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【学校】

2025年3月17日 (月)

【学校】幼稚園を運営していますが、近隣住民から、園庭で遊ぶ子どもの声がうるさいとの苦情が入るようになりました。園庭で自由に遊ぶことは子どもの発達のために大切ですし、実際のところ子どもを静かにさせることは容易ではありません。このような苦情にも対応する必要があるのでしょうか?

 昨年12月に出版された「学校運営の法務Q&A」での質問P298です。幼稚園だけではなくて、その他の学校、保育園、児童館等でも同様の苦情がよせられる可能性はあるところです。

 近隣住民が騒音対策を法的に求める紛争に発展した場合の、騒音が違法と評価されるについての裁判所の判断基準は、概ね以下のとおりです。

 ①侵害行為の態様、②侵害の程度、③被侵害利益の性質と内容、④施設の所在地の地域環境、⑤侵害行為の開始とその後の継続の経緯および状況、⑥その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及び内容、効果等の諸般の事情を総合的に考察して、被害が「一般社会生活上受忍すべき程度のものを超えるものかどうか」によって、判断されています。

 騒音の大きさについては、環境基準や騒音防止法、自治体の条例の基準などを参照し、当該地域の環境騒音の程度、近隣住宅との距離や生活時間帯と騒音が大きくなる時間帯の関係などを勘案し、住民の被害が生活上の著しい支障となっているかを検討しています。

 なお、幼稚園等の側で対応できることもあります。特に住宅街を近接しているような場合は、周囲への影響を軽減するための方策を検討する必要があります。

 この点、保育園のケースで参考になる裁判例(大阪高裁平成29年7月18日判決)があります。 

 保育園の近隣に居住する控訴人が,園庭で遊ぶ園児の声などの騒音が受忍限度を超えているとして,保育園を経営する被控訴人に対し,慰謝料の支払と境界線上に防音設備の設置を求めた事案(原審:請求棄却)。控訴審は,保育園からの騒音が発生する時間帯は毎日約3時間に限定され,控訴人の居住地域は,もともと自動車騒音や電車騒音が連続的・継続的に存在し,同保育園からの騒音による騒音レベルの増加はさほど大きくないこと,同保育園の公益性・公共性は否定できず,保育園開設の経過・被害防止の措置など,被控訴人に不誠実な態度があったとも認められないことなどから,受忍限度を超え,違法な権利侵害等になるとは言えないとして,控訴を棄却した事例

 「騒音の音については、控訴人は,環境基準である55dBを超える騒音は原則として受忍限度を超えると主張するが,同基準は,行政施策を講じる上での目標値であって,人にとっての最大許容限度や受忍限度を定めたものとは異なるから,騒音による侵害の程度等を検討する際の評価基準の一つと考えることはできるが,これを超える騒音が,直ちに受忍限度を超える騒音になると評価すべきではない。」と判断しており、単純に音の大きさだけでは判断されていません。

 また、保育園の公益性の高い点についても、以下のとおり触れています。

「ア 本件で騒音による被害が問題となるのは,本件保育園において園児が園庭で遊ぶ際に発する声を中心とし,職員によるハンドマイク等による指示や注意を含む園庭における保育活動から生じる騒音である。
   園児が園庭で遊ぶ際に発する声等は,一般に,不規則かつ大幅に変動し衝撃性が高い上に高音であって,人の耳に感受され易いものであるが,その受け止め方については,これを気になる音として,不愉快,不快等と感じる者もあれば,さほど気にせず,むしろ健全な発育を感じてほほえましいと感じる者もいると考えられる。
 イ しかも,保育園は,一般的には,単なる営利目的の施設等とは異なり,公益性・公共性の高い社会福祉施設であり,工場の操業に伴う騒音,自動車騒音などと比べれば,侵害行為の態様に違いがあると指摘することが可能である。したがって,園児が園庭で自由に声を出して遊び,保育者の指導を受けて学ぶことは,その健全な発育に不可欠であるとの指摘もでき,その面からすれば,侵害行為の態様の反社会性は相当に低いといえる。
 ウ 本件保育園についても,この点が基本的に当てはまる。さらに,本件保育園は,神戸市における保育需要に対する不足を補うため,被控訴人が神戸市から要請を受けて設置・運営したという経緯があり,神戸市における児童福祉施策の向上に寄与してきたことも認められる。
 エ もっとも,騒音被害を受ける控訴人の立場からすれば,園児が発する騒音であれ,工場や自動車による騒音であれ,騒音レベルは同じであるとの指摘もあり得るし,本件保育園に通う園児を持たない控訴人を含む近隣住民にとっては,直接保育園開設の恩恵を享受していないから,保育園が一般的に有する公益性・公共性を殊更重視することに抵抗があろう。

