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【離婚】

2025年3月11日 (火)

【離婚】 DV や ストーカーの書籍

 新しい書籍で、DVやストーカーについて解説されているものをネットで探してみました。

 DV関係の書籍はかなりの数が出ているのですが、ストーカーについては文献としては少ないです。

 その中で、立花書房から令和6年11月に出た「ストーカー規制法ハンドブック」は、警察庁の生活安全局長が執筆されたものであり、大変参考になります。

 また、令和7年1月に出版されたDV・ストーカー対策の法と実務(第2版)は、最近の改正までフォローされており、これも大いに参考になります。

 「つきまといや待ち伏せ、住居などに押し掛ける」行為については、通常は、ストーカー規制法を思いつきます。

 しかし、ストーカー行為は、ストーカー行為だけで規制されているわけではありません。

 ストーカー行為が常習的ではない場合には、軽犯罪法違反として、拘留や科料に処せられる可能性があります。

 また、恨みや妬み、悪意をもって、反復してストーカー行為をした場合には、迷惑防止条例違反として、懲役や罰金刑に処せられる可能性があります。

 愛媛県迷惑防止条例の「第12条 何人も、正当な理由がないのに、特定の者に対し、次に掲げる行為(ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号)第2条第1項に規定するつきまとい等を除き、第1号から第4号までに掲げる行為については、身体の安全、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してしてはならない。(1) つきまとい、待ち伏せし、進路に立ち塞がり、住居等の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。

「第17条 第4条第1項(第4号を除く。)若しくは第2項第1号若しくは第12条の規定に違反した者又は第14条の規定による命令に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。2 常習として前項の違反行為をした者(第14条の規定による命令に違反した者を除く。)は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」

 そして、好意の感情やそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情をもって、反復してストーカー行為をした場合には、まさに、ストーカー規制法違反として、懲役や罰金刑に処せられる可能性があります。

 もちろん、行為態様によっては、住居侵入罪、強要罪、脅迫罪等に該当するようなこともあるだろうと思います。

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                             (危ない橋)

 ストーカー行為は、軽く考えると、ケースによっては、逮捕、報道されて、加害者ではありますが、その人の人生を大きく変えてしまうことも少なくありません。

 危ない橋は渡らないのが一番です。

2025年3月 8日 (土)

【離婚】給料の差押えの取り下げについて

 家事事件における保全・執行・履行確保の実務(第2版)にて説明されているQ&Aです。

 今後はきちんと支払をするので、給料債権の差押えを取り下げて欲しいのですが、妻が応じてくれません。なにか方法はありますか?という質問についての解説が掲載されていました。

 回答としては、差押禁止債権範囲変更申立ての手続をして、債権差押命令のうち期限が到来していない定期金債権による差押えの部分につき、必要性が失われたとして取消を求める方法が考えられます。

 しかし、必要性が失われているかどうかについて、申立てに対する決定例では、たいへん厳格な判断がなされています。

 債務者の立場からすれば、勤務先である第三債務者に、差押額の計算や債権者(妻)の取立への対応などについて迷惑をかけている状態であるということですが、債権者(妻)からすれば、いったんは債務の履行を怠った債務者が仮に任意の履行を約束しても再び同じことが生じるのではないかと危惧するのも当然です。

 東京地裁平成25年10月9日判決は、将来分を含めた養育費全額相当額を預託した上で、今後はきちんと支払うということを誓約しているケースにおいては、その必要性が失われたとして、民事執行法153条1項による取消を認めました。

 この裁判例からすれば、相当厳格な判断がされているといえます。 

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(笠松山山頂)

2024年11月29日 (金)

【離婚】親族法の親子、夫婦に関連する部分の改正がありました😅

 銀行法務21・11月に掲載された「2024年通常国会成立の金融関係法の概要」の一部です。

 親族法の親子、夫婦に関連する部分を中心とした民法の改正があり、令和6年5月24日に公布されました。改正法の施行は、公布日から2年以内の政令で定める日となっております。

 第1に、離婚後の共同親権が認められたということです。従前は、父母が協議離婚をする際には、協議で、その一方を親権者と定めなければなりませんでした。改正法は、その双方または一方を親権者と定めることとされ、父母双方が共同親権者となり得ることになりました。裁判上の離婚における裁判所の判断においても同様です。もっとも、裁判所は、子の利益、父と母との関係その他の一切の事情を顧慮し、共同親権によってこの利益が害されるときは、父母の一方を親権者と定めなければならないことになりました。

