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【建築・不動産】

2025年3月23日 (日)

【建築・不動産】 建物所有者から定期建物賃貸賃貸借契約の媒介を委託された宅地建物取引業者が、事前の書面交付および説明をしなかったことについて、媒介契約上の債務不履行責任が認められた事例(東京地判令和6年1月29日)

 銀行法務21・3月増刊号「ダイジェスト金融商事重要判例(令和6年版)」で掲載された裁判例です。

 宅建業者が、定期建物賃貸借契約の媒介を委託されていたにもかかわらず、事前の書面交付および説明をしなかったことから、賃借人が法定更新を主張され、解決金として、850万円を、賃借人に支払って解決せざるを得なくなったので、そこから、保証金残金を控除した約776万円等を請求したというケースです。

 裁判所は、宅建業者に、媒介契約の善管注意義務及び業務上の一般的な注意義務違反があるとして、約776万円を認めました。

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                             (長浜駅で)

 このケースと類似の相談は、昨年は複数あり、しかも、同じ不動産業者でした。いずれ、このような法的紛争に発展してもおかしくないだろうと思います。

 また、賃貸人においても、お願いしている宅建業者に対しては、更新前にはきちんと事前の書面交付と説明を励行しているのか確認した方がいいでしょう。

2025年3月21日 (金)

【建築・不動産】 所有者不明土地管理命令申立て 備忘録

 民法264条の2第1項は、管理命令に係る土地の所在地を管轄する地方裁判所は、所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、または所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地または共有持分を対象として、所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分(所有者不明土地管理命令)をすることができるとされました。

  所有者不明土地管理命令の請求権者は、利害関係人でなければなりません(なお、地方公共団体の長等は特別措置法で適切な管理のため特に必要と認める時は申立ては可能)。

 利害関係人とは、対象となる土地が適切に管理されていないために不利益を被るおそれがある隣接地所有者や、土地の共有者の一部が不特定または所在不明である場合の他の共有者、その土地を取得してより適切に管理しようとする公共事業実施者が例示として示されています。

  申立の際の添付資料としては、民事法研究会の書籍によれば、申立書副本、委任状、資格証明書、登記事項証明書、固定資産評価証明書、公図、経路図、現状調査報告書、所有者・共有者の探索等に関する報告書があげられています。

 申立てを行うと、①申立人が利害関係人に該当すること、②土地の所有者を知ることができずまたはその所在を知ることができないこと、③具体的な管理行為を行うために管理命令の必要があると認められることなどの要件について、審理確認し、審問期日を指定することになります。

 登記の嘱託ですが、管理命令の対象となる土地について、所有権に登記はされているものの、登記簿上の所有者が被相続人名義のままとなっている場合、管理命令の登記の前提として、選任された管理人において相続登記を行う必要がある※。裁判所書記官としては、管理人による相続登記の後に登記嘱託を行うことになる。

 所有者であると主張する者が、所有者不明土地等の所有権が自己に帰属することを証明した場合(所有者であると主張する者が、所有者不明土地管理人に対して所有者不明土地の所有権確認訴訟を提起し、勝訴判決を得た場合など)は、裁判所は、その者の申立てにより、所有者不明土地管理命令を取り消さなければなrない。この場合、管理人は、その者に対して事務の経過および結果を報告し、所有者不明土地を引き渡すことになる。 

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(八幡浜駅で)
※所有権の登記名義人が死亡し、相続登記が未了である場合において、その相続人が所有者となった土地又は共有持分について所有者不明土地管理命令がされたときは、所有者不明土地管理命令の登記をするためには、その前提として、相続登記をする必要がある。この相続登記の申請は、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分に係る相続人が登記申請人となり、所有者不明土地管理人がその代理人となって行うことになる。この場合には、裁判所に提出された戸籍関係書類の裁判所書記官の認証に係る謄本を相続を証する情報として取り扱うことができるものとする。また、裁判所書記官の作成に係る所有者不明土地管理人選任及び印鑑証明書又は所有者不明土地管理命令の裁判所謄本が代理人の権限を証する情報となる。

2025年3月13日 (木)

【建築・不動産】 (仮登記に基づく本登記)甲所有の不動産について、乙のための所有権移転登記請求権の仮登記後に、甲から丙への所有権移転の登記がされている場合、当該仮登記に基づく本登記手続は、どのようにすればよいか?

