_11180001  ← エンジン部分です。使い物にならない。あ~もったいない。

060623_10280001  ← 塗装しているところです。

 衝突の状況を動画で撮影したんですが、うまくPCにファイルを送ることができませんでした。残念。

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2006年6月16日 (金)

自賠責保険金の充当に関する最高裁判例

 自賠責保険金は、損害賠償金元本に充当されるのか、それとも、遅延損害金に充当されるのかという問題は、一昔前は、損害賠償金元本に充当されるという考え方が強く、実務上のそれで運用されていたと思います。

 しかし、逸失利益の計算にあたって、中間利息の控除率を年5%という高金利で控除されている現状からすれば、その均衡からいっても、遅延損害金に充当させて元本の目減りを最小限にとどめる作業は、交通事故の被害者側代理人弁護士にかせられた使命であると考えます。

 平成16年12月20日の最高裁判例は、問題提起に対する回答としては、まず、遅延損害金に充当されるとの見解を示しました(交通事故判例速報NO480、交通春秋社)。

 しかし、現在でも、この判例に気づかない被害者側代理人弁護士がいますが、今では、弁護過誤と評価しうるのではないだろうか?   他方で、従来の慣行のように、当然のように、自賠責保険金を元本に充当した計算書を提示する損保会社も中にはあるが、これは、知って提示していれば、問題でしょう。

 交通事故は、後遺障害等級が11級以上であれば、費用と手間をかけても、訴訟で解決した場合が、被害者にとって有利な場合が多いと思います。赤い本という損害賠償のバイブル的な書物があるのですが、大手民間の損保は比較的赤い本にそった解決が示談で図れるところもありますが、多くの損保・共済は、今でも赤い本の基準に抵抗感を示しすところがありますね。ひどいところだと、自賠基準で賠償を提示するところもあります。そんな所でも、赤い本の過失割合表は、使ってくるのにね・・・・ このような会社や共済については、訴訟を提訴して、赤い本に基づく賠償(当然、年5%の遅延損害金も)を支払ってもらう必要があります。

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2006年6月 3日 (土)

脊椎脊髄ジャーナルN05 三輪出版

 低髄液圧症候群(脳脊髄圧減少)に関して、専門医から、最新の動向について、解説している専門誌があったのでご紹介いたします。

 特集として、低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)は本当に外傷により発生するのか?というテーマで、座談会が、くまれていました。

 篠永医師も参加されていましたが、座談会の結論としては、外傷によって脳脊髄液減少症というのは起こりうるが、それは、むち打ち症と直接結びつけられていないという結論に達したようです。

 また、硬膜下自家血注入(EBP)についても、安易な施行について、危惧感を持っている意見もありました。

 確かに、マスコミで大きく取り上げられたため、むち打ち症=低髄液圧症候群と考える被害者の方が、私の扱った事件でも多かったように思います。

 この認識自体は誤りということが再認識できましたが、他方で、私が扱った案件で、EBPの施行により、症状が軽くなったという被害者の方もおられましたので、むち打ちがその原因の1つである可能性もあるのではないかと思います。

 いずれにしても、専門家でも大きく意見が対立しているところであり、私のような門外漢には、十分に理解できるところではありません。担当する裁判官も大変だろうな。