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歯科

2023年9月18日 (月)

【法律書】 医療現場における対人トラブル対応の手引き

 新日本法規から、令和5年8月8日に出版された「医療現場における対人トラブル対応の手引き」です。田舎弁護士も、複数の医療機関の顧問弁護士を引き受けているために、おおいに参考になる内容のものです。

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                               (近見山)

 本書は、3章構成です。①クレーム対応の基本、②患者・家族、③職員です。

 その中で、患者情報の取扱をめぐる問題として、「自らの診療情報を開示請求する患者」のケースが紹介されていました。これは、病院側でも、また、患者側でも相談を受けることが少なくありません。特に田舎弁護士は、交通事故の後遺障害獲得の仕事もしているために、患者側の立場で、診療録を開示することが多いです

 その中で、ある医療機関は、基本料金を5000円として、1枚100円とするところがあります。10枚でも6000円です。このような医療機関の診療録は、田舎弁護士の経験上、実際に開示してもたいした記録がないものが少なくなく、対応に悩んでいます。

 あれ、患者さん側の立場で書いてしまいましたね。

2023年8月25日 (金)

【産婦人科】 重症新生児仮死及び低酸素性虚血性脳症による脳性麻痺・体幹機能障害を生じさせた医療事故

 判例時報No2559号で掲載された大阪高裁令和3年12月16日判決です。

 日本産婦科学会日本産婦人科医会が編集・監修する産婦人科診療ガイドライン2011年版として公表されたレベル分類に従って判断し、産科病院の担当医師による帝王切開を行う時期が遅れたとして、同病院を開設する医療法人の責任が肯定された事案です。

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 胎児に対する酸素供給が減少し、胎児が低酸素の状態になると、胎児仮死となり、低酸素性虚血性脳症を発症して、脳性麻痺の後遺症が生ずることがあります。

 このような場合には、いち早く帝王切開を行い、胎児を娩出していれば、前記の事態を回避できたとして、原告側は、帝王切開の遅れを主張するケースが一般的です。

 2011年版ガイドラインでは、胎児の障害の程度を胎児心拍数波形に基づき、レベル1からレベル5まで分類し、レベル3ないし5を胎児機能不全として、その場合の対応を定めており、レベル5であれば帝王切開を推奨しています。

 本件で問題となったのは、X1が出生したのは平成22年であり、2011年版ガイドラインが公表される前年であるところ、平成22年当時でも、2011年版ガイドラインに示された分類、対応が医療水準としていえたかどうかが問われた事案でした。

 なかなか難しいところですが、結論としては妥当性があるように思います。

2023年8月 6日 (日)

【整形外科】手技上の過失

 判例タイムズNo1509号で掲載された大阪地裁令和4年9月13日判決です。

 頸椎後方固定術で挿入されたスクリューの抜去・再挿入術後に患者が四肢麻痺となった場合において、担当医にスクリューの刺入方向を誤った過失が認められたという事案です。

 80歳の高齢男性の方が、自宅で階段を踏み外して頸椎脱臼骨折の傷害を負い、被告病院において、頸椎後方固定術を行ったわけですが、スクリューの挿入ポイントを間違ってしまって、その結果、引き続きそれを矯正する手術を行ったことにより、四肢麻痺が生じてしまったという痛ましい事故です。

 ただし、控訴されているようです。 

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2023年8月 5日 (土)

【産婦人科】 出生児が低酸素性虚血性脳症による脳性麻痺の後遺障害を負った場合

 判例時報No2557号で紹介された名古屋高裁令和3年2月18日判決です。

 市民病院の担当医が吸引分娩により出生児に低酸素性虚血性脳症による脳性麻痺を生じさせた医療事故につき、同児と同児の両親からの前記病院の開設・運営者に対する損害賠償請求について、帝王切開移行へのダブルセットアップを怠った過失はないなどとして請求を棄却した原判決を控訴審において維持した事例です。