 甲が、乙に不動産を売り渡して仮登記を設定した後に、甲が丙へ売り渡して本登記をした場合、甲は、当該仮登記に基づく本登記手続をするためには、どしたらいいだろうか?という質問です。

 これに対して、新訂判決による登記は、以下のとおりわかりやすく解説しております(P265以下)。

 「仮登記に基づく本登記の申請は、一般の申請手続と同様、仮登記権利者及び仮登記義務者が共同してするのが原則であり、仮登記義務者が本登記手続に協力しないときは、本登記手続をすべきことを命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む)を得て、登記権利者が単独で申請することができます(不動産登記法63条1項)。この場合、請求の趣旨及び判決の主文において、どの仮登記に基づき本登記手続を求めるものであるかを明示する必要があります。

 仮登記に基づく本登記をした場合には、当該本登記の順位は、当該仮登記の順位によりますから(法106条)、所有権に関する仮登記に基づく本登記について、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができます(法109条1項)。

 その申請に当たっては、当該第三者が承諾したことを証する当該第三者が作成した情報又は当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報(裁判書の正本等)の提供を要します。当該第三者の権利に関する登記は、登記官が当該申請に基づく本登記をする際に職権により抹消します(法109条2項)。

 法109条1項にいう「登記上の利害関係を有する第三者」とは、仮登記に基づく本登記がされた場合において、その不動産に関する権利を害されることが登記の形式上明らかな第三者をいうものと解されています。

 所有権に関する仮登記後にされた抵当権その他の制限物権の登記名義人、仮差押・仮処分・差押えの登記名義人などはもちろん、設問のように、所有権に関する仮登記後に所有権登記名義人から所有権移転の登記を経た第三者も、登記上の利害関係人に当たります。すなわち、所有権に関する仮登記後に第三者への所有権移転登記がされた場合の本登記義務者は、仮登記義務者である前の所有権登記名義人であって、現在の所有権登記名義人は、当該仮登記に基づく本登記をするについての登記上の利害関係人として、その承諾がなければ本登記の申請をすることができないということになります。」

 「所有権に関する仮登記後に数次の所有権移転の登記がされている場合、これらの数次の移転登記は全て職権抹消されることになりますが、本登記についての承諾は、現在の所有権登記名義人のみの承諾を得れば足りるとされています。」

 「なお、所有権の仮登記後に相続による所有権移転の登記がされている場合において、当該仮登記に基づく本登記をするときは、その登記義務者は、相続による所有権移転の登記名義人であり、当該相続登記は本登記に伴い、職権抹消されます」

 「仮登記権利者は、仮登記の効力として、これらの第三者に対し、仮登記に基づく本登記についての承諾を求めることができ、他方、当該第三者は、承諾義務を負うことになります。第三者が任意の承諾に応じない場合は、仮登記権利者は、その者に対して、当該仮登記に基づく本登記をするについて承諾すべき旨を請求する訴訟を提訴することができます。この承諾請求訴訟は、仮登記義務者に対する本登記手続請求の訴訟に併合提起しても、あるいは別訴によっても差しつかえありません。」

 「設問については、乙の仮登記の本登記手続について甲及び丙の協力が得られない場合には、乙は、甲に対し、その本登記手続を求める訴訟を、丙に対しては、当該本登記について承諾を求めるそれぞれ提起し、勝訴の各確定判決を得た上で、単独で仮登記に基づく本登記の申請をすることができます。同一の判決による場合には、当該判決書の正本が登記原因証明情報と承諾証明情報を兼ねることになります。

 登記って、私のような田舎弁護士にとっては、非常に難解なので、このような書籍があるはありがたいです(但し、いつ、役立つかわかりませんが) 

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(春冷えの楢原山)

 

 

2025年3月12日 (水)

