2008年11月28日 (金)

【交通事故】 最近の低髄液圧症候群の裁判例

 自保ジャーナルNo1760号(平成20年11月27日号)で紹介されている裁判例です。

 45歳女子12級脳脊髄液減少症請求は、低髄液圧症候群とは別個の病態であり、既往症の継続・再発として、因果関係ある損害を6か月分、5割の素因減額をした事案です。 

 民事裁判編・消極判例・地裁判例⑮で紹介しています。

民事判例編 

積極的判例

 (地裁判例)

 ① 横浜地裁・平成20年1月10日 自保ジャーナル第1727号(→控訴審東京高裁平成20年7月31日)

 (概要)

 ①の裁判例は、乗用車を運転して交差点を直進中、対抗右折乗用車に追突され、頭部打撲等から低髄液圧症候群を発症したとする事案です。裁判所は、被害者に、激しい起立性頭痛等があり、副作用の強いホルモン剤等服用しても改善しませんでしたところ、ブラッドパッチ療法で仕事ができるまで改善されたことなどから、原告は本件交通事故後に低髄液圧症候群に罹患したと認定、17ヶ月後に治癒したと認められた事例です。 

 消極的判例

 (地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 ※控訴審東京高裁平成20年4月24日

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 ⑪ 東京地裁・平成20年2月28日(合議) 自保ジャーナル1727号 判例時報No2014号(控訴中)

 ⑫ 横浜地裁・平成20年1月30日 自保ジャーナル1727号

 ⑬ 神戸地裁・平成19年4月26日 自保ジャーナル1727号

 ⑭ 静岡地裁浜松支部・平成19年12月3日(裁判官・酒井正史・矢作泰幸・神原文美) 判タNo1273号

 ⑮ 広島地裁・平成20年10月30日(橋本良成・佐々木亘・西田晶吾) 自保ジャーナル1760号

 (概要)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

  ⑪の裁判例は、乗用車を運転、停車中に乗用車に追突されて、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症したと主張される29歳男子につき、頭痛訴えが事故1年4か月までに1回であり、国際頭痛学会の低髄液圧症候群からも耳鳴りの訴えが1年4か月後であり、典型的症状の起立性頭痛がなく、原告が低髄液圧症候群を発症したと認めるに足りる証拠はないとして否認されました。

 原告は、医師が、(1)原告が本件事故後により難治性の後頸部痛及び頭痛が持続し、平成15年10月23日の初診時にも、上記症状を訴え、夕方になると症状が悪化すると訴えたこと、(2)頭部造影MRIにより円蓋部での大脳の下垂及び小脳扁桃の下垂が認められたこと、(3)同年11月25日でのRI脳槽シンチグラフィーにより髄液の腰部での早期漏出が認められたことを根拠に、低髄液圧症候群であると確定診断されたことを理由に、低髄液圧症候群を主張していました。

 ⑫の裁判例は、自転車を押して歩行横断中、停車しようとした乗用車に軽く衝突されて転倒、腰部打撲等から約1年の症状固定後低髄液圧症候群を発症、12級神経障害を残したとして主張された案件です。裁判所は、発症は、2年後であり、特徴的な症状である継続的な頭痛がほとんどない他、更年期障害、心因的症状の重複で、低髄液圧症候群は本件事故との因果関係はないと否認しました。

 ⑬の裁判例では、裁判所は、7歳男子の低髄液圧症候群等は頭を打っておらず、3日後運動会参加、バットで頭部打撲等から原因不明とし事故との因果関係を否認しました。

 ⑭の裁判例では、鑑定人が、低髄液圧症候群の発症を認めていたにも拘わらず、裁判所は、(1)低髄液圧症候群につき、病態が明らかでなく、診断の際には、頭痛等の多彩な症状と、画像診断(頭部MRIによる髄液減少所見及びRI脳槽シンチグラフィー、腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見)とが重要であるとされているものの、いまだ診断方法は確立されていないという医学的知見を前提に、(2)本件において、頭部MRIにおる髄液減少所見及び腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見は認められないこと、(3)Xの症状は、低髄液圧症候群の症状に一致するものの、外傷性頸部症候群の症状とも類似しており、外傷性頸部症候群である可能性を払拭できないこと、(4)A医師とは別の医師が、Xの症状はXの低血圧に由来すると診断していることなどから、A医師の診断及び鑑定結果は採用できないとして、低髄液圧症候群の発症を認めませんでした。※1鑑定が肯定されていても、判決は否定しています。※2治療費についても、症状固定後の治療費として原則として因果関係を否定としながらも、病院が低髄液圧症候群と診断したことなどを理由に、ブラッドパッチなどの治療費を認めています。これって、加害者側保険会社は、病院に請求できるのでしょうかね。 但し、他方で、寄与度減額として3割を減じています。