 第2に、父母の共同親権を原則とした上で、一方が親権を行うことができないときや、子の利益のため急迫の事情があるとき、監護および教育に関する日常行為に係る親権の行使については、他方のみで親権行使が可能になりました。但し、特定事項に係る親権の行使について、父母間の協議が整わず、子の利益のために必要とあるときは、裁判所が当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独でできる旨定められました。

 第3に、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護の分掌についても協議で定めることとしたほか、父母が子の監護に要する費用の分担を定めなかったときでも、子の監護を主として行っている父または母が、他方に対して、毎月末に、養育費の支払いを請求できるようになりました。

 第4に、養育費を一般の先取特権を有する債権として優先権を認めるとともに、債務名義がなくても、子の監護を主として行っている父または母は、子の養育費であることを証する文書を提出することで、他方に対する財産開示手続や給料に係る情報取得の申立等ができるようにして、当該申立がなされたときは、その開示された債権に対する差押命令の申立てがなされたものとみなされることになりました。

 第5に、面会交流については、父母以外の親族についても、家庭裁判所が審判で定めることができるようになりました。

 第6に、配偶者の強度の精神病が離婚原因の1つから外れたほか、夫婦間契約についての夫婦間の取消権も削除されました。

 第7に、離婚の際の財産分与の除斥期間についても、従来は、離婚の時から2年とされていたものが5年に伸長されたほか、財産分与を決めるにあたっての婚姻中の財産の取得、維持についての各当事者の寄与の程度は、原則として相等しいものとされました。

 世間では、共同親権が大きく取り上げられていますが、実は、共同親権以外にも大きな改正がされております。

 マチ弁であれば、絶対に必要な知見ですので、学習しておく必要があります。

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                              (横峰寺)

 先日横峰寺を参詣しました。暑かったのでアイスクリンをいただきました😅

2024年11月 7日 (木)

【離婚】 夫婦の一方が、他方に対し、婚姻前に自信の疾患(IgA腎症)について告知しなかったこと等が告知義務違反に当たる旨などを主張し、不法行為に基づく損害賠償請求をしたところ、不法行為の成立が否定された事例

 判例時報N02600号で掲載された東京地裁令和4年11月22日判決です。

 東京地裁の判断は、

 まず、A婚姻における重要事項につき故意に虚偽の内容を述べ、その内容を要素として相手方が婚姻の決断に至った場合等、事案によっては不法行為が成立する余地はある

 B他方で、広く告知義務を課し、これに反した場合の損害賠償責任を認めることは、婚姻前の時点で全面的にプライバシー情報を開示することを要求する結果や、過失による医学的な説明の誤りについても広く損害賠償責任を求める結果となりかねない旨を指摘した上、Aのような場合に至らない事案については、不法行為の成否につき慎重に検討すべきであるとした上で、

 Yは、平成27年時点でIgA腎症については少なくとも明確な治療法はない旨や人工透析の可能性がある旨などの説明を受けていること、他方で、IgA腎症の予後のリスクをどの程度重要なものとと見るかは評価の別れるところ、Yにおいても一定程度の説明はしており、故意に虚偽の説明をしたとは断定しがたいなどを指摘して、告知義務違反は認められないと判断しました。

 なお、解説によれば、「夫婦間の婚姻に関して、事前の告知義務違反に基づく損害賠償請求が問題となった裁判例または文献は、調査をした範囲では見当たらなかった」と説明されています。

 婚姻における重要事項、例えば、性的不能等はそれに該当すると思いますが、それ以外の事実というのは相手方によるため判断が微妙のような気がします。

 ただ、借金があるとは思わなかったとか、離婚歴があるとはきいていなかったとか、きいていた勤務先とは異なっていたとかなどは、たまに離婚のご相談ででてきます。。。 

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(横峰寺遍路道)

2024年10月 3日 (木)

【離婚】 年金分割の按分割合は、やっぱり、0.5

 判例時報No2598号で掲載された東京高裁令和4年10月20日決定です。

 老齢厚生年金の離婚時年金分割について、婚姻期間中の相手方の保険料納付に対する申立人の寄与を同等と見ることが著しく不当である特段の事情を認めるのが相当であるとして申立てを却下した原審判を取り消し、請求すべき按分割合を0.5と定めた事例 

