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2024年7月

2024年7月31日 (水)

【弁護士考】 また、広島!? 弁護士が1890万円余の横領の疑いで逮捕

 NHKの報道によれば、広島市の弁護士が、業務用の貯金口座から現金を引き出す等をして1890万円余りを横領した疑いで、広島地検特別刑事部に逮捕されました。

 広島県警ではなく、地検特別刑事部なんですね。

 70歳代の依頼の男性から相続する財産の管理やその手続に依頼を受けており、一昨年2月から今年5月までの間、27回にわたり出金したという容疑です。

 なお、この弁護士ですが、昨年9月号の「自由と正義」という業界の月刊誌によれば、成年後見人として財産を明確にする方法で管理しなかったとして戒告処分を受けております。管理口座については家裁への報告事項になっているのでこれ自体信じがたいところではあります。

 地元の、40歳代という年齢で、しかも、ダイバーシティ推進という中で女性ということですので、ごく普通に考えると、横領するまでに至ることはないのではないかと思いますが、広島市は大都会なのでそうではなかったのかもしれません。

 大都会の法律事務所で秘書として働き、ロースクールに通い資格を取得、7,8年程前から地元の広島市で開業されたようです。

 広島では弁護士の不祥事が続いていますが、広島だけに限られたことではないと思います。

 田舎弁護士が所属する愛媛でも、過去に同様の不祥事は複数ありましたし、今も、内実はよくわかりませんが、「どうなんかな~」と思ってしまうような法律事務所が複数あります。

 預かり金関係の不祥事は、顧客や裁判所、そして、真面目に業務をしている大多数の弁護士に対する背信行為です。

 従って、事実だとすれば、厳罰な処分が必要だと思います。

 また、預かり金関係の不祥事は、弁護士の経済的な環境が益々悪化していることに鑑みると、このまま何もしなければ、減少することはないと思います。

 例えば、私論ですが、姉歯事件をきっかけにできた住宅瑕疵担保に備えた供託制度のような制度を弁護士においても設けるべきではないかと思います。弁護士会費を減らした上で、その部分も原資として、毎年100万円位を継続して供託ということ(老後の資金にもなります)にすれば、懐事情の厳しい弁護士は、廃業や転職ということになるでしょうから、不祥事も少しは減るのではないかと思います。

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(広島・鈴が峰)
 現在の弁護士をとりまく環境を考えると、現在の司法試験は、裁判官、検察官、インハウスロイヤーを除き、ごくごく普通の町弁ということを志望されているのであれば、合格しても、売上を自分で作っていかなければならないので、リスクがあると思います。
 田舎弁護士のような中堅の私立大学の法学部生に対しては、公務員試験への切替をお勧めいたします。特に、現在、国家公務員総合職(官僚)は、狙い目だと思います。

【建築・不動産】 賃借物件で自殺をしてしまった場合の補償!?

 賃借物件で不幸にも居住者が自殺をしてしまった場合、建物の所有者から、居住者の関係者に対して自殺により建物の価値が減少した等として補償を求められることがあります。

 もっとも、自殺者の場合、遺族が相続放棄をされることも少なくないと思いますので、この場合には、請求先がないことから、建物の所有者が泣き寝入りということも散見されます。

 とはいえ、自殺者に資産があるような場合や、借り上げ社宅で発生した場合等の場合には、仲介業者や弁護士を通じて請求先の遺族や会社に対して補償を求められることがあります。

 第1は、原状回復費用です。

 建物の所有者としては、全て取り換えて欲しいという気持ちを持つことが少なくないように思います。

 他方で、請求を受ける方としては、死亡した部屋に限定して欲しいと考えることが通常です。基本的には、死亡した部屋に限定されると思いますが、異臭等が拡がっている場合には、他の部屋の原状回復も認められることもあろうと思います。

 第2は、家賃保証です。

 これについては、平成19年8月10日東京地裁判決がよく引用されています。この裁判例では、1年分は100%、2年分と3年分は50%の家賃保証を認めております。中間利息の控除も必要です。

 第3に、建物の価値下落部分です。

 転売が予定されるような物件であれば、一定範囲で認められることもあろうと思います。

 第4に、お祓いなどの費用です。

 事案に鑑みれば、数万円程度であれば、認められることもあろうと思います。

 いずれにせよ、不幸にも自殺をしてしまった場合には、残された方に対して大きな負担をかけます。

 もし、なやみを抱えていたら、その悩みを相談されてみて下さい。

 電話相談窓口(厚労省のHP) 

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(今治・世田山)

2024年7月30日 (火)

【行政】市立保育所に通園していた当時3歳2か月の幼児が給食のホットドックを誤嚥して心肺停止となつた事故につき、幼児にホットドックを提供したことや誤嚥後の対応等に違法性はないとして、幼児及び家族の市に対する国家賠償請求を棄却した事例 令和4年10月26日東京地裁判決

 判例時報2592号で掲載された令和4年10月26日東京地裁判決です。

(1)争点1(国賠法1条1項に基づく被告の損害賠償責任の有無)
 ア 原告X1に本件ホットドッグを提供したこと及び提供方法の違法性
 (ア)被告が本件ホットドッグを1歳児クラスに提供したこと自体の違法性について
  a 本件ホットドッグは、キャベツの千切りとウインナーをパンに挟んだものである(前提事実(3))。以下のbにおいて説示するとおり、本件ホットドッグに使用された各食材及びこれらを組み合わせたホットドッグは、一般的な幼児向け料理として広く紹介されており(認定事実(5))、それ自体誤嚥の危険性が高いとはいえず、本件ホットドッグが、これまで提供されていた食材や献立に比べて、特に誤嚥の危険が高い食材や調理方法を採用しているともいえないから、本件ホットドッグを1歳児クラスに提供したことが違法であるとはいえない。

  b 原告らは、咽頭や気道を塞ぎやすいパンは誤嚥事故が生じやすい食品であると主張し、証人Dの証言及び証拠(甲19の2、甲25)にはこれに沿う部分がある(以下の原告らの各主張について同じ。)。
    しかし、幼児向け料理に係る文献は、パン食として、ホットドッグのほか、揚げパンやトーストなど、様々なものを取り上げており(認定事実(5)、乙22~24、52)、現に、本件保育所を含め、多くの保育施設における幼児用の給食やおやつの一品としてパンが提供されていることからすると(乙21)、一般に、1歳児にとってパン食が禁忌とされているとは認め難い。本件保育所においては、過去に、口に入れたパンを戻した幼児がいたことが認められるものの(乙31の12頁)、食材を口から出したというだけでは、単に当該幼児にとって料理の味付けや大きさが口に合わなかったにとどまる可能性も否定できず、この事実をもって、パンが誤嚥事故を生じやすい食品であり、提供を控えるべきものであるということはできない。
    また、原告らは、切れ目を入れない皮付き・粗挽きウインナーを1歳児クラスに提供することは許されないなどと主張する。しかし、幼児食を紹介する文献には、ウインナーに切れ目を入れることを推奨するものがある一方、皮付き・粗挽きのウインナーの使用や、切れ目を入れないウインナーの使用について特段言及しないものも一定数存在していること(認定事実(5))に照らせば、皮付き・粗挽き又は切れ目を入れないものを使用することで直ちに誤嚥の危険が増大すると認めることはできないし、また、そのような理解がごく一般的であったということはできないから、こうしたウインナーを提供することが許されないとはいえない。
    本件ホットドッグに使用されたキャベツは千切りされたものであるから、1歳児にとって誤嚥の危険性が高いとはいえない。
    原告らは、食感の異なる複数の食材を使用した料理を提供することの危険性も主張するが、料理の提供に当たっては、食感の異なる複数の食材を使用するのが通常であって、それ自体が誤嚥事故を惹起する行為であるとはいえないし、本件ホットドッグについてみても、組み合わせて提供することで特に嚥下が困難になる食材が含まれているとはいえない。そうすると、本件ホットドッグが複数の食材を使用し、各食材を別々にしなかったことをもって、その提供が違法であるとはいえない。
 c 以上のとおり、本件ホットドッグを1歳児クラスに提供することが違法であるとはいえない。

(イ)原告X1の特性等を踏まえた、本件ホットドッグの提供行為の違法性について
  a 原告X1は、生まれつき、発達遅滞、内斜視及び遠視性乱視の障害を有していたため、実年齢よりも低い0歳児クラスに入所し、翌年は1歳児クラスにおいて保育を受けていたが、嚥下障害はなく、食種は2~3歳の常菜とし、日常の食事面や生活面等において特段加配すべき点はないものと診断され(認定事実(3)エ)、本件保育所の健康診断でも異常がなかった(認定事実(2)ウ、(3)イ)。しかも、原告X1は、生後12か月である平成26年12月頃に離乳食を終了し、平成28年1月には、保育所と家庭において、いろいろな食材を食べる練習に取り組むこととなり(認定事実(2)オ、カ)、本件事故から過去6か月間において、せんべい、プルコギ、焼売、1口大の果物などを問題なく食べ、本件事故当日においても、白飯、豆腐ハンバーグ等を完食していた(認定事実(3)オ~キ)。原告両親も、本件保育所の食事について、バターロール、ウインナー及び未経験の食品を食べることを承諾した上、献立表を事前に受領していたが、特定の食材の提供を避けてもらいたいといった格別の配慮を求めた事情は見当たらない(認定事実(2)ア、(3))。
    以上を前提とすると、原告X1は、年齢に比較すると発達の遅れがみられるものの、0歳児クラスから1歳児クラスに進級しており、食事面を含めて1歳児クラスでの通常の保育が可能な生活を送っていたのであって、嚥下機能が特に未熟であったり、頻繁に丸飲みをしたりするなど誤嚥の危険が高い状態であったとはいえず、1歳児クラス向け給食の献立とは別の離乳食に近い特別な食事を提供すべきであったとはいえない。そうすると、前記(ア)のとおり、1歳児クラスにおいて本件ホットドッグを提供することに問題がない以上、これを原告X1に提供したことが違法であるとはいえない。

  b 原告らは、原告X1は嚥下機能が未熟であり、食事の際に噛まずに吸ったり、丸飲みをしたりすることが多かった上、医師から刻み食の指示を受け、家庭でも離乳食に近い食事をしていたから、被告は離乳後期から完了期頃までの食事を与える義務を負っていたと主張し、原告両親も、家庭では離乳食に近い食事を与えていたと供述する。しかし、原告X1が吸うように食事をしていたのは本件事故から約1年前の平成28年3月頃までであって(認定事実(2)イ①~⑤)、その後は、前記aのとおり、1口大のパンや果物等を食べるようになっている。そして、保育経過記録等を見ても、本件事故の直前において、細かくされていない食品を噛まずにそのまま飲み込んでいるとの記載は見当たらないから(認定事実(3)ウ①・②)、原告X1が頻繁に食材を丸飲みしていたとはいえない。医師は、原告X1につき、刻み食の指示をしているが(認定事実(3)エ)、原告X1に嚥下障害がなく、食種が2~3歳常菜との診断と同時にされているのであるから、同指示は、食事の1口の大きさを実年齢に応じたものとする趣旨とみられ、それを超えた格別の配慮を求める趣旨であるとは認め難い。家庭での食事に係る原告両親の上記供述は、原告X1が家庭において目玉焼きや焼売等を食べていたこと(認定事実(3)オ)に照らして直ちには採用することができないし、仮に原告X1が家庭において原告両親の供述に沿う食事をしていたとしても、上記のとおり、本件保育所において現に1口大のパンや果物等を問題なく食べられていたことなどからすると、離乳食に近い食事以外の摂食が困難であったとは認め難い。そうすると、原告X1の嚥下機能が未熟であったとはいえず、原告らの主張は、その前提を欠くというべきである。


 原告らは、厚生労働省が作成したガイドライン等(甲2、3)に照らし、原告X1に本件ホットドッグを提供したことは違法であると主張する。しかし、同ガイドライン等は、一般的に、幼児の特性や嚥下機能に応じて適切な調理形態とすることを推奨し、あるいは、調理方法の工夫例を示すものというべきであって、上記のとおり、原告X1の嚥下機能に問題があったとはいえないから、同ガイドライン等の記載を前提としても、本件において、原告X1に本件ホットドッグを提供してはならないとの評価に結び付くものではない。

 また、原告らは、被告は、原告両親から提供を受けた情報も勘案し、原告X1の嚥下機能に配慮した適切な食事マニュアル又は給食メニューを作成し、これに沿う食事を提供する義務を負うとも主張する。しかし、前記aのとおり、原告両親が食事について特別な配慮を求めていたとはいえない上、上記のとおり、原告X1の嚥下機能に何らかの問題があるともいえないから、被告において、特別な食事マニュアル又は給食メニューを作成する義務を負っていたとはいえない。
 c したがって、原告X1の特性等を踏まえても、被告が本件ホットドッグを原告X1に提供したことが違法であるとはいえない。
 

(ウ)本件ホットドッグの提供方法の違法性について
   原告らは、保育士は原告X1に手づかみ食べをさせる義務を負い、本件ホットドッグをちぎって渡したのは違法であると主張する。
   しかし、B保育士は、本件ホットドッグにつき、1口当たり、パンが約5cm×2.3cm、ウインナーが直径約1.8cm×厚さ約0.7cmとなるように分割しているところ(認定事実(4)イ)、それ自体、1歳児クラスの食事として十分に小さいものであるし、現に原告X1が3口目までを問題なく食べていることからすると、原告X1にとっても大きすぎるとはいえず、ちぎって提供したこと自体が違法になるとはいえない。しかも、B保育士は、原告X1が誤嚥した4口目につき、これを原告X1の口に直接入れたのではなく、原告X1に手渡して食べさせたのであるから(認定事実(4)ウ)、手づかみ食べと同様の提供方法を講じていたというべきであり、この点からも、被告が手づかみ食べをさせることを怠ったとはいえない。
   原告らは、ちぎることによってパンに力が加わって密度が増し、強固な塊が形成されるから、誤嚥事故の危険が高まると主張する。しかし、幼児が食べやすいようにパンをちぎって与えることは一般的に行われていると考えられるところ、その際に敢えてパンを強力に押し固めるようにちぎったのであれば格別、ちぎる際に多少力が加わったとしても、誤嚥の危険が急増するほど強固な塊が形成されるとはいえない。そして、本件において、X1が誤嚥したホットドッグが上記のような強固な塊であったことを認めるに足りる証拠はない。
      したがって、本件ホットドッグの提供方法が違法であるとはいえない。
(エ)以上のとおり、原告X1に本件ホットドッグを提供したこと及びその提供方法が違法であるとはいえない。

イ 食事中の監視態勢に関する違法性
 (ア)本件ホットドッグの提供は、C保育士が隣室の清掃のために机を離れた後、10人の幼児に対して2人の保育士及び1人の実習生が配置された状態で行われた。B保育士は、泣いていた本件別幼児を隣に座らせて様子を見ながら、机を挟んだ位置に座っていた原告X1に対し、1口ごとに口腔が空になっていることを確認しつつ、本件ホットドッグ及び牛乳を交互に与えた。(認定事実(4)イ、ウ)
 以上を前提とすると、B保育士は、C保育士が机を離れた後も、原告X1に対し、1口ごとに牛乳を口に含ませるなど、誤嚥事故等が生じないよう極力の配慮をしていたものであり、原告X1の食事介助に当たって求められる注意を十分に払っていたというべきである。本件事故発生時の状況についてみても、B保育士が原告X1から目を離した時間は数秒間にすぎず、誤嚥の覚知が遅れたとはいえない。
 そうすると、被告の食事中の監視態勢に何らかの問題があったということはできず、これが違法であるとはいえない。
 (イ)これに対し、原告らは、C保育士が食事中に机を離れたこと、及びB保育士が原告X1の隣でその様子を継続的に観察しなかったことは違法であると主張する。
  しかし、C保育士が机を離れた後も、幼児10人に対して少なくとも2人の保育士が配置されていたのであるから、保育士の人数が不相当に少ないとはいえない(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準33条2項参照)。また、B保育士は、前記(ア)のとおり、C保育士が机を離れた後も、原告X1の食事介助に当たって求められる注意を十分に払っており、本件事故の発生時も、原告X1の誤嚥を覚知して直ちに救護活動に着手しているから、本件別幼児の様子に気を取られたとか、原告X1を放置したなどということはできないし、配席の関係で救護活動が遅れたともいえない。
  そうすると、C保育士が食事中に机を離れたこと、及びB保育士が原告X1の隣でその様子を継続的に観察しなかったことが違法であるとはいえない。