【建築・不動産】 昔の抵当権の登記を消す方法⁉

 年に1、2回程、昔の抵当権等の登記が残ったままになっているので、なんとか消すことはできないかという相談を受けることがあります。

 消すためには、消すことについての正当な理由が必要です。

 大昔の抵当権等であれば、担保となった貸金は、既に返済済みであったり、消滅時効が成立していることが大半だと思います。

 貸金が消滅すれば、抵当権も消滅します。

 しかしながら、登記簿上の抵当権は抹消されるわけではありませんので、消すための作業が必要になります。

 第1は、当事者の合意による方法です。

 ただ、債権者が生存している場合であればともかく、死亡している場合には、相続人も複数であり、この方法は難しい場合が多いと思います。

 第2は、休眠担保法抹消の特例による方法です。

 ①債権者が行方不明であること、②弁済期から20年以上経過していること、③貸金の元本と利息を支払ったことを証明して、登記を消します。

 この方法は、専門家である司法書士の先生にお願いする必要があります。

 第3は、訴訟による方法で、弁護士が対応する分野となります。貸金について消滅時効に必要な期間が到来していれば、最終的には勝てる可能性が高い案件とはなりますが、前提として、債権者が個人であれば、相続人調査、法人であれば、解散や登記が残っていない等、非常に手間がかかる手続となります。

 もっとも、令和5年4月1日施行の改正不動産登記法により、担保権者が解散した法人である場合には登記抹消手続が簡略化されました。

 なお、債権者の立場からすれば、貸金などの債権の保全管理をしておかないと、せっかく、つけた抵当権が抹消されてしまうということです。

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(笠松山)

2025年1月22日 (水)

【建築・不動産】位置指定道路の敷地所有者が隣接地で運送業を営む会社に対して、当該位置指定道路の自動車での通行禁止を求めた請求が棄却された事例 東京高裁令和4年12月13日判決

 判例時報No2609号で掲載された東京高裁令和4年12月13日判決です。 20250119_134549

                             (雪の明神ヶ森)

 第1審判決は、私道の通行につき日常生活上不可欠の利益を有する者は特段の事情のない限り敷地の所有者に対して通行妨害の排除、禁止を求める人格的利益を有するとした最高裁平成9年12月18日判決を基準とした上で、本件おいてYは本件道路の通行について日常生活上不可欠の利益を有するとはいえず、また、Xの自動車通行禁止請求が権利の濫用に当たるともいえないと判断して、Xの請求を認めました。

 しかし、第2審判決は、

 Yによる本件道路の自動車での通行は、位置指定道路の敷地の所有者であるXとして受忍すべき程度にとどまり、所有権に基づく妨害排除請求権の発生を基礎付けるような妨害行為であるとはいえない、

 仮にXに妨害排除請求権の発生を肯定する余地があるとしても、Xが、本件道路の管理に具体的な支障が生じていないのに、本件道路の自動車での通行禁止によりYが本件駐車場の使用不能という看過しがたい不利益を被ることを知りつつ、Yからの話し合いによる解決に向けての協議申し入れも一切を拒否した上、本件道路の通行者のうちYのみに対し、本件道路の自動車での通行全面禁止を求めることは、権利の濫用に該当し、許されないとして、Xの請求を棄却しました。

 なお、気になる最高裁平成9年判決との関係については、当該判決は、私道を通行する者からの私道の所有者に対する妨害排除請求に関するものであって、私道の所有者からの通行禁止請求である本件とは事案を異にすると判示しております。

 まあ、第2審判決の方だ妥当ですね😇

 

2025年1月 8日 (水)

