準備書面及び陳述書により相手方当事者の名誉を毀損したとする損害賠償請求が、訴訟上の主張立証に名を借りた個人攻撃であって、違法性阻却事由があるとはいえないものとして認容された事例(判例タイムズ1244 東京地裁平成18年3月20日)
別件裁判における、被告らが作成した準備書面や陳述書に記載されている内容が、原告の名誉を毀損するものとして、被告らに対して、慰謝料を請求した事案です。
東京地裁は、以下のとおり、説明しています。長文ですが、今後、私を含めて裁判に関わる者にとって、重要なことを説明しているため、あえて、全文を紹介いたします。
「相手方当事者の悪性を協調するなどの方法により相手方の主張、供述の信用性を弾劾したり、相手方に不名誉な事実関係をあえて間接事実や補助事実として主張したりする主張立証活動は、事実関係に争いのある全ての民事訴訟において、その必要性を一概に否定することはできない。」
← 争っている訴訟とは関係のない昔に逮捕された新聞記事を出す当事者がいましたね。
「しかしながら、訴訟当事者は、紛争における対立当事者であり、相手方に対する悪感情を抱いていることが珍しくなく、そのために、訴訟における主張立証活動に名を借りて、相手方に不愉快な思いをさせて心理的打撃を与えることのみを主たる動機として相手方の名誉を傷つける事実関係の主張をし、またそのような事実関係を供述することも、ままみられるとことである。」
← よくあることのようです。
「訴訟上の主張、立証活動を、名誉毀損、侮辱に当たるとして損害賠償を認めることについては、相手方の悪性主張のための正当な訴訟活動を萎縮させて民事訴訟の本来果たすべき機能を阻害することもあるから、慎重でなければならない。」
←そのとおりです。
「他方、訴訟の当事者が相手方の悪性立証に名を借りた個人攻撃に野放図にさらされ、訴訟以外の場面において名誉毀損行為として刑罰や損害賠償の対象となる行為にも訴訟の場面においては相手方の動機いかんに関わらず耐えなければならないという状態が恒常化することも、相手方当事者からの不当な個人攻撃をおそれる者が訴訟の提訴や正当な応訴、防御活動に消極的になり、ひいては民事訴訟の本来の機能を阻害するおそれがあることにも留意しなければならない。」
← そのとおりです。
「結局、両者のバランスをとって、民事訴訟の本来の機能を阻害しないように留意しながら判断していくほかないが、主要な動機が訴訟とは別の相手方に対する個人攻撃とみられ、相手方当事者からの中止警告を受けてもなお訴訟における主張立証に名を借りて個人攻撃を続ける場合には、訴訟上の主張立証であることを理由とする違法性阻却は認められない。」
← まさにそのとおりです。
個人攻撃を行った代理人弁護士についても、「被告丙山(※代理人弁護士)もそのような被告乙原の意思を知りながら少なくとも幇助者となって、民法719条の共同不法行為を行ってしまったものと推認されるのである」として、賠償義務が認められています。
解説者によれば、「同種事案には、棄却事例が多いところであるが、本件のような認容事例はあまり紹介されたことがないと思われるので紹介する」とされています。
気をつけましょう。
« 民事再生法施行後の倒産・再生をめぐる重要判例ダイジェスト(事業再生と債権管理10月5日号) | トップページ | オルソペディクス1999年1月号「外傷性頸部症候群診察マニュアルー最近の知見からー編集慶應義塾短期大学学長平林洌」の「最近トピックス2 外傷性頸部症候群における画像所見の診断的意義についてー無症状性健常者との比較検討から」(全日本病院出版) »
「【弁護士考】」カテゴリの記事
- 【弁護士考】 弁護士の横領事案の報道がとまらない😵(2025.02.07)
- 【弁護士考】 令和6年度 全国住宅紛争処理機関連絡会議(2025.01.27)
- 【弁護士考】中央大学法修会研究室創立70周年記念大会に参加しました(2024.12.16)
- 【弁護士考】 11月の懲戒弁護士たち(2024.12.10)
コメント
« 民事再生法施行後の倒産・再生をめぐる重要判例ダイジェスト(事業再生と債権管理10月5日号) | トップページ | オルソペディクス1999年1月号「外傷性頸部症候群診察マニュアルー最近の知見からー編集慶應義塾短期大学学長平林洌」の「最近トピックス2 外傷性頸部症候群における画像所見の診断的意義についてー無症状性健常者との比較検討から」(全日本病院出版) »
いつも勉強させて頂いております。
さて、「選択」という年間購読雑誌(書店にはおいていない)があります。
http://www.sentaku.co.jp/category/culture/post-3374.php
言論の自由を「破壊」する裁判所 デタラメだらけの「名誉毀損」判決
こちらの記事は、参考になります。判タはもはや個人的には利用価値なしであり、10年ほど前から買ったことがありません。
それにしても、日本では、いつまで判例研究に高額なお金を払わねばならないのでしょう。しかもお金を払って得られるのが、8年も前の古い偏った判例を使った大本営発表・・・。日本の弁護士は不幸です。日本の弁護士は、大本営発表に洗脳されないよう、日々注意することが必要です。
これに対して、アメリカの判例研究の際には、citationの統一感、裁判所の公開の早さ、findlawその他の無料判例サイトの充実などに、深い敬意を払わざるを得ません。日本は軽く20年は遅れています。さらにまずいことに、判例雑誌の最高裁判所様を仰ぎ見る傾向は戦前レベルです。消費者判例集で例外はありますが、残念ながら法曹界とくに裁判官への影響力が小さすぎます。
そんなこんなで日本の裁判所に辟易してしまい、最近は全力で交渉にて受任事件処理をしています。また、仕事の必要があったときに限って弁護士会の図書館のパソコンで判例検索をしますが、それ以外のオフタイムに日本の判例を勉強しようというモチベーションはゼロです。アメリカの判例は日々数時間かけて勉強していますが・・・(ツールが充実しているので)。
今後ともよろしくご教示下さい。
投稿: 選択最新号 | 2014年4月22日 (火) 10:43
こちらのページをリンクさせて頂きました。
問題がありましたら解除させて頂きますので
お手数ですがご連絡頂けますと助かります。
(解除が必要な場合です。)
よろしくお願い致します。
投稿: ネコさん | 2013年6月13日 (木) 00:50