ウ 本件事故直後の措置の違法性
 (ア)原告X1は、平成29年2月8日午後3時12分頃に本件ホットドッグを誤嚥して直ちに保育士の背部叩打を受け、午後3時15分頃、パンの塊(噛んだパンと皮付きのウインナーの欠片)を吐き出したが、なお容態が回復しなかったため、保育士は、午後3時17分に緊急通報を行い、消防の指示を受けて背部叩打を継続した。救急隊員は、到着後、喉頭鏡や吸引器による異物等の確認、人工呼吸等を行ったものの、上記パンの塊のほか、閉塞物は発見されなかった。(認定事実(4)エ・オ)
   以上の事実関係を前提とすると、原告X1がパンの塊を吐き出したにもかかわらず、容態が回復しなかった時点で緊急通報の必要性が明らかになったというべきであり、保育士が当初緊急通報を行わず、パンの塊を除去してから2分後(誤嚥から5分後)に緊急通報を行ったこともやむを得ないというべきである。
   また、保育士は、背部叩打を行ってパンの塊を吐き出させることに成功した上、緊急通報を受けた消防も背部叩打の継続を指示したのであるから、本件事故において保育士が背部叩打を継続したことに問題はない。さらに、本件において、ハイムリック法を行うことで閉塞物除去の時期が早まり、又は原告X1の容態が回復していたともいい難いから、ハイムリック法を行うべきであったとはいえない。
   そうすると、被告の本件事故直後の措置が違法であるとはいえない。
 (イ)原告らは、被告は、誤嚥覚知直後に大声で事故の発生を知らせた上、最優先で緊急通報を行う義務を負っていたと主張する。しかし、誤嚥者の容態は、誤嚥した物を除去することにより比較的早期に回復する場合が多いといえることからすると、誤嚥を覚知した場合に直ちに緊急通報をする義務を負担させるのは現実的でなく、まずは誤嚥物の除去を優先し、容態が回復しなかった場合に緊急通報をするという対応もやむを得ないというべきである。
   また、原告らは、被告が緊急時マニュアルの作成を怠り、又はその内容が不当であることが違法であるとも主張するようである。しかし、前記(ア)のとおり、本件事故直後の被告の措置には問題がないのであるから、被告において、原告らが主張する内容のマニュアルを作成する義務を負わないことは明らかである。
 

(2)小括
    以上によれば、争点1のその余の点及び争点2を判断するまでもなく、原告らの主張は理由がない。」

 お気の毒な事故のようです。。。

2024年7月29日 (月)

【建築・不動産】 一筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を有する債権者が、当該登記請求権を被保全権利として当該土地の全部について処分禁止の仮処分命令の申立てをした場合における保全の必要性の有無 令和5年10月6日最高裁決定

 判例時報2592号に掲載された令和5年10月6日最高裁決定です。

 事案は以下のとおりです。

「1 本件は、抗告人が、いずれも1筆である原々決定別紙物件目録Ⅰ記載の各土地(以下「本件各土地」という。)について、その各一部分の所有権を時効により取得したなどと主張して、本件各土地の所有権の登記名義人である相手方らに対し、当該各一部分についての所有権移転登記請求権(以下「本件登記請求権」という。)を被保全権利として本件各土地の全部について処分禁止の仮処分命令の申立て(以下「本件申立て」という。)等をした事案である。」

 →1筆の土地の一部分についての権利を主張する方が、全部についての処分禁止の仮処分命令申立てをされたという事案です。

 大阪高裁の決定は以下のとおりです。

「2 原審は、要旨次のとおり判断して、本件申立てをいずれも却下すべきものとした。
 1筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を有する債権者は、当該一部分についての処分禁止の仮処分命令を得た場合、債務者に代位して分筆の登記の申請を行い、これにより分筆の登記がされた当該一部分について処分禁止の登記がされることによって、当該登記請求権を保全することができるから、当該登記請求権を被保全権利とする当該土地の全部についての処分禁止の仮処分命令は、保全の必要性があるとはいえない。」

 →最高裁は、下記のように述べて、破棄差戻をしました。


「3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を保全するためには、当該一部分について処分禁止の登記をする方法により仮処分の執行がされることで足りるから、当該登記請求権を被保全権利とする当該土地の全部についての処分禁止の仮処分命令は、原則として当該一部分を超える部分については保全の必要性を欠くものと解される。


 もっとも、上記一部分について処分禁止の登記がされるためには、その前提として当該一部分について分筆の登記がされる必要があるところ、上記登記請求権を有する債権者において当該分筆の登記の申請をすることができるか否かは、当該債権者が民事保全手続における密行性や迅速性を損なうことなく不動産登記に関する法令の規定等に従い当該申請に必要な事項としての情報を提供することの障害となる客観的事情があるか否かに左右されるから、当該債権者において当該申請をすることができない又は著しく困難である場合があることも否定できないというべきである。

 そして、その場合、上記債権者は、上記一部分について処分禁止の仮処分命令を得たとしても上記登記請求権を保全することができないから、当該登記請求権を保全するためには上記土地の全部について処分禁止の仮処分命令を申し立てるほかないというべきである。上記の申立てにより仮処分命令がされると、債務者は上記一部分を超えて上記土地についての権利行使を制約されることになるが、その不利益の内容や程度は当該申立てについての決定に当たって別途考慮され、当該債務者において当該権利行使を過度に制約されないと認められるだけの事情がない場合には当該申立ては却下されるべきものと解される。


 以上によれば、上記債権者が上記登記請求権を被保全権利として上記土地の全部について処分禁止の仮処分命令の申立てをした場合に、当該債権者において上記分筆の登記の申請をすることができない又は著しく困難であるなどの特段の事情が認められるときは、当該仮処分命令は、当該土地の全部についてのものであることをもって直ちに保全の必要性を欠くものではないと解するのが相当である。


 4 以上と異なる見解に立ち、本件各土地の分筆の登記に関する登記官の回答を記載した抗告代理人の報告書が提出されているにもかかわらず、当該回答を裏付ける資料による疎明を求めるなどして抗告人が地積測量図等の分筆の登記の申請に必要な事項としての情報を提供することの障害となる客観的事情があるか否かを検討せず、上記特段の事情が認められるか否かについて審理を尽くさないまま、保全の必要性があるとはいえないとして、本件申立てをいずれも却下すべきものとした原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、上記特段の事情の有無、本件登記請求権の存在や内容、相手方らの不利益の内容や程度等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。


 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 渡邉惠理子 裁判官 宇賀克也 裁判官 林 道晴 裁判官 長嶺安政 裁判官 今崎幸彦)」 

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(広島・鬼ヶ城山登山道)
 当然の結論と思いますが、難しかったんですね😅

2024年7月28日 (日)

【学校】 国立大学法人ガバナンス・コード ってなに?

 令和2年3月30日に、「国立大学法人ガバナンス・コード」が公表されました。令和6年7月1日に改定された最新の「国立大学法人ガバナンス・コード」は、ここを参照下さい。

 国立大学法人においても、ガバナンス・コードが公表されるに至った経緯は、令和2年3月31日の国立大学協会会長の声明がわかりやすく説明されています。

 国立大学協会では、平成27年4月の学校教育法及び国立大学法人法の改正を受けて、国立大学のガバナンスの在り方を検討するWGを設置し、平成29年5月に「国立大学のガバナンス改革の協会に向けて(提言)」を公表しました。

 平成30年6月15日に閣議決定された統合イノベーション戦略において、「内閣府(科技)及び文部科学省の協力の下、国立大学等の関係者は、大学ガバナンスコードを2019年度中に策定する」とされたことを契機として、国立大学協会では、主体的に各法を保管するソフトローとしての国立大学法人ガバナンス・コードの検討を開始しました。

 他方で、その策定に当たっては、その内容の客観性を担保することが社会の理解を得るために重要であるという観点から、内閣府、文部科学省の協力のもと、国立大学協会との三者による「三者協議会」を設置し、審議を行い、国立大学協会において策定されたものです。

 ガバナンス・コードの実施に当たっては、「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施していない場合には、その理由を説明するか)の考えを基礎として、各国立大学法人において、その特性に鑑み実施していあに場合には、社会に対して説明責任を果たすために、実施していない理由を十分に説明することが求められています。

 つまり、各国立大学法人が、ガバナンス・コードの実施を通じ、教育・研究・社会貢献機能を最大化するとともに、経営の透明性を高め、各法人の状況を社会に明確に説明することが求められているわけです。

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 国立大学法人ガバナンス・コードは、4つの基本原則と、8つの原則、多数の補充原則から構成されています。

 基本原則1.国立大学法人のミッションを踏まえたビジョン、目標・戦略の策定とその実現のための体制の構築

 基本原則2.法人の長の責務等

  2-1 法人の長の責務

  2-2 運営方針会議の責務

  2-3 役員会の責務

  2-4 法人の長を補佐する理事、副学長等の活用

 基本原則3.経営協議会、教育研究評議会、学長選考・監察会議及び監事の責務と体制整備

  3-1 経営協議会

  3-2 教育研究評議会

  3-3 学長選考・監察会議

  3-4 監事

 基本原則4.社会との連携・協働と情報の公表

 なお、国立大学法人愛媛大学のガバナンス・コードは、こちらです。(ちなみに、息子が在籍している国立大学のガバナンス・コードは、こちらです。)

 なお、令和5年12月に国立大学法人法が改正され、令和6年10月1日から施行されるため、国立大学法人ガバナンス・コードも、一部改正の内容等を反映するために、文科省と内閣府の協力を得て、改正されました。

 改正された部分は、「運営方針会議」及び「研究インテグリティに係る原則」が追加されました。 

 ガバナンス・コードは、多くのステークホルダーの皆様とのコミュニケーションを行うためのツールにも活用できると思います。 

2024年7月27日 (土)

【金融・企業法務】 監査役監査の実務と対応 第8版 NO4

 昨日の続きです。

 第4章 監査役制度

 Ⅰ.監査役制度の概観

 (要点)

 〇 監査役は、取締役の職務の執行を監査する会社の機関であり、公開会社や第会社は設置が義務付けられている。

 〇 もっとも、非公開かつ中小会社においても、定款の定めによって監査役を設置できる

 〇 監査役制度は生前から存在したが、終戦直後、アメリカ型の株主権の強化や取締役会制度の改革等の中で、監査役の権限は会計監査権限に縮減された。その後、粉飾決算などの企業不祥事への対応として、業務監査権限の復活等、商法改正の都度、監査役制度の強化が図られてきている

 Ⅱ.監査役の資格・選任・兼任・就任・解任・員数・任期

 (要点)

 〇 監査役は、取締役と同様の欠格事由が準用される

 〇 監査役の選任は、株主総会の普通決議、解任は特別決議によって定まり、また取締役との兼任禁止が規定されており、その独立性が配慮されている。また、任期は、基本的に4年である。

 〇 監査役には、業務および財産状況を調査する権限や、取締役等に報告を求める権限、取締役の法令・定款違反を是正する権限がある

 〇 さらに、監査役の選任等に関する同意権など、取締役とは異なる権限も付与されている

 Ⅲ.監査役の権限

  (要点)

 〇 監査役は、取締役の職務執行を監査するために、監査役独自の権限が付与されており、監査役が適切にこの権限を行使しなければ、監査役としての善管注意義務に問われる可能性がある

 〇 監査役の権限としては、大きくは、事業報告請求・調査権限(事業報告請求権・業務財産調査権・子会社事業報告請求・調査権)、是正権限(取締役違法行為禁止請求権、各種提訴権)、監査役等の地位に関する権限(監査役選任議案の提出に関する同意権、提出請求権等)がある。

 Ⅳ.監査役会

  (要点)

 〇 大会社かつ公開会社(指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社は除く)は、監査役会を設置しなければならない。監査役会は、三人以上の監査役で構成され、半数は社外監査役である必要がある。

 〇 監査役会は、各監査役の意見形成を行う場として、組織的かつ効率的な監査を行うことと、社外監査役が半数を占めていることからその独立性による監査の信頼性確保が期待されている 

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(宮島)
 4日をかけて、高橋均先生の監査役監査の実務と対応第8版を鳥瞰しました。Amazonでの評価は今1つですが、田舎弁護士にとっては、制度の概要とそれに応じた書式が収録されているので、わかりやすかったです😅

 

 

2024年7月26日 (金)

【金融・企業法務】 監査役監査の実務と対応 第8版 No3

 昨日の続きです。

第3章 監査役監査を巡る重要論点と実践

 Ⅰ.意思疎通を図るべき者との連携

 (要点)

 〇 監査役は独任制の下で、自ら監査することが要請されているが、一方で、円滑な監査を進めるためにも、代表取締役や内部監査部門、会計監査人等意思疎通をはけるべき者との連携が欠かせない

 〇 このために、意思疎通を図るべき者との定期的な会合をあらかじめ設定しておき、意見交換を行うことは意味がある

 →監査役は代表取締役との日頃から監査を通じて得た会社のリスクや内部統制システム上の課題などの意見交換等により意思疎通を図り、信頼関係を醸成

  監査計画については、前年度の監査結果を踏まえて、監査方針や重点監査ポイントを説明

  今後のリスク管理上注意を要する点、内部統制上の懸念事項などを率直に報告すべき

 Ⅱ.監査役と内部統制システム

 (要点)

 〇 監査役としては、日常の監査活動を通じて、内部統制システムの機能状況を監査する重要な役割を担っている

 〇 会社法および金商法に、内部統制関連規程が定められている

 〇 内部統制システムの対象範囲や罰則規定の有無等、両法の規定ぶりが異なる上、監査役と会計監査人の位置付けなどで、相互に交錯する点も存在する

 〇 実務的には、少なくとも監査役と会計監査人との間で内部統制の評価が異なることがないように、従来以上に相互の前広かつ緊密な連携を行うことが重要である

 →財務報告に係る内部統制システムにおいては、監査役監査も統制環境の一環として、監査人の監査の対象とされている。監査人から、監査役監査活動に対するヒアリングや監査役会議事録の閲覧等があるかもしれないが、基本的には、監査人から監査されているという意識ではなく、監査役としては、会社法上の監査役監査活動をきちんと遂行していれば問題がない

 Ⅲ.株主代表訴訟への対応

  (要点)

 〇 取締役の責任を追及する株主代表訴訟において、株主からの提訴請求の対応は、監査役の役割である。

 〇 提訴請求書受領後、60日の限られた期間内で、適切な調査体制を決定し、実効性のある調査を行う必要がある

 〇 会社法で新たに導入された不提訴理由制度は、監査役の調査期間の調査の実態を示すことになるため、監査役の役割を高め、結果とそ居てコーポレート・ガバナンスの基盤強化にもつながるとの期待もある

 〇 平成26年会社法では、新たに多重代表制度が創設された

 →取締役の責任を追及する株主代表訴訟の提訴請求先は、監査役であるため、60日間の調査期間は、監査役の大きな業務である

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                             (宮島・仁王門)

 Ⅳ.監査役の責任

 (要点)

 〇 監査役にも、取締役と同様に、民事責任と刑事責任が存在する

 〇 民事責任は、会社と監査役との間の委任規定により、債務不履行の一般原則が適用となり、連帯して損害賠償責任が発生する。また、刑事責任としては、特別背任罪や贈収賄罪等により、懲役や罰金刑が発生する

 〇 取締役と同様に、監査役に対しても、責任軽減制度が適用となり、監査役は報酬等の2年分を限度とした責任を負えばよいという責任免除措置がある。

 〇 もっとも、責任軽減制度は、善意かつ無重過失が前提であり、また、取締役会で承認決議したとしても株主総会において3%以上の株主の反対があれば適用にならないなど、運用上のハードルは高い。

 →監査役(監事)の責任が認容された裁判例としては、ダスキン株主代表訴訟事件、大原町農業協同組合事件、セイクレスト事件、エフオーアイ事件、会計限定監査役の責任事件があります。

 Ⅵ.コーポレートガバナンス・コードと監査役

 (要点)

 〇 平成26年6月1日から実施されたCGコードは、会社のガバナンスの在り方に関する重要な原則を示しており、金融庁と東京証券取引所が事務局となって原案を作成した

 〇 GCコードは、上場会社を対象にしており、合計83の基本原則、原則、補充原則から構成されており、法令と異なりソフトーローに位置付けられるもので強制力はないが、実施するか、さもなければ説明 という手法を採用している

 〇 GCコードは、法令ではないので、直接監査役監査の対象ではないが、執行部門の実施状況や説明内容を注視しておくことが重要 

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(宮島)

 

 

 

 

2024年7月25日 (木)

【金融・企業法務】 監査役監査の実務と対応 第8版 NO2

 昨日の続きです。

 第2章 監査役監査の実務(その2)

 Ⅰ.定時株主総会の対応

  (要点)

 〇 株主総会は、会社の最高の意思機関であるため、周到な準備が必要である。

 〇 監査役としては、株主総会提出書類の調査、総会運営および決議方法の適法性、口頭報告、株主からの質問への対応があるため、株主総会の円滑な遂行に向けて、執行部門を緊密に連携することが何よりも大切である。

 〇 令和元年の改正会社法による株主総会資料の電子提供制度の創設は、株主総会実務に大きな影響を及ぼすことになるため、監査役としてもその制度について一定の理解が必要である。

 →定時株主総会における監査役に関する代表的想定問答30問が収録されています。

 Ⅱ.定時株主総会終了後の実務

  (要点)

 〇 定時株主総会終了後の実務として、監査役の報酬協議がある

 〇 監査役会設置会社の場合は、監査役会議長の選定(任意)と常勤監査役の選定を行う

 〇 その他、株主総会議事録や財務関係に係る諸手続の監査がある

 Ⅲ.監査役(会)の同意事項・決定事項

  (要点)

 〇 監査役(会)として法令で定められている同意事項には、監査役の選任議案、会計監査人の報酬がある。

 〇 会計監査人の選任・解任並びに不再任に関する株主総会提出議案については、平成26年改正会社法において、監査役の同意権から決定権に変更になった。

 Ⅳ.監査役会・監査(等)委員会議事録

  (要点)

 〇 監査役会設置会社は、監査役会議事録の作成が義務付けられている。

 〇 監査役会議事録は、法令で定められた決議事項等を監査役会で実施している証拠となるだけでなく、監査役としての職務の遂行に対する任務懈怠責任を問われかねないための書証ともなり得るものである