 しかしながら,上記の指摘や抵抗を踏まえて考えても,受忍限度の程度を判断するに当たって,上記アないしウの事情が考慮要素となることは否定できない。

 なお、本書によれば、裁判例において、施設の公益性をどこまで勘案するかについては、一律に判断されているわけではなさそうです。 

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(春冷えの横峰寺) 

2025年3月15日 (土)

【学校】 地方大学再生 生き残る大学の条件

 地方大学再生 生き残る大学の条件を読みました😅

 P233以下のまとめには、以下のとおり説明されています。

 「大都市圏と地方圏では多少、違った動きが見られる可能性がある。地方都市の企業のなかには、新規採用に当たって、特定の職業高校や短大の卒業生の方が、信頼性が高いと判断するものもある。大都市圏と異なり、地方都市では地元大学へ進学した場合の投資対効果が見えやすい。地元の高校生たちに支持される学部構成、教育内容をもった大学や短大がある都市と、そのような大学が不在の都市では、高校生の進学率も変わってくるだろう。地域に大きな役割を果たす大学があるか否かによって、その都市の活力自体が左右されることになる。

 また人口減少は確実に予測できるが、大都市圏と地方など地域別の動向の予測は難しい。ただ、生産年齢人口を吸収し続けてきた大都市圏では、人口の高齢化が相当なスピードで進みつつある。医療介護の費用が財政を圧迫するようになり、地方税が上昇して住みにくくなる。一方の地方都市では、交通インフラや商業インフラなどが一通りそろい、高齢人口が都市部より早くに消えていくことから、財政的余裕も生まれ、若年層が地元に残る道を選ぶ、あるいは大都市圏の若年層が地方移住する傾向も進むかもしれない。その際に魅力的な大学があるか否かは、大きな意味を持つことになる。

 地方都市の私大の場合、現状と同様に地域社会に根を張っているか否かによって、存続可能性は決まってくる。良質な教育を施された卒業生たちが地域の官庁企業に就職するなど、地域社会の人々の目にみえるかたちで活躍する、あるいは都市に出ていって活躍する人材を送り出す、さらには国内外の大学の大学院などに進学して活躍する、などの成果を上げて、地域社会からの評価を得ることが求められる。

 また学部構成によっては大学院を開設し、地元の官庁や企業の人材のレカレント(学び直し)教育も含めて、地域で求められる高度な人材養成の役割を果たすこともありうる。」

 本書P224では、地方国立大学には気になる将来についても説明があります。

 「(20年代からの大学再編)国立大学については、旧帝大系などの有力大学が周辺の地方国立大学を法人傘下に統合し、学部・学科を選別しながら再編していく方向が基本となる。当面は、文系学部の縮小など、財界などの顔色を見ながらの再編が基本となろうが、中長期的には有力大学を中心として、学部学生数を減らし、海外留学生を含めた優秀な学生を対象とした大学院教育を拡充し、より高度な教育に重点が置かれることになる。その過程で、地方国立大の整理統廃合は進められるだろうが、戦前からの地場産業に直結するなど、地域にかかさせない大学は容易に整理されないはずだ」 

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(星ヶ森)
 

 

 

 

 

 

 

2025年3月 7日 (金)