 ⑮の裁判例では、(1)脳脊髄液減少症には起立性頭痛がないのがほとんどで、低髄液圧症候群と脳脊髄液減少症とは別個の病態であると認定、(2)45歳女子会社員原告が12級脳脊髄液減少症と診断された事案につき、脳脊髄液減少症のメカニズム・病態は現時点では全く不明であり、脳脊髄液減少症の病態が存在すること自体疑わしい上、慢性気管支炎、膠原病等多彩な症状で受診、本件追突事故前年まで、疾病のため、就業時間を短縮していたことに加え、診断したC医師の経験と感覚ということ以外に客観的裏付を見い出すことができない等、原告の症状は既往症が継続し又は再発したと認定、(3)通常の頚椎捻挫は3か月ないし6か月で完治するとし、原告の本件事故と因果関係ある治療期間につき、6か月で認定、既往症で5割減額を適用しています。

 本件交通事故は、平成13年4月29日、提訴は、平成16年、判決言渡期日は、平成20年10月という経緯をみると、なんとも大変な事件だなという印象を受けます。「頚椎捻挫」がらみは、紛争が法的に解決するまで相当長期間かかるケースも少なくなく、どちらの当事者の代理人になっても、非常に疲れることが多いです。

 (高裁判例)

 積極的判例 

 ① 東京高裁・平成20年7月31日 自保ジャーナルNo1756号

 (概要)

 事案は、横浜地裁平成20年1月10日のとおりです。加害者側が、原審及び控訴理由書にて、「髄液減少症」が発症したことを認めてしまい、後日、自白を撤回しようとしたものの、撤回の要件を欠くとして、自白した状態で認定されてしまったなんとも理解しがたいような内容です。

 解説者も、杉田雅彦弁護士も、「本判決はX・Y双方において医学的各争点について十分に争われた事案ではないので、先例的な価値は余りない」と説明されています。 

 消極的判例

 ① 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

 ② 東京高裁平成20年4月24日 自保ジャーナルNo1756

  (概要)

 ①の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたものの、他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。 

 ②の裁判例は、「事案の概要」によれば、「当審においては、本件事故により低髄液圧症候群が発症したとの点に関する原判決の判断(消極)については敢えて争わず」と記載されていることから、控訴審で、低髄液圧症候群の発症については、十分な議論は尽くされていないようです。

刑事判例編

 消極的判例

 ① 平成20年4月21日 福岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507

 ② 平成20年5月19日 静岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507   

(概要)

 ①の裁判例は、検察官が「加療約5年以上の頭痛、頸部痛、視力低下及び集中力・記憶力低下などの障害を伴う外傷性脳脊髄液減少症の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、検察官指摘の他覚的所見については、医師の意見がわかれていること等に鑑み、他覚的所見を全て否定し、客観性に疑問が残るとして、被害者が低髄液圧症候群であることを否定しました。

 ②の裁判例は、検察官が「加療約2185日を要する脳脊髄液減少症等の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、国際頭痛分類の低髄液症候群の診断基準にも、新たに提唱された脳脊髄液減少症の診断基準にも該当しないと判示して、従来の低髄液圧症候群であることも否定しました。

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2008年11月25日 (火)

【交通事故】 Aが運転しBが同乗する自動二輪車とパトカーとが衝突しBが死亡した交通事故につき、Bの相続人がパトカーの運行供用者に対して、損害賠償を請求する場合において、過失相殺するに当たり、Aの過失をBの過失として考慮することができるとされた事例(最高裁平成20年7月4日)

 判例タイムズNo1279(2008年12月1日)号で紹介された最高裁判決です。

 AとBは、事故当日の午後9時ころから、友人ら約20人と共に自動二輪車3台、乗用車数台に乗って暴走行為を繰り返し、AとBも、本件自動二輪車に二人乗りをして、交代で運転しながら走行していたという事案です。