【建築・不動産】 借家契約終了に伴う立ち退き料の算定方法

 判例タイムズ1526号で掲載された「借家契約終了に伴う立ち退き料の算定方法」です。 

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(石鎚山)
 事業用建物の立退料の算定は、居住用建物の立退料の算定と比較して、借家権価格等、主張される構成要素が多く、立退料も高額化する傾向にあることから、立退料額そのものが大きな争点になることが多い。
 事業用建物の立退料算定方法の判断枠組みは、概ね以下の方法に二分された。
 実費・損失方式(補償方式) 移転実費・損失額のみで立退料を算定する(借家権価格は算定せず)
 併用方式 移転実費・損失額(ただし、差額賃料の補償を含まない)に、借家権価格を加算して立退料を算定する
 他方、居住用建物の立退料の算定方法については、事業用建物の立退料の算定と比較して、主張される構成要素は少なく、営業損失等への補償を含まないことから、その金額は相対的に低くなる。収集した裁判例のうち居住用建物の立退料額を判断した裁判例9件における立退料の算定方法は実に様々であり、一定の算定根拠を示すものもあれば、一切の事情を考慮、として特に算定根拠を示さないものもある。いずれの裁判例も、借家権価格を構成要素とはしていない。
 借家についての立退料のご相談があった場合には、事前に目をとおしておいた方がいいと思いました😄

2024年12月29日 (日)

【建築・不動産】 定期借家における終了通知を失念していた場合にどうする??

 昨年から、定期借家における終了通知を失念し、期間満了後も従前同様に賃貸借契約が継続しているかのようなケースについてのご相談が増えております。

 ご承知のとおり、定期借家は、普通借家と異なり、更新がない契約で、期間が満了すれば確実に契約が終了するものです。もっとも、契約終了を知らせる通知(終了通知)がないと、契約が終了しないのと同じような状態が事実上継続します。

 契約期間が1年以上ある定期借家の場合は、借地借家法38条4項に従い、期間満了の1年前から6か月前の間に、終了通知を行う必要があります。

 契約終了の通知がない場合には、契約終了を賃貸人に対応できないことになります。従って、賃借人は、契約期間が満了した後においても、建物から退去しなくてよいことになります。

 従って、終了通知は非常に大事な手続となります。

 なお、終了通知については、口頭でもOKですが、後日争われる可能性があるため、内容証明郵便又通知する書面を賃借人に渡して受領印を貰うという方法をとることをお勧めいたします。 

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                           (イースト21・日の出) 

 問題は、契約期間満了後に終了通知をした場合です。統一的な見解は解説書などを見る限り現時点ではなさそうです。

 第1説は、契約期間中の終了通知と同じように、通知から6か月で明渡請求ができるようになるという見解です。

 第2説は、新たな賃貸借契約(普通借家)が始まるので、終了通知をしても意味が無い(明渡ができない)という見解です。

 新日本法規Q&A定期借家権(平成12年)には、どちらの説をとるべきかはにわかに決し難い問題としつつ、現在のところは、第1説が有力とされております。但し、第1説の立場でも、貸主が期間満了後も、長期間、借家人に対して、建物の明渡しを求めず、賃料を受領している状態が継続している場合には、黙示の意思表示により、新たに、普通借家契約が成立しているとみなされることがありますので、ご注意下さいと書かれています。

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(イースト21・プールガーデン)

 大家から相談を受けた弁護士としては、契約期間満了後であっても、家主に対しては、まずは、終了通知の有無を確認し、万が一、終了通知をしていなければ、速やかに終了通知を内容証明郵便で行うようアドバイスをします。

 すでに終了通知をしている場合には、そこから6か月経過すれば退去するよう、内容証明郵便にて、退去の通知を送ります。

 それでも、退去をしない場合には、裁判所に調停の申立てか訴訟の提訴を検討するということになります。

 先も述べたとおり、大家にとって有利な第1説を採用したとしても、長期間、借家人に対して、建物の明渡しを求めず、賃料を受領している状態が継続している場合には、新たに普通借家契約が成立したとされる裁判例がありますので、専門家に相談の上、迅速な対応が必要です。

 また、第2説のように普通借家が成立するという見解もあり、現在のところ統一的な見解がないことからすれば、専門家である管理会社には、期間内での終了通知を失念しないよう、十分な注意が必要ではないかと思います。

 第2説の普通借家が成立するという見解を裁判所が万が一採用した場合には、大家にとって、エライことになります😵

 せっかく利用した定期借家です。法律で定められた手続についての怠りがないよう注意が必要です。 

2024年12月27日 (金)

【建築・不動産】 借家を返して貰うためには!?