【学校】 中公新書 大学改革

 中公新書の大学改革を斜め読みしました。

 論者は、ドイツの「エクセレンス」という競争の仕組みを念頭に、日本でも「多元的な競争」とその結果の「分権的な選択と集中」が必要だとしております。

 以下、P193以下から一部引用したいと思います。

 「選択と集中」は大学関係者の間では総じて不要である。

 その理由は、それが基礎研究軽視の傾向を生み、日本の研究力を弱めたからである。

 しかし、現在の日本の置かれた財産状況を鑑みると、何らかの選択と集中は不可避である。

 問題は、選択と集中の実施方法である。

 政府が設定したカテゴリーに諸大学を割り振るという上から種別化は、大学にとって望ましいものではない

 各大学が自らの強みを把握し、自らの戦略にそった特化を行う。選択と集中は、大学間ではなくて、大学内部で進行すべきである。

 すなわち、学内で戦略的と位置付けられた専門分野へ資源配分を集中すべきである。

 このためには、個々の大学の経営的力量が問われる。大学が自律的に動くためには、自らの長短所を分析し、それに沿った戦略を立て、さらにその戦略を実行する能力が必要となる。加えて、学内でも分権的コンロトールによる活性化を目指すのなら、学部レベルでも経営人材が必要である。 

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(笠松山・観音堂)

2025年3月 6日 (木)

【学校】 限界の国立大学

 朝日新書から出版された「限界の国立大学」を読みました。

 新書でありながら、なかなかの分量で、通読するに苦労しました。

 同書の概要をまとめました。

 行財政改革の流れの中で、2004年に国立大学が法人化しました。いわゆる国立大学法人法の成立です。

 そして、教職員の人件費や研究費に使われる基盤的経費である運営交付金が年々減らされました。

 運営交付金は、2004年には1兆2415億円ありましたが、10年にわたり毎年1%減少され、2024年には1億784億円となっております。

 そのため、教職員の人件費、研究費、光熱費などの支払に充てられるべき資金が減少しました。

 さらに、研究費については、競争的資金から獲得する仕組みにしたため、若手を中心に非正規教員が増加するなど研究環境が悪化しました。

 競争的資金を得るためには、応募するための書類を準備しなければならず、研究目的、研究計画、研究結果がもたらす効果や経費の見込み額まで10頁以上の書類が必要なこともあります。

 また、2019年からは財務省主導の下で、運営交付金制度に傾斜配分枠をもうけたために、配分される金額の見通しも難しくなりました。

 そして、苦しんでいる中で追い打ちをかけたのが、電気代などの光熱費や物価の高騰です。人事院勧告を受けて増加する人件費の圧迫は、大学の経営をより一層危機にさらすことになります。

 解決策は、運営交付金の充実が必要ですが、財務省も首相官邸主導の有識者会議にも見向きもされておらず、究極の「選択と集中」とも言われる国際卓越研究大学制度が導入されました。

  いずれにせよ、運営交付金の減額により、大学は研究力を低下させるという結果につながっております。

 他方で、国立大学法人化により、メリットもあります。

 やはり、学生に対する教育の質が飛躍的に向上したということがあります。

 田舎弁護士のころの大学は、少なくとも田舎弁護士出身大学は、学生に対する教育環境は酷いものでした。学生も、大学4年間はレジャーランドと称して、勉学にいそしんでいる者は少数でした。

 また、国立大学法人化により経営という観点が入ったこともポイントだと思います。

 とはいえ、現状のままですと、いずれ、教育にも影響がでてくることになるのではないかと思います。

 地方の国立大学は、地域の知の拠点であり、その拠点を失うことは、「知の総和」を十分に実現することもできません。

 本書は国立大学の現状を知る上での読み応えのある書籍だと思います。

 20250301_124342                            (嫁ちゃんランチ)

 

2025年1月11日 (土)

【学校】愛媛大学「未来価値創造機構」キックオフシンポジウム 未来価値と新技術 縮小する地域社会にAIは何をもたらすか?