 原審(広島高裁岡山支部)は、

 本件パトカーの運行供用者であるYに自賠法3条に基づく損害賠償責任を認めた上で、Aには前方注視義務違反及び制限速度違反の過失が、Bにはヘルメット着用義務違反及びAとともに暴走行為をして、パトカーに追跡される原因を作ったという事情があることを考慮して、A、B、Cの過失割合を、6、2、2としながらも、Bとの関係では、AとCの共同不法行為であり、ABには身分上、生活関係上の一体関係はないから、事故の直接の原因となった前方注視義務違反等のAの過失を被害者側の過失として考慮することはできないと説示して、Yに対して、Bの過失である2割を控除した8割の賠償を命じました。

 最高裁は、原審の判断を破棄し、広島高裁に差し戻しをしました。

 「以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば、本件運転行為は、BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることができず、上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。

 したがって、上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては、公平の見地に照らし、本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解するべきである。」

 一般的に、

 共同不法行為は、不真正連帯債務だから、加害者は、損害全額について責任を負う。

 しかし、被害者側の過失にあたる場合には、例外的に、分割責任 という図式で、学習しています。

 原審は、AとBとの間には、身分上生活関係上の一体関係がないから、被害者側の過失否定 故に、原則に戻り、Bのみの過失だけを考慮ということになっています。

 今回の最高裁判決によれば、身分上生活関係上の一体関係がない場合でも、他の理由で、被害者側の過失を考慮できるとしたことに大きな意味を有します。

 判タの解説者によれば、

 過失相殺の局面における被害者の過失とは、民法709条の不法行為の成立要件である注意義務違反とイコールではなく、より緩やかな不注意によって損害の発生を助けたという意味も含まれ、

 本判決も、「その説示の事情に照らして、本件事故発生時点ではたまたまAが運転しておりBは同乗者にすぎなかったものの、Aの本件運転行為はそれまでの共同暴走行為の一環として評価すべきものであり、過失相殺の局面においては、Bが自らの損害発生を助けた事情として考慮されると解したものであろう。」と説明されています。

 これから事件を引き受ける際には、①被害者側の過失の他に、②共同不法行為の一環として評価されるべき事情の有無についても、検討する必要がでてきたようです。 

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2008年11月10日 (月)

【交通事故】 被害者が、裁判が始まってから3年6月以上経過して主張した損害について、時期に遅れた攻撃防御方法であるとして、当該主張を排斥した事例(高松高等裁判所平成20年4月17日、最高裁平成20年9月2日決定)

 交通事故判例速報No509(平成20年11月)(交通春秋社)で紹介されている裁判例です。

 判例速報によれば、最大の争点は、平成14年10月18日発生の交通事故の被害者が、第1審の終結日である平成19年5月までに自らの損害について主張立証をせず、その後の控訴審において、ようやく主張立証することが、民事訴訟法157条1項に定める時機に遅れた攻撃防御方法として却下できるかという事案です。

 高松高裁(平成20年4月17日)は、被害者の主張立証を却下しました。

 判例速報の解説によれば、 「民事訴訟法157条により時機に遅れた攻撃防御方法として却下されることは、実務上極めて稀であるが、本件事実経過に鑑みればやむを得ないであろう。被害者に弁護士がついていなかったとしても、この長期間専門家の意見を聞けないわけがなく、被害者の行為は、事案の解決を引き延ばし、挙げ句の果てには根拠もなくおさだまりのPTSDや低髄液圧症を持ち出して、加害者に圧力をかけたいなどの意図的なものと見ざるを得ない」とご説明されています。

 頚椎捻挫に関連する事案は、時折、解決まで相当長期間を要することがあります。

 加害者側(損保側)代理人を務めることが少なくない私の事務所でも、その対応に窮することがあります。時機に遅れた攻撃防御方法の却下については、裁判所はなかなか認めてくれない傾向にありますが、それを認めた今回の高松高裁の判断は、対応に窮する加害者側(損保側)代理人に勇気を与えてくれることでしょう。

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2008年11月 7日 (金)

【交通事故】 最近の外傷性低髄液圧症候群

 外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例については、このブログでも、よくとりあげさせていただいております。

 判例時報No2014(平成20年11月1日)号で紹介された裁判例です。

 比較的軽微の追突事故により被害者が低髄液圧症候群を発症したとは認められないとされた事例(東京地裁平成20年2月28日)です。

 今回は、東京地裁民事第27部の合議事件なので、影響力は大きいでしょうね。 

 地裁消極判例⑪の事案です。

民事判例編 

積極的判例

 (地裁判例)