 〇 監査役会議事録は、過料の制裁に問われないように、取締役会の議事の経過の要領およびその成果について簡潔かつ的確に記載することが大切である

 〇 監査役会議事録は、株主等による閲覧・謄写の対象書類であるので、監査役会議事録と一体と見なされる添付資料の内容については、企業秘密情報の有無等を十分に検討した上で、別紙として添付するかどうか否かを慎重に判断すべきである。

 →議事録が不適切な場合のリスク 過料の制裁、記載事項の開示リスク、訴訟上のリスク

 Ⅴ.監査役会・監査(等)委員会の開催・運営

  (要点)

 〇 監査役会の招集通知は、監査役会の日の一週間前までに発送しなければならないが、監査役会規程などで定めた場合には、短縮が可能である。

 〇 取締役会の場合と異なり、書面決議はできないが、報告事項は、監査役全員の同意があった場合には、書面による通知で足りる。

 〇 監査役会の趣旨は、監査役間の審議・協議等を通じた監査役としての意見形成であり、監査の実効性を上げるためには、社外監査役が出席可能な日程調整を行ったり、必要に応じて案件の事前説明を実施するあんど、運営上工夫する必要がある。

 → 「決議事項・同意事項」、「報告事項」、「審議事項」、「監査役全員の同意事項」  

2024年7月24日 (水)

【弁護士考】 岐阜の預り金着服の疑いの弁護士が死亡

 本日のニュースで、岐阜の預り金着服の疑いの弁護士が死亡したとの報道がされていました。

 弁護士会が公表した内容によれば、破産管財人や相続財産管理人に選任された弁護士が、無断で口座から引き出し、内容を改ざんした預金通帳の写しを裁判所に提出した疑いがあるとのことです。

 7月24日時点、この弁護士が経営している法律事務所のホームページを閲覧することが可能です。

 超難関国立大学を卒業後、民間企業に就職、実家の会社に勤務した後、2007年に旧司法試験に合格されたという経歴の方のようです。

 主な取り扱い業務は、債務整理、過払い金、交通事故、離婚、相続遺言ということで、いわゆる街弁と評される業務が中心の方のようです。

 また、無料法律相談や、夜間・土日曜日の相談も積極的に対応されているようです。

 事務所が所在している市は、約15万人ですので、岐阜県でも3番目に大きい街になります。

 破産管財人や相続財産管理人に選任されていることから、本来は、裁判所からの信頼も厚い弁護士ではなかったのかと思います。

 年齢も田舎弁護士とほぼ同学年です。

 事実関係は死亡されたためにまだ正確にはわかりませんが、弁護士会が公表されたことが事実であれば、このようなベテランと評価される弁護士であり、地方であっても、街弁業務では食べていけなくなっているのではないかと想像しております。

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(明神ケ森登山道)
 田舎弁護士においても、先ほどの弁護士が主力としている、債務整理、過払い金、交通事故、離婚、相続遺言という街弁業務は、地方においても、年々ご相談が減少していると感じております。
 IT化が進み、田舎弁護士の地域でも、市外、県外の法律事務所等にご相談ご依頼される方が増えているように思います。
 この弁護士も、無料相談、夜間休日相談対応可能と努力されていたようです。
 このような努力だけだと事務所を維持して食べていけなくなっているのが、現在の街弁なのです。
 地方でも、街弁業務だけではなくて、企業法務、行政法務、会社や団体の役員等、安定した収入が得られるよう他の柱が必要に思います。
 田舎弁護士の事務所の勤務弁護士だった方も、他の柱を求めて、医師免許を取得したり、あるいは、国税審判所や法務局に転職したりして、他の柱を立てています。
 
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(明神ケ森登山道)
 田舎弁護士も、登山の際には、石につまづいて転倒したり、マムシにかまれて死亡したりしないよう、注意をしておりますが、一市民として周囲に迷惑をかけずに成仏できるよう、登山道と同じく、注意をしながら登っていきたいと思います。
 
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(マムシ)
  マムシですが、先日、ルート先に鎮座していたため、踏みつけそうになりました。対策として、ゲイターを注文しました😅

【金融・企業法務】 監査役監査の実務と対応 第8版 No1

 先月、日弁連の会務活動の関連で上京した際に、日弁連会館の本屋さんで、「監査役監査の実務と対応」第8版を購入しました。著者の高橋均先生は、日本製鉄の監査役事務局部長、日本監査役協会常務理事等を歴任されておられますので、監査役監査の実務については、深い知見があることがうかがえます。

 400ページ近い本ですが、本のサイズが大きいので読みやすいですね😅

 以下、4回程に分けて、本書を読んだ感想などをコメントしてきたいと思います。

 序章 監査役監査の位置付け

 監査役監査の位置付けと会社機関設計に基づく監査実務

 (要点)

 〇監査には、監査役監査、内部監査、会計監査人監査の三種類があり、通常、三様監査と称している

 〇監査役監査と会計監査人監査は、会社法に規定されている法定監査であり、任意監査である内部監査とは法的位置付けが異なる

 〇会社機関設計(取締役会・監査役会・会計監査人の有無)によって、監査役監査実務が異なってくることから、自社に関係する実務を意識して実施することが効率的かつ有益である。

 →監査役監査は、取締役の職務執行、内部監査は、従業員の業務執行、内部統制システムの評価が、対象の中心。

 第1章 監査役監査の実務(その1)

 Ⅰ.監査役監査の年間スケジュール

 Ⅱ.監査計画策定

  (要点)

 〇監査を開始するにあたり、当該事業年度の監査方針や重点的な監査項目を執行部門に知らせる点で、監査計画の策定は重要である。

 〇監査計画は、前年度の監査実績を踏まえて、毎年、その内容を見直す必要性も含めた検討を行うべきである。

 〇監査役会設置会社では、監査の方針、業務及び財産の状況の調査方法について、監査役会で決議しなければならない。

 〇企業集団としての内部統制システムの整備が要請されている中で、監査計画も、グループ全体としての適合性を意識することが望まれる

 →監査役会設置会社は、監査計画の中に、監査の方針と監査の調査方法を必ず盛り込んだ上で、監査役の過半数による監査役会での決議を行わなければならない(会社法390条2項3号)。

 Ⅲ.期中監査活動

  (要点)

 〇 期中監査活動は、監査役の法的権限・義務に裏付けられた監査役監査の中心的な活動である。

 〇 具体的には、報告聴取・実査・重要会議への出席・資料の閲覧である。

 〇 取締役の職務執行を監査することが監査役の最大の任務であることを意識して、報告聴取では、取締役の同席を要請するなどの工夫が必要である。

 〇 期中監査結果については、監査対象部門には、監査調書の形でフィードバックするとともに、取締役(会)に対しても報告する機会を設けて、監査役監査の結果を常に開示することが、監査活動の透明化にもつながる。

 →取締役会に出席した監査役は、特に付議事項について、法令・定款違反等はないか、必要なデュープロセスを経て意思決定がなされたものか、意思決定が取締役個人の利益や第三者の利益ではなく会社の利益に基づくものであるかなどについて注意を払う。

 Ⅳ.期末監査の実践

  (要点)

 〇 期末監査は、事業年度終了後から監査報告作成日までの約2ヶ月弱の間に行われる監査である。

 〇 期末監査の内容は、計算書類・事業報告とその附属明細書の監査、定時株主総会に至るまでの監査の日程とその手続関係の監査が中心となる。

 Ⅴ.監査報告作成

  (要点)

 〇 監査報告は、事業年度における監査の集大成である

 〇 監査報告の内容は、事業報告や計算関係書類の監査の内容を含む

 〇 監査役監査報告は、監査役が独任制であることから各監査役が個別に作成することが基本ではあるが、監査役間で十分に審議し、意見形成を図った上で、一通にまとめることもできる。その上で、監査役会設置会社では、監査役会報告を作成する。

 〇 監査役会監査報告において、個別に監査意見がある監査役は、その意見を記載することも可能である。

 →財務報告に係る内部統制いついては、会社法上の規定に則って記載するため、金商法で規定されている内部統制システムについては、特に記載する必要はない。もっとも、自主的に記載することは考えられる。 

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(宮島・大聖院)

 写真は、宮島の大聖院の五百羅漢です。しばらくすると、驚いた現象が現れます。 

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 幻想的です。びっくりしました😅

 

 

 

 

  

 

 

2024年7月23日 (火)

【建築・不動産】 所有者不明土地管理命令のご相談がきました😅

 所有者不明土地管理命令のご相談が最近きました。そのために、いくつか専門書を購入しました。

 第1に、やはり、多くの参考書式が掲載されている民事法研究会の「書式借地非訟・民事非訟の実務」です。令和6年6月に出版されたばかりです。

 この書籍は、必携です。

 第2に、有斐閣の「新しい土地所有法制の解説」です。3年ほど前の書籍ですが、情報量が多くて助かっております。

 第3に、中央経済社の「自治体のための所有者不明土地対策マニュアル」です。自治体職員向けですが、使いやすいです。

 第4に、日本加除出版の民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響です。各実務分野への影響を分野別に解説されているもので、実用度が高いものです。

 第5に、新日本法規の令和5年4月施行対応民法等改正の実務ポイントです。これも、Q&Aとケースが記載されており、使いやすいです

 以下は、少々、使いづらい書籍でした。

 第6は、民事法研究会の所有者不明土地解消活用のレシピ、令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法、令和3年民法不動産登記法改正対応所有者不明土地と空き家空き地をめぐる法律相談。

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(広島・鬼ヶ城山)

 

 

 

2024年7月22日 (月)

【弁護士研修】 レガシィ 「原則と例外を押さえる 借地権 要するにこういうこと!」を聴きました。

 令和6年2月に出ましたレガシィの「原則と例外を押さえる 借地権 要するにこういうこと!」を購入しました。

 講師は吉田修平弁護士です。

 レジュメもみながら、学習しました。

3 賃貸借の成立と存続期間

(1) 諾成・不要式の契約

     原則 当事者間の合意のみ

     例外 ①事業用借地権 公正証書

        ②定期借家権  契約書が必要

(2) 存続期間

  ア 20年 → 50年

  イ 契約満了後の更新

    原則 更新しない

    例外 ①普通借家権

       ②定期借家権(例外の例外)

4 賃貸借の効力

(1)対抗力

   原則 民法  登記がなければ対応できない

   例外 建物に所有権の登記があれば、土地に賃貸借の登記がなくとも対抗できる(借地借家法第10条)

(2)使用収益について

 ア 賃貸人   賃借人に使用収益させる義務がある

 イ 賃借人   契約又は目的物の状態によって定まった使用収益方法に従う義務がある

   原則 違反すると解除されるおそれあり

   例外 信頼関係破壊の法理

(4)対価について

   原則 賃料の増減額請求権はない

   例外 借地借家法

(5)賃借権の譲渡・転貸

   原則 無断で譲渡転貸すると契約を解除されるおそれがある

   例外 ①信頼関係破壊の理論

      ②借地の場合には、賃貸人の承諾がなくとも借地借家法上の救済がある

5 賃貸借の終了

(1) 期間の満了

   原則 期間満了により賃貸借契約は終了する

   例外 正当事由がなければ、期間の満了によって終了しない(普通借地契約、普通借家契約)

(2) 解約の申入れ

   原則  期間の定めがあるときは、解約の申入をしても賃貸借契約は終了しない

   例外  中途解約の特約  ※賃貸人からの解約申入の場合には、正当事由が必要

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(鈴が峰からみた宮島)
(普通借地権)
※建物は、「屋根と壁があって、降雨・雨露を遮断できる状態で土地に定着」
  ×風車 ×ソーラーパネル ×Kitchenカー 
※建物が存在していても、それが土地を賃貸する主な目的ではない
  ×ゴルフ場
※対価(地代)  ×非常に少額な場合 ×金銭が支払われているが当初はそうではなかつた
※地代増減額請求権   普通定期ともに排除できない。 なお、定期借家権では排除できる
※増改築禁止特約は有効  承諾料は借地権価格の3~5%
※借地条件の変更     承諾料は更地価格の10%
※借地権の譲渡・転貸   承諾料は借地権価格の10%
(定期借地権)
※期間が満了したら必ず返還
※更新はないが、再契約は可能
※定期借地権の登記もOK
※一括前払い地代方式
※敷金(保証金) 更地価格の2~3割
※権利金  定期借地権を設定する対価 又は、地代の一部
※原状回復の方法についての特約  
(事業用借地権)
※公正証書 なお、再契約は公正証書必要。それ以前の期間延長は通常の合意書でOK
※居住の用に供するものを除く 
 「10年以上20年以下」  → 「10年以上50年未満」
(建物譲渡付借地権)
※法定借家権制度のため利用されていない

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(鈴が峰)

                           

 

 

2024年7月21日 (日)

【金融・企業法務】 日本監査役協会 50周年記念ページ

 月刊監査役No764号が届きました。

 日本監査役協会のHPに、50周年記念ページが開設されています。

 ①50周年記念出版「女性監査役等50名の想いー進化するコーポレート・ガバナンスの担い手として」の電子データや、②監査役の役割等を約11分で紹介する動画「改めて知る監査役のこと」、③講師が「新任監査役ガイド(第7版)」をベースに解説する動画と確認テストから構成されたeラーングシステム、さらに、④協会理念に基づき制作したロゴマーク及びタグラインなどについても掲載されています。

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(広島・八畳岩)
 そして、なんと新任監査役ガイド(月刊監査役No746)を使った、解説動画(合計90分程)も、3つ収録されています。受講した後は、確認テストもついています😅
 田舎弁護士は、現在、株式会社フジ、株式会社田窪工業所、株式会社アリスタ木曽の、3社の監査役に就任しておりますので、初心に戻り、3本の解説動画をきいてみることにしました。
 
 テキストは、月刊監査役No746号新任監査役ガイドを利用しております。
 確認テストは、残念ながらかろうて満点ではありませんでした。う~ん。もっと勉強しておく必要がありますね。
 

 

2024年7月20日 (土)

【行政】 自治体の財務関係の書籍😅

 少し自治体財務について調べるところがあり、最近の書籍で、事務所の図書室にある自治体財務関連の書籍を調べてみました。

 第1は、ぎょうせいから出版されている「地方財務ハンドブック」(第5次改訂版)です。平成26年に購入されておりますので、改訂版がでてるかもしれません😅

 ①財務の組織、②会計年度及び会計の区分、③予算、④収入、⑤支出、⑥決算、⑦契約、⑧現金及び有価証券、⑨時効、⑩財産、⑪住民による監査請求及び訴訟、⑫職員の賠償責任、⑬財政状況の公表等、⑭公の施設、⑮監査に区分して解説がされています。

 第2も、ぎょうせいから、改訂版自治体財務の実務と理論です。令和元年に出版されています。

 ①自治体の内部統制、②事務事業のプロセスとコンプライアンス、③財務に係る基本法令の定め、④契約、⑤財務規定の条文別留意点に区分して解説がされています。

 第3は、第一法規から出版された自治体財務Q&Aです。令和6年3月に出版されたもので、東京の弁護士会の本屋さんで購入しました。

 ①財務規則、予算、決算、組織、②収入、③支出、④契約、⑤財産、⑥住民監査請求、住民訴訟、賠償責任、⑦その他に区別して解説がされています。

 第4は、やはり、ぎょうせいから出版された詳説自治体契約の実務です。

 Q&A方式というのがありがたいですね。

 第5は、自治体の会計担当になった読む本です。自治体の会計担当者向けの書籍ですが、会計事務の流れと基本的知識を得るために購入しました。

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(広島・鈴が峰)

 

2024年7月19日 (金)

【行政】 市が土地開発公社に対し土地の先行取得を委託する契約が、私法上無効とはいえず、また市にその取消権又は解除権があるとはいえないものの、著しく合理性を欠き、そのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存する場合であっても、市が上記公社の取得した上記土地を上記委託契約に基づく義務の履行として買い取る売買契約を締結したことが違法とはいえないとされた事例 平成21年12月17日最高裁判決

 昨日執筆の平成20年1月18日最高裁判決によって差し戻された控訴審判決は、本件委託契約は著しく合理性を欠き、そのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものというべきであるとした上で、本件においては、客観的にみて市が本件委託契約を解消することができる特殊な事情があったというべきであるとして、Xの請求を認容しました。

 この点を少し詳しく検討したいと思います😄

 平成20年1月18日最高裁判決は、①当該委託契約が私法上無効であるとき(違法事例1)、先行取得の委託契約が私法無効ではないものの、②これが違法に締結されたものであって、当該普通地方公共団体がその取消権又は解除権を有しているとき(違法事例2)③当該委託契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し(前段要件)、かつ、客観的に見て当該普通地方公共団体が当該委託契約を解消することができる特殊な特殊な事情がある(後段要件)とき(違法事例3)の場合には、公社が取得した当該土地を買い取る売買契約を締結することが違法となると判断しているところ、

 前記差戻後の控訴審判決は、違法事例1や違法事例2には該当しないものの、違法事例3の前段要件を満たすとした上で、3つの理由を述べて、本件では、違法事例3の後段要件である特殊な事情が認められると判断しました。

 (1)本件委託契約の内容に看過し得ない瑕疵が存する場合にまで市に本件区域外土地の取得を義務付けることは不合理である

 (2)市において本件売買契約の締結を拒否した場合に被る損害等については別途当該職員に対する損害賠償請求により填補されるべきである

 (3)本件委託契約は、Yが市と本件公社の双方の代表者として締結したものである

                            ↓

  しかしながら、この判断に対して、市が上告受理申立てをしたところ、控訴審判決とは反対に、Xの請求を棄却しました。

  以下、判決要旨を引用します。

 市が土地開発公社に対し土地の先行取得を委託する契約が,私法上無効とはいえず,また市にその取消権又は解除権があるとはいえないものの,著しく合理性を欠き,そのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存する場合であっても,次の(1),(2)など判示の事情の下では,客観的にみて市が上記委託契約を解消することができる特殊な事情があったとはいえず,市が上記公社の取得した上記土地を上記委託契約に基づく義務の履行として買い取る売買契約を締結したことは,違法とはいえない。


