【介護・遺言・相続】 相続放棄の熟慮期間
家裁裁判月報平成21年1月第61巻第1号、つまり、No1号が、法曹会から送られてきました。
今回の号は、家庭裁判所が60周年を迎えることから、特集号になっていました。
裁判例概観では、やはり相談の多い相続放棄の熟慮期間の起算点の問題だと思います。
相続放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから、3ヶ月以内にしなければなりません。
従って、原則として、死亡という事実を知った場合には、そこから起算されることになります。
ただ、死亡という事実をしった場合でも、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じており、かつ、相続人においてそのように信ずるについて相当な理由があると認められる場合には、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識したとき又は通常これを認識し得べかりし時から起算されます(最高裁昭和59年4月27日)。
この例外的な取り扱いの範囲が、最近の高裁判例では、広がりをもっているようです。
名古屋高裁平成19年6月25日決定では、被相続人に積極財産があるとは認識していたものの、公正証書遺言で別の相続人に相続させる事情があったことから、死亡時において、自ら相続すべき財産がないと信じたことについて相当の理由があり、相続債務についても、その存在を知らず、債務の存在を知り得るような日常生活にはなかったと推認させることから、別件訴訟の訴状を受け取るまで、相続債務について存在を認識しなかったことについても相当な理由があるとして、別件訴訟の訴状を受け取ったときから、起算した事例です。
仙台高裁平成19年12月18日決定では、未成年者である相続人の法定代理人(親権者母)が、被相続人である元夫の住宅ローンの保証人でもあった案件で、ローンに係る住宅には元夫の両親が居住していること、住宅ローン債務は離婚の際の協議により被相続人側で処理することになっていたこと、団体生命保険で完済されていると考えていたことから、債権者から主債務者の相続人に向けた照会文書を同法定代理人が受領したときから起算するとした事例です。
東京高裁平成19年8月10日決定では、相続人において被相続人に積極財産があると認識していてもその財産的価値がほとんどない場合でも、最高裁昭和59年判決の適用があるとした事例です。
例外的に処理される場合を、限定的に頭で考えてしまうのではなく、思い切って勝負することも必要かもしれませんね。
(追記)
この記事は、現役裁判官の方のブログなどでもとりあげられたことから、アクセス数がものすごいことになっています。法律実務家や研究者の方からの貴重なコメントをいただければ幸いなので、コメント欄を開放します。
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