 ① 横浜地裁・平成20年1月10日 自保ジャーナル第1727号(→控訴審東京高裁平成20年7月31日)

 (概要)

 ①の裁判例は、乗用車を運転して交差点を直進中、対抗右折乗用車に追突され、頭部打撲等から低髄液圧症候群を発症したとする事案です。裁判所は、被害者に、激しい起立性頭痛等があり、副作用の強いホルモン剤等服用しても改善しませんでしたところ、ブラッドパッチ療法で仕事ができるまで改善されたことなどから、原告は本件交通事故後に低髄液圧症候群に罹患したと認定、17ヶ月後に治癒したと認められた事例です。 

 消極的判例

 (地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 ※控訴審東京高裁平成20年4月24日

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 ⑪ 東京地裁・平成20年2月28日(合議) 自保ジャーナル1727号 判例時報No2014号(控訴中)

 ⑫ 横浜地裁・平成20年1月30日 自保ジャーナル1727号

 ⑬ 神戸地裁・平成19年4月26日 自保ジャーナル1727号

 ⑭ 静岡地裁浜松支部・平成19年12月3日(裁判官・酒井正史・矢作泰幸・神原文美) 判タNo1273号

 (概要)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

  ⑪の裁判例は、乗用車を運転、停車中に乗用車に追突されて、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症したと主張される29歳男子につき、頭痛訴えが事故1年4か月までに1回であり、国際頭痛学会の低髄液圧症候群からも耳鳴りの訴えが1年4か月後であり、典型的症状の起立性頭痛がなく、原告が低髄液圧症候群を発症したと認めるに足りる証拠はないとして否認されました。

 原告は、医師が、(1)原告が本件事故後により難治性の後頸部痛及び頭痛が持続し、平成15年10月23日の初診時にも、上記症状を訴え、夕方になると症状が悪化すると訴えたこと、(2)頭部造影MRIにより円蓋部での大脳の下垂及び小脳扁桃の下垂が認められたこと、(3)同年11月25日でのRI脳槽シンチグラフィーにより髄液の腰部での早期漏出が認められたことを根拠に、低髄液圧症候群であると確定診断されたことを理由に、低髄液圧症候群を主張していました。

 ⑫の裁判例は、自転車を押して歩行横断中、停車しようとした乗用車に軽く衝突されて転倒、腰部打撲等から約1年の症状固定後低髄液圧症候群を発症、12級神経障害を残したとして主張された案件です。裁判所は、発症は、2年後であり、特徴的な症状である継続的な頭痛がほとんどない他、更年期障害、心因的症状の重複で、低髄液圧症候群は本件事故との因果関係はないと否認しました。

 ⑬の裁判例では、裁判所は、7歳男子の低髄液圧症候群等は頭を打っておらず、3日後運動会参加、バットで頭部打撲等から原因不明とし事故との因果関係を否認しました。

 ⑭の裁判例では、鑑定人が、低髄液圧症候群の発症を認めていたにも拘わらず、裁判所は、(1)低髄液圧症候群につき、病態が明らかでなく、診断の際には、頭痛等の多彩な症状と、画像診断(頭部MRIによる髄液減少所見及びRI脳槽シンチグラフィー、腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見)とが重要であるとされているものの、いまだ診断方法は確立されていないという医学的知見を前提に、(2)本件において、頭部MRIにおる髄液減少所見及び腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見は認められないこと、(3)Xの症状は、低髄液圧症候群の症状に一致するものの、外傷性頸部症候群の症状とも類似しており、外傷性頸部症候群である可能性を払拭できないこと、(4)A医師とは別の医師が、Xの症状はXの低血圧に由来すると診断していることなどから、A医師の診断及び鑑定結果は採用できないとして、低髄液圧症候群の発症を認めませんでした。※1鑑定が肯定されていても、判決は否定しています。※2治療費についても、症状固定後の治療費として原則として因果関係を否定としながらも、病院が低髄液圧症候群と診断したことなどを理由に、ブラッドパッチなどの治療費を認めています。これって、加害者側保険会社は、病院に請求できるのでしょうかね。 但し、他方で、寄与度減額として3割を減じています。

 (高裁判例)

