【流通】 運送人の新しい責任制度

　自由と正義６月号で掲載された「運送契約法の今日的展開」です。運送契約でのトラブルの相談事例は、田舎弁護士の件数としては、年に１件あるかないか位、件数が少ない印象です。

　ただ、その中でも、もめると複数件訴訟になって対応した記憶がありますが、商法や約款上の主張を行うのが常です。

　平成３０年の商法改正は、運送・海商分野においては、なんと１２０年ぶりの改正になっています。特集１として、「運送人の新しい責任制度」という解説が掲載されていましたので、少し引用しながら、紹介します。　

（伊予富士）

「Ⅱ　定額賠償制度（商５７６条）」

１　運送品の滅失、損傷の場合

　運送品が滅失、損傷した場合の運送人の損害賠償額は、定額化されており、運送品の引渡しがならされるべき地及び時における運送品の市場価格によって定められ、市場価格がないときはその地及び時における同種類で同一の品質の物品の正常な価格によって定められる（商法５７６条１項）。

　これは、民法４１６条２項の適用を排除して、特別損害、逸失利益を賠償額から除外することで、大量の運送品を取り扱う運送人を保護し、紛争の早期かつ迅速な処理を図る趣旨である。

２　運送品の延着の場合

　運送品に損傷等が発生せず、単に延着した結果として損害が発生したような場合に運送品の損害賠償額の定額化を図る規定は設けらえていない。そのため、運送品の滅失、損傷の場合には賠償額が限定されるにもかかわらず、延着の場合では運送人は多大な責任を負担するリスクにさらされる。

　なお、一般に使用されている運送約款では運送品の延着における損害賠償額は、運賃、料金等の総額を限度としている。

３　運送人の故意又は重過失による運送品の滅失

　このような運送人の損害賠償額の定額化の規定は、運送人の故意又は重過失の場合には適用されず（商法５７６条３項）、その場合には運送人は民法４１６条に従い責任を負担する。

（伊予富士）

「Ⅲ　高価品の特則（商５７７条）」

　高価品は、運送委託時に荷送人がその種類及び価格を通知しない限り、運送人はその滅失、損傷又は延着についての損害賠償責任を負担しないのが原則である（商577条1項）。

　しかし、高価品の特則については、新たに2つの適用除外事例を定めている。すなわち、

　①物品運送契約の締結の当時、運送品が高価品であることを運送人が知っていたとき（商法577条2項1号）

　②運送人の故意又は重過失によって高価品の滅失、損傷又は延着が生じたとき（商法577条2項2号）

は、高価品特則は適用されず、運送人は損害賠償責任を負う。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(伊予富士）

「Ⅳ　特別消滅事由（商584条）」

1　荷受人の損害通知

　　商法584条1項は、運送品に損傷又は一部滅失があるにもかかわらず荷受人が意義をとどめないで運送品を受け取ったときは、運送人の責任は原則として消滅し、例外として、その損傷等が直ちに発見できないものである場合には荷受人が引渡しの日から2週間以内に運送人に対し通知を発送すればその責任は消滅しないとして、いわゆる運送人の責任の特別消滅事由を定めている。

2　下請運送人に対する損害通知

　　元請運送人が運送を下請に出した場合、下請運送人の運送契約においては損害通知の期間は運送人が荷受人から通知を受けた日から2週間を経過する日まで延長されたものとみなすという規定が新たに設けられた（商法584条3項）。

「V　期間の経過による責任の消滅（商585条）」

1　運送人の責任の除斥期間

　運送品の引渡しがされた日又はその引渡しがされるべき日から1年以内に裁判上の請求がなされないときは運送人の責任は消滅するとして、運送人の主観を問わない1年間の除斥期間を定めており、さらに運送品の滅失等による損害が発生した後に限り、合意により延長することができるとしている（商585条1項、2項）。

2　下請運送人に対する除斥期間

　元請運送人が運送を下請に出した場合、下請運送人間の運送契約における除斥期間は運送人が損害を賠償し又は裁判上の請求をされた日から3か月を経過する日まで延長されたものとみなすという規定が設けられた（商585条3項）。

　平成31年4月1日から施行されています。