 時折、借家を返して貰いたいだけどどうしたらいい?、家主から借家を返して貰いたいという連絡がきたのだけどどうしたらいい? という内容の相談を、家主、又は、反対に借家人から相談を受けることがあります。

 契約の内容は、定期借家契約ではなくて、普通借家契約となっており、当初の契約期間は2年、その後も契約が更新されるというタイプのものがほとんどのように思います。

 借地借家法第26条1項によれば、賃貸借契約の更新拒否を行う場合には、賃貸期間満了の1年前から6か月前の間に、契約を更新しない旨を通知する必要があります。更新拒否の通知ができる期間も定まっており、いつでも更新拒否の通知ができるわけではありません。

 では、更新拒否の通知さえすれば、賃貸借契約は更新されずに終了ということになるかというと、そうではありません。借地借家法第28条は、更新拒否について正当な理由を要求しているからです。

 この正当事由の認定のハードルは相当に高いものです。

 正当な事由の判断要素は、借地借家法第28条において、建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、財産上の給付を考慮して判断されることになります。

 相談例として問題となるケースとしては、大家自身が建物の使用を必要とする場合、入居者に債務不履行がある場合、建物の老朽化などです。 

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(JR高尾駅)
 最終的には、お金で解決することが多いケースですが、費やす時間と費用を説明するととりわけ大家側が驚くということが常です。定期借家契約にすべきですが、定期借家契約についても期間満了に際しては説明と新たな契約書の作成が必要であることから、事務的な負担がかかります。ただ、もめたときは、有効な定期借家契約であれば、大家側が有利な立場に立てます。

2024年11月16日 (土)

【建築・不動産】 不動産の取得時効 No2 ★執筆記事6000件達成★

 昨日の続きです。

 「訴訟における主張立証責任の観点からみると、『占有者は所有の意思で占有するものと推定されるのであるから(民法186条1項)、占有者の占有が自主占有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は右占有が他主占有にあたることについての立証責任を負う』(最三小判昭和54・7・31判事942号39頁)。

  もっとも、裁判実務の上では、単に占有があるだけで所有の意思が推定されることはない。自主占有か否かは権原(占有をするに至った原因)によって判断される。

  最一小判昭和44・5・22判時561号38頁では、『取得時効の要件としての所有の意思の有無は、占有の根拠となった客観的事実によって決定されるべき』であると述べられ、その上で、『占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情が証明されるときは、占有者の内心の意思のいかんを問わず、その所有の意思を否定し、時効による所有権取得の主張』は排斥されるものとされている(最一小判昭和58・3・24判時1084号66頁。お綱の譲り渡し事件)。」

 「3 取得時効の登記上の取り扱い

 取得時効が成立する場合の法律関係は、実体法上は、前所有者の所有権が占有者に承継されるのではなく、前所有者が所有権を失い、占有者が所有権を原始取得する。

 しかし、登記上は、占有者が原始取得したとは取り扱われず、前所有者の所有権を取得したものとみなされている。」「この方法は確定した判例法理(大判大14・7・8民集4巻9号412頁)、登記実務である(明44・6・22民事第414民事局長回答)。占有者が不動産の時効取得をした場合には、「前所有者の権利登記抹消+占有者の保存登記」という方法ではなく、占有者が移転登記によって所有権の移転登記を受ける方法(法律構成)が採られる。

 東京地判昭50・1・22訟月21巻13号2651頁では、不動産が甲から乙に、乙から丙にそれぞれ譲渡された後に丙が占有を続け、丙が時効取得したけれども登記名義が甲のままになっている場合において、『不動産の登記簿上の所有者と、その時効取得を主張する者との間に、その不動産を前者から買い受けて後者に売り渡した中間者があるということだけでは、その不動産を永続して占有するという事実状態を権利関係に高めようとする民法162条の適用を拒むに足りる理由があるとは考えられない』、『不動産を時効取得した者は、直接、登記簿上の所有者に対し、所有権移転登記の登記請求権を取得するのであるから、いわゆる中間省略登記の問題を生ずる余地もない。』として、丙はに対して、直接に時効取得を原因とする移転登記手続を請求することができるものとされた。」