 先日、愛媛大学グリーンホールで開催されました、頭書タイトルのシンポジウムに参加しました。パネルディスカッションについても、工夫がされたものでした。パネルディスカッションの前に、杉山将東京大学教授の「人工知能研究のこれまでとこれから」という基調講演がありましたが、理系の素養が全くない田舎弁護士にとっても非常にわかりやすい内容の講演で大変勉強(※勉強になった理由については後述します😄)になりました。 

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(雪の楢原山)
 人工知能の1つの研究分野として、「機械学習」(データの背後に潜む知識を学習する)という研究分野があり、音声・画像・動画の認識、ウェブやSNSからの情報抽出、商品やサービスの推薦、工業製品の品質管理、ロボットシステムの制御、医用画像処理等、「機械学習」技術の重要性は年々高まっていますという説明でしたが、田舎弁護士でもそのように思います。
 ところが、「人工知能」に関係する国際会議での採択論文数についても、アメリカと中国の企業や大学が大半を占めており、日本は非常に少ないとのことです。
 杉山先生の研究室においても、修士は日本人がまだいるものの、博士になると外国人のみとのことのようです(日本の場合は、修士を出たら、企業に入社してしまうとのことです)。
 日本においては、AI人材については、致命的な不足が生じており、今後、改善される見通しもなさそうです。(>_<)
 しかしながら、人工知能については、遅れをとるわけにはいかず、国際的スター研究者を育成し、海外の優秀人材を糾合することを説かれています。
 ところで、「機械学習」というのは、数学の知見をベースにされているようです。
 実は、うちの息子の真吾君が、東大の学部生ですが、数理を勉強しています。「機械学習」は、テキスト、音声、画像、映像、ロボット、電子商取引、医療、生命、化学、天文など実世界で応用として利用されています。
 親馬鹿な田舎弁護士としては、真吾君が人工知能研究に進み国際的スター研究者になってくれると、嬉しいです😅
 真吾君とお話ができるよい素材になりそうです。勉強になりました😁
 
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(楢原山山頂)
 なお、杉山先生は、AIの危険性についても指摘されていました。危険性の内容については、まさか、ターミネーターみたいなことがおこるの?と漫画チックに考えてしまい、質問しようと思いましたが、司会の先生が最後に質問してくれました。
 AIの危険性については、2つあり、1つは、利用する者が悪意をもって利用した場合の危険性、もう1つは、AI技術といってもパーフェクトなものではないことからくる危険性とのことでした。
 真吾君、チェックしているかな😇
 

2024年12月22日 (日)

【学校】 すごいことをされる私立大学もあるもんだ😅

 判例時報2606号に掲載された大阪高裁令和5年1月26日判決です。

 学校法人Y1との有期労働契約に基づきY1の設置するA大学の講師として勤務していたXが、期間満了による雇止めの通知を受け、その効力を争っていた(※)ところ、A大学の学長であるY2、同事務局長であるY3によって、Xが占有使用していた研究室の占有を侵奪され、本件研究室に置いていた動産も撤去されたとして、占有回収の訴えとして、①Y1に対して、本件研究室及び本件動産の引き渡しを求めるとともに、②Y2、Y3、に加えて、占有侵奪の助言をした弁護士Y4に対して共同不法行為責任として、Y1に対し使用者責任として、慰謝料の連帯支払いを求めた事案です。

 ※Xは平成22年に有期採用され、Y1が10年経過する前の平成31年に雇用契約終了する旨の通知が送ったことにより、Xにおいて雇止めの効力について、別件訴訟で争っていた事案です。

 高裁は、①については、

 本件研究室の占有者につき、Xは被用者であるから、原則として、Y1のために占有補助者として本件研究室を所持している者であって、自己のためにする占有意思があるとは認められないとしつつ、XがY1の占有補助者として物を所持するにとどまらず、X個人のためにもこれを所持するものと認めるべき特別の事情がある場合には、その物についてXが個人としての占有をも有することになる旨説示した上で、

 Xが本件雇止め通知を受けた後の事実関係を踏まえて前記特別の事情がある場合に当たるとして、X個人による本件研究室の占有を認めた上で、Y1が現在も本件研究室を占有しているとして、本件研究室についてもXの引き渡し請求を認容しました。

 また、②についても、

 A大学の学長ないし事務局長であるY2及びY3は、共謀して違法な占有奪取及び本件動産の撤去行為を行ったとした上、これに助言を与えた弁護士Y4についても、違法な自力救済行為の実行を容易にして幇助したとして、民法719条2項に基づきY1~Y3と連帯してXに対する損害賠償責任を負うとし、慰謝料額も20万円に増額しました。