 (1)市長は公社の理事長を兼務していたものの,理事長として上記委託契約の解消の申入れに応ずることは,公社に損害を与え,職務上の義務違反が問われかねない行為である上,市は公社の設立団体の一つにすぎず,出資割合も基本財産の約14%を占めるにとどまっていたことなどから,市長が理事長として上記解消につき他の設立団体や理事の同意を取り付けることは困難が予想された。

 (2)上記土地を公社に売却した者が公社との間で契約の解消に応ずる見込みが大きいとか,公社がこれを第三者に上記売買契約の代金額相当額で売却することが可能であるなどの事情は認められない。

 この判例は、本判決にいう、客観的にみて当該普通地方公共団体が当該委託契約を解消することができる特殊な事情について具体的な判断を示したものであつて、実務上参考になるとコメントされています😄

2024年7月18日 (木)

【行政】普通地方公共団体が、土地開発公社との間で締結した土地の先行取得の委託契約の義務の履行として、当該土地開発公社が取得した当該土地を買い取る売買契約を締結することが違法となる場合 平成20年1月18日最高裁判決

 事案の概要は以下のとおりです。

 丹後地区土地開発公社は、宮津市が周辺の町と共同して公有地の拡大の推進に基づき設立した土地開発公社であり、設立団体である市等の委託を受けて公有地となるべき土地の先行取得を行うことを業務としております。

 市が公社へ平成8年12月19日に本件土地について3858万9646円で先行取得することを委託する旨の契約を締結しました。

 本件委託契約において、市は、公社から、本件土地を先行取得の代金の額にその調達のための借り入れの利息等を加えた金額で買い取るべきこととされていました。

 公社は、同月24日、本件委託契約に基づき、本件土地を代金3858万9646円で取得しました。

 市は、平成14年3月18日、本件委託契約に基づき、公社との間で、本件土地を4214万7762円で買い受ける旨の契約を締結し、同月29日、公社に対し、上記代金をすべて支払いました。上記代金の額は、前記先行取得の代金の額に借り入れの利息の額を加えた額でした。

 市の住民である上告人が、本件土地は取得する必要がなく、取得価格も著しく高額であるから、本件委託契約は違法であって、これに基づきされた本件売買契約の締結も違法である旨を主張して、地方自治法242条の2第1項4号に基づき市に代位して本件売買契約の締結時に市長の職にあった被上告人に対し、上記売買契約の代金の額に相当する額の損害賠償を求める住民訴訟を提起しました。

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                             (松山・日浦)

 普通地方公共団体が,土地開発公社との間で締結した土地の先行取得の委託契約に基づく義務の履行として,当該土地開発公社が取得した当該土地を買い取る売買契約を締結する場合であっても,次の(1)又は(2)のときには,当該売買契約の締結は違法となる。

 (1)上記委託契約を締結した普通地方公共団体の判断に裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があり,当該委託契約を無効としなければ地方自治法2条14項,地方財政法4条1項の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められるなど,上記委託契約が私法上無効であるとき。


 (2)上記委託契約が私法上無効ではないものの,これが違法に締結されたものであって,当該普通地方公共団体がその取消権又は解除権を有している場合や,当該委託契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,客観的にみて当該普通地方公共団体が当該委託契約を解消することができる特殊な事情がある場合であるにもかかわらず,当該普通地方公共団体の契約締結権者がこれらの事情を考慮することなく漫然と上記売買契約を締結したとき。

 このように判示して、原判決を破棄し、本件委託契約が私法上無効であるかどうか等につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻しました。

 

【法律その他】 外国人お断り で対応した場合!?

 最近、飲食店等において、外国人の入店を拒否するような張り紙を貼った店主の行為が物議を醸すことになっております。

 そこで、裁判例をネット上で調べてみました。

 ① 平成19年10月2日京都地裁判決は、一定の段階まで話が進んでいたにもかかわらず、入居申込者の国籍を理由に賃貸借契約の締結を拒絶して貸主が損害賠償責任を負った事例です。

   合理的な理由がないにもかかわらず契約の締結を拒んだものであるとして、慰謝料100万円と弁護士費用10万円を認めました。

 ② 令和元年10月9日東京地裁判決は、「A国人には仲介しない」との説明が差別的であるとして、仲介業者が損害賠償責任を負った事例です。

   発言については差別的なものであるとして、慰謝料10万円と弁護士費用1万円を認めました。

 ③ 平成5年6月18日大阪地裁判決は、相手方が外国籍であることを理由に賃貸借契約締結を拒否したことが、契約準備段階における信義則上の義務に違反して損害賠償責任を負った事例です。

 ④ 平成11年10月12日静岡地裁浜松支部判決は、宝石店を経営している店主が、「この店は外国人立ち入り禁止だ」等と言って「外国人の入店は固くお断りします」等と記載された紙を示して、警察を呼んだという事案で、店主が損害賠償責任を負った事例です。

 ⑤ 平成14年11月11日札幌地裁判決は、公衆浴場における外国人が入店拒否した事例で、公衆浴場を経営する会社が損害賠償責任を負った事例です。

 ⑥ 平成7年3月23日東京地裁判決は、ゴルフクラブにおいて、外国人の会員登録を拒否して、ゴルフクラブを経営する会社が損害賠償精勤を負った事例です。

 ⑦ 平成18年1月24日神戸地裁尼崎支部判決は、賃貸建物に関して外国人を理由に賃貸借契約の締結を拒否したオーナーが、損害賠償責任を負った事例です。

 ⑧ 平成29年8月25日大阪地裁判決は、外国人への無料の資料請求サービスの提供を拒否した会社(中古車販売者専用のネットオークションに参加することができる加盟店を募集している会社)が、損害賠償責任を負った事例です。

 これらの「外国人お断り」で招いた裁判例を見る限り、不合理な差別であり、違法であると判断されていることがわかります。

 従って、「外国人」だからという理由で、拒絶した場合には、民間業者であっても、損賠賠償責任、しかも、意外と高額な賠償を負うリスクがあるということを理解しておく必要があります。 

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(眉山ロープウェイ)
 「外国人」ということではなくて、なぜ入店を嫌がるのか、その理由は合理的なものであるかなどをよくよく検討しておくことが必要だと思いました。 
 インバウンドで多数の外国の方が日本に観光にきておりますし、また、同様に多数の方が日本で働いています。せっかく日本にきていただいているのですから、不愉快な想いをすることなく、親日家になっていただきたいものです😄

2024年7月17日 (水)

7月29日午後3時から、「はーばりー」において、今治市×愛媛大学 Town&Gown 構想推進協議会設立記念キックオフシンポジウムが開催されます。

 7月29日午後3時から、Town(今治市)&Gown(愛媛大学)構想推進協議会設立記念キックオフシンポジウムが開催されます。

 申込み期限は、7月25日までです。

 「Town & Gown構想」は、日本を地域から躍動させるために、大学と大学が立地する地域の自治体が持続可能な未来のビジョンを共有し、包括的で日常的、継続的、組織的な関係を構築しながら、自治体の行政資源と大学の教育・研究資源を融合して活用することで、地域課題の解決に資する科学技術イノベーションの社会実装と人材育成のための地域共創の場を形成し、地方創生を実現する構想です。


 この取り組みは、自治体、大学、民間企業、起業家、投資家、市民と連携した産官学民連携エコシステムを形成することを目指しています。


 今治市と愛媛大学は、この「Town & Gown構想」を推進しており、自治体と大学の連携を強化し、地方創生を実現するために共創の輪を広げていくことを目指しています。


 このような取り組みは、地域社会の発展と大学の進化に貢献する重要な一環と考え、今治市と愛媛大学の連携により、地域の課題解決や持続的な発展を実現するための新たな道の開拓のために今治市民の皆さんの温かい協力と深いご理解が不可欠です。ぜひご一緒に歩みませんか? 

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(笠松山から遠望する今治市)
 シンポジウムの具体的な内容については、こちらのチラシからご参照下さい。

2024年7月16日 (火)

【行政】普通地方公共団体が締結した支出負担行為たる契約が違法であったとしても、私法上無効ではない場合において、当該契約に基づく債務の履行としてされた支出命令の適法性 平成25年3月21日最高裁判決

 1 事案の概要については、以下のとおりです。

 C町の町有地上にあったD地区集会所は、1971年に国の同和対策事業の一環として建設された建物であり、その1階部分は、建設以来、部落解放同盟B協議会が、事務所として無償で使用していました。

 福岡県が施行する県道拡幅工事に伴い本件集会場が取り壊されることになり、B協議会に移転補償費の支払いを求められたC町は、本件集会所の取り壊されることに伴い福岡県から支払われる補償金で移転補償費を支払うことにしました。

 C町町長の職にあったAは、町を代表して、2008年3月7日、B協議会との間で、本件事務所の移転補償費3000万円を含む合計3204万円余の移転補償費をC町が支払うことなどを約する契約を締結しました。

 Aは、本件移転補償契約に基づき、本件事務所の移転補償費3000万円のうち2100万円については同年4月7日に、残額の900万円については、2009年3月13日に、それぞれ支出命令をしました。

 これに対して、C町の住民であるXらは、本件移転補償契約は公序良俗に反し無効であり、また、法2条14項、地方財政法4条1項に反して違法であるから、上記各支出負担命令も違法であり、それによりC町が損害を受けたとして、C町の執行機関であるA(Y)を被告として、法242条の2代1項4号本文に基づき、町長として上記各支出命令をしたA個人に不法行為に基づく損害賠償の請求をすることを求める住民訴訟を提訴しました。

2 原審において、本件移転補償契約については、公序良俗に反し、無効であるとはいえないものの、著しく不当であり地方自治法2条14項、地方財政法4条1項に反し、違法であると認定されています。

20240706_1248392_20240711113501                           (笠松山・今治市方面)

3 最高裁の判決要旨は以下のとおりです。

 普通地方公共団体が締結した支出負担行為たる契約が違法に締結されたものであっても私法上無効ではない場合には、当該契約に基づく債務の履行として支出命令を行う権限を有する職員が当該契約の是正に伴う職務上の権限を有していても、当該職員が上記債務の履行として行う支出命令は、次の(1)又は(2)のときでない限り、違法な契約に基づいて支出命令を行ってはならないという財務会計法規上の義務に違反する違法なものになることはない

 (1)当該普通地方公共団体が当該契約の取消権又は解除権を有しているとき。

 (2)当該契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し、かつ、当該普通地方公共団体が当該契約の解消に応ずる蓋然性が大きかったというような、客観的にみて当該普通地方公共団体が当該契約を解消することができる特殊な事情があるとき。

 →最高裁の時の法令で、中山雅之元最高裁調査官は、支出負担行為が契約である場合、それが違法に締結されたものであっても私法上無効とはいえないときには、地方公共団体はその契約を解消しない限り契約の相手方に対してその契約に基づく債務を履行すべき義務を負うのであるから、地方公共団体がその契約を解消することが可能とはいえないときにまで地方公共団体の長に対しその契約に基づき支出命令を行ってはならないという財務会計法規上の義務を課すことは、地方公共団体の長をディレンマに追い込むことになり相当とはいえないと説明されています。

 

2024年7月15日 (月)

【行政】 県議会議長が全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加する議員に対して旅行命令を発したことに伴い知事の補助職員がした旅費の支出負担行為及び支出命令が違法ではないとされた事例 平成15年1月17日最高裁判決

 県議会の議員派遣決定を前提としてされた議員に対する旅費支出に関する財務会計上の行為の違法性についての裁判例として、平成15年1月17日付最高裁判決を挙げることができます。

 判例解説から説明を概ね引用します。

 本判決は、まず、最初に、「地方自治法242条の2第1項4号に基づき当該議員に損害賠償責任を問うことができるのは、先行する原因行為に違法性がある場合であっても、上記原因行為を前提にしてされた当該議員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる」(平成4年12月15日最高裁判決)という判例理論を引用した上で、

 「議会がその裁量により議員を派遣することができることは前示のとおりであるところ、予算執行権を有する普通地方公共団体の長は、議会を指揮監督し、議会の自律的行為を是正する権限を有していないから、議会がした議員の派遣に関する決定については、これが著しく合理性を欠きそのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵がある場合でない限り、議会の決定を尊重しその内容に応じた財務会計上の措置を執る義務があり、これを拒むことは許されないものと解するのが相当である」と判示し、

 議会における議員の派遣決定とこれを前提にしてされた旅費の支出に関する財務会計上の行為との関係についても、上記判例法理が当てはまることを明らかにしました。

 その上で、本件判決は、「これを本件についてみると、県議会議長が行った議員に対する旅行命令は違法なものではあるが、前記の事実関係及び原審の適法に確定した旅行命令の経緯等に関するその余の事実関係の下において、県議会議長が行った旅行命令が、著しく合理性を欠き、そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるとまでいうことはできないから、知事としては、県議会議長が行った旅行命令を前提として、これに伴う所要の財務会計上の措置を執る義務があるものというべきである。

 そうすると、徳島県事務決済規程12条、別表第三に基づく、知事に代わって専決の権限を有するY2が議員に対する旅費についての支出負担行為及び支出命令をしたことが、財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものであるということはできない」と判示しました。

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(広島・鬼ヶ城山)
 実務住民訴訟P184以下の説明をみてみたいと思います。
 同一人に対する原因行為とそれに続く財務会計行為とがそれぞれ異なる独立した機関の権限に属し、原因行為により財務会計行為が直接義務付けられる関係にある場合(教育委員会の公立学校の教頭を校長に昇格させ同日退職処分を承認する行為と知事の同人に対する昇給後の号給を基礎とする退職手当の支給、県議会議長の議員に対する旅行命令と知事の旅費の公金の支出)
 この場合、原因行為が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があると認められる場合でなければ、財務会計行為者は財務会計行為をする義務があり、このような瑕疵があるのに、原因行為者と協議する等して瑕疵の解消に努めることなく漫然と財務会計行為に及んだ場合でない限り、当該財務会計行為は財務会計法規上の義務に違反する違法なものではないとされています。

 

2024年7月14日 (日)

【金融・企業法務】銀行法務21 7月号です

 銀行法務21・7月号が届きました。

 法務時評は、池田眞朗先生の「太陽光発電とESG融資の展望 行動立法学からみたFITの弊害」です。池田先生は田舎弁護士がまだ司法試験受験生だった時に民法の口述試験で当たったような記憶があります。不法行為論の逸失利益についての質問でした。

 TOPICは、AI事業者ガイドラインと金融実務と、マネロンガイドラインFAQと法人口座の不正利用対策ですが、この分野は、???ですワイ😅

 東海地区の判例研究も、電子記録債権とその原因債権に対する強制執行という、時代を考えると、いつ相談にきてもおかしくないテーマですね😵

 金融商事実務判例紹介は、田舎弁護士でも取り扱いそうなケースが紹介されていました。

 

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(嫁ちゃんランチ)
 笠松山で嫁ちゃんランチをいただきました。ポークカレーと白パンですが、具材やパンはフジグラン今治で購入しました。キティちゃんがもっているのは、なんと渋沢栄一先生の1万円の新札のチョコです。
 もっとも、熱波のため、チョコは溶けておりました😅
 
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(石鎚山連峰)
 笠松山の登山道からは、石鎚山連峰を遠望することもできました。

2024年7月13日 (土)

【学校】県立高校の野球部の活動中、河川へ落下したボールを回収しようとした生徒が同河川に転落して死亡した事故に関し、被告である県に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を肯定し、3割の過失相殺をした損害の賠償を命じた事例 金沢地裁令和4年12月9日判決

 判例時報2591号で掲載された金沢地裁令和4年12月9日判決です。

 本件の主な争点は、①ボールの回収を中止させるべき注意義務違反又はその回収に関する指導等をすべき注意義務の有無及び②過失相殺の可否であるところ、本判決は、①につき、担当教員らにボールの回収に関する指導をすべき注意義務違反があったと認定し、②につき、3割の過失相殺をした上で、Xらの請求を一部認容しました。

 まず、争点①については、本判決は、本件河川及び法面の状況や、指導担当教員が過去にボールを回収しようとして本件河川に転落した経験があること等の事情を前提とすると、ガードレールを越えて法面に下りた場合、大勢を崩して本件河川に転落し、生命・身体に対する危険が生じ得ることは予見できたとして、担当教員らにおいて、ガードレールを越えてボールを回収しないよう生徒に指導すべき注意義務があったことを認定し、従前の指導状況や指導担当教員らの認識に照らして、同義務の違反を認定しました。

 また、争点②については、本判決は、本件河川の川幅等の状況及び法面の形状に加えて、そもしもガードレールは河川への転落事故を防止するために設置されていることからすれば、ガードレールを越えてボールを回収することに転落の危険を伴うことは、当時高校1年生のVにとっても予見可能であった上、事故当時、生命身体の危険を冒してまでボールを回収しなければならないとVが考えざるを得ない状況にあったとはいえないこと等の事情を考慮して、3割の過失相殺をしました。 

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(笠松山)
 笠松山からみた今治市街です😇

2024年7月12日 (金)