 本件については、公益財団法人日本医療機能評価機構の産科医療補償制度原因分析委員会により原因分析報告がされています。

 本件の脳性麻痺発症の原因については、①クリステレル胎児圧出法を併用した合計9回、総牽引時間25分間の吸引分娩が子宮環境及び胎児胎盤循環を悪化させたことで、胎児が低酸素・酸血症となったと考えられ、②出生後43分間低酸素・酸血症が持続したことは脳性麻痺の症状の増悪因子となったと推測される。

 そして、臨床経過に関する医学的評価については、③吸引分娩は一度の牽引で確実に娩出できるとは限らないため、滑脱した場合には適切なタイミングで帝王切開に移行できるよう分娩計画を考えておくことが一般的であり、滑脱を繰り返しながら吸引分娩を継続することは一般的ではなく、また、④予想される胎児の状態への対応として、蘇生担当の小児科医への連絡のタイミングは一般的ではない。

 この内容ですと、医療過誤は認められる方向にいきそうですが、当該原因分析報告は、今後どうすれば脳性麻痺の発症を防止することができるのかという視点に立ち、考えられる方策を提言するというものなので、その記載内容はただちに病院の医師の過失を裏付けるものではないと評価されています。 

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(笠松山・ガメラ岩)

2023年6月15日 (木)

【獣医】 獣医療過誤の裁判例 大阪高裁令和4年3月29日判決

 判例時報No2552号で掲載された大阪高裁令和4年3月29日判決です。 

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(青波山)
 死亡した犬のDIC(播種性血管内凝固症候群)につき獣医療の水準に適った治療を行ったとはいえず、当該犬の治療に関して過失がある獣医師が、当該犬の飼育者に対して生命維持の相当程度の可能性の侵害による不法行為責任を負うとされた事例が紹介されていました。
 DICとは、腫瘍、組織損傷、感染及び炎症等の基礎疾患を有する動物において、細小血管の中で血液が異常に固まって血栓を作り、血液の流れを悪くして全身の臓器不全に陥る病態です。
 家族で飼っていた犬のようでして、3名に対して、一人22万円の慰謝料等の支払いを高裁は命じています。
 控訴人代理人は、ペット訴訟の第一人者である弁護士が就任されています。
 ただ、勝訴しても、費用対効果は釣り合いがとれない裁判のようですので、ペットへの愛情が優先された案件だったのでしょう。
 もう少し、慰謝料をUPしてよいと思います
 

2023年5月14日 (日)

【消化器科】 食道静脈瘤に対する内視鏡的静脈瘤結さく術を受けた際に低酸素状態となり、術後も低酸素脳症による意識障害が継続した事案

 判例時報No2548号で紹介された神戸地裁令和3年9月16日判決です。


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 裁判所は、被告病院の注意義務及びその違反については以下のとおり認定しております。

「(キ)被告病院の医師らの注意義務
   以上の医学的知見及び認定事実を前提とすると,原告は,ミダゾラムの投与により呼吸抑制に陥りやすい状態にあり,実際にミダゾラム0.08mg/kgに相当する本件混合溶液を投与したことにより既に呼吸抑制が生じていたこと,被告病院の医師らは,平成24年11月13日の投与とその際の原告の状況を把握していたのであるから,これらの事実を認識していたこと,ミダゾラムには呼吸抑制の副作用発生が警告されており,投与は緩徐な方法によるべきものとされていたことが認められるから,午後2時20分の時点で,被告病院の医師らが,原告の体動を抑制しようとし,鎮静の度合いを深めるため,更に多量のミダゾラムを投与しようとするに当たっては,緩徐な方法によるべきであったし,体動が激しいため,緩徐な方法による投与では対応できないような場合には,原告に対するEVLが,どうしても本件手術の当日に実施しなければ,その日における原告の生存にかかわるといった意味での急を要する手術という訳ではなかったことに照らせば,本件混合溶液を追加投与するのではなく,EVLの続行を中止すべき注意義務があったと認められる。」