 Y4は、動産の撤去行為が適法である旨の見解に根拠付けを与えたことが問われていますが、自力救済行為は禁止されていることは、誰でもわかる道理ですので、アドバイスとしては違和感を感じます

2024年12月 4日 (水)

【学校】 学校法人のガバナンス

 月刊監査役11月号での羅針盤です。改正私立学校法が令和5年5月8日に公布され、関連政省令とともに令和7年4月1日から施行されます。改正の理由は、日大事件などの不祥事を受けて、学校法人のガバナンス改革の推進が目的です。

 具体的には、「執行と監視・監督の役割の明確化・分離」を基本理念としつつ、私立学校の特性に応じた形で「建設的な協働と相互けん制」の確立が可能となるように、改正が行われ、ガバナンスに関連する主な改正点は、次のとおりです。

 ①学校法人(私立学校を設営運営する主体)には理事、理事会、監事、評議員及び評議員会並びに理事選任機関を置く。

 ②理事選任機関が評議員会以外の場合は、評議員会の意見を聴取する。

 ③理事長の選定は理事会で行う。

 ④監事の選解任は評議会の決議によって行い、役員近親者の就任を禁止する。

 ⑤理事と評議員の兼職を禁止する。

 ⑥評議員会は、選任機関が機能しない場合にに理事の解任を選任機関に求めたり、監事が機能しない場合に理事の行為の差止請求・責任追及を監事に求めたりすることができる。

 ⑦理事・理事会により選任された評議員の割合や、評議員の総数に占める役員近親者及び教職員等の割合に一定の上限を設ける。

 ⑧大臣所轄学校法人等は会計監査人を必置とし、そのうち規模の大きい法人等には内部統制システムの整備を義務化する。

 監事についても、①監事の選任は、旧規定では、評議員会の同意を得て理事長が選任するとされていましたが、改正法では、評議員会の決議に委ねられました。監事の選任に関する議案の提出については、監事の過半数の同意を得ることが必要になりました。大臣所轄学校法人は、常勤監事が必置となりました。さらに、監事は、その選任若しくは解任又は辞任について評議員会での意見陳述権が与えられました。

 監査役設置会社の株主総会のガバナンスに近くなったように感じます。 

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(世田山山頂ベンチ)

 なお、今回の改正のきっかけとなった日大ですが、現在の役員構成を調べてみました。

 理事長を除く理事は全部で23名ですが、弁護士等法学系の理事がなんと8名です。監事も、4名のうち1名が弁護士です。ガバナンスについての、日大の本気度が伝わってきそうです😄

2024年12月 2日 (月)

【学校】英語担当の外国人専任教員について、大学の実情や採用、更新の経緯を検討して、労契法19条2号による更新を認めた上で、さらに、同法18条1項に基づく無期転換権の行使により期間の定めのない労働契約上の地位にあることを認めた事例 令和5年1月30日長崎地裁判決

 判例時報2602号で掲載された令和5年1月30日長崎地裁判決です。

 X(ベルギー国籍)は、平成23年3月1日に国立大学法人Yとの間で、3年間の有期労働契約を締結し、教育職員(助教)として医学英語等を担当していました。

 Yは、期間3年の平成26年3月1日付け更新(1回目更新)及び期間2年の平成29年3月1日付更新(2回目更新)を前提として、平成30年11月13日、Xに対して、期間満了後の平成31年3月1日以降、更新を拒絶する旨の通知(本件雇い止め)しました。

 背景に平成25年4月1日から施行された労契法18条の改正により、5年を超える労働者については、無期転換権を付与されることになり、本件でも、施行後の通算期間5年を超える直前での雇い止めの効力が問題となりました。

 労契法19条2号に基づく3回目の契約の更新について、裁判所は、常用性、更新の回数、雇用の通算期間、雇用期間管理の状況、雇用継続を期待させる使用者の言動等を基礎付ける諸事情の有無について検討しました。