【行政】 路線の認定および道路区画の決定の手続を経ずに行われた道路用地の任意取得の適法性 昭和59年11月6日最高裁判決

 実務住民訴訟P174以下です。

 「違法な先行行為(原因行為)と財務会計行為との関係についての判例の流れ」について、複数の最高裁判例が紹介されていました。

 その中で、「道路の開設が道路法上の路線決定等の手続を経ずに行われた等の理由により違法であり、その違法な道路の開設を目的とする用地買収及び公金の支出もまた違法であるとして、旧4号代位請求により、住民が東京都の特別区長個人に対して損害賠償の請求をしたものがあります。

 最高裁第三小法廷は、昭和59年11月6日に、「特別区道の開設については、道路法により、路線の認定に関する区議会の議決、路線の設定、道路の区域の決定、道路の供用の開始という手続を経由すべきことが規定されているが、右手続は、道路法上の道路を成立させるための要件であるにとどまり、当該道路開設のためにその用地に対する権原を任意に取得するについての要件をなすものではないから、被上告人の前記土地買収が、本件計画道路に係る路の認定に関する世田谷区議会の議決、路線の認定及び盾路の区域の決定を経ずに行われたことをもつて、これを違法ということはできない。また、本件計画道路の開設が前記土地買収の動機目的をなすものではあつても、前記土地買収は、本件計画道路を開設する行為そのものとは区別され、それとは独立して、世田谷区に対し当該土地に係る権原を取得させ、その代金の支払債務を負担させるという効果を発生させるにとどまるものであるから、仮に本件計画道路を開設することに所論のような違法事由が存するとしても、そのことにより前記土地買収が違法となるものではない。したがつて、前記の土地買収及び公金支出をもつて違法な行為ということはできないと、判断しました。」

 実務住民訴訟P174によれば、「この判例は、路線認定等道路の開設は用地買収の動機目的にはなっていても、用地に対する権原を取得するための要件をなすものではないから、用地買収契約や代金の支払という財務会計行為の適否に関し路線認定等の適否は関係がない(先行行為と後行行為の関係にはない)というものです。すなわち、ここで問題とされている義務違反は、道路を開設するための行為という非財務会計行為に関するものであって、「財務会計法規上の義務」とは関係がないとしました。」 

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(宮島・大鳥居)
 実務住民訴訟P183以下です。
 「イ 原因行為に存する違法事由と財務会計法規上の義務
  (ア)原因行為とは、財務会計行為の直接の原因ないし前提となる非財務会計行為であって、当非財務会計行為により具体的な財務会計行為が直接義務付けられる関係にあるものといいます。最高裁は、原因行為の意義を説示していませんが、判例を総合すると、このように解され、例えば、事業の許認可のようなものは、将来事業費の支出が想定されますが、直接支出を義務付けているものではなく、個別の支出に当たって逐一見直しの対象となるものではないため、原因行為には当たらず、住民訴訟の対象の枠外のものと考えられます。
  そして、このような原因行為に違法事由が存在しても、財務会計行為が違法となるのは、当該財務会計行為が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られるというのが最高裁の立場ですが、次に述べるようなものについては、一定の範囲で財務会計法規上の義務に影響を及ぼすとされています。
  ①財務会計行為者が原因行為である行政処分を行い、これにより具体的な財務会計行為をすることを直接義務付けられている場合(長の職員に対する分限免職処分とこれを原因とする長の退職手当の支給決定)
  この場合、財務会計行為(退職手当の支給決定)をするに当たって、それを義務付ける先行行為(分限免職処分)を見直す義務があり、原因行為に違法事由があり、これを取り消す等容易に是正することができるのに、是正しないで漫然と財務会計行為(退職金の支給決定)に及んだ場合でなければ、ぞの財務会計行為は財務会計法規上の義務に違反する違法なものとはいえないとされています。
  他方、財務会計行為の原因行為とはいえない一般行政上の行為に存する違法事由は、財務会計行為の財務会計法規上の義務に影響しないとされています(道路法上の路線認定及び区域決定等の手続を経ずに行われた道路の開設を目的とする用地の買収や公金支出、事業の許認可の瑕疵と事業遂行のための公金の支出)。例えば、個々の支出等に際して、許認可等の手続の適否を逐一見直す義務があり、見直さなければ支出できないというものではないからです。」
 道路法上の路線認定及び区域決定等の手続を経ずに行われた道路の開設を目的とする用地の買収や公金の支出は、昭和59年11月6日最高裁判決ですが、当時の時の判例や判例タイムズの解説はその後の判例がおさえられていないために、実務住民訴訟の解説の方がわかりやすかったですね😅
 

2024年7月11日 (木)

【行政】 1日校長事件 平成4年12月15日最高裁判決

 1日校長事件という事件名で有名な平成4年12月15日付最高裁判決です。

 事案の概要は以下のとおりです。

  東京都教育委員会は、退職勧奨に応じた都内公立学校の教頭職にある者29名について、昭和58年3月31日付で1日だけ名目的に校長に任命し、名誉昇給制度を適用して2号給昇給させたうえ、退職承認処分をしました。これを受けて、都教育委員会の所掌事務に関する予算執行権限を有するY(東京都知事)は、昇給後の給与を基礎とした退職手当の支給決定をし、当該29名に対して退職手当が支給されました。

  これに対し、東京都の住民であるXらが、本件昇給処分は違法であるから、これを前提に行われた退職手当の支出決定も違法であるなどと主張して、地方自治法242条の2第1項4号に基づいて、Y個人に対し、都に代位して損害賠償を請求したという事案です。

  以下、最高裁判決を引用します。

 「地方自治法二四二条の二の規定に基づく住民訴訟は、普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものである(最高裁昭和五一年(行ツ)第一二〇号同五三年三月三〇日第一小法廷判決・民集三二巻二号四八五頁参照)。そして、同法二四二条の二第一項四号の規定に基づく代位請求に係る当該職員に対する損害賠償請求訴訟は、このような住民訴訟の一類型として、財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し、職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものにほかならない。したがって、当該職員の財務会計上の行為をとらえて右の規定に基づく損害賠償責任を問うことができるのは、たといこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても、右原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解するのが相当である。

 ところで、地方教育行政の組織及び運営に関する法律は、教育委員会の設置、学校その他の教育機関の職員の身分取扱いその他地方公共団体における教育行政の組織及び運営の基本を定めるものであるところ(一条)、教育委員会の権限について同法の規定するところをみると、同法二三条は、教育委員会が、学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止、教育財産の管理、教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事などを含む、地方公共団体が処理する教育に関する事務の主要なものを管理、執行する広範な権限を有するものと定めている。もっとも、同法は、地方公共団体が処理する教育に関する事務のすべてを教育委員会の権限事項とはせず、同法二四条において地方公共団体の長の権限に属する事務をも定めているが、その内容を、大学及び私立学校に関する事務(一、二号)を除いては、教育財産の取得及び処分(三号)、教育委員会の所掌に係る事項に関する契約の締結(四号)並びに教育委員会の所掌に係る事項に関する予算の執行(五号)という、いずれも財務会計上の事務のみにとどめている。すなわち、同法は、地方公共団体の区域内における教育行政については、原則として、これを、地方公共団体の長から独立した機関である教育委員会の固有の権限とすることにより、教育の政治的中立と教育行政の安定の確保を図るとともに、他面、教育行政の運営のために必要な、財産の取得、処分、契約の締結その他の財務会計上の事務に限っては、これを地方公共団体の長の権限とすることにより、教育行政の財政的側面を地方公共団体の一般財政の一環として位置付け、地方公共団体の財政全般の総合的運営の中で、教育行政の財政的基盤の確立を期することとしたものと解される。

 右のような教育委員会と地方公共団体の長との権限の配分関係にかんがみると、教育委員会がした学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関する処分(地方教育行政の組織及び運営に関する法律二三条三号)については、地方公共団体の長は、右処分が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合でない限り、右処分を尊重しその内容に応じた財務会計上の措置を採るべき義務があり、これを拒むことは許されないものと解するのが相当である。けだし、地方公共団体の長は、関係規定に基づき予算執行の適正を確保すべき責任を地方公共団体に対して負担するものであるが、反面、同法に基づく独立した機関としての教育委員会の有する固有の権限内容にまで介入し得るものではなく、このことから、地方公共団体の長の有する予算の執行機関としての職務権限には、おのずから制約が存するものというべきであるからである。

 本件についてこれをみるのに、原審の適法に確定したところによれば、(1) 東京都教育委員会は、東京都内の公立学校において教頭職にある者のうち勧奨退職に応じた二九名について、昭和五八年三月三一日付けで校長に任命した上、学校職員の給与に関する条例(昭和三一年東京都条例第六八号)及び学校職員の初任給、昇格及び昇給等に関する規則(昭和三四年東京都教育委員会規則第三号)の関係規定に基づき、勧奨退職に応じた勤続一五年以上の職員を二号給昇給させる制度を適用して、二号給昇給させ(以上の各措置を「本件昇格処分」という。)、さらに、同日右二九名につき退職承認処分(以下「本件退職承認処分」という。)をした、(2) 東京都教育委員会の所掌に係る事項に関する予算の執行権限を有する東京都知事である被上告人は、本件昇格処分及び本件退職承認処分に応じて、右昇給後の号給を基礎として算定した退職手当につき本件支出決定をし、右二九名は右退職手当の支給を受けた、というのである。

 そして、以上の事実関係並びに原審の適法に確定した本件昇格処分及び本件退職承認処分の経緯等に関するその余の事実関係の下において、本件昇格処分及び本件退職承認処分が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものとは解し得ないから、被上告人としては、東京都教育委員会が行った本件昇格処分及び本件退職承認処分を前提として、これに伴う所要の財務会計上の措置を採るべき義務があるものというべきであり、したがって、被上告人のした本件支出決定が、その職務上負担する財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものということはできない。所論の点に関する原審の判断は、結論において正当であり、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。」

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                             (宮島・藤い屋)

 実務住民訴訟P175以下には、一日校長事件として、概ね、以下のような記載があります。

 第1に、旧4号損害賠償請求代位請求(現4号損害賠償請求義務付け請求)における財務会計行為の違法(都知事の退職手当の支給決定及び退職手当の支給)と、これに先行する非財務会計行為(都教育委員会の昇給処分と退職承認処分)の違法との関係についての判示です。

 第2に、原因行為である非財務会計行為の本来的権限者(教育委員会)と財務会計行為の本来的権限者(都知事)が異なる場合についての判示です。

 次回から、少しこのあたりをつきつめたいと思います。

2024年7月10日 (水)

【刑事】 令和3年改正少年法!?

 令和3年に少年法が改正されて、令和4年4月1日から施行されています。

 まず、少年法の仕組みについてのおさらいです。

 第1に、罪を犯した少年の処分についてです。

 ①少年事件は、全件が家庭裁判所に送られ、家庭裁判所が処分を決定します。

 ②家庭裁判所が決定する処分には、検察官送致(逆送)、保護処分などがあります。逆送決定された後は、原則として検察官により刑事裁判所に起訴され、懲役刑、罰金刑などの刑罰が科せられます。保護処分には、少年院に収容する少年院送致と社会内で保護観察官や保護司の指導を受ける保護観察などがあります。

 第2に、逆送される場合です。まず、家庭裁判所が保護処分ではなくて刑罰を科すべきだと判断した場合に、逆送が決定されます。また、重大な事件(原則逆送対象事件※16歳以上の少年のとき犯した故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた罪の事件)については、原則として逆送決定がされます。

 ところで、選挙権年齢や民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、18・19歳の者は、社会において責任ある主体として積極的な役割を果たすことが期待される立場になり、令和3年の改正法は、18・19歳の者が罪を犯した場合には、その立場に応じた取扱いとするため、特定少年として、17歳以下の少年とは異なる特例を定められました。 

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(東陽町・仙台堀川)
 以下、改正少年法の3つのポイントについて説明します。
 第1は、少年法の適用です🖋
 18・19歳も特定少年として引き続き少年法が適用され、全件が家庭裁判所に送られ、家庭裁判所が処分を決定します。
                        ↓ しかし
 原則逆送対象事件の拡大や、逆送決定後は20歳以上の者と原則同様に取り扱われるなど、17歳以下の者とは異なる取扱いがされます。
 第2は、原則逆送対象事件の拡大です。
 原則として逆送決定される原則逆送対象事件に、18歳以上の少年(特定少年)のときに犯した死刑、無期又は短期(法定刑の下限)1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件が追加されました。
 第3は、実名報道の解禁です。
 少年のとき犯した事件については、犯人の実名・写真等の報道が禁止されていますが、18歳以上の少年(特定少年)のときに犯した事件について起訴された場合には、禁止が解除されます。
 以前、「家庭の法と裁判」2022年2月号においても特集が組まれておりこのブログでも取り上げましたが、記憶の整理のために、再度、まとめておきました😇
 
 

 

2024年7月 9日 (火)

愛媛大学基金冠事業「フジ×社会共創学部 人財育成プログラム連携事業」贈呈式に出席しました😄

 本日、国立大学法人愛媛大学本部において、愛媛大学基金冠事業「フジ×社会共創学部 人財育成プログラム連携事業」贈呈式に出席しました。

 愛媛大学社会共創学部において、選抜学生による学科横断的な実践プログラムの構築を行います。

 特定の地域において、受講学生が主体的に、地域住民の生活環境・ライフスタイルの変化を調査・分析し、新たな需要やビジネスアイデアを提案し、地域のサステナビリティに必要な社会・経済活動に取り組みます。

 そして、フジ人事・人材育成関連部署との協働による、学生へのキャリア教育を行います。

 具体的には、受講学生がフィールドワークで学んだ実践知と、大学で学んだ理論知を有機的に融合し、地域の人々と協働しながら、課題解決策を企画・立案を行います。学習成果は、フィードバックし、地域課題解決に取り組みます。中間発表会、成果発表会を行い、学内外に積極的に発信を行い、一覧の活動を通して、受講生の課題発見力、知的行動力、省察力、コミュニケーション力を高めることで、持続可能な地域社会を契印する未来創造型人材を育成するというものです。

 特定学部に係る冠事業の創設は、愛媛大学発の取組となっております。

 

20240706_1227082                              (笠松山)

【学校】 有期雇用の契約期間が通算5年を超えた私立大学の専任講師について、大学の教員等の任期に関する法律4条1項1号に該当しないから、同法7条によって労働契約法18条の「5年ルール」の適用が排除されることなく、無期雇用に転換した、と判断した事例 令和5年1月18日大阪高裁判決

 判例時報No2590号で掲載された令和5年1月18日大阪高裁判決です。

 労働判例1285号にも、前記判決についての解説が掲載されていましたので、引用します。

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                               (宮島)

(1) 事案の概要 

 被控訴人(一審被告)学校法人羽衣学園(以下,「Y法人」)は,私立羽衣国際大学(以下,「被告大学」)を設置する学校法人である。控訴人(一審原告)甲野花子(以下,「X」)は,有期労働契約(以下,「本件労働契約」)を締結して被告大学の専任教員(専任講師)を務めていた。Y法人はXに対し,契約期間満了による雇止め(以下,「本件雇止め」)をした。


 Xは,①複数ある有期労働契約の通算契約期間が5年を超えており,Xが労働契約法18条1項に基づく無期転換申込みをしたことにより,Y法人との間に無期労働契約が締結された,②仮に,無期転換申込みによる無期労働契約の成立が認められないとしても,Xには有期労働契約の更新を期待するにつき合理的な理由があり,また,本件雇止めは客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないから,労働契約法19条により,有期雇用契約が継続している,③XとY法人との間で,有期労働契約の期間満了後に,無期労働契約を締結する旨の合意が成立した旨主張し,Y法人に対して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,労働契約に基づく賃金および賞与等の各支払いを求め,さらに雇止めをして労働契約終了の扱いをしたY法人の対応が不法行為に当たるとして,不法行為に基づく損害賠償として慰謝料100万円の支払いを求めた。


 Y法人は,Xにつき,労働契約法18条1項の特例である「大学の教員等の任期に関する法律」(以下,「大学教員任期法」)7条1項が適用される結果,無期転換権の発生までの通算契約期間は10年を超えることを要する(以下,「10年特例」)ことになるから,Xには未だ無期転換権が発生していない等と主張した。


 本件の争点は,(1)本件労働契約に10年特例の適用があるか,(2)本件労働契約の更新に関する期待に合理的な理由があるといえるか,(3)Y法人代表者の発言によって無期労働契約が成立したといえるか,(4)Y法人がXに対して支払うべき賃金額,(5)本件雇止めの違法性である。


 一審判決は,次のように判断してXの請求をいずれも棄却した。まず争点(1)につき,「講師」は,学校教育法上「教授」または「准教授」に準ずる職務に従事する職である旨位置付けられており,多様な人材の確保が特に求められるべき教育研究組織の職たり得るものであり,Xが担当していた介護福祉士養成関係を中心とした分野自体一定の専門性があり,Xの専攻ないし担当分野について一定の広がりがあるものということができるとして,「Xの地位は,大学教員任期法4条1項1号のうち「その他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み,多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」に該当すると認められる」と判示し,大学教員任期法に基づく10年特例の適用を認めた。
 また,争点(2)につき,Xが,「再任は1回のみ」と明記された募集要領を確認のうえで専任教員に応募したことや採用面接時にも再任が1回限りである旨の説明を受けていたこと,本件労働契約の更新に先立つ面談においてY法人の方針につき説明を受けたうえで,不更新条項が記載された契約書に署名押印したこと等の事情から,「Xは,本件労働契約の更新につき,合理的な期待を有するものということはできない」と判断した。
 さらに争点(3)についても,理事長の発言は同人の個人的な意向の表明にすぎず,それ以上にX主張にかかる労働契約の成立に関する意思表示とみることはできないとして,「無期労働契約が締結されたと認めることはできない」とした。