 積極的判例 

 ① 東京高裁・平成20年7月31日 自保ジャーナルNo1756号

 (概要)

 事案は、横浜地裁平成20年1月10日のとおりです。加害者側が、原審及び控訴理由書にて、「髄液減少症」が発症したことを認めてしまい、後日、自白を撤回しようとしたものの、撤回の要件を欠くとして、自白した状態で認定されてしまったなんとも理解しがたいような内容です。

 解説者も、杉田雅彦弁護士も、「本判決はX・Y双方において医学的各争点について十分に争われた事案ではないので、先例的な価値は余りない」と説明されています。 

 消極的判例

 ① 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

 ② 東京高裁平成20年4月24日 自保ジャーナルNo1756

  (概要)

 ①の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたものの、他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。 

 ②の裁判例は、「事案の概要」によれば、「当審においては、本件事故により低髄液圧症候群が発症したとの点に関する原判決の判断(消極)については敢えて争わず」と記載されていることから、控訴審で、低髄液圧症候群の発症については、十分な議論は尽くされていないようです。

刑事判例編

 消極的判例

 ① 平成20年4月21日 福岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507

 ② 平成20年5月19日 静岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507   

(概要)

 ①の裁判例は、検察官が「加療約5年以上の頭痛、頸部痛、視力低下及び集中力・記憶力低下などの障害を伴う外傷性脳脊髄液減少症の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、検察官指摘の他覚的所見については、医師の意見がわかれていること等に鑑み、他覚的所見を全て否定し、客観性に疑問が残るとして、被害者が低髄液圧症候群であることを否定しました。

 ②の裁判例は、検察官が「加療約2185日を要する脳脊髄液減少症等の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、国際頭痛分類の低髄液症候群の診断基準にも、新たに提唱された脳脊髄液減少症の診断基準にも該当しないと判示して、従来の低髄液圧症候群であることも否定しました。

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2008年10月31日 (金)

【交通事故】 最近の脳関髄液減少症を巡る裁判例

 外傷性低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)についての裁判例については、このブログでも、よくとりあげさせていただいております。

 自動車保険ジャーナルから、東京高裁「髄液漏訴訟」2判決が紹介されていました(自保ジャーナルNo1756号)。

 

民事判例編 

積極的判例

 (地裁判例)

 ① 横浜地裁・平成20年1月10日 自保ジャーナル第1727号(→控訴審東京高裁平成20年7月31日)

 (概要)

 ①の裁判例は、乗用車を運転して交差点を直進中、対抗右折乗用車に追突され、頭部打撲等から低髄液圧症候群を発症したとする事案です。裁判所は、被害者に、激しい起立性頭痛等があり、副作用の強いホルモン剤等服用しても改善しませんでしたところ、ブラッドパッチ療法で仕事ができるまで改善されたことなどから、原告は本件交通事故後に低髄液圧症候群に罹患したと認定、17ヶ月後に治癒したと認められた事例です。 

 消極的判例

 (地裁判例)

 ① 岡山地裁・平成17年1月20日 交民38巻1号107頁

 ② 神戸地裁・平成17年5月17日 交民38巻3号681頁

 ③ 横浜地裁・平成17年12月8日 交通事故判例速報478号

 ④ 横浜地裁・平成18年9月24日 自保ジャーナル1692号

 ⑤ 前橋地裁桐生支部・平成18年12月25日 自保ジャーナル1676号

 ⑥ 福岡地裁・平成19年5月17日 自保ジャーナル1692号

 ⑦ 横浜地裁相模原支部・平成19年6月26日 自保ジャーナル1698号

 ⑧ 福岡地裁田川支部・平成19年10月18日  自保ジャーナル1713号

 ⑨ 東京地裁・平成19年11月27日  自保ジャーナル1717号 ※控訴審東京高裁平成20年4月24日

 ⑩ 大阪地裁・平成19年3月14日   自保ジャーナル1717号

 ⑪ 東京地裁・平成20年2月28日 自保ジャーナル1727号(控訴中)

 ⑫ 横浜地裁・平成20年1月30日 自保ジャーナル1727号

 ⑬ 神戸地裁・平成19年4月26日 自保ジャーナル1727号

 ⑭ 静岡地裁浜松支部・平成19年12月3日(裁判官・酒井正史・矢作泰幸・神原文美) 判タNo1273号

 (概要)