 Xは、恒常的に医学部の英語教育に関する必須科目や選択科目を担当し、英語教員として必要な付随的業務等を担当してきたこと

 本件労働契約が、不更新条項にかかわらず、実質的な審査等がされた形跡がなく、形式的な手続で2回更新され、契約期間が通算8年間に及んでいたこと

 Xが、Y大学の長期的視野に立つと考えられる新規方針の一貫として、医学英語担当の外国人専任教員として採用され、採用過程において、その旨伝えられていたことなどの諸事情を考慮して、Xの本件労働契約更新への期待について、労契法19条2号所定の合理的な理由があると認めました。

 ★労契法19条2号

  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること

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(笠松山・モウセンゴケ)
 そして、本判決は、本件雇止めについて、労契法19条本文所定の合理性及び相当性の欠如を検討し、
 Xが医学英語担当の外国人専任教員として必要な担当能力を有していたこと
 
 Y医学部の教育変更方針に伴う外国人専任教員削減の必要性は1名分にとどまり、同方針変更やこれに伴う影響について事前に説明せず、対応検討の機会を設けないまま、必要な範囲を超えて人員削減したことなどから、合理性を欠き、
 さらには、本件雇止めの時期が同種職種の就職先を探すためには不十分で、他の配属先を探すために誠実に対応したともいえないことから、社会通念上相当性を欠くとして、同条2号により更新を認め、その上で、Xは無期転換権を行使したから、本件労働契約は、同法18条1項により期間の定めのない労働契約に転換されたと認めました。
 国立大学法人側にとって、厳しい判断です。

  

2024年11月23日 (土)

【学校】 試験の成績等の開示請求について 「情報公開・開示請求実務マニュアル」(平成28年)

 少し古くはなりましたが、「情報公開・開示請求実務マニュアル」に、試験の成績等の開示請求についての解説がされていました。

 わかりやすいと思いましたので、橋折ながら、説明したいと思います。

 この解説は旧法のものですが、現行の個人情報保護法についてもそのまま当てはまると思います。

 行政機関個人情報保護法14条7号柱書(旧法)は、国の機関、独立行政法人等、地方公共団体または地方独立行政法人が行う事務または事務に関する情報であって、開示することにより当該事務または事業の性質上、当該事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものを不開示情報と定めている。

                          ↓

 本号に制度趣旨について、東京地判平成25年2月7日および東京地判平成25年7月4日は、国の機関等が行う事務・事業は、公共の利益のためのものであり、開示請求に基づく開示により事務・事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれのある情報を不開示とすることに合理的な理由があるため、これらの情報を不開示情報としたものであるとした上で、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれとは、当該事務・事業の目的、その目的達成のための手法等に照らして、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれをいう

                          ↓

 本号にいう支障の程度につき、大阪地判平成20年1月31日は、名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、おそれの程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が必要とする。

 東京地判平成25年2月7日は、ほぼ同趣旨を説いた上で、さらに、これらの要件の判断にあたっては、個人情報開示請求をした者が当該情報を知る利益と、客観的具体的に想定される当該情報を開示することにより生じる不利益とを比較考量して判断すべきとする。

                          ↓

 大阪地判平成20年1月31日は、新司法試験受験者である原告が法務大臣に対して行った答案およびそれを採点した考査委員が付した素点が記載された文書の開示請求の一部不開示処分決定処分取消請求について、司法試験委員会において回答の困難な質問や照会を増大させ、同委員会が本来の業務以外にかかる質問や照会に対する対応に今まで以上に時間を割かれるようになり、事柄の性質上、十分な時間を割いても受験者らが納得する回答ができるものでもないことなどを理由に、開示により司法試験事務の適正な遂行に実質的な支障をおよぼすおそれが、法的保護に値する蓋然性の程度まで認められるとして、請求を棄却しました。

 大阪地判平成20年1月31日が掲載された判例タイムズNo1267によれば、「試験に関連する情報公開の裁判例としては、

 公立学校教員採用選考筆記審査の択一式問題とその解答の開示を求めた事案についての、高知地裁平成10年3月31日判決(原告負け)、その控訴審である高松高裁平成10年12月24日判決(原告勝ち)、その上告審である最高裁平成14年10月11日判決(原告勝ち)