 これに対して,Xが控訴した。

(2) 本判決のポイント 

 本判決は争点(1)につき,まず大学教員任期法4条1項各号が,10年特例を認める要件を定めているとする。そして,同法4条1項1号該当性につき,「当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ,多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職であることが必要」であり,「上記の教育研究の職に該当すると評価すべきことが,例示されている「先端的,学際的又は総合的な教育研究であること」を示す事実と同様に,具体的事実によって根拠付けられていると客観的に判断し得ることを要すると解すべきである」と判示した(判旨1)。 そのうえで,具体的な判断として,Xが就いていた講師職(以下,「本件講師職」)への応募資格としての実務経験は,介護福祉士の「養成課程の担当教員につき厚生労働省が指定しているために求められており,人材交流の促進や実践的な教育研究のために実務経験を有する人材が求められていたものではな」く,「本件講師職を任期制とすることが職の性質上,合理的といえるほどの具体的事情は認められない」とする。そして,「本件講師職の募集経緯や職務内容に照らすと,実社会における経験を生かした実践的な教育研究等を推進するため,絶えず大学以外から人材を確保する必要があるなどということはできず,また,「研究」という側面は乏しく多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職に該当するということはできない」とした(判旨2)。

 また,大学教員任期法4条1項3号につき,同号の「大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて行う教育研究」には,「数年先に学生募集を停止するといったような専ら大学経営上の計画に基づき期間を定める教育研究は……含まれない」(判旨3)として,本件講師職は同法4条1項3号にも該当しないとした。

 結論として,「本件労働契約に10年特例の適用があるということはでき」ず,「本件労働契約は既に無期雇用契約に転換していたことになる」(判旨4)として,一審判決を変更し,Xの地位確認請求ならびに賃金および賞与の支払請求を認めた。

 他方で,争点(5)につき本判決は,大学教員任期法4条1項1号の解釈適用のあり方はいまだ確定しているとはいえないため,Y法人の対応に過失があるとはいえず,また,10年特例の適用に関する書面を交付したうえで説明し,労働者の了知を得ることが必要であったなどのXの主張は法律上の根拠を欠くとして,「本件雇止めが不法行為に該当するということはできない」と判示した。

(3) 本判決の意義と参考裁判例 

 いわゆる無期転換ルール(労働契約法18条1項)については,大学等の研究者・技術者や教員に関する特例が存在する。すなわち,①大学教員任期法7条1項は,同法5条1項の規定による任期の定めがある労働契約を締結した教員等との当該労働契約にかかる労働契約法18条1項の適用につき,同項中「5年」とあるのを「10年」と読み替える旨を定めている。また,②「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(以下,「イノベーション法」)15条の2第1項も,同項各号の労働契約にかかる労働契約法18条1項の適用について,同様の定めを置いている。

 本件は,この10年特例のうち①の適用の可否が争われた事案である。一審判決が,Xが講師職であること等から比較的簡単に大学教員任期法4条1項1号該当性を肯定し,10年特例の適用を認めたのに対し,本判決は,「多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職」に該当することが具体的な事実によって根拠付けられていることが必要であるとして,10年特例の適用を否定した。大学教員任期法に基づく10年特例の適用要件たる同法4条1項各号につき厳格な解釈を示した点に,本判決の意義がある。

 本件と同様に10年特例の適用の可否が争われた裁判例として,学校法人茶屋四郎次郎記念学園(東京福祉大学)事件(東京地判令4.1.27労判1268号76頁)では,「原告は,東京福祉大学の専任講師であるから,教員任期法所定の「教員」に該当し,原告と大学を設置する学校法人である被告との間で締結された有期労働契約については,教員任期法7条が適用される(……)。したがって,原告が被告に対して無期転換申込みを行うためには通算契約期間が10年を超えていることが必要となる」として,①大学教員任期法7条による特例の適用が認められた。ただし,この判決では,同条の前提となる同法4条1項各号についての具体的な判断はなされていない。また,①大学教員任期法による特例の適用が認められたことから,②イノベーション法15条の2による特例については判断する必要がないとされた。

 他方で,学校法人専修大学(無期転換)事件(東京高判令4.7.6労判1273号19頁)では,A語の非常勤講師につき,イノベーション法15条の2第1項の「「研究者」は,研究開発法人又は有期労働契約を締結している大学等において業務として研究開発を行っている者であることを要すると解すべきであり,被告の設置する専修大学において,学部生に対する初級から中級までのA語の授業,試験及びこれらの関連業務にのみ従事している原告は,「研究者」に該当しないというべきである」として,②イノベーション法15条の2による特例の適用が否定された。

 なお,無期転換ルールの特例の適用が争われた事案ではないが,大学教員任期法4条1項1号への該当性につき判示した裁判例として,学校法人梅光学院ほか(特任准教授)事件(広島高判平31.4.18労判1204号5頁)では,同法4条1項1号の要件のうち「「先端的,学際的又は総合的な教育研究であること」は例示であって,同号によって任期付き教員を任用することができる場合をこれに限定する趣旨ではないから,同号の解釈としては「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき」に該当すれば,同号の要件を満たすものと解するのが相当である」としたうえで,「本件雇用契約についてみると,……控訴人は,生徒募集の営業活動の実績をも考慮されて本件大学の教員として採用されたものであり,本件採用面接の日に,……中学・高校の生徒募集に力を入れるよう特に伝えられたのであるから,本件雇用契約は,まさに「多様な人材の確保が特に求められる」職に就けるための任用であるといえ」ると判断された。

 なかなか、大学側にとって厳しい判断です。最高裁へ不服申立てがされているようです。

2024年7月 8日 (月)

【行政】随意契約の裁量の範囲 昭和62年3月20日最高裁判決

 第一法規から出版された自治体財務Q&AP155です。先日、東京の弁護士会館をお邪魔した際に購入しました😅

 随意契約ができる場合として、同書では、以下のとおりの説明がされています。

 「公金により契約する以上、相手方を決めるのは、公平性、公正性を担保するため契約自由の原則を修正しており、契約方法、契約の解除などを制限する場合があり、また、契約方法は一般競争入札が原則ですが、全ての契約を競争入札によることは無理があります。

  随意契約は特定の相手方を選択することになり、その目的を達成する上で合理的と判断される場合をいい、緊急性、必要性がなければできません。

  随意契約を締結できる場合は、契約の内容、性質、目的等を考慮し、自治体の利益につながる場合とされています。」

  そのことを明示された判例として、昭和62年3月20日最高裁判決が引用されています。 

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(宮島・仁王門) 

 原審は、以上の事実を前提とし、本件請負契約の適否について、地方自治法施行令(昭和四九年政令第二〇三号による改正前のもの。以下「令」という。)一六七条の二第一項一号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは、同号が例示する不動産の買入れ又は借入れ等のほか当該契約をすることを秘密にする必要があるなどの場合をいうものであつて、その用途にかんがみ、品質、機能等において概ね同一の物件が他に存在する場合には、その仕様、設計に多少の差異があるからといつて、他に格別の事情のない限り、直ちに同号所定の事由に該当するということはできないと解した上、本件ごみ処理施設については、その用途にかんがみ、前記四社のいずれを相手方として契約を締結しても、品質、機能等において藤係長作成の「福江市ごみ処理施設施行基準」及び「焼却炉建設計画工事契約の基本条件」に定められた基準を充たす概ね同一のごみ処理施設が建設されたであろうということができ、他に格別の事情も見当たらないから、本件請負契約の締結は、令一六七条の二第一項一号に掲げる場合に該当しないというべきであり、また、随意契約によることができる場合として同項に掲げるその他の場合にも該当しないから、これを随意契約の方法により締結したことは違法である、と判断した。

 しかしながら、右原審の判断は、是認することができない

 その理由は、次のとおりである。

 地方自治法(以下「法」という。)二三四条一項は「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」とし、同条二項は「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」としているが、これは、法が、普通地方公共団体の締結する契約については、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置づけているものと解することができる。そして、そのような例外的な方法の一つである随意契約によるときは、手続が簡略で経費の負担が少なくてすみ、しかも、契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も指摘され得ることから、令一六七条の二第一項は前記法の趣旨を受けて同項に掲げる一定の場合に限定して随意契約の方法による契約の締結を許容することとしたものと解することができる。

 ところで、同項一号に掲げる「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは、原判決の判示するとおり、不動産の買入れ又は借入れに関する契約のように当該契約の目的物の性質から契約の相手方がおのずから特定の者に限定されてしまう場合や契約の締結を秘密にすることが当該契約の目的を達成する上で必要とされる場合など当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合がこれに該当することは疑いがないが、必ずしもこのような場合に限定されるものではなく、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項一号に掲げる場合に該当するものと解すべきである。

 そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている前記法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である。

 そこで、以上の観点から本件請負契約の締結をみるに、原審の確定した前記事実関係によると、右契約の締結はごみ処理施設という複雑かつ大規模な施設の建設を目的とするものであつて、その請負代金としても高額にのぼるものであり、また、各社のプラントは炉体の構造等が異なつていて、各社はこの点に特許権まで有するものではないがロストルの揺動装置等には実用新案権を有していたというのであるから、これらの点にかんがみると、注文者たる福江市において、右施設自体の品質、機能、工事価格に関心を払うのは当然であるが、そればかりではなく、建設工事の遂行能力や施設が稼働を開始した後の保守点検態勢といつた点の考慮から契約の相手方の資力、信用、技術、経験等その能力に大きな関心を持ち、これらを熟知した上で特定の相手方を選定しその者との間で契約を締結するのが妥当であると考えることには十分首肯するに足りる理由があるというべきであり、他方、原審の確定した前記事実関係によつても本件請負契約の締結について公正を妨げる事情は何ら窺うことができないから、結局、亡喜一において本件請負契約をもつて令一六七条の二第一項一号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると判断したことに合理性を欠く点があるということはできず、したがつて、随意契約の方法によつて右契約を締結したことに違法はないというべきである。」

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(宮島・弥山)
 最近、広島出張が多いです😅

2024年7月 7日 (日)

【行政】  随意契約の制限に違反した契約の私法上の効力 昭和62年5月19日最高裁判決

 随意契約の制限に違反した契約の私法上の効力については、最判解説において、以下のとおり、問題提起をされています。

 地方自治法2条15項前段が「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。」と規定し、同条16項は、「前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする。」と規定しているため、一見すると、随意契約の制限に関する法令に違反して締結された契約は当然に無効と解される余地があるからです。

 他方、随意契約の制限に関する法令としては、地方自治法施行令167条の2第1項が以下のとおり定めております。

 滋賀県のHPでは、条文と例をコンパクトに明記されていましたので、参考までに、リンクをはっておきます。

 さて、昭和62年5月19日最高裁判決は、随意契約の制限に関する法令に違反していたというケースでした。

 以下のとおり、判旨を引用します。

一 原審は、(一) (1) 第一審判決別紙物件目録記載(一)ないし(五)の土地(以下併せて「本件土地」という。)は、かつて大阪府泉南郡東鳥取町及び南海町(昭和四七年一〇月二〇日合併により阪南町となつた。)の共有地であつたが、山の谷あいの最も奥地にある水源地であり、近畿圏の保全区域の整備に関する法律九条にいう近郊緑地保全区域内で、かつ、森林法二五条による保安林の指定のされている地区内にあり、一部採石が行われているほか主として松の植林に供されており、今後とも宅地などとしての開発が期待できない土地である、(2) 本件土地のうち同目録記載(四)の土地(以下「本件(四)の土地」という。)は、通称「ヌク原」と呼ばれていて、山の南側斜面に位置して日当りがよく、本件土地のなかでは比較的樹木が育ちやすい良い土地である、(3) 本件土地はかつて地元各部落の共有林である一筆の土地の一部であり、地元各部落の村民に植林のための権利が与えられていたが、昭和一五年七月期間三〇年の樹木所有を目的とする地上権が設定されることとなり、本件(四)の土地については、同月一一日草竹武長が右内容の地上権の設定を受けた、(4) 本件土地に設定された右各地上権は、昭和四五年存続期間の満了を迎えることとなつたが、東鳥取町長は、折から小学校の増改築のための財源確保に迫られていたので、本件土地を各地上権者に売却しようと考え、本件土地を含む東鳥取町と南海町との共有林野の管理を目的として設立された東鳥取町南海町林野組合(以下「林野組合」という。)の議員らに意向を打診した、(5) 右議員らは、いずれも東鳥取町又は南海町の町議会議員のうち林野関係に通じた者が選出されているものであるが、本件土地の管理は専ら東鳥取町が行つていたので、本件土地の売却については同町側の議員らのみで協議し、その結果右売却に同意することとなつた、(6) 右協議に際しては売却価格についても併せて協議がされ、専らこの地域の山林に詳しい議員らにおいて概算見積りで価格評価を行つた結果、本件(四)の土地については三〇〇万円が相当であるとの結論に達した、(7) 林野組合は、昭和四五年九月一四日、右議員らの協議の結果にそう提案を承認した、(8) そこで、東鳥取町長は地上権者らに対し本件土地を売却することとしたが、本件(四)の土地の売却については、地上権者草竹武長が最終的に六〇万円以上の価格で買い受けることを拒絶したため、同町長において苦慮していたところ、これを聞いた上岡富輝が前記評価価格の三〇〇万円で買い受けることを申し込んだので、同町長は右上岡富輝との間で、随意契約の方法により、右土地の東鳥取町持分(一〇〇万分の五七万〇四七九)を土地全体の価格三〇〇万円の持分相当額一七一万一四三七円で売却する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した(なお、南海町も同時にその持分を売却しており、両町の売却価格の合計はちようど三〇〇万円となる。)、との事実を認定した上、(二) 本件売買契約は、地方自治法施行令(昭和四九年政令第二〇三号による改正前のもの。以下「令」という。)一六七条の二第一項三号にいう「競争入札に付することが不利と認められるとき」及び同項四号にいう「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき」のいずれにも該当せず、結局随意契約の方法により契約を締結することができる場合に該当しないから違法であるとして、地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項一号に基づき右契約の履行として行われる所有権移転登記手続の差止めを求める被上告人らの請求を認容した。

二 しかしながら、本件売買契約が随意契約の制限に関する法令に違反することを理由に被上告人らの本件差止請求を認容すべきものとした原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 すなわち、法二三四条二項は、普通地方公共団体が締結する契約の方法について「指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」と規定し、これを受けて令一六七条の二第一項は、随意契約によることができる場合を列挙しているのであるから、右列挙された事由のいずれにも該当しないのに随意契約の方法により締結された契約は違法というべきことが明らかである。しかしながら、このように随意契約の制限に関する法令に違反して締結された契約の私法上の効力については別途考察する必要があり、かかる違法な契約であつても私法上当然に無効になるものではなく随意契約によることができる場合として前記令の規定の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知り得べかりし場合のように当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える前記法及び令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合限り、私法上無効になるものと解するのが相当である。

 けだし、前記法及び令の規定は、専ら一般的抽象的な見地に立つて普通地方公共団体の締結する契約の適正を図ることを目的として右契約の締結方法について規制を加えるものと解されるから、右法令に違反して契約が締結されたということから直ちにその契約の効力を全面的に否定しなければならないとまでいうことは相当でなく、他方、契約の相手方にとつては、そもそも当該契約の締結が、随意契約によることができる場合として前記令の規定が列挙する事由のいずれに該当するものとして行われるのか必ずしも明らかであるとはいえないし、また、右事由の中にはそれに該当するか否かが必ずしも客観的一義的に明白とはいえないようなものも含まれているところ、普通地方公共団体の契約担当者が右事由に該当すると判断するに至つた事情も契約の相手方において常に知り得るものとはいえないのであるから、もし普通地方公共団体の契約担当者の右判断が後に誤りであるとされ当該契約が違法とされた場合にその私法上の効力が当然に無効であると解するならば、契約の相手方において不測の損害を被ることにもなりかねず相当とはいえないからである。そして、当該契約が仮に随意契約の制限に関する法令に違反して締結された点において違法であるとしても、それが私法上当然無効とはいえない場合には、普通地方公共団体は契約の相手方に対して当該契約に基づく債務を履行すべき義務を負うのであるから、右債務の履行として行われる行為自体はこれを違法ということはできず、このような場合に住民が法二四二条の二第一項一号所定の住民訴訟の手段によつて普通地方公共団体の執行機関又は職員に対し右債務の履行として行われる行為の差止めを請求することは、許されないものというべきである。


三 そうすると、随意契約の方法によつて締結された本件売買契約の私法上の効力を確定することなく、単に同契約が随意契約の制限に関する法令に違反し違法であるとして、それに基づく債務の履行として行われる所有権移転登記手続の差止めを求める被上告人らの本件請求を認容した原審の判断は、法令の解釈を誤りひいては理由不備の違法を犯すものというほかなく、上告論旨の検討に入るまでもなく原判決はこの点において破棄を免れないこととなる。そして、本件においては、本件売買契約を随意契約の方法によつて締結したことが仮に違法であるとしても、原審の適法に確定した前記事実関係に照らして、随意契約の方法による契約の締結が許されないことが何人の目にも明らかであるとか契約の相手方である上岡富輝において随意契約の方法によることが許されないことを知り又は知り得べきであつたなど右契約を無効とすべき前記特段の事情があるということはできないから、本件売買契約は私法上当然に無効であるということはできず(なお、本件売買契約が法九六条一項七号(昭和六一年法律第七五号による改正前のもの)、令一二一条の二第二項、別表第二に違反する旨の被上告人らの主張に理由がないことは原判決の判示するとおりであり、また、原審の適法に確定した前記事実関係によれば、本件(四)の土地の売却価格が不当に廉価であつて地方財政法八条に違反する旨の被上告人らの主張に理由がないことも明白である。)、したがつて、上告人に対し右契約に基づく債務の履行として行われる所有権移転登記手続の差止めを求める被上告人らの本件請求は理由のないことが明らかであるから、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第一審判決中右部分を取り消した上、被上告人らの右請求を棄却すべきである。」 