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(笠松山)
 年金分割の請求すべき按分割合ですが、実務上は、争っても、0.5にしかならないのに、専ら夫側から争って欲しいと言われることがあります。
 判例時報の解説によれば、審判において、按分割合を0.5以外に定めたものとしては、①奈良家裁平成21年4月17日審判、②東京家裁平成25年10月1日審判、③大津家裁高島令和1年5月9日審判の、3つがあり、①及び②は抗告審において、0.5に変更されています。
 今回の事案でも、申立人の生活状況に問題があるような案件でしたが、それだけでは按分割合を減ずる理由にならないとされています。
 年金分割の按分割合0.5について争われても、無駄な抵抗となります。
 そのような作業に時間をかけるよりも、財産分与等の論点にしっかり時間をかけるという方が賢明だと思います。
 
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(笠松山)

2024年9月28日 (土)

【離婚】 訴状審査時の留意事項

 「家庭の法と裁判No51」で掲載された「東京家裁人訴部における離婚訴訟の審理モデル」です。

 「第1 訴状審査時の留意事項(訴状作成時の留意事項)」として、7つ指摘されています。

 1つめは、「離婚請求原因(訴訟物)として民法770条1項5号を記載する。」

  ⇒忘れないようにしましょう。

 2つめは、「渉外事件において国際裁判管轄・準拠法について記載する。」

 3つめは、「別居開始日及び別居に至る直前の経緯を記載する」

  ⇒別居開始日は、今後の審理の見通しを立てる上で重要だと思います。

  ⇒「また、別居に至る直前の経緯(別居開始の直接の原因等)も重要であるところ、別居開始日を記載していながら、何が原因で別居に至ったのか、どちらかが自宅を離れたのか、子を連れて出ているのかなどを記載していないため、事案の全体像が分からず、今後の審理計画を立てられないケースがある。」

 4つめは、「婚姻を継続し難い重大な事由として主観的評価や過度に詳細な事実を列挙した冗長な記載はできるだけ避けるのが望ましい。

 5つめは、人事訴訟において請求できないものを請求の趣旨に挙げていないか留意する。

  ⇒訴状の中には、特有財産に係る物の引き渡し請求、損害賠償請求又は不当利得返還請求等、地裁又は簡裁の管轄事項について人事訴訟の関連請求として請求しているものが散見される。

 6つめは、調停の経過及び予想される争点を記載する。

 7つめは、秘匿申立ての制度を利用する場合はそれを想定した準備をする。 

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(骨付きどり)
 よく考えてみると当たり前のことばかりですね😅

2024年9月26日 (木)

【離婚】財産分与の審理上の留意点について No2

 昨日の続きです。

 まず、「4 特有財産について (1) 特有財産の立証について」です。

 「基準時に原告名義又は被告名義で存在する財産は、夫婦が協力して形成した財産(夫婦共有財産)と推定されるから(民法762条2項)、特有財産を主張する当事者において、特有財産であることを基礎づける事実(婚姻前財産、相続、親族からの贈与等)について立証する必要がある。」 20240901_1210472

                              (天空の鳥居)

 「(2)預金について ア 婚姻前の預金について」

 「当事者が、基準時の預金残高には婚姻前の預金(特有財産)が含まれているとして、基準時の残高から婚姻時の残高を控除した差額部分が夫婦共有財産である(又は、基準時の残高が婚姻時の残高を下回る場合は、夫婦共有財産は存在しない)と主張することがある(A説)。こうした算定方法については当事者双方に異議がないのであれば、これを基礎に特有財産を認定することができる。もっとも、この算定方法が争われた場合、これを許容できるか、各事案において検討を要する。

  確かに、①婚姻時から基準時までの間に、専ら入金が続いている場合には、残高が増加した部分が夫婦共有財産として特定できるし(婚姻時の残高はそのまま残存している)、②婚姻時から基準時まで専ら出金が続いている場合も、基準時の残高が婚姻前の預金であると特定できるため(そもそも夫婦共有財産は入金されていない)、特有財産の認定は容易であり、こうした場合は上記算定方法でも問題はない。

  しかしながら、③婚姻後に当該口座で入出金が繰り返されているような場合は、婚姻前の預金が夫婦共有財産と混在してしまうため、基準時の残高のうち、どの部分が婚姻前の預金(特有財産)であるか、容易に認定できるものではない。」