 ⑨の裁判例は、日本神経外傷学会が組織した頭部外傷に伴う低髄液圧症候群作業部会の中間報告の示した診断基準が最新かつ国際頭痛分類の診断基準をふまえた客観性を有する見解であると指摘し、同基準の概要は、

 前提基準として、起立性頭痛又は体位による症状の変化があること、

 その基準に該当した場合に、

(1)造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強、

(2)腰痛穿刺にて低髄液圧の証明 

(3)髄液漏出を示す画像所見

のいずれかを満たすことで、低髄液圧症候群と診断し、

 更に、外傷性と診断するための条件として、

 外傷後30日以内に発症し、外傷以外の原因が否定的であること

を満たすことが必要と判断しました。

 そして、当該事案においては、これらの要件を欠き、外傷性低髄液圧症候群について、否定しました。

 ⑩の裁判例は、判旨自体はさらりとその理由を述べているに過ぎませんが、それ故に汎用性のある判例ともいえます。

 原告の脳脊髄液減少症の後遺障害に対する主張に対しては、

 まず、脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病であるため、その認定にあたっては慎重に行う必要があるとして、

 (1)脳脊髄液減少症の特徴的な症状である起立性頭痛や特徴的な所見である硬膜下腔の拡大、小脳扁桃の下垂などを認めるに足りる証拠はないこと

 (2)RI脳槽脊髄腔シンチグラフィでの早期の尿中集積所見や、MRミエログラフィによる胸椎部での高信号の所見については、診断基準に採用することに批判的な立場もあることに鑑みれば

 現状においては、原告が脳脊髄液減少症に罹患したと認めることはできない」と判断しました。

  ⑪の裁判例は、乗用車を運転、停車中に乗用車に追突されて、頸椎捻挫等から低髄液圧症候群を発症したと主張される29歳男子につき、頭痛訴えが事故1年4か月までに1回であり、国際頭痛学会の低髄液圧症候群からも耳鳴りの訴えが1年4か月後であり、典型的症状の起立性頭痛がなく、原告が低髄液圧症候群を発症したと認めるに足りる証拠はないとして否認されました。

 原告は、医師が、(1)原告が本件事故後により難治性の後頸部痛及び頭痛が持続し、平成15年10月23日の初診時にも、上記症状を訴え、夕方になると症状が悪化すると訴えたこと、(2)頭部造影MRIにより円蓋部での大脳の下垂及び小脳扁桃の下垂が認められたこと、(3)同年11月25日でのRI脳槽シンチグラフィーにより髄液の腰部での早期漏出が認められたことを根拠に、低髄液圧症候群であると確定診断されたことを理由に、低髄液圧症候群を主張していました。

 ⑫の裁判例は、自転車を押して歩行横断中、停車しようとした乗用車に軽く衝突されて転倒、腰部打撲等から約1年の症状固定後低髄液圧症候群を発症、12級神経障害を残したとして主張された案件です。裁判所は、発症は、2年後であり、特徴的な症状である継続的な頭痛がほとんどない他、更年期障害、心因的症状の重複で、低髄液圧症候群は本件事故との因果関係はないと否認しました。

 ⑬の裁判例では、裁判所は、7歳男子の低髄液圧症候群等は頭を打っておらず、3日後運動会参加、バットで頭部打撲等から原因不明とし事故との因果関係を否認しました。

 ⑭の裁判例では、鑑定人が、低髄液圧症候群の発症を認めていたにも拘わらず、裁判所は、(1)低髄液圧症候群につき、病態が明らかでなく、診断の際には、頭痛等の多彩な症状と、画像診断(頭部MRIによる髄液減少所見及びRI脳槽シンチグラフィー、腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見)とが重要であるとされているものの、いまだ診断方法は確立されていないという医学的知見を前提に、(2)本件において、頭部MRIにおる髄液減少所見及び腰痛MRミエログラフィーによる髄液漏出所見は認められないこと、(3)Xの症状は、低髄液圧症候群の症状に一致するものの、外傷性頸部症候群の症状とも類似しており、外傷性頸部症候群である可能性を払拭できないこと、(4)A医師とは別の医師が、Xの症状はXの低血圧に由来すると診断していることなどから、A医師の診断及び鑑定結果は採用できないとして、低髄液圧症候群の発症を認めませんでした。※1鑑定が肯定されていても、判決は否定しています。※2治療費についても、症状固定後の治療費として原則として因果関係を否定としながらも、病院が低髄液圧症候群と診断したことなどを理由に、ブラッドパッチなどの治療費を認めています。これって、加害者側保険会社は、病院に請求できるのでしょうかね。 但し、他方で、寄与度減額として3割を減じています。

