夏季研修参加のために、31日、1日、高松に行ってきました。
とはいっても、31日午前は、高松高裁で和解の話し合いがあったので、裁判記録がたくさんある案件であるため、妻に車で高裁まで連れて行ってもらいました。
夏季研修では、遺産分割の諸問題や、医療過誤などが取り上げられました。
今回は、復習を兼ねて、「医療過誤」について研修で紹介された裁判例を紹介いたします。
(1) 医療水準についての最高裁裁判例
A 最高裁平成7年6月9日判決
ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては、
当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり、右の事情を捨象して、すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当でない
新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情が存しない限り、右知見は当該医療機関にとっての医療水準であるというべきである
B 最高裁平成8年1月23日判決
医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない
C 最高裁平成9年2月25日判決
開業医が本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては、
自院又は他の診療機関において患者が必要な検査、治療を速やかに受けることができるように相応の配慮をすべき義務がある
(2) 立証責任の緩和
D 最高裁昭和51年9月30日判決
このような方法による適切な問診を尽くさなかったため、接種対象者の症状、疾病その他異常な身体的条件及び体質的素因を認識することができず、禁忌すべき者の識別判断を誤って予防接種を実施した場合において、
予防接種の異常な副反応により接種対象者が死亡又は罹病したときには、担当医師は接種に際し右結果を予見しえたものであるのに過誤により予見しえなかったと推定するのが相当である
B 最高裁平成8年1月23日判決
医師が医薬品を使用するに当たって右文書(能書)に記載された使用上の注意義務に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的な理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである
E 最高裁平成21年3月27日判決
本件の個別事情に即した薬量の配慮をせずに高度の麻酔効果を発生させ、これにより心停止が生じ、死亡の原因となったことが確定できる以上、これをもって、死亡の原因となった過失であるとするに不足はない。塩酸メピバカインをいかなる程度減量すれば心停止および死亡の結果を回避することができたといえるかが確定できないとしても、単にそのことをもって、死亡の原因となった過失がないとすることはできない
(3)因果関係
F 最高裁昭和50年10月24日判決
訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的な照明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いをさしはさまない程度に真実性の確信を持ちうるのであることを必要とし、かつ、それで足りる
(4)高度の蓋然性が認められない場合にどのような論理でどのような損害を認めることができるか?
① その時点では生存していた高度の蓋然性がある場合
G 最高裁平成11年2月25日判決
医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の右不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解するべきである
患者が右時点の後いかほどの期間生存し得たかは、主に得べかりし利益その他の損害の額の算定に当たって考慮されるべき事由であり、前記因果関係の存否に関する判断を直ちに左右するものではない
② 相当程度の可能性侵害
H 最高裁平成12年9月22日判決
疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、
右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、
医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である
(5)不適切な医療行為を受け、そのことにより苦痛を受けた場合、損害賠償を請求できるのか?
I 最高裁平成17年12月8日判決
裁判官島田仁郎の補足意見
私は、検査、治療が現在の医療水準に照らしてあまりにも不適切不十分なものであった場合には、仮にそれにより生命身体の侵害という結果は発生しなかったとしても、あるいは結果は発生したが因果関係が立証されなかったとしても、
適切十分な検査、治療を受けること自体に対する患者の利益が侵害されたことを理由として損害賠償責任を認めるべき場合があることを認めるにやぶさかでない
裁判官才口千晴の補足意見
医師の検査、治療等が医療行為の名に値しないような例外的な場合には、適切な検査、治療等の医療行為を受ける利益を侵害されたことを理由として損害賠償責任を認める余地がないとはいえない
医療過誤は、ほとんど相談を受けることもなく、まれに、相談があっても、専門外として断っています。生半可な知識では依頼人に迷惑をかけてしまうからです。
医療過誤のほかに、「遺産分割の諸問題」についても、勉強になりました。
特別受益の範囲については、やはり、「共同相続人」に限定されて解釈するのが原則になっていたのですね。以前、某家裁の遺産分割調停の依頼を受け、当方の依頼人の親族が贈与を受けていたことから、相手方および調停委員から、特別受益の主張をされたため、当方は特別受益には当たらない旨反論したのですが、なぜか調停委員が強固に再反論するため、対立して、険悪な雰囲気となったことがあったのですが、やはり私の見解が正しかったのですね。
久しぶりに、高松に泊まりました
ごえもんの、カレーうどんです ここのカレーうどんが大 好きで、司法修習生のころは、週に1回は行っていました。
10年前に何度か訪れたワインクラブです。今は、ショットバーになっていました。なつかしかったです。
少しレトロにしました。
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