【学校】幼稚園を運営していますが、近隣住民から、園庭で遊ぶ子どもの声がうるさいとの苦情が入るようになりました。園庭で自由に遊ぶことは子どもの発達のために大切ですし、実際のところ子どもを静かにさせることは容易ではありません。このような苦情にも対応する必要があるのでしょうか?
昨年12月に出版された「学校運営の法務Q&A」での質問P298です。幼稚園だけではなくて、その他の学校、保育園、児童館等でも同様の苦情がよせられる可能性はあるところです。
近隣住民が騒音対策を法的に求める紛争に発展した場合の、騒音が違法と評価されるについての裁判所の判断基準は、概ね以下のとおりです。
①侵害行為の態様、②侵害の程度、③被侵害利益の性質と内容、④施設の所在地の地域環境、⑤侵害行為の開始とその後の継続の経緯および状況、⑥その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及び内容、効果等の諸般の事情を総合的に考察して、被害が「一般社会生活上受忍すべき程度のものを超えるものかどうか」によって、判断されています。
騒音の大きさについては、環境基準や騒音防止法、自治体の条例の基準などを参照し、当該地域の環境騒音の程度、近隣住宅との距離や生活時間帯と騒音が大きくなる時間帯の関係などを勘案し、住民の被害が生活上の著しい支障となっているかを検討しています。
なお、幼稚園等の側で対応できることもあります。特に住宅街を近接しているような場合は、周囲への影響を軽減するための方策を検討する必要があります。
この点、保育園のケースで参考になる裁判例(大阪高裁平成29年7月18日判決)があります。
保育園の近隣に居住する控訴人が,園庭で遊ぶ園児の声などの騒音が受忍限度を超えているとして,保育園を経営する被控訴人に対し,慰謝料の支払と境界線上に防音設備の設置を求めた事案(原審:請求棄却)。控訴審は,保育園からの騒音が発生する時間帯は毎日約3時間に限定され,控訴人の居住地域は,もともと自動車騒音や電車騒音が連続的・継続的に存在し,同保育園からの騒音による騒音レベルの増加はさほど大きくないこと,同保育園の公益性・公共性は否定できず,保育園開設の経過・被害防止の措置など,被控訴人に不誠実な態度があったとも認められないことなどから,受忍限度を超え,違法な権利侵害等になるとは言えないとして,控訴を棄却した事例
「騒音の音については、控訴人は,環境基準である55dBを超える騒音は原則として受忍限度を超えると主張するが,同基準は,行政施策を講じる上での目標値であって,人にとっての最大許容限度や受忍限度を定めたものとは異なるから,騒音による侵害の程度等を検討する際の評価基準の一つと考えることはできるが,これを超える騒音が,直ちに受忍限度を超える騒音になると評価すべきではない。」と判断しており、単純に音の大きさだけでは判断されていません。
また、保育園の公益性の高い点についても、以下のとおり触れています。
「ア 本件で騒音による被害が問題となるのは,本件保育園において園児が園庭で遊ぶ際に発する声を中心とし,職員によるハンドマイク等による指示や注意を含む園庭における保育活動から生じる騒音である。
園児が園庭で遊ぶ際に発する声等は,一般に,不規則かつ大幅に変動し衝撃性が高い上に高音であって,人の耳に感受され易いものであるが,その受け止め方については,これを気になる音として,不愉快,不快等と感じる者もあれば,さほど気にせず,むしろ健全な発育を感じてほほえましいと感じる者もいると考えられる。
イ しかも,保育園は,一般的には,単なる営利目的の施設等とは異なり,公益性・公共性の高い社会福祉施設であり,工場の操業に伴う騒音,自動車騒音などと比べれば,侵害行為の態様に違いがあると指摘することが可能である。したがって,園児が園庭で自由に声を出して遊び,保育者の指導を受けて学ぶことは,その健全な発育に不可欠であるとの指摘もでき,その面からすれば,侵害行為の態様の反社会性は相当に低いといえる。
ウ 本件保育園についても,この点が基本的に当てはまる。さらに,本件保育園は,神戸市における保育需要に対する不足を補うため,被控訴人が神戸市から要請を受けて設置・運営したという経緯があり,神戸市における児童福祉施策の向上に寄与してきたことも認められる。
エ もっとも,騒音被害を受ける控訴人の立場からすれば,園児が発する騒音であれ,工場や自動車による騒音であれ,騒音レベルは同じであるとの指摘もあり得るし,本件保育園に通う園児を持たない控訴人を含む近隣住民にとっては,直接保育園開設の恩恵を享受していないから,保育園が一般的に有する公益性・公共性を殊更重視することに抵抗があろう。
しかしながら,上記の指摘や抵抗を踏まえて考えても,受忍限度の程度を判断するに当たって,上記アないしウの事情が考慮要素となることは否定できない。」
なお、本書によれば、裁判例において、施設の公益性をどこまで勘案するかについては、一律に判断されているわけではなさそうです。
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