「カ 小括
  ここまでの検討によれば,被告病院の医師らは,原告が鎮静剤の投与方法に注意しなければ低酸素血症を招くということも予見し得たところ,一過性の無呼吸の頻度が増えるので注意が必要とされる0.15mg/kgに匹敵する合計0.14mg/kgという多量のミダゾラムを投与するに際しては,なるべく緩徐な方法を採るか,そうでなければEVLの続行を中止すべき注意義務を負っていたところ,これを怠り,EVLを中止することなく,側管注法かつフラッシュ(押し流す)等の急速な投与を行ったと認められ,鎮静剤の投与方法に過失又は注意義務違反があったものと認められる。」

なお、解説によれば、鎮痛剤の投与等が医師の注意義務違反になるかを判断した裁判例は、散見されているようです😅

2023年5月13日 (土)

【歯科】 インプラント手術において、担当歯科医師に術前検査を怠った過失があるとされた事例 大津地裁令和4年1月14日判決

 判例時報No2548号で掲載された裁判例です。

  事案は、医療法人Yの設置する歯科医院おいてインプラント手術を受けたXが担当歯科医師であるPが、神経損傷を生じさせないために適切な術前検査をして神経の走行位置を確認し、インプラント体の埋め込み方向や深度に注意を払うべき顎管に入り込む位置に埋入したため、左側三叉神経を損傷したと主張して、Yに対し、診療契約の債務不履行に基づく損害賠償を求めたというものです。 

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 裁判所は、術前検査におけるP医師の過失について、CT撮影すればインプラント体の先端が下顎管に重なる位置に位置すると分かったはずであり、パノラマレントゲン写真でもそのような読影をし得ること、しかるにP医師がそのような読影をせず、神経走行位置に関する誤解をしたこと、P医師が本件手術に先立ち撮影したパノラマレントゲン写真を見た以上には、下顎菅の位置を正確に把握しようと努めたとはうかがえず、Yの主張するような口腔模型によって歯茎内部の構造を正確に把握することはできないことなどを指摘して、適切な検討を尽くしたとはいえず、適切な術前検査をして神経の走行位置を確認し、インプラント体の埋込方向や深度に注意を払うべき注意義務に反した過失があると判断されました。
 
 本件は、弁論の全趣旨として専門委員の説明内容を踏まえた事実認定がされた事例といえ、本件のように、前提となる事実関係に争いがあるような場合には、専門委員制度を活用した機動的な争点整理が有用であるといえ、一層の活用が制限されると解説されています😅

2023年5月 1日 (月)

【法律書】医師の応召義務についての最近の動向😄

 Q&A医療機関・介護施設におけるハラスメントー現場対応のポイントにおいて、Q「医師の応召義務について最近出された厚生労働省通知のポイントと判決の動向について教えてください。」という質問がありました。

 P73以下には、以下のとおり解説されています。

「医師法19条1項は、『診療に従事する医師は、診療治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。』と規定しています。これが医師の応召義務といわれるものです。この規定は、医師が国に対して負担する公法上の義務とされ、この規定違反に刑事処罰はありません。このように応召義務は公法上の義務とされていますが、民事上、患者の医師に対する損害賠償請求等で主張されてきました。」

 🏹刑事処罰規定はないんですね📝

「応召義務をめぐっては、応召義務における『正当な事由』とは何かについて旧厚労省からの通知が出されていましたが、現代の医療提供体制の変化、勤務医の過重労働が問題となる中で、厚生労働省は、令和元年12月25日付けで新たに『応召義務をはじめとした診療治療の求めに対する適切な対応の在り方等について』(医政発1225第4)という新通知を出しました。」