 「婚姻時から長期間が経過し、その間に入出金が繰り返されているような場合は、婚姻時の預金残高がそのまま特有財産として残存していると認められるケースは限定的ではないかと思われる。」

 「イ 親族からの相続又は贈与について」

 「この場合は、まず入金された金員の原資が親族の資産であることを立証する必要がある(なお、親族の口座から当該口座に振替入金されている場合はよいが、親族の口座からいったん払戻されて現金化された後、これを手渡しで交付し、当該口座に入金しているような場合は、日時が近接していない限り、原資の立証は難しいであろう)。そして、このケースでも、その後に当該口座において入出金が繰り返されている場合は、上記婚姻前預金の場合と同様に夫婦共有財産との混在問題に直面する。」

「(3)生命保険について」

 「計算式 分与対象財産額=基準時の解約返戻金相当額×婚姻後の同居期間(婚姻時~基準時)÷契約期間(契約時~基準時)」

「(4)退職金について」

 「(通常の場合)  分与対象財産額=基準時に自己都合退職した場合の退職金相当額×婚姻後の同居期間(婚姻時~基準時)÷(入社日~基準時)」

 「(定年退職が近い場合) 分与対象財産額=定年退職金相当額×婚姻後の同居期間(婚姻時~基準時)÷全勤務期間×定年退職時までの年数のライプニッツ係数 20240901_154000

                            (うどんまなべ)

「(5)不動産について」

 ア 夫婦の一方が婚姻後で基準時前に取得した不動産であれば、登記上の所有名義にかかわらず、夫婦共有財産であると推定され、不動産の取得の際、共有名義とした場合も、その登記上の持分割合にかかわらず、当該不動産全部について夫婦の共有財産であると推定される。

   ところで、不動産の購入の際し、夫婦の一方が、特有財産の出資による特別の貢献があると主張する場合がある。具体的には、夫婦の一方が、不動産の購入原資として、婚姻前の財産、親族から贈与された財産又は相続財産を頭金に充当したという事案が考えられる。」

 「次に、不動産の購入原資として特有財産からの出資が認定できる場合の算定方法として、①特有財産を出資した部分について、当該財産の形成についての寄与度として評価する方法もあるが(この場合は、全体的な分与割合【50%】とは別に当該財産についての個別の寄与度が評価されるが、計算過程が複雑となる。)、実務的には、②当該不動産のうち特有財産を原資とする部分を特有財産部分として割合的に控除し、残余部分のみを分与対象財産とする方法を適用している。

  特有財産部分=不動産の現在価格×特有財産出資額÷不動産の購入価格(頭金+住宅ローン元金)

  分与対象財産額=不動産の現在価格-特有財産部分 」

 「イ 婚姻後に特有財産で繰り上げ返済したケースについて」、「ウ 特有財産の住宅ローンを婚姻後の収入で返済したケース」についても、解説がされています。

(6)負債について

 「日常家事債務に該当しない負債でも、住宅ローン等のように、①夫婦共同生活の維持のために負担した債務又は②夫婦共有財産の形成のために負担した債務については、財産分与において負債として考慮するのが相当」

5 財産の評価について

(1) 不動産について

 「原則として、口頭弁論終結時の時価で評価する」

(2) 住宅ローン付不動産について

 「不動産については口頭弁論終結時の時価をもって評価するが、住宅ローンについては、対象財産確定基準時(別居時)の債務残高で評価し、これを上記不動産価格から控除する (19)」

 「現在の実務では、住宅ローン付不動産について、不動産は資産として、住宅ローンは負債として個別に評価し、それぞれ他の資産・負債とは切り離さず、総資産と総負債を通算して財産分与額を算定し、オーバーローン不動産の負債についても、債務超過額を他の資産と通算している」

 (19) 住宅ローンについては、対象財産確定基準時(別居時)の債務残高で評価するのが通常である。対象財産確定基準時(別居時)までの返済については、夫婦の経済的協力関係による貢献と評価できるが、その後の返済については、夫婦の協力による貢献があるとは考えがたいからである。夫婦の一方の名義の住宅について別居後の同人名義の住宅ローンを支払い続けたとしても、それは同人が自己の資産を形成しているに過ぎない」

