令和6年8月に、法曹会から、司法研修所編 子の監護・引渡しをめぐる紛争の審理及び判断に関する研究 が出版されていましたので、早速、購入しました。
2章から構成されています。第1章は、子の監護者指定の判断の枠組み、第2章は、審判前の保全処分です。
後者の審判前の保全処分は、田舎弁護士も30年近く弁護士をしておりますが、片手で数えるくらいしか対応したことがありません。子の監護者指定については、割とあるように思います。
そのため、第1章の子の監護者指定の判断の枠組みを中心に眺めてみました。
(笠松山・謹賀新年)
第1章では、まずは、子の監護者指定等事件の特質を確認し(第2)、その上で、これまで発表された裁判例の傾向や判断枠組みを分析した論稿(先行文献)を参照しながら、子の監護者指定の判断枠組みをめぐる従前の議論の状況を振り返り、子の監護者指定の判断枠組みについて、行動科学の知見等を踏まえつつ、より体系的な整理が必要であることを明らかにする(第3)。そして、子の監護者指定の判断を支える行動科学の知見等について、子の監護者指定等事件における家庭裁判所調査官の調査の在り方を研究した令和2年度家庭裁判所調査官実務研究(指定研究)の結果報告である「子の監護者指定をめぐる事件の調査実務についての研究ー子のニーズに着目した試みー」(指定研究)の概要を紹介し(第4)、さらに、諸外国における子の監護をめぐる紛争に関する制度とその運用を紹介した上(第5)、最後に、それらまでに分析、紹介した内容のほか近時の裁判例も踏まえ、子の利益の観点から、子の監護者指定の判断枠組みを検討し、提唱することとする(第6)という、内容になっております。
このブログでは、第3と第6について触れたいと思います。まず、第3で指摘されているこれまで発表された先行文献についてです。
先行文献による裁判例の分析の概要として、諸事情を比較衡量するに当たって考慮される点として、①主たる監護者、②監護環境の継続性、③子の意思の尊重、④きょうだい不分離、⑤監護開始の違法性、⑥面会交流の許容性、⑦婚姻関係破綻の有責性が挙げられているところ、「先行文献が示す各考慮要素をなぜ考慮する必要があるのか、子の監護の在り方が多様化する中で諸事情の総合考慮をどのような観点から行うべきかなどの点について、行動科学の知見等を踏まえつつ、子の利益を中心に据えた更なる体系的な整理が必要であると考えられる」としております。
そして、第6の子の監護者指定の判断枠組みとしては、「子の監護者指定に当たっては、子の利益が最優先の考慮要素とされ(民法766条1項)、第2で述べたとおり、子の監護者指定は、子の利益の観点から、父母それぞれの監護を評価し、今後、子が父母のいずれかの監護下で生活することがより子の利益にかなうかという基準で判断すべきである。そこで、父母それぞれの監護がどのように評価すべきかが問題となるが、本研究では、子の利益を中心に据え、父母の監護を評価する際のポイント(着眼点)として、①子が従前どのように監護養育されてきたか(従前の監護状況)、②子が今度どのような監護養育を受けられるか(監護態勢)、③子が親とどのような関係を築いているか(子との関係性)、④子が親から他方の親との関係を維持するために必要な配慮を受けられるか(他方の親と子の関係に対する姿勢)の4点を提唱することとしたい。」として、各ポイントについて説明されています。
この判断枠組みが、家裁に早期に浸透していくのかどうかはわかりませんが、司法研修所編ですので、実務に対する一定の指針にはなるのではないかと思います。
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