 「訴訟においては、時効取得が登記上は原始取得ではなく承継取得として扱われることから、時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求める必要がある。請求の趣旨における登記原因の日付(不登59条3号、不登令3条6号)は、時効の起算点となる。時効の起算点を登記原因の日付とする理由は、『時効の効力として権利の得喪が生じるのは、時効期間満了の時であるが、その効力は、時効期間開始の時、その起算日に遡る』(民144条)からである」 

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(本谷温泉クリームソーダ)

 本日の記事で、執筆数6000となります。振り返ると、20年近くにわたって、「田舎弁護士の訟廷日誌」を綴ることができました。現在でも、1日3~500件程のアクセスがあります😄 

 当初は、息子ちゃん曰く、尖った雰囲気があるものだったようです。

 今は、基本的には、書籍や裁判例等を勉強した際の備忘録的な内容になっております。

 昨年に、家族問題、交通事故トラブル、医療関係事故を綴った他の3つのブログは削除しました。

2024年11月15日 (金)

【建築・不動産】 不動産の取得時効 No1

 不動産の取得時効の勉強のために、日本加除出版から今年の8月に出版された渡辺晋弁護士の「不動産登記請求訴訟」を購入しました。

 まず、「はじめに」の文章が参考になります。

 「訴えから登記までは、1 登記手続に協力すべき者に対して実体法上登記請求権を有する者が、2 訴えを提起し、裁判所の審理を経て確定判決を得て3 確定判決を提出して登記を申請し、登記官が登記を行う というプロセスをたどる。

  これを、分析整理すると、① 実体法上登記請求権を有するか ② 具体の事案に即して、どのような訴訟を行うか ③ どのような形式の判決を経て、登記を申請するか がそれぞれ検討課題となる。

  まず、①の実体法上の登記請求権については、法律上明文の定めはもうけられておらず、民法と契約を解釈し、登記請求権の有無が判定される。本書では、民法にしたがって、登記請求権がいかなる場合に認められるかを整理した。

  次に、②の不動産登記請求訴訟の種類は、不動産登記法が共同申請の原則を採用していることから、判決による相手方の意思表示の擬制を求める給付訴訟となる。

  さらに、③の判決の形式と登記申請に関しては、確定判決が不動産登記法上の登記義務者の意思表示に代わるものだから、判決主文が登記申請を可能にするものでなければならない。そのため、不動産登記請求訴訟は、どのような主文の判決を求めるかが重要な課題となる。」 

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(横峰寺遍路道)
 

 では、いよいよ、取得時効に入ります。大学生になったつもりでのおさらいですね😅

「1 取得時効の制度

 民法には、一定の事実状態が続いたまま時間が経過した場合には、従前の真実の権利の状態と一致するかどうかを問わず、事実状態をそのまま権利関係として認める仕組みが設けられている。この仕組みが時効制度である。時効制度には、取得時効消滅時効があり、権利者としての事実状態(事実上権利者らしい状態)を根拠にして真実の権利と認めるのが、取得時効である。

 取得時効には、長期取得時効短期取得時効がある。長期取得時効においては20年間の占有によって所有権が認められる。20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する(民法162条1項)。

 2 所有の意思(自主占有)

 取得時効においては、所有の意思をもった占有の継続に、所有権の取得という効果が結びつけられており、取得時効の成否は、所有の意思の存否にかかる。所有の意思とは、事実上所有者と同様の排他的支配を行う意思である。

 所有の意思を持った占有を、自主占有という。自主占有か否か(所有の意思の有無)は、占有者が真実の所有者の所有権を否定するような対応で目的物を支配しているかどうかで判断される。

 例えば、売買契約を締結したうえで占有する買主は代表的な自主占有者であり、ほかに、境界線を越えて隣地を占有する者などが自主占有者となる。他方、賃借人や受寄者の占有は、自主占有ではなく、所有の意思のない他主占有である。」

 以降は、明日の続きです😅

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