 (高裁判例)

 積極的判例 

 ① 東京高裁・平成20年7月31日 自保ジャーナルNo1756号

 (概要)

 事案は、横浜地裁平成20年1月10日のとおりです。加害者側が、原審及び控訴理由書にて、「髄液減少症」が発症したことを認めてしまい、後日、自白を撤回しようとしたものの、撤回の要件を欠くとして、自白した状態で認定されてしまったなんとも理解しがたいような内容です。

 解説者も、杉田雅彦弁護士も、「本判決はX・Y双方において医学的各争点について十分に争われた事案ではないので、先例的な価値は余りない」と説明されています。 

 消極的判例

 ① 福岡高裁・平成19年2月13日 判例時報1972号、自保ジャーナル1676号、交通事故判例速報489号

 ② 東京高裁平成20年4月24日 自保ジャーナルNo1756

  (概要)

 ①の裁判例は、 (1)追突事故により低髄液圧症候群、外傷性脊椎髄液漏の傷害を受けたとの被害者の主張について、ⅰ右傷害の最も典型的な症状である起立性頭痛が見られないこと、ⅱブラッドパッチ療法では症状が余り改善しなかったこと、ⅲRI脳槽造影では脊椎髄液漏の所見が見出せなかったことなどを理由に、被害者に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問があるとして、その主張を認めなかったものの、

 (2)被害者主張の治療費のうち、低髄液圧症候群の関係の治療費は事故と因果関係が認められない筋合いではあるが、低髄液圧症候群との診断をし、その治療をしたのは医療機関側の判断と責任によるものであるから、被害者が現にその関係の治療を支払っている以上、それを安易に減額することは相当ではないとして、被害者の主張する治療費のほぼ全額を損害と認めたものの

 他方で、(3)右被害者の頸椎捻挫の症状が長期化した背景には、本人の心因的要素があると考えざるを得ないとして、損害の公平負担な観点から民法722条を類推して、その損害のうち治療費と文書料を除いた額の50%を減ずるべきとしました。

 

 ②の裁判例は、「事案の概要」によれば、「当審においては、本件事故により低髄液圧症候群が発症したとの点に関する原判決の判断(消極)については敢えて争わず」と記載されていることから、控訴審で、低髄液圧症候群の発症については、十分な議論は尽くされていないようです。

刑事判例編

 消極的判例

 ① 平成20年4月21日 福岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507

 ② 平成20年5月19日 静岡地裁 自保ジャーナル1742号、交通事故判例速報No507 

  

(概要)

 ①の裁判例は、検察官が「加療約5年以上の頭痛、頸部痛、視力低下及び集中力・記憶力低下などの障害を伴う外傷性脳脊髄液減少症の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、検察官指摘の他覚的所見については、医師の意見がわかれていること等に鑑み、他覚的所見を全て否定し、客観性に疑問が残るとして、被害者が低髄液圧症候群であることを否定しました。

 ②の裁判例は、検察官が「加療約2185日を要する脳脊髄液減少症等の傷害」として起訴した事案ですが、裁判所は、国際頭痛分類の低髄液症候群の診断基準にも、新たに提唱された脳脊髄液減少症の診断基準にも該当しないと判示して、従来の低髄液圧症候群であることも否定しました。

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2008年10月18日 (土)

【交通事故】 モンスター契約者 

 判例時報No2012(平成20年10月11日)号で紹介された東京高裁の決定です(平成20年7月1日)。

 事案は、甲さんは、損害保険会社である乙社との間で、自動車保険契約を締結していました。甲さんの長女が被保険自動車の運転中にひき起こした事故に係る保険金請求に関する交渉に関し、甲さんは、乙社の担当者の対応を不満として、同社に対し、多数回及び長時間にわたり架電をするなどし、同社において弁護士を交渉窓口とするよう通知した後も、同様に状態が続きました。

 平成19年11月20日から同20年2月22日までの期間における甲さんの乙社の複数の部門への架電は、多い日で、1日19回、長いときで1回約90分に及んでいたようです。