 その他、「(3)預貯金について」、「(4)株式について」の解説もあります。

 最後は、「6 寄与度(清算割合)」です。

 「夫婦共有財産の清算割合については、原則として相等しいものとするのが相当であり(いわゆる「2分の1ルール」)、これとは異なる清算割合(寄与度)とするには、夫婦の一方がその必要性・相当性を具体的に主張立証する必要がある。そして、上記清算割合を修正する場合がないわけではないが、極めて稀ではないかと思われる。この点、実務上、配偶者の一方から、他方が家事労働を怠っていたとして、大量に日々のエピソードを集約して主張立証しようとする事例が散見される。しかしながら、仮にそうした事実が認定できたとしても、それが夫婦共有財産形成にどの程度影響しているのかまで認定できるものではないし、そうした主張立証はあまり意味がないように思われる。」

 これは、実務上、ある あるですね。 

2024年9月25日 (水)

【離婚】 財産分与の審理上の留意点について No1

 「家庭の法と裁判」No51に、「東京家裁人訴部における離婚訴訟の審理モデル」と題する解説が掲載されていました。(追記)判タNp1523号にも掲載されていました😄

 今回は、「第4 財産分与の審理上の留意点について」を紹介します。

 まずは、「1 財産分与の審理の概観」です。

 「具体的には、財産分与の申立人が原告である場合、夫婦各自の名義の夫婦共有財産は各名義人が取得する前提で分与対象財産総額を算出し、原告と被告の対象財産の合計額に原告の寄与度(原則として50%)を乗じた額と原告名義の分与対象財産総額の差額をベースとして、その他一切の事情を考慮して、両者の不均衡を是正するために必要かつ相当な清算額の支払を命じるのが通常である。」

 「訴状の中には、自宅等の特定の財産だけを分与対象財産として挙げてその名義の移転を求めるものも散見されるが、財産分与は、夫婦の個々の財産を分割する制度ではないし、上記は原告名義の資産及び双方の負債を無視して清算的財産分与を求めている点で相当でない。」 

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(天空の鳥居)
 次に、「2 基準時の早期確定」です。
 「財産分与の審理を開始するに当たり、まず基準時(分与対象財産の範囲を確定する基準時)12を確定する必要があるが、これをできるだけ早期に確定することが肝要である。」
 
 「財産分与の基準時は、夫婦共有財産の形成・維持に向けた経済的協力関係終了時とするのが相当であり、原則として別居開始日がこれに該当する。もっとも、単身赴任や週末婚状態が先行して別居に至る場合など、必ずしもどの時点が別居開始日であるか明確ではないケースもある。13
 (12)「基準時には、①分与対象財産の確定をどの時点でするか(分与対象財産確定の基準日)と、②そのようにして確定した具体的財産についてどの時点の価格を基準に評価するか(分与対象財産評価の基準時)があるところ、①は原則として別居時、②は原則として口頭弁論終結時が基準時とされている。
 (13)「この場合は離婚調停申立日等を基準時とすることが考えられる。」
そして、「3 基準時における財産開示」です。
 「基準時について合意を形成すると、裁判所は、双方代理人に対し、基準時に存在した原告名義の資産・負債と被告名義の資産・負債について、婚姻関係財産一覧表のデータを用いて主張を整理し、対応する証拠の提出を促すことになる。」
 「預金口座について、金融機関を嘱託先として調査嘱託を求めるケースとして、①特定の金融機関において相手方名義の預金口座が存在するか否かの調査を求める場合(通常は併せて基準時の残高についての調査を求めている)、②相手方名義の特定の預金口座について一定期間の取引履歴の調査を求める場合がある。いずれについても、探索的な調査嘱託は認められず、具体的な必要性が求められる。」
 ★ここ悩ましいですね。財産隠しをしていると強く主張される当事者が一定数おられます。ただ、裁判所は、探索的な調査嘱託は認めてくれないので、当事者によっては大きな不満を抱くことも少なくありません。この点は、依頼の前に、十分に説明しておく必要があると思います。

2024年9月21日 (土)

【離婚】 夫(妻)は、モラハラ夫(妻)なので、離婚したい、慰謝料をとりたい というご相談

 10年以上前から、他方配偶者がモラハラなので、離婚したい、慰謝料をとりたいというご相談が増えているように思います。ネットで、モラハラの記事をみて、それをご自身の例にあてはめてのご相談が散見されます。

 ところで、モラハラ自体は、法律的な定義がありません。ですが、一般的には、言葉や態度による精神的な嫌がらせや虐待と考えられています。

 では、モラハラが離婚原因となるでしょうか?