 保育士試験における自己の解答用紙及び問題ごとの配点と得点の開示を求めた事案についての、東京地裁平成15年8月8日判決(原告勝ち)、その控訴審である東京高裁平成16年1月21日判決(原告負け)

 旧司法試験における論文式の科目別得点等の開示を認めた事案についての、東京地裁平成16年9月29日(原告一部勝ち)、その控訴審である東京高裁平成17年7月14日判決(原告一部勝ち)」があるようです。

  最高裁平成14年10月11日判決は、択一式試験の問題とその解答についてのものですが、判例タイムズの解説によれば、その他の出題形式で行われた試験問題等についても択一式試験と同様に解することができるかどうかは、今後に残された問題であるとしております。 

  旧司法試験における事案については、前記東京地裁平成16年9月29日判決は、「司法試験第二次試験の受験者の行政機関個人情報保護法13条1項に基づく自己の試験成績等の処理情報の開示請求に対する一部不開示決定処分につき、論文式試験の科目別得点及び総合順位を不開示とした部分ならびに口述試験の科目別得点を不開示とした部分は、同法14条1項1号ニに該当するから適法であるとし、口述試験の総合順位を不開示とした部分は、同法条項1号ニ又は3号のいずれにも該当しないから違法であるとして、その部分の取消請求を認めた事例」、その控訴審である東京高裁平成17年7月14日判決は、「司法試験第二次試験の受験者が,司法試験管理委員会委員長に対し,行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号による全部改正前の昭和63年法律95号。ただし,平成15年法律第119号による改正前)13条1項に基づいてした同試験ファイルに記録された自己の試験成績等の処理情報の開示請求に対する一部不開示決定の取消請求につき,同決定のうち,論文式試験の科目別得点及び口述試験の科目別得点を不開示とした部分は,同処理情報を開示することにより同法14条1項1号ニに該当するから適法であるとし,論文式試験の総合順位を不開示とした部分は,同処理情報を開示することにより同号ニ又は同項3号のいずれにも該当しないから違法であるとして,前記請求を一部認容した事例」と判断されています。

  保育士試験における自己の解答用紙及び問題ごとの配点と得点の開示を求めた事案については、前記東京高裁平成16年1月21日判決は、「保育士試験の趣旨、目的を実行するために最も重要なことは、適正な試験問題を成することである。そして、そのためには、試験委員にふさわしい者を確保してその専門的識見を活用し、かつ、良問の作成を阻害する要因をできるだけ除いておく必要があると考えられる。このような点から見ると、解答用紙及び問題ごとの配点と得点の開示は、この試験制度の趣旨、目的に合致しない面があることを否定できず、「事務の適正な執行に支障が生ずるおそれ」かあるといわざるを得ない。すなわち、前記ののとおり 開示することにより、一方においては、採点及び合否判定の過程を透明化し、健全な批評、批判を通じて試験の適性の確保を実現するという効果を期待することができるものの、他方においては、試験委員のなり手の確保が困難となり、試験問題が不適切なものになりがちになり、試験委員及び事務局において質問に対する回答をするための事務が増加するおそれに加えて、採点基準が推定されて受験技術が発達し、機械的、断片的知識しか有しない者が高得点を獲得する可能性があるという、いわば副作用ともいうべき難点がある。そして、全体としてみると、現時点において、開示のこの弊害は、相当程度現実的なものとみられるのに対し、開示に判う事務の透明化が、上記副作用を押さえて試験の適正化を実現する蓋然性は低いと考えざるを得ず、この副作用がある以上、解答用紙及び問題ごとの配点と得点の開示は、保育士試験の実施に関する東京都の事務の適正な執行にに支障を生ずるおそれがあるものと評価せざるを得ないのである。」