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(宮島)
 なお、金融法務事情は、以下のとおり解説しています。
 
 「まず、法二三四条二項、法施行令一六七条の二第一項は、地方公共団体の契約締結方法について、一般競争入札を原則とし随意契約によりうる場合を制限しているところ、これに違反して随意契約の方法によって締結された契約の効力を検討する必要がある。ところで、法二条一五項・一六項は、地方公共団体の法令違反行為を無効とする旨定めているので、右のような契約は当然に無効と解すべきもののようであるが、東京高判昭52・8・9(行裁集二八巻八号八二三頁)、高木光・自治研究五五巻二号一三五頁、俵静夫・地方自治法三七九頁、関哲夫・判例評論三二五号二〇頁などの裁判例・学説は、一般に当然に無効と解すべきではないとの見解を採っている。右法の規定は、地方公共団体も国の法令に従わねばならないことを注意的に示したものであって(改正地方制度資料第五部一九八頁など参照)、この規定を根拠に地方公共団体のあらゆる法令違反行為を直ちに無効とするのは、たとえば、法二三八条の三第二項等が違反行為を無効とする旨の規定をとくに設けていることからも、相当ではなく、個々の法令違反行為ごとに当該法令の趣旨等を勘案してその効力を決していくべきものであろう。本判決は、このような見解を前提にして、随意契約の制限に違反する契約であっても、これを無効としなければ随意契約に制限を加える法令の趣旨を没却する結果となる特段の事由が認められるのでない限り、私法上当然に無効になるものではないとの判断を示したものと理解される。

 次に、契約が無効でないとした場合、その履行行為を住民訴訟の手段により差し止めることができるかという点が問題になる。契約の履行行為は監査請求の対象となる財務会計行為の一つとされており(法二四二条一項)、それ自体が違法であれば差止めを認めるのが当然であるが、契約の締結方法が違法であるとしても当該契約が無効でない場合は、町は契約の相手方に対してその履行義務を負うのであるから、その履行行為を違法ということはできないし、これを住民訴訟により差し止めるならば、町をジレンマに陥れ不合理な結果を招く。本判決は、このような検討に基づいて、右差止めが許されないことを明らかにしたものと思われる。」
 結論からいえば、「随意契約が無効とされるのは、自治法施行令167条の2に該当しないことが明らかであり、随意契約が許されないことを知っており、無効としなければ法令の趣旨が没却されるなど特段の事情のある場合に限られ、契約が無効でなければ住民訴訟による差し止めは認められません」(第一法規 自治体財務Q&A P161)。
 

2024年7月 6日 (土)

【行政】 市が設置管理するサイクリングコースを走行していたロードバイクの前輪がコース上の溝に嵌まり運転者が転倒した事故について、市に国家賠償法2条1項の責任を認めた一方、ロードバイクの運転者につき1割の過失を認めた事例

 判タN01520号で掲載された千葉地裁令和5年7月19日判決です。

 原告は、被告(市)の設置管理に係るサイクリングコースをロードバイク(前輪の幅約2.3センチ)で走行していた時に、本件コースの舗装路と土留めとの間に存した溝(少なくとも、幅約2.9センチ、深さ約10センチ、長さ約30メートル)に本件自転車の前輪が嵌まったため転倒して負傷したと主張して、被告に対して、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を求めた事案です。

 裁判所は、本件事故の発生を認めたうえで、

 ①国家賠償法2条1項の瑕疵の有無については、本件コースがサイクリング用コースであり、車輪幅が細いものを含め自転車が安全に走行できる状態になっていなければ通常有すべき安全性を欠くとし、本件溝は、舗装路と土留めとの間に存したものであるが、土留め上のフェンスよりも相当舗装路側にあり、本件溝付近を自転車が走行することも想定されているといえるから、本件コースに自転車の前輪が嵌まるような本件溝が存することは通常有すべき安全性を欠き、被告が本件溝付近を自転車が走行することによる事故の発生を予見できなかったとはいえないなどとして、同項の瑕疵に該当すると判断しました。

 また、②過失相殺については、本件自転車の車輪幅を踏まえればわずかな溝等があっても転倒の危険性があるなどとして、原告も本件自転車の運転に当たって走行の障害となるものの存否に注意し、走行路面の状況に変化があった場合にも制御できるように走行しなかった原告の落ち度を考慮する一方で、本件事故前の本件自転車の運転に当たって走行の障害となるものの存否に注意し、走行しなかった原告の落ち度を考慮する一方で、本件事故前の本件自転車の走行態様は本件溝付近へと走行した経緯等にすぎない、本件溝は長距離にわたって存在していたが、運転中に本件自転車の前輪が嵌まって前進できなくなるというような溝であったことを判断できたとはいえないなどしてこれらの事情を斟酌せず、原告につき1割の過失相殺が相当であると判断しました。 

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(スカイツリー)
 田舎弁護士の地域も、サイクリングは盛んなので、注意する必要がありますね😅

2024年7月 5日 (金)

「虎に翼」 尊属殺事件最高裁判決に対する穂高先生の少数意見

 昭和25年10月11日、尊属殺事件に対する穂高先生の少数意見が話題になっています。
 被告人が尊属に当たる者を死亡させてしまった場合、通常の傷害致死よりも格段の重罰を以て処断されていました。

 この刑法の規定が、法の下の平等(憲法14条)に反するのではないかが問われた案件です。

 当時の最高裁の多数意見は、法が子の親に対する道義的義務をとくに重視したものであり、憲法14条に違反するとした原判決を破棄しております。
 
 この多数意見に対する、穂高先生 こと 裁判官穂積重遠の少数意見は、下記のとおりです。

 本件は刑法二〇五条に関するが、問題は同二〇〇条から出発するゆえ、両条にわたつて意見を述べる。そして先ず両法条の立法を批判したい。
 刑法二〇〇条は、同一九九条に「人ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期若クハ三年以上ノ懲役ニ処ス」とあるのを受けて、「自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役二処ス」としたのである。すなわち法定刑の上限は共に死刑であるから、もし尊属殺は極悪非道なるがゆえに極刑を以て臨まねばならぬとしても、それは、一九九条でまかない得るのであつて、特に二〇〇条を必要としない。
 そこで普通殺人と尊属殺との刑罰の差違は、各法定刑の下限に存する。すなわち前者にあつては刑を懲役三年まで下げて執行猶予の恩典に浴せしめることができ、後者は死刑にあらずんば無期懲役と限られているから、かりに法律上の減軽と酌量減軽のあらん限りを尽したとしても、懲役三年半以下に下げることができず、従つて執行猶予を与え得ない。刑法が両者の間にかような差違を設けた理由は、正に多数意見が説くとおりであろうが、普通殺人に重きは死刑にあたいし軽きは懲役三年を以て足れりとしてかつその刑の執行を猶予して可なるがごとき情状の差違あると同様、尊属殺にも重軽各様の情状があり得る。いやしくも親と名の附く者を殺すとは、憎みてもなお余りある場合が多いと同時に、親を殺しまた親が殺されるに至るのは言うに言われぬよくよくの事情で一掬の涙をそそがねばならぬ場合もまれではあるまい。刑法が旧刑法を改正してせつかく殺人罪に対する量刑のはゞを広くしたのに、尊属殺についてのみ古いワクをそのままにしたのは、立法として筋が通らず、実益がないのみならず、量刑上も不便である
 刑法二〇五条の傷害致死罪については、普通人に対する場合は「二年以上ノ有期懲役」であるが、直系尊属に対する場合は「無期又ハ三年以上ノ懲役」となつているのであるから、法定刑の上限にも下限にも差違を設けてあり、尊属傷害致死について特別の規定をした意味がある。ところが刑法二〇八条の傷害を伴わぬ暴行罪および同二〇四条の死に至らざる傷害罪については、普通人に対するものと直系尊属に対するものとによつて刑の軽重を設けていない。もし「かりにも親のあたまに手をあげるとはげしからん」というのであるならば、そもそも暴行罪からして直系尊属に対するものを重く罰せねばならず、いわんや傷害の故意があつて傷害の結果を生ぜしめた場合はもちろんである。しかるにその暴行傷害を特に重しとせずして、未必の殺意すらないのにたまたま致死の結果が生じた本件のごとき場合になつてはじめて普通人に対する傷害致死と差別して刑を重くするのは、立法として首尾一貫せず、かつ殺意なき行為に対する無期懲役は、科刑として甚だ酷に失する。刑法二〇五条一項により有期懲役の長期たる一五年まで持つて行ければ充分であろう。
 なお遺棄罪については刑法二一八条二項に、また逮捕監禁罪については刑法二二〇条二項に、それぞれ直系尊属に対して犯された場合の刑の加重が規定されている。本件直接の関係でないゆえ一々論及しないが、殺傷の場合の議論が大体当てはまる。
 さらに注目すべきことは、刑法二〇〇条および二〇五条二項の「直系尊属」の範囲である。それは民法の規定に従うのであるが、その民法に新憲法の線にそう改正があつて、「直系尊属」の範囲が変更し、以前は直系の尊属卑属であつた継父母継子の親子関係が認められないことになつた。そこで新民法下において刑法二〇〇条および二〇五条二項を適用すると、継父母を殺しまたは死に致したのは尊属殺または尊属傷害致死ではないことになる。しかし継父母殊に継母は継子に取つて、場合によつて実母同様、少くも養母以上の恩義があり得る関係である。それゆえ殺親罪を認めながら継父母殺しを殺親罪としないことは、父母的関係においてそれよりも遠い「配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者」を殺親罪に問うのとくらべて、甚しい不釣合であつて、新憲法下に殺親罪という旧時代規定を保存した矛盾の一端がはからずもここに暴露したものというべきである。
 かくして刑法二〇〇条および同二〇五条二項は、立法としてすこぶる不合理でありかつ不要であつて、昭和二二年法律第一二四号による刑法一部改正の機会に削除せらるべきであつたと思うが、その機を逸してその規定が現存する今日、この二箇条が憲法に違反する無効のものではないだろうかということが問題になるのは、当然である。原判決は、刑法二〇五条二項を憲法一四条に違反するものであるとして、本件犯行に同条一項を適用し、当裁判所の多数意見は、検事上告を容れて、右刑法二〇五条二項は憲法違反にあらず、従つて本件犯行には右条項を適用すべきものとするのであるが、原判決も検事上告も、また当裁判所多数意見も、単に刑法二〇五条二項だけでなく、同二〇〇条をも含めて、殺親罪全体を問題としている。本裁判官は原判決を、その説明には過不及があるが、結論において正当と認めるがゆえに、以下当裁判所多数意見および上告論旨の諸論点について意見を述べたい。
 (一) 問題の焦点は憲法一四条である。多数意見は、同条は「大原則を示したものに外ならない」のであつて、「法が、国民の基本的平等の原則の範囲内において、、、、道徳、正義、合目的性等の要請により適当な具体的規定をすることを妨げるものでない」とする。しかしながら、憲法が掲げた各種の大原則については、できるだけ何のかのという「要請」によつてその範囲を狭めないように心がけてその精神を保持することが、殊に旧習改革を目指した新しい憲法の取扱い方でなくてはならないと考える。憲法一四条の「国民平等の原則」は新憲法の貴重な基本観念であるところ、実際上千差万別たり得る人生全般にわたつて随所に在来の観念との摩擦を起し、各種具体的除外要請を生じ得べく、あれに聴きこれに譲つては、ついに根本原則を骨抜きならしめるおそれがあることを、先ず以て充分に警戒しなくてはならない。上告論旨(4)は、憲法一四条は「いかなる理由があつても不平等扱を許さないとまでする趣旨ではない。…一定の合理的な理由があれば必ずしも均分的な取扱を要しないものと解すべきである。」と言うが、さような考え方の濫用は憲法一四条の自壊作用を誘起する危険がある。平等原則の合理的運用こそ望ましけれ、不平等を許容して可なりとなすべきでない。
 (二) 多数意見は、刑法の殺親罪規定は「道徳の要請にもとずく法による具体的規定に外ならない」から憲法一四条から除外されるという。しかしながら憲法一四条は、国民は「法の下に」平等だというのであつて、たとい道徳の要請からは必らずしも平等視せらるべきでない場合でも法律は何らの差別取扱をしない、と宣言したのである。多数意見は「原判決が子の親に対する道徳をとくに重視する道徳を以て封建的、反民主主義的と断定した」と非難するが、原判決は「親殺し重罰の観念」を批判したのであつて、親孝行の道徳そのものを否認したのではないと思う。多数意見が「夫婦、親子、兄弟等の関係を支配する道徳は、人倫の大本、古今東西を問わず承認せられているところの人類普遍の道徳原理」であると言うのは正にそのとおりであるが、問題は、その道徳原理をどこまで法律化するのが道徳法律の本質的限界上適当か、ということである。日本国憲法前文は、憲法の規定するところは「人類普遍の原理」に基くものであると言つているが、「人類普遍の原理」がすべて法律に規定せらるべきものとは言わない。多数意見は親子間の関係を支配する道徳は人類普遍の道徳原理なるがゆえに「すなわち学説上所謂自然法に属するもの」と言う。多数意見が自然法論を採るものであるかどうか文面上明らかでないが、まさか「道徳即法律」という考え方ではあるまいと思う。「孝ハ百行ノ基」であることは新憲法下においても不変であるが、かのナポレオン法典のごとく「子ハ年令ノ如何ニカカワラズ父母ヲ尊敬セザルベカラズ」と命じ、または問題の刑法諸条のごとく殺親罪重罰の特別規定によつて親孝行を強制せんとするがごときは、道徳に対する法律の限界を越境する法律万能思想であつて、かえつて孝行の美徳の神聖を害するものと言つてよかろう。本裁判官が殺親罪規定を非難するのは、孝を軽しとするのではなく、孝を法律の手のとゞかぬほど重いものとするのである。
 (三) 上告論旨(5)は、「尊属親関係は依然新民法の下にも是認されている」と言う。なるほど民法は七二九条、七三六条、七九三条、八八七条、八八八条、八八九条、九〇〇条、九〇一条および一〇二八条に「尊属」「卑属」という言葉を使つているが、それは単に父母の列以上の親族を「尊属」子の列以下の親族を「卑属」と名附けたゞけで、実質上何ら尊卑の意味をあらわし取扱を差別しているのではない。新憲法下においては「尊」「卑」の文字は避けるとよかつたのだが、適当な名称を思い附かなかつたので、「目上一「目下」というくらいの意味で慣用に従つたのであろう。そして直系尊属なるがゆえにこれを扶養を受ける権利者の第一順位に置いた民法旧規定は、新憲法の線にそう民法改正によつて消滅したのである。
 (四) 多数意見は「憲法一四条一項の解釈よりすれば、親子の関係は、同条項において差別待遇の理由としてかかぐる、社会的身分その他いずれの事由にも該当しない。」と言う。上告論旨(3)も同趣旨である。これらは同条項後段に着眼しての議論であるが、その議論の当否はしばらく措き、憲法一四条一項の主眼はその前段「すべて国民は法の下に平等」の一句に存し、後段はその例示的説明である。その例示が網羅的であるにしても、その例示の一に文字どおりに該当しなければ平等保障の問題にならぬというのであつては、同条平等原則の大精神は徹底されない。そして多数意見は親に対する子の殺傷行為の方面のみから観察するが、その方面から観ても、同一の行為につき相手方のいかんによつて刑罰の軽重があらかじめ法律上差別されているということは、憲法一四条一項の平等原則に絶対に違反しないとは言い得ないのである。
 (五) さらに転じて、同じ犯罪の被害者が尊属親なるがゆえにその法益を普通人よりも厚く保護されるという面から観れば、問題の刑法規定が憲法一四条の平等原則に違反することは明白である。多数意見は「立法の主眼とするところは被害者たる尊属親を保護する点には存せずして、むしろ加害者たる卑属の背倫理性がとくに考慮に入れられ、尊属親は反射的に一層強度の保護を受けることあるものと解釈するのが至当である。」と言うが、立法の主眼が果していずれにあるかは問題である。刑法二〇〇条についてはその点が明白でないが、前に述べたとおり、刑法二〇八条の暴行罪および同二〇四条の傷害罪においては、加害者が卑属なるがゆえに刑を加重せられるのではなくて、同二〇五条の傷害致死罪に至りはじめて被害者が尊属親なるによつて重刑が科せられるのであるから、立法の主眼が尊属親の法益保護にないとは言えない。そしてたとい「反射的」にせよ尊属親なるがゆえに「一層強度の保護を受けることがある」以上、正に憲法一四条一項の平等原則に違反すると言わざるを得ないのである。
 (六) 多数意見は、原判決が「個々の場合に応じて刑の量定の分野に於て考慮されることは格別」と言つたのをとらえて、もし原判示のごとくんば、親であり子であることを「情状として刑の量定の際に考慮に入れて判決することもその違憲性において変りはないことになるのである。逆にもし憲法上これを情状として考慮し得るとするならば、さらに一歩を進めてこれを法規の形式において客観化することも憲法上可能であるといわなければならない。」と逆襲する。しかし、法定刑に上限下限のひらきを設けて裁判所の情状による量刑にまかすことは現代の刑法上当然の立法であり、加害者、被害者の身分上の続がらがその情状の一であることも無論さしつかえない。たゞ「さらに一歩を進めてこれを法規の形式において客観化すること」が「法の下に平等」の憲法原則に違反し得るのである。
 (七) 上告論旨(2)は「尊属と卑属との関係は、、、如何なる人においても存するのであつて、それは必ずしも或る特殊の人に対して社会的な差別を認めたものとは考えられない。」と言う。それは結局「尊属」「卑属」の関係を憲法一四条一項の「社会的身分」に当てはめまいとした議論であるが、身分なるものは必ずしも特殊的確定的なるを要せず、時に随つて変転するものでもさしつかえない。ともかく特定の時において尊属たる身分に在りそしてその身分のゆえに卑属たる身分に在るのとは違つた待遇を受けることが法律できまつていれば、「法の下に平等」とは言い得ないのである。
 (八) 上告論旨(6)は「今後の立法問題として、かかる特別な規定を設け置く要ありゃ否やの問題と、今日現に存するこの種規定がはたして憲法に違反するかどうかの問題とは、厳に区別さるることを要」するとし、多数意見も右の論旨を是認して、原判決は「憲法論と立法論とを混同するものである」と非難する、原判決はそこまで踏込んで論じてはいないように思はれるが、なるほど憲法論と立法論とを混同すべきではあるまい。しかし前に述べたとおり、刑法二〇〇条と同二〇五条二項との小合理はかなりに著明であり、そしてそれは新憲法前の規定で、新憲法の制定とそれに伴う民法の改正とによつてその不合理が増大したのであるから、右条項は憲法一四条一項と併せて同九八条一項により、憲法施行と同時に効力を有しないことになつたのではないかとさえ考えられる。そしてこれまた前に述べたとおり、これら特別規定なくとも普通規定によつて不孝の子を懲罰するに甚しく妨げないのであるから、問題の刑法規定の違憲性を論ずるに当り立法上の不当と不要とを一論拠とするのも、必ずしも見当違いではないのである。
 以上の理由によつて本裁判官は、本件についての当裁判所裁判官多数意見に賛同し得ず、検事上告を棄却して原判決を維持するを適当と信ずるものである。