 モラハラの内容程度が甚だしくて、DV防止法1条1項の「暴力に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」が継続すれば、離婚原因となると考えられています。

 裁判例をみると、配偶者を、無能、異常者呼ばわりするとか、汚物扱いするとかなどが該当します

 モラハラの程度が先程の程度に至らない場合でも、これが原因で別居に至ったことを、別居が婚姻の本旨に反する別居であることを基礎づける事情として主張する実益はあります。もっとも、離婚原因の1要素という扱いであるため、他の要素も説得的に主張立証する必要があります。

 モラハラについて、家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点から、客観的な証拠に乏しい場合も多いが、他方で、自分が作成した書面にモラハラ的な気質が如実に表れてしまうものであることから、そのような書面を使って立証することが有効のようです。 

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(でんぷんサン)
 モラハラの場合は、相手方から届いたライン、書面、そして、会話の録音など、きちんと証拠をあつめておくことがよさそうです。

2024年8月31日 (土)

【離婚】使途不明金等がある場合!?

 昔から、他方当事者が、本来夫婦の共有財産であるべき財産を隠匿していると強く主張され、そのため、調停や訴訟が長期化するというのは、町弁にとってはよく目にする光景といえます。

 財産分与対象財産の判断基準としては、大阪高裁部総括判事であった松本哲泓弁護士の離婚と財産分与裁判実務における判断基準と考慮要素においても、明確に説明がされています。

 ① 婚姻中に取得した財産であること

 ② 特有財産でないこと

 ③ 基準時に存在する財産であること

 どの基準も実務上問題となりますが、困るのは、③基準時に存在する財産であることが不明な場合です。

 この点について、名古屋地裁判事である武藤裕一裁判官等が執筆された離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点P227以下には以下のとおり解説されています。

 「当事者から、他方当事者の貯蓄額が思いのほか少ないことや、預貯金の取引履歴における頻回の出金を捉えて、使途不明金ないし浪費があるから分与財産対象財産に持ち戻すべきであるなどといった主張がされることがあります。

  しかし、財産分与の対象は、基準時において現在存在した夫婦共有財産ですから、その使途いかんにかかわらず、既に費消されて基準時に存在しない財産を分与対象財産と認めることはできず、上記のような主張が受け容れられる余地はありません」

  従って、③ 基準時に存在する財産であることが主張立証でなければ、裁判所からも相手にしてもらえません。

                           ↓ もっとも、

  もっとも、他方の当事者が財産を隠匿していることが疑われる場合には、基準時に財産があることについての主張立証を尽くすことになります。

 基準時に財産があるということであれば、当然、夫婦の共有財産であれば、財産分与の対象となります。

  そのために、裁判所の調査嘱託の申立ての利用を検討することになりますが、この申立てが認められるためには、他方当事者名義の財産が嘱託先に存在することの蓋然性を疎明する必要があり、この疎明のないものは探索的な申立てとして却下されてしまいます。

  かなり厳格に運用されています。

  また、調査事項として認められるのは、原則として、基準時現在の残高であり、別居直前の多額の払い戻しなど財産隠しを疑わせる具体的事情が疎明された場合を除き、取引履歴の調査については必要性がないと考えられています。

  義務者の財産の存在については権利者に証明責任があると考えられているために、よほどのことがない限り、隠し財産の立証に成功したためしがありません。

 東京家裁の教科書的な書籍である人事訴訟の審理の実情においても、「婚姻期間中に給与が取得されているから、それが蓄積されているはずであるなどとして、その2分の1相当額の支払を求めるなどという主張が散見されるが、このような場合において、資産の存在が立証されることはほとんどないといってよい」とまで書かれています。

  当職の20年を超える経験の中でも、明確に覚えているのは、1件だけです。この事案は、相手方と相手方代理人弁護士との打ち合わせ不足が大きな原因だったと思いますが、数件の定期預金がでてきたので、依頼人からは感謝されました(事件が終わって10年位経過しますが、時折、野菜や果物を持って下さっています😅)。

  隠し財産については、長い間の婚姻期間中の給料の蓄積ではなく、別居直前に通帳から大きな金額が出金されて、義務者がその説明ができないような場合であれば、主張立証に成功したといえるでしょう。 

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(姫路・行者堂)

 

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