 そのため、乙社が甲さんを相手として、営業権を被保全権利とする仮地位仮処分として、営業妨害の禁止を求めたケースです。

 第1審は、

 営業利益の侵害が不法行為を構成することがあるとしても、損害賠償請求以外の差止請求の根拠となるものとはいえず、最終的には財産的利益にすぎない営業をなす権利は、所有権又は人格権とは性質を異にし、また、不正競争防止法3条1項、独占禁止法24条1項のような差し止めを許容する根拠もないから、営業権をもって差止請求権の法的根拠とすることはできないから、

 本件申立は、被保全権利の疎明を欠くとして、これを却下しました。

 これに対して、東京高裁は、

 保全されるべきものは、営業一般ではなく、固定資産及び流動資産の使用を前提に自然人たる従業員の労働行為によって構成される具体的な業務であるとし、このような所有権に裏付けられた財産権と個々の従業員の人格権との総体としての業務を遂行する権利を、「業務遂行権」として、法人は、この業務遂行権を被保全権利として、差し止めの根拠とすることを認めました。

 その上で、

 ①当該行為が権利行使としての相当性を超え

 ②法人の資産の本来予定された利用を著しく害し、かつ、これら従業員に受忍限度を超える困惑・不快を与え

 ③業務に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められる場合に、

 業務遂行権に対する違法な妨害行為になるとして、

 本件事案においては、この要件を充足し、保全の必要もあるとして、仮処分を認めました。

 この事案では、甲さんは、

 保険会社が顧客対応を弁護士に委任することは保険業法違反である

 契約者の同意なく無断で弁護士に委任するのはどういうことか

 弁護士とは話をしない

 乙社の担当者は嘘つきである

 対応者の上席者又は部門総責任者を出せ

 更なる上席者の氏名を教えよ

 適切に対応できる者を出せ

 他の人間が電話を代わるまで電話をかけ続ける

 と自らの主張や要求などを繰り返し述べました。

 

 いやいや、全く酷い内容です。crying

 東京高裁の決定は当然であり、第1審の判断は形式論に終始した納得できない内容であるとしかいいようがありません。

 弁護士事務所にも、これほどではありませんが、これに類するようなことがされることは時折あります。

 その都度、依頼者を相談しながら、対応していますが、今回のケースは、依頼者的な立場の方、つまり、自動車保険の契約者が相手方なので、さらに、問題を複雑にしています。

 会社にとっては、お客様なので、なかなか強い態度をとりにくいのです。

 モンスター契約者に対しては、業務妨害行為の差し止めが認められた事例であり、実務上、参考になります。

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2008年10月13日 (月)

【交通事故】 「貸主の運行供用者責任」に関する最高裁の事例判決(最判平成20年9月12日)

 交通事故判例速報No508(H20・10)(交通春秋社発行)に、紹介されている裁判例です。

 事案は、以下のとおりです。

 Aは、平成14年2月ころ、愛知県の某所にて、自動車を運転していたところ、赤信号で停止していた自動車に追突させるという事故を発生させました。

 Xは、Aの車に同乗しており、事故のために顔面に傷害を負いました。

 この自動車は、Xの父親であるBが所有しており、Bの経営する会社の仕事等に利用されていました。

 Xは、本件事故当時、某所で一人住まいをし、キャバクラに勤務していたが、仕事が休みの日には、実家に戻り、Bが経営する会社の仕事を手伝うこともあった。なお、Bは、Xが仕事を手伝う際にこの自動車を運転することは認めていました。

 運転者のAは、無免許だった。

 Yは、本件自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社です。

 平成14年2月の夜、Xは、Aを同乗して、バーを訪ね、Aと一緒に飲酒をしました。

 Aは、Xを起こして帰宅しようとしたが、Xが起きないため、カウンターの上に置かれた自動車のキーを利用して、Xをその助手席に運んだ上、自動車を運転し、Aの自宅に向かいました。

 Xは泥酔しており、Aに対して、自動車の運転を指示したことはありませんでした。

 Xは、Yに対して、Bが運行供用者として自賠法3条の規定による損害賠償責任を負担すると主張して、同法16条に基づき損害賠償額の支払を求めました。

  原審の名古屋高裁は、「XにはAに対して自動車の運転を依頼する意思がなく、Xは泥酔していた意識がなかったため、Aが本件自動車を運転するについて指示はおろか、運転していること自体認識はしていないこと、また、Aは自宅に帰るために自動車を運転してい