 なお、最高裁判事で東京大学名誉教授でもある宇賀克也先生の「教育と個人情報」という論文に、以上のお話を総括されています。

 「入試や各種資格試験の成績の本人開示については、近年大きな変化がみられた。すなわち、試験成績の開示は一般的になり、大学入試センター試験や大学独自の試験成績が本人開示されていなかった時代(横浜地判平成11年3月8日、東京高判平成12年3月30日)とは隔世の観がある。他方、採点済みの答案については(1)受験予備校等が対価を支払うなどして、多くの受験者の答案と得点の通知を収集することで、具体的な採点基準を探り、また、高い答案を得た者の答案を分析して、多数の受験生に示す等、受験技術の習得に特化した受験指導を行うことが十分に予想でき、その結果、受験生の中には、合格者や高得点の者の答案を無批判に暗記対象とするなどして、受験技術偏重の傾向が悪化するおそれがあること、(2)個々の受験者の提出した答案を開示することになれば、成績通知による各科目別の得点を受験者相互間で比較検討することが可能となり、受験生の中には、その分析結果を基に、自己の答案が低いことについて疑問を持つ者が現れ、試験実施期間に質問や照会をする者が出現することになり、試験実施機関がその対応に時間が割かれることになること、(3)そのことへの煩わしさから、かかる質問や照会の行われにくい問題を作成し採点することになると、本来の目的である高度の専門的な知見に基づく多角的視点による採点が行われなくなったり、本来の趣旨から外れた考慮を必要とする問題作成や採点に煩わしさを感じ、優秀な試験委員を確保することが困難になることを理由として、本人開示を否定する裁判例がある(大阪地判平成20年1月31日、東京高判平成16年1月21日)。このような論理を前提としても、多肢選択式問題への解答の評価を記載した部分については、採点者の裁量の余地はないので、不開示とする合理的な理由はないことになろう」

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                            (朝倉・須賀神社) 

2024年10月16日 (水)

【学校】(朝日新聞10月3日配信) 准教授を「村八分」

 朝日新聞10月3日配信記事に、准教授を村八分として、ハラスメントを理由に国立大学法人に賠償命令が出された裁判例が紹介されていました。

 その配信記事を一部引用します(一部加盟)。

 「M大学(T市)の大学院工学研究科の女性准教授が、複数の教授によるハラスメントを受けたなどとして、大学側に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が3日、名古屋高裁であった。長谷川恭弘裁判長(朝日貴浩裁判長代読)は、「継続的に村八分のように扱われ、精神的苦痛を受けた」などとして訴えの一部を認め、一審・津地裁判決を変更。大学側に慰謝料など110万円の支払いを命じた。

 控訴審判決などによると、准教授は2008年に同研究科で初の女性教員として助教で採用された。准教授は18年、採用時に不当な労働契約を締結させられたことや、説明無しに上司の教授の交代があったなどとしてハラスメントを大学に申し出た。大学の調査委員会は一部教授らによるハラスメントを認めた。

 その後、准教授は20年、改善措置せずに違法行為を助長したなどとして津地裁に大学側を提訴。津地裁は23年、訴えを棄却した。

 控訴審判決では、労働契約について「拒否は困難な状況で、事実上強要された」などとしてハラスメントに当たると認定。また卒論発表会の案内を2年間配布しなかった行為などを「教育研究活動上、事実上排除され孤立したような環境に置かれ、社会的にも明らかに不相当」として違法性を認めた。

 さらに准教授の研究室に所属する大学院生に部屋を割り当てなかったのは、「優秀な後進を育てるという大学教員にとって本質的な部分で劣悪な状態に置かれている」として、「配慮を著しく欠き、ハラスメントに当たる」と断じた。

 大学側は提訴された後に再調査委員会を設置。同委員会は23年、初回の調査結果は事実誤認で、ハラスメントは無かったと結論づけた。この再調査について控訴審判決は「損害賠償を免れるため、組織的に行われたと疑われる」と非難。初回調査で指摘された環境を大学は改めるべき義務を負いながら、改善を怠っていたと指摘した

 M大広報室は「再調査は事実関係を正確に確認するため実施した。判決が届いていないためコメントできない」としている。(渡辺杏果)」

 高裁の判決は、厳しくM大学の行動を非難しております。

 現在、新聞記事でしか情報を把握できませんが、事実だとすれば、残念です😟

 ただ、1度は、大学の調査委員会は、ハラスメントを求めているんですね。再調査のための調査委員会でどのような議論がされたのかが重要だろと思いますが、高裁の裁判官を納得できるものではなかったということですね。

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