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(宮島)
 尊属殺を規定する刑法条文は、昭和48年4月4日の最高裁大法廷判決により、憲法14条違反として無効と判断されることになるのですが、穂高先生の判決から20年以上後のことになります。

 

【行政】 4号請求住民訴訟における違法性の承継理論と判例法理の形成 No2

 昨日の続きです。

 「(4)原因行為が行政処分である場合において、当該処分に重大かつ明白な瑕疵はないが、これが違法にされたものであることから、当該職員が当該行政処分について職権取消権(自庁取消権)を行使すること等により、自らその違法を除去・是正する権限を有する場合には、当該職員は、当該違法な原因行為をそのままにして当該財務会計上の行為をしてはならないという財務会計法規上の義務があることから、これに違反してされた当該財務会計行為上の行為は違法となる。

 最高裁昭和60年9月12日判決は、収賄罪で逮捕された市職員を懲戒免職でなく分限免職にして退職手当を支給したことが地方自治法242条1項にいう違法な公金の支出に当たらない旨判示したが、その理由中において、「本件条例の下においては、分限免職処分がなされれば当然に所定額の退職手当が支給されることとなっており、本件分限免職処分は本件退職手当の支給の直接の原因をなすものというべきであるから、前者が違法であれば後者も当然に違法となるものと解するのが相当である」と判示しているところ、この点について、平成4年最高裁判所判例解説(略)は、上記判決の事案では、原因行為たる行政処分が違法なものであれば、長にはその自庁取消権があると解することに問題のない場合であると思われ、そうすれば、長が分限免職処分が違法であるのにこれを取り消さないで、これを前提とする財務会計上の行為に及んだという関係にあるときは、長は、財務会計上の行為をするに当たって職務上負担する義務に違反したものとして損害賠償責任を負うことになるものである、とし、上記判決の上記判示は、このような趣旨を表現したものであるとしている。」

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(宮島・藤い屋)
「(5)普通地方公共団体が、第三者との間で締結した先行の契約に基づく義務の履行として、後行の財務会計上の行為である契約を締結する場合であっても、次の(ア)又は(イ)のときには、後行の財務会計上の行為である契約の締結は違法となる。
 (ア)上記先行の契約を締結した普通地方公共団体の判断に裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があり、先行の契約を無効としなければ地方自治法2条14項、地方財政法4条1項の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる等により、上記先行の契約が私法上無効であるとき。
 (イ)上記先行の契約が私法上無効ではないものの、これが違法に締結されたものであって、当該普通地方公共団体がその取消権又は解除権を有している場合や、当該先行の契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存在し、かつ、客観的にみて当該普通地方公共団体が当該先行の契約を解消することができる特殊な事情がある場合であるにもかかわらず、当該普通地方公共団体の契約締結権者がこれらの事情を考慮することなく漫然と上記後行の契約を締結したとき。
 上記の判例法理は、普通地方公共団体が、土地開発公社との間で締結した土地の先行取得の委託契約に基づく義務の履行として、当該土地開発公社が取得した当該土地を買い取る売買契約を締結することが違法となるか否かが争われた最高裁平成20年1月18日判決において示されたものであるところ、その判決理由に徴すれば、上記判例法理は、後行の財務会計上の行為が契約の締結以外の支出負担行為、支出命令及び支出である場合にも適用されると考えられる。」
 「(6)原因行為である行政処分に重大かつ明白な瑕疵があり、そのために当該処分が無効である場合には、当該処分が普通地方公共団体の長から独立した権限を有する機関によってされたか否かを問わず、当該職員は、当該処分に基づいて当該財務会計上の行為をしてはならないという法的義務を負っていると解されるから、これに違反してされた当該財務会計上の行為は違法となる。
 これについては、最高裁の判例において明示されていないが、当然のこととして立論されているものと解して差し支えないように思われる。」
 「(7)支出負担行為と支出命令は公金を支出するために行われる一連の行為というべきものであるから、当該支出負担行為を先行の原因行為として、その義務の履行としてされた後行の財務会計上の行為である当該支出命令の違法を判断する場合にも、上記(5)の判例法理が適用される。
 これは、最高裁平成25年3月21日判決において示されているところである。
 違法性の承継に関連する最高裁判例によって示された判例法理は、以上のように要約することができるものと考えられる。」
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                            (宮島・藤い屋) 

2024年7月 4日 (木)

【行政】 4号請求住民訴訟における違法性の承継理論と判例法理の形成 No1

 判例タイムズNo1435号で掲載された大藤敏元東京高裁判事の論文です。

 最終章の「5 違法性の承継に関する判例法理の要約」がわかりやすく整理されていますので、引用したいと思います。

 「以上のような違法性の承継に関連する最高裁判例の検討結果によれば、4号請求に係る財務会計上の行為の違法とそれに先行する原因行為の違法との関係について、最高裁判例によって形成された違法性の承継に関する判例法理は、以下のように要約することができるのではないかと考えられる。

(1)(ア)地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づき、当該職員に対して損害賠償請求をするべきことを求める住民訴訟において、当該損害賠償責任を問うことができるのは、先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても、原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる

 (イ)地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づき、当該職員に対して損害賠償請求をすべきことを求める住民訴訟は、当該普通地方公共団体の執行機関又は職員を被告として、財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し、職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を請求することを求めるものであるから、当該職員の財務会計上の行為がこれに先行する原因行為を前提として行われた場合であっても、当該職員の行為が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときは、上記の規定に基づく損害賠償責任を当該職員に問うことができると解するのが相当である。

 上記の判例法理は、先行の原因行為の違法を理由として、後行の財務会計上の行為が違法であると主張されている4号請求住民訴訟のすべての事案に等しく適用される一般的な法理であると考えられる。したがって、先行の原因行為が行政機関による処分等の非財務会計上の行為であると、あるいは第三者との契約の締結などの財務会計上の行為であると問わないと考えられる。

(2)財務会計上の行為である原因行為が憲法に違反し、私法上無効であるときは、後行の財務会計上の行為を行う権限を有する者は、当該行為をしてはならないという財務会計法規上の義務があり、これに違反して当該行為を行った場合には、当該行為は違法となる。

 上記の判例法理は、市の主催により神式に則り挙行された市体育館の起工式が憲法20条3項にいう宗教的活動にあたらない旨判示した最高裁昭和52年7月13日大法廷判決によって示されたものである。

(3)原因行為が普通地方公共団体の長から独立した権限を有する機関によってされた行政処分である場合において、当該処分に重大かつ明白な瑕疵はないが、これが著しく合理性を欠きそのためにこれに予算執行の適正確保の見地から看過しえない瑕疵が存する場合には、当該職員は当該処分につき是正権限を有していなくても、違法な原因行為をそのままにして財務会計上の行為をしてはならないという財務会計法規上の義務を負っているのであり、当該職員が当該処分の瑕疵の解消に努めることなく財務会計上の行為をすれば、その行為は違法なものになる。

 上記の判例法理は、教育委員会が公立学校の教頭で退職勧奨に応じた者を校長に任命して昇給させるとともに、同日退職承認処分をしたことに伴い、知事がした昇給後の号給を基礎とする退職手当の支給決定の違法性が争われた最高裁平成4年12月15日判決によって示されたものである。同判決の趣旨に鑑みると、上記の判例法理は、普通地方公共団体の長から独立した権限を有する選挙管理委員会、人事委員会等の行政機関がした行為の違法を理由として、これら行政機関がした行為の違法を理由として、これら行政機関の行為を前提としてされた普通地方公共団体の長の財務会計上の行為の違法を主張する事案についても適用されるものと考えられる。

 また、最高裁平成15年1月17日判決は、県議会議長が全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加する議員に対して旅行命令をしたことに伴い、知事の補助職員がした旅費の支出負担行為及び支出命令が違法ではない旨判示し、その判決理由において、上記の判例法理が適用されることを明らかにしている。

 さらに、最高裁平成17年3月10日判決は、先行の原因行為が、普通地方公共団体の長から権限の委任を受ける等して権限を有するに至った者がした所属職員に対する旅行命令であり後行の財務会計の行為が、同命令を前提としてその直属の部下である総務係長がした支出命令である事案について、上記平成4年最高裁判決を引用していることに照らすと、原因関係と財務会計上の行為がこのような関係を有する場合にも、上記の判例法理が適用されるもののと考えられる。」

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(清澄庭園)

 

 

2024年7月 3日 (水)

【金融・企業法務】吸収合併消滅株式会社の株主が吸収合併するための株主総会に先立って前記会社に委任状を送付したことが、会社法785条2項1号イにいう吸収合併等に反対する旨の通知に当たるとされた事例 最高裁令和5年10月26日判決

 判例時報2589号で掲載された最高裁令和5年10月26日判決です。

 本件は、A株式会社の株主であるXが、利害関係参加人であるB株式会社を吸収合併存続株式会社、A社を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併についての会社法785条2項の所定の株主であると主張し、A社に対し、Xの有する全株式を公正な価格で買い取ることを請求したが、その価格の決定につき協議が調わないため、同法786条2項に基づき、価格の決定の申立をした事案です。

※(反対株主の株式買取請求)
第七百八十五条 吸収合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
一 第七百八十三条第二項に規定する場合
二 第七百八十四条第二項に規定する場合
2 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主(第七百八十三条第四項に規定する場合における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主を除く。)をいう。
一 吸収合併等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
イ 当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

※(株式の価格の決定等)
第七百八十六条 株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と消滅株式会社等(吸収合併をする場合における効力発生日後にあっては、吸収合併存続会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。
2 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる

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(木漏れ日の橋)
 事実関係の概要は、以下のとおりです。
 A社は、本件吸収分割に係る契約の承認を決議事項とする株主総会に先立って、Xに対し、宛先として「A社御中」と印字され、「賛」または「否」のいずれかに〇印を付けて本件議案に対する賛否を記載する欄が設けられた委任状用紙を送付して、議決権の代理行使を勧誘した。
 Xは、前記勧誘に応じ、A社の代表取締役を代理人に定める旨記載した上、本件賛否欄の「否」に〇印を付け、その欄外に「合併契約の内容や主旨が不明の上、数日前の通知であり賛否表明ができませんとの附記をするなどして委任状を作成し、これをA社に返送した。
 本件委任状の送付が、会社法785条2項1号イにいう、吸収合併等をするための株主総会に先立って消滅株式会社等に対してされる吸収合併等に反対する旨の通知に当たり、本件申立てが適法であるかどうかが争点となっております。
 原々審、原審とも、本件申立ては不適法却下しております。
 理由は以下のとおりです。
 本件委任状は、代理人となるべき者に対して本件総会における議決権の代理行使を委任する旨の意思表示をした書面であって、本件賛否欄の「否」に〇印を付けた部分は、前記の者に対する指示であってA会社に向けられたものであるということはできない上、本件附記(賛否表面ができません)があることからすると、本件吸収合併に反対する旨のXの意思が本件委任状に表明されているということもできず、本件委任状の送付は反対通知に当たらず、本件申立ては不適法であって却下すべきものとされました。

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(笠松山)
 本決定は、①A社が、Xに対し、宛先をA社とし本件賛否欄を設けた本件委任状用紙を送付して議決権の代理行使を勧誘した、②Xは、前記勧誘に応じて、本件賛否欄の「否」に〇印を付けて本件委任状を作成し、これをA社に対して返送したという事実関係の下では、
 XがA社に対して本件委任状を送付したことは反対通知に当たると判断し、原決定を破棄し、原々決定を取消、更に審理を尽くさせるため、本件を原々審に差戻をしました。
 余り詳しくありませんが、最高裁の結論の方が妥当な気がしますが、原々審、原審も、反対だったんですね。

2024年7月 2日 (火)

【弁護士研修】 2024年度・高次脳機能障害相談研修会に参加いたしました。

 先日、東京新橋で開催された(公財)日弁連交通事故相談センター主催の2024年度高次脳機能障害相談研修会に参加しました。

 講演は、2つでした。

 1つめが、自賠責保険(共済)における高次脳障害審査というテーマで、損害保険料率算出機構の方のご講演でした。

 2つめが、裁判例における脳外傷による高次脳機能障害事案の等級認定傾向というテーマで、交通事故分野で著名な弁護士のご講演でした。

 講演会終了後の、懇親会にも参加させていただきました。

 1つめは、残念ながら、声が小さいように感じられたために、余り聴き取りができませんでした。

 2つめは、高次脳機能障害事案に限定ですが、自賠責、労災、訴訟での、等級の違いがでている裁判例が取り上げられており、参考になりました。

 懇親会終了後は、司法修習の時の同じクラスメイトであったY弁護士と一緒に、新橋駅前近くのバーを訪ねました。リーズナブルなお値段でとてもよかったです。

 シティーズバーというところです。

 Y弁護士とは、10年位前に、損害保険協会の研修会の後にも、食事を共にしました。😇

 お互い、齢を重ねたなあと思います

 Y弁護士の子どもさんが、田舎弁護士の子どもと同じ大学で、1年くらいは同じキャンパスにいたようです。

 世の中狭いですね~

 

 

2024年7月 1日 (月)

アリスタフェア2024に参加してきました😄

 日本最大のお菓子の商社である株式会社山星屋様(売上高3347億円)主催のアリスタフェア2024に参加させていただきました。2024年のテーマは、「菓子PRIDE~お菓子が創る笑顔と商機~」です。

 6月19日から、パシフィコ横浜Dホールにて盛大に開催されていました。

 田舎弁護士が参加させていただいたのは、2日目の6月20日からでした。 

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(入り口)
 数え切れない数のお菓子が多数展示されており、そのほとんどが持ち帰り自由ということでした。山星屋の様々な企画、例えば、1日目では、日経メディアマーケティングの「データから読み解く市場動向」、吉本興業ぼる塾の「全国お菓子総選挙結果発表」、ロッテの「かむこと研究室」が企画され、また、2日目では、円谷プロダクションのウルトラマン&モントワールトークセクション、メーカの着ぐるみ大集合などが企画され、開催されていました。

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 近い将来、ウルトラマンのグミも販売されるようです。シュワッ!
 田舎弁護士は、山星屋様の関連会社であるアリスタ木曽様の野間社長や営業の担当者の方に丁寧に案内をしていただきました。
 また、世の中狭いもので、田舎弁護士が社外役員をしているフジの商品担当部長の方々ともお会いしました。😅
 メーカーの方は、弁護士が参加しているので、一様に驚いた顔をされていました。すみません💧
 その時に集めたお菓子は、大袋2つ分ですが、24日に野間社長が事務所にもってこられて、あっという間に、スタッフにて分配されていました。お菓子は、女性の方がより興味津々のようです。
 最後に、山星屋の猪忠孝社長様や、取締役の皆様ともご挨拶させていただきました。猪社長は田舎弁護士とそう年齢は変わりませんが、ものすごくバイタリティーのある方である共に、とても気さくな方でした。どうやら田舎弁護士の方が1つだけ歳が上であり、「兄貴と呼んでいいですか」という言葉をいただきました。野間社長と3人で登園の誓いを交わしたいと思います😇

 

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