 🏹令和元年12月25日付けの通知なんですね。

「新通知は、下の図のとおり、3つの考慮要素があるとしています。この中で最も重要な考慮要素は、患者について緊急対応が必要か否か(病状の深刻度)とし、それ以外の要素として診療時間・勤務時間、患者との信頼関係を挙げています」

 🏹緊急対応が必要か否かなんですね

 そして、緊急対応が必要な場合で、かつ、診療時間内、勤務時間内である場合には、事実上診療が不可能と言える場合にのみ診療しないことが正当化される とされています。

 また、緊急対応が不要な場合でも、診療時間内、勤務時間内である場合には、原則として必要な医療を提供する義務があるとしつつも、緊急対応が必要な場合に比べて緩やかに解釈される とされています。

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 個別事例としては、①患者の迷惑行為の対応に照らし診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には診療しないことが正当化されるとされています。また、②支払能力があるのに悪意を持ってあえて支払わない場合には診療しないことが正当化されるとされています。
 裁判例も、3つ程の最近の裁判例が紹介されています😅

 

 

2023年4月22日 (土)

【法律書】 弁護士のための医療法務実践編 

 第一法規から、昨年12月に、弁護士のための医療法務実践編が出版されました。

 目次としては、第1章 はじめに-For the patientsの精神の大切さ
        第2章 顧問業務総論
        第3章 保険会社との付き合い方
        第4章 医療事故紛争の裁判「外」対応
        第5章 医療訴訟における裁判対応
        第6章 各医療機関における対応(各論)

 となっております。

 インターネット上の誹謗中傷対策については、かなりの頁を割いております。病院を選択する際の重要な判断材料になるからでしょう。

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 なお、このブログのタイトルですが、複数の医療機関から法律顧問契約を締結していることに考えて、ブログの名称を、「医療機関弁護士の訟廷日誌」に改めました。

 今治市医師会においてセミナーを開催していることもあってか、病院や医師からのご相談が増えています。医療事故というタイトルですと、患者様側サイトのみのように思われるようですので、医療機関弁護士ということに改めました。

 

2023年3月 6日 (月)

【消化器科】 被告が開設する病院において、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を受けた84歳の男性が手術の翌日に死亡した事案につき、執刀医に適応外であるESDを実施した注意義務違反があったとして、被告に対する使用者責任に基づく損害賠償請求を認容した事例 東京地裁令和3年8月27日判決

 判例時報No2542号で掲載された東京地裁令和3年8月27日付け判決です。 

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(仙遊島)
 本判決の意義等については、以下のとおり解説されています。
 「本件は、手術時84歳の高齢の癌患者について、ESDに係る各ガイドラインに従うことなく施術したところ、手術翌日に死亡した事例である。近時、類似事例において、開腹術ではなく、内視鏡を使用した手術が行われることが多いようであり、内視鏡を使用して手術することの適応がるか否かが問題となる事例が散見される。」
 
 田舎弁護士も、椎間板ヘルニアの手術を受けた際に内視鏡を使用しました。
 「これまで同種の事例としては、①十二指腸腺腫の切除のためEMR(内視鏡下粘膜切除術)が実施されたところ、術後に遅発性穿孔が生じて患者が後腹膜炎から死亡するに至った場合において、EMRの適応を誤ったか否かが争点となったが、適応を誤った過失がないとした広島地判平成21.9.11判決がある。また、②総胆管結石の疑いのために、内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)等の施術によって患者に十二指腸穿孔が発生したことについて、適応性判断が問題となった広島地判平成29.9.15は、施術適応性の過誤はないとした。」
 本判決は、適応義務違反を認めているものです。判示されている事実からすれば、認められても仕方が無いような事案のようです。

«【その他】 医療水準上未確立であり、治療効果の点でも不確実性を伴う療法を患者に実施した医師について、当該療法の当該患者に対する有効性に関する重要な事実を説明しなかったとして、説明義務違反を認めた事例 令和3年11月25日宇